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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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193  『扇動と扇動』

 刹那の時を駆け抜けて放たれた一閃の弾丸。その予備動作を見た瞬間からユウは真意を発動させて弾こうと思ったのだけど、ユウが動くよりも早くエクレシアが前に飛び出しては手に持った槍で真正面から迎え撃った。

 普通なら槍が折れて粉々になるだろう。けれどエクレシアの槍は折れる事なく銃弾を弾き、四人の背後へ流すとその威力を見せてくれる。


「エクレシア!?」


「あれくらいの威力どうって事ないよ! それより重大なのは今の。流石に今みたいな狙撃を何発もされちゃこっちが持たない。早く対処しないと」


「とは言っても既に捕捉されてる以上こっちから近づくのなら逃げるはずだ。お前さんたちゃ狙撃銃をもってねーのか?」


「「ない」」


「えらく近接特化なんだな……」


 その威力に危機を感じたエクレシアが早速考察に入って対策を考えるのだけど、傭兵の男から言われた言葉にユウと一緒になって返す。

 しかし本当に困った。ガリラッタみたいな狙撃銃があれば対抗する事も出来るだろうけどそう言った物は誰も持っていないし、それどころか持ってるのは拳銃だけ。それだけじゃ届かないだろう。……まぁ、一つの可能性を除いて、だけど。


 狙撃された方角を睨むと冷静に距離感を把握しては自分の攻撃が届くかどうかを確かめ始める。だからエクレシアから問いかけられるのだけど、それに答える余裕はほとんどないにも等しくて。


「二百五十……いや、三百くらいか……」


「ユウ?」


 ナイフを左手にして拳銃を右手に持つ。もし相手がまだ移動せずにこっちをスコープでじっと覗いているのなら可能性はある。逆に覗いてなければただの骨折り損になるのだけど。

 もしこっちから攻撃を通す事が出来るのなら。そう考えた瞬間、もう一度閃光が見えて即座に反応する。


「――そこだ!!」


 直後に真意を発動させて全力の一撃を放った。それも放った衝撃波で三人が吹き飛ばされそうになってしまうくらいの威力で。いくらコンクリートを穿つくらいの威力だとしても、この一撃を真正面から当てる事が出来れば奴の元にまで届くはず――――。そう思っていた。ユウと相手の銃弾が相殺されるまでは。


「相殺された!?」


「――ユウ!!」


 鼓膜をつんざく程の轟音を響かせた直後、火薬強化の反動で生まれた煙から幾つかの閃光が迸る。その内の一つをエクレシアがさっきの様に槍で弾こうとするもあまりの威力に押し負けてしまう。押し負けたのだ。第一大隊二番隊隊長の全力が。


 銃弾が着弾した地点は呆気なく崩れ去り、床の崩壊どころかビルそのものを撃ち抜く威力を発揮し、今のままじゃ勝てないんだと即座に悟らせた。だからこそエトリアを抱えると四人でビルから飛び降りて地上まで退避する。


「参ったね。あれじゃどうやっても近づけないよ」


「ああ。まずはあの狙撃をしない事にゃどうしようもねぇ」


「狙撃……」


 そのままエクレシアと男は話し始めるのだけど、ユウは狙撃という言葉を聞いてさっきの威力を思い出す。ガリラッタにも同じ事が言えるけどあんなのはもう狙撃の範疇ではない。むしろ戦車の砲台を丸ごと持ち出してると言われた方がまだ納得のいく威力だ。だって真意の弾丸を真正面から単純な攻撃力で相殺するのだから。

 そうしているとエクレシアはすぐにベルファークへ指示を仰いだ。


「……はい。分かりました」


「何て?」


「ボクとあなたの機動力を生かすみたいです。で、ユウとエトリアはそろそろ内部に侵入して来る頃だろうから先回りで殲滅して欲しいんだとか」


「既にそこまで読んでるんだ……」


 敵からの防衛と言うのは分かるのだけど、まさか内部に侵入する事すらも予測しているなんて、正直言ってあり得ない。まぁここら辺は慣れとしか言いようがないけど今は従うしかないだろう。何はともあれベルファークがそう言うのなら従った方が吉。……そう考えてしまう限り、既に無意識でベルファークに忠誠心的なのを誓っているのかも知れない。


「えっと、あなたは」


「そーいや名乗るのを忘れてたな」


 するとエクレシアがそう問いかけ、男は自ら名乗った。それも懐に隠している武器を総べて見せながら。いや、初対面で隠し武器を見せるなんて事はないだろうから、恐らくそれが彼の基本武器だという事なのだろう。

 細長い鉄串を指先で操ると自慢げに言う。


「俺はニグレド。お前達が聞いてる通り傭兵だ。報酬さえ積まれりゃいつだって誰の敵にでもなってやるぜ」


「へ、へぇ~……」


 しかし意外と物騒な物言いにエクレシアは若干引いた様な反応をし、エトリアも報酬の為ならどの陣営にも付く彼に何とも言い難い視線を浴びせていた。

 だがこれも生きていく為だ。生きる為には金が必要不可欠になる。その為には報酬が多い方に加担するしかなく、使われなくなったら新しい依頼を探すだけ。それが傭兵の真実であるわけで――――。ネシアも一応傭兵ではあるけど、既にどこかの陣営に付いていた分マシだったのかも知れない。


「ま、まぁ、そう言うことだから指揮官をよろしくね、ユウ」


「分かった。……って言いたい所だけど、あの狙撃をどうやって躱す気なんだ? 明らかに普通の狙撃じゃないけど」


「そこはボクの機動力で何とかするしかない。ボクが突っ込むから、ニグレドさんは……」


 そこまで話した瞬間だ。エクレシアの背後に敵影が複数現れたのは。だからユウとエトリアはすぐに拳銃を構えるも先にニグレドが動き出して鉄串を投げとばした。その展開までは普通の物だったのだけど、次から彼がベルファークに雇われた理由が露わになる。

 だって、同時に放った複数の鉄串は壁に深く突き刺さっては複雑にうねって意志でも持ってるかのように動いては即行で奴らを縛り付けるのだから。


「俺のワイヤーはちと特殊でな。仕組みは言えねぇが自由自在に操れる。これで壁さえありゃ空を飛ぶみたいに動く事も出来るんだぜ」


 すると別のワイヤーを取り出して壁に突き刺すと腕の力だけで自分の体を浮かび上がらせて空から降って来た銃弾を回避する。それに気づいたエクレシアとユウもそれぞれで回避行動を取り危機一髪の回避を実現させた。


「なるほど。確かにそれなら機動力もありそうですね……」


「だろ?」


「よし、あの狙撃兵はボク達に任せて! 二人は一時的にタワーの中へ!」


「OK!」


 軽く予定合わせをするとその瞬間から動き出す。ついでに双鶴を動かして天井の一角を崩すとこっちを覗き込もうとした奴らを無理やり引きずりおろして時間稼ぎに徹する。


「しっかし、機動力があるとは言えそう簡単に捉えられる物なのか? いやまぁ、指揮官が言うのなら実力差的には問題ないんだろうけど……」


「そこまで信頼しやすい人なんですか?」


「一応ね。何というか、カリスマ性があると――――」


 そんな会話をしつつもエクレシアの言う通りタワーの中へ入ろうとするのだけど、既に出入り口の警備員が倒れてるのを見て遅かったんだと知る。音もなく倒れている事にエトリアも驚愕した様な表情を浮かべていた。


「嘘だろ!?」


「もう入って来てるんですか!?」


 このまま突っ込むのも選択肢の内に入っていたのだけど、ユウは立ち止まるとかがんで倒れている人の体を起こして脈や息を確認した。一応殺されてはいないらしい。この状態は気絶させられたとでもいうべきだろうか。しかしまぁ、数十人を何の音もなく気絶させるとは相当なやり手だ。「魔法なら」の一言で全てが簡単に片付いてしまうのだけど。


「気絶してるだけ……。外傷もない所を見るにやっぱり魔術……?」


「その可能性が高いですね。にしても音もなく侵入するとは」


 一応セキュリティはちゃんとしてるから未登録者が入ると警報が鳴る~みたいな説明を受けていたのだけど、そのシステムをどうにかすると言う事は、このタワー全体にハッキングを仕掛けられる程の腕前を持った人がいると言う事になる。ベルファークは既にこの事を読んでいたのだろうか。

 となると方法は二つ。タワー内の敵を殲滅するか、防衛機能を上手く使って孤立させるか。

 そう考えていると通信が入って即座に答える。


『ユウ君、ちょっといいかね』


「しっ、指揮官!?」


『急にすまない。ただ一つだけ伝えておきたい事があってね。現在侵入者はタワーのシステムをハッキングして内部に侵入している。奴らが目指しているのは恐らく地下にあるセントラル・コンソールだ。そこを制圧される前に殲滅を頼みたい。もちろんこっちからも出来る限りの支援はするつもりだ』


 するとベルファークはこっちの《A.F.F》にデータを送り、タワーの立体マップを表示してくれる。それもありがたい事にショートカット用の通路も強調表示されながら。その他にもいくつか重大な情報が表示されていて、重要設備や隠し通路などの存在も明らかにされている。

 それらの情報を開示するくらい厄介な事なのだろう。


「……一応聞きますけど、みんなは?」


『心配ない。既に事情は話して協力してもらっている。相変わらず無茶な事をすると呆れていたよ』


「そーですか。分かりました、やってみせます」


『頼んだ』


 そう言って通信を切ると二人して顔を合わせては同時に頷いてタワー内部に入り込んだ。敵がどれだけ進行しているかなんて分からない。だからこそとにかくショートカットを使って先回りしようと考えていた。


「全く、せっかくのパーティーなのにこんな事になるだなんて」


「パーティーその物を囮にするとは、よく考え着きますね!」


 二人してそんな事を喋りながらも通路を走り抜ける。まぁエトリアの言いたい事も分からなくはない。だって初めてベルファークと関わる時は全てを見透かされてる様な気持ちになるのだから。そう言う意味合いでは彼もコールド・リーディングを使えるのかも知れない。


「えっと、こっちが近道かな」


 少しだけ道に迷いつつもショートカット用の通路を目指して走り続ける。地図で見た感じタワーの地下は全十層になってるらしいし、ショートカットでも使わない限りそう簡単に入る事は出来ないだろう。それに常に警戒しながら進まなきゃいけない。そんな中で素早く移動は不可能にも近い。まぁ侵入した時刻が分からないから計算も何もないが。

 つまるところ、先回りするには急がなきゃいけないと言う事だ。そんな事を思いながらもショートカット用の通路を突っ切った。


 でも、その直後に待ち構えていた深い縦穴を見て、足を止める事になる。

今日からまたリアルで忙しくなりそうなので更新が遅くなるかもしれないです。一応書き続けるつもりではありますが、もしかしたら一週間近くは書けなくなるかも……。

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