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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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192  『嫌な予感』

「そう言えば、ボクは武装を持ってるけど二人はどうするの?」


「俺達にはこれがあるから大丈夫」


 三人は全力で警戒しながらも熱源探知を起動して行動を開始する。でもその時にエクレシアがそう問いかけて来て、事前に背中に提げていた槍を握り締めた。まぁ、今から戦闘すると言うのに素手じゃ見てる向こうが不安なのだろう。

 けれどこうなる時の対策は既にしてある。だからユウは双鶴から拳銃とナイフを取り出すと彼女に見せて返す。すると用意周到さに驚いたのか苦笑いを浮かべた。


 本来ならこんな機能を追加するつもりはなかったのだけど、ガリラッタが「万が一の場合もある」と提案して予備装備を双鶴に取り付けてくれたのだ。一個に付き拳銃とそのマガジン五個と、やや大きめのコンバットナイフ一個。元々は移動用に製作してもらったはずなのにここまで改造されるとは。


「FN Five-seveN……」


「そ。一応緊急事態用のだけど、武器がないんじゃ仕方ないから」


 そう言って片方とエトリアに渡すと素早く装備して戦闘態勢を整える。彼女には元から拳銃がある訳だけど、これくらいしないとこっちの気が済まない。だってユウは双鶴や真意といって隠し技があるけど、エトリアにはそれらしきものは何もないのだ。少しでも装備を多く持たせても損はないだろう。


「じゃ、行こうか」


「うん。……一応言うけど、ボク達の役目は無力化だからね」


「分かってるよ」


 そんな会話をしながらも移動を始める。防衛作戦の時は少しばかり明るかったからまだよかったけど、今回は闇夜に紛れて移動する奴らの無力化だ。いくら強くなったと言ってもそう簡単に行くとは思わない方がいいだろう。

 逆にこっちが奇襲される可能性だってあるのだから。


 しかし敵が地上にいるとは限らない。ユウがタワーへ向かう道中に見た何かの影。あれは恐らく闇夜に紛れて行動している敵だろう。少なくとも屋上にいると言う事は見ずらくても何でも奇襲される可能性を秘めていると言う事だ。つまり相手からしてみればそれを実行しない訳にはいかなくて。

 瞬間、直上に熱源が探知される。


「――やっぱり来たか!」


「ッ!!」


 エトリアを抱えると全力で後ろに跳び双鶴を盾にすると無数の銃弾が降り注いで地面を穿つ。その瞬間からそれぞれで行動に移り、エトリアが牽制で銃弾を放つと数発の内の一発が命中し、ユウとエクレシアはそれぞれの特徴を生かして壁を登って行く。

 エクレシアの場合は壁のデコボコやパイプを利用して駆けあがり、ユウは特殊な電磁波を発生させると壁に張り付いてそのまま走り出す。ついでにエトリアを双鶴で回収すると同時に飛び上がって刃と拳銃を放った。


 黒いコートを纏っているから見ずらいけどその総数は十人弱。やっぱり闇夜に紛れる対策も十二分に行っていたのか。

 しかし目の前にしてしまえば透明化でもされない限り見逃す事なんてなく、ユウは少しだけ真意を発生させるとナイフのリーチを伸ばして斬撃を行う。最後に残った数人を拳銃で行動不能にさせて一回目の戦闘は終了だ。


「まずは一つ目! 次の標的を探さなきゃ。と、その前に……」


 本来ならすぐ他の場所に行かなきゃいけないのだけど、ユウは倒れた一人のコートを脱がすと相手がどこの所属なのかを確かめた。すると眼に入ったのは武装をした普通の一般人。と言う事は、今回の件は正規軍ではなく過激派が主体となって行われているのだろうか。

 殲滅したという合図代わりに信号を出すと三人で建物の屋上を移動し始める。


「そう言えば、今コレをやってるのは俺達と傭兵の人だけなの?」


「いいや、ボクや他の隊からも何人か出て遊撃に当たってる。そこまでの数で動くって事は、それ程なまでに大きな事なんだと思う」


「流石に総動員だと色々とマズいんだろうなぁ……」


 こういうのは前みたいに総動員で動けば不測の事態というのも回避できると思うのだけど、総動員で動かすとまた問題になりかねない。ミーシャの時でさえギリギリだったのだから。故に少人数精鋭で動かなければならないと。

 妥当な判断と言えば妥当だろうか。上から目線で言えた口ではないけれど。


 ――それはそうと、狙撃した奴はどこにいる? 今こうして無防備に走り回ってるんだから狙撃するチャンスはいくらでもある。それなのに狙撃してこないなんて……。


 意識外からの攻撃を誘う為にわざと隙だらけになっているのだけど、一向に狙撃される気配はなく、それどころか狙撃手がいるのかってくらいに視線を感じなかった。向こうが誘っている事を分かって狙撃しないのか、はたまたただ単純に狙撃出来ない事情でもあるのか。

 どの道あの狙撃手は早い段階から潰しておきたいのだけど、最低でも方角が分からない限りどうしようもない。


 次に見付けた集団もユウの真意とエクレシアの武装で一掃しては次の標的を探しに行く。でも少しばかり順調に進み過ぎなのではないだろうか。例え組織の一部であってもタワーを奇襲するのだからそれ相応の作戦は複数個用意するはず。


 狙撃の事に関してはベルファークは口にしていなかった。つまり彼すらも気づかない程の狙撃手が、この街の何処かにいると言う事だ。どこから狙撃してくるのかも分からない狙撃手。当たり前の事だけど、条件が揃うとここまで怖くなる物だなんて。

 何か嫌な予感がする。


「ユウ、この違和感、感じる?」


「あまりにも順調すぎる」


「そう。相手が正規軍であれ過激派であれ、事が順調に運び過ぎてる気がするんだ。特に確証がある訳でもないけど、嫌な予感がしてたまらないんだ」


 エクレシアも同じ事を考えた様で、ユウにそう言ってはより一層警戒を高める。やっぱりエクレシアも同じ事を感じてるんだ。となればより一層警戒は怠れない。だって、気を抜いた瞬間を攻撃される可能性だってある訳で――――。

 流石にユウもベルファークに慣れ過ぎて似た思考になって来たのだろう。そう思った直後に奇襲を仕掛けられたからこそ素早く反応する事が出来た。


「今度は下からかよッ!」


 次の奇襲は屋上の床をぶち抜いての攻撃となり、魔術らしき攻撃を食らった三人は空中で態勢を整えるとしっかりと受身を取り立て直す。すると飛び出した敵影は炎を生成してこっちに投げ飛ばし魔術での攻撃を開始した。


「魔術師は俺がやる! 二人は周りにいる奴を頼む!!」


「了解!」


「分かりました!」


 さっきの戦闘でユウの能力については大体把握してるのだろう。エクレシアは出番を譲るとエトリアと一緒に周囲に現れた敵の殲滅を始める。

 だからユウは双鶴を引き寄せると片方を盾にしもう片方を足場にして敵へ近づいた。


 しかしいくら真意を使えるようになったとは言え魔術師相手に不利な状況となってしまうのは変わりない。当然強力な遠距離攻撃は食らえば痛いし厄介な物になる。一応それを振り払う手段は持っているには持ってるけど、それはそれで大変な事になるので避けたいところ。


 いくら魔術師と言っても一つに特化した魔術師でもない限り複数の属性を使う事は容易じゃない。その証としてイシェスタもかなりの努力を重ねて複数の属性を使っているし、努力すれば一般人にも使える物とは言え、やはり複数の属性を使うのは難しい。敵もその例になぞらえてる様で、さっきから炎の攻撃ばかりをしては間合いを保って攻撃を仕掛けている。


「ったく、やっぱり魔術師相手は分が悪い……! まぁ自分で引き受けたんだけど、さッ!!」


 だからユウは真意を発動させると十%のパワーをナイフに乗せ、軽く振り払う事で目の前に広がる炎を掻き消しては敵を視界内に収める。その瞬間から双鶴を飛ばすも掌から炎を出す衝撃波を利用して間一髪の回避をされ、双鶴は空振りに終わってしまう。


 ――炎の爆破で空中移動……。なるほど、そういう使い方もあるのか。


 戦い方としてはエンカクと似ているだろうか。

 敵の動きに関心しつつも引き続き攻撃を開始する。銃弾を放っても炎の煙幕で敵を捕捉する事が出来ないから上手くは当たらないし、こっちは炎を防ぐ手段があまりないから防御の為に時間を食わされる。距離を取るという基本を押さえている分、やっぱり戦況は傾いてしまうのだろう。

 まぁ、だからと言って諦める訳にはいかないけど。


「じゃあ次はこれで! ……?」


 そうして真意の弾丸を放とうとするのだけど、次の瞬間から相手の魔術師は急に動きを止めて微動だにしなくなる。それがチャンスでもあったものの、罠の可能性も考慮して銃口だけを向けて距離を取った。その瞬間から動かなくなった原因を察する。


「ワイヤー……? って事は……」


「どーやらあらかた片付いてるみたいだな」


 すると敵の背後から一人の男が現れ、その人は蒼白い光を放つワイヤーを自由自在に操り魔術師を投げ飛ばした。朱色に白のラインが入った上着を着ているという事は、彼が例の傭兵なのだろう。傭兵にしては少しばかり衣装が粗末な感じだけど。


 少し逆立った黒の短髪で短い髭があり、目元は鋭く輪郭は整っていてかつ高身長というイケメン系の中年だ。目だった傷跡はないけど、何というか、オーラだけで相当の死線を潜り抜けて来たんだって理解させられる。その威圧感から無意識に警戒をしながらも真っ先にリベレーターの腕章を見せつけた。


「あ、えっと、あなたが傭兵の人ですよね」


「まーそんなトコだ。お前さん達がここにいるって事は奴らの数が増えて来た。そうだろ?」


「そうですね。少なくともまだまだいるかと……」


 どっかで傭兵は癖が強いとかなんとかって聞いていたのだけど、この人は特に癖が強い訳でもないから安心して話し続ける。そうしてタワーを見るとパーティーの開始前を知らせるライトアップがされる。ここに招待されたはずだったのにこんな事になるとは。その事はユウ達の正装だけで男も判断する。


「お前、元々はパーティーに参加するつもりだったのか」


「はい。まぁ気づいちゃやるしかないと」


「随分なお人好しだな。お前の仲間も含めて」


 すると敵を倒し終わった二人が集まって来て、ユウはみんなが集まるのを待つと彼に力を貸してくれるかと問いかけようとした。けれど彼は掌を突き出しては黙らせてこっちの事情を全て把握したうえで何も言わずとも力を貸してくれる。


「用件は分かってる。強力しろだろ。報酬は先払いでもらってんだ。力は貸すさ。でもまぁ、まずはあいつからだがな」


 そう言ってある方角を見た。でもその先にあるのは少しばかり高いビルだけで、特に何か光っている訳でもないし、誰かがいる訳でも――――。そこまで考えた瞬間だった。この考えこそが奴らの誘った罠なんだって事が分かったのは。

 一瞬の閃光。それが見えた瞬間からエトリアを抱えて飛び去った。すると一秒もしない内に飛んで来た何かは足元に激突して粉々に破壊し、建物の屋上を倒壊させた。


「なっ、何が!?」


「狙撃だよ。お前も食らったなら分かるだろ」


「マジでか……」


 今の攻撃が一番最初に行われた狙撃と同じなんだって察して心から驚愕する。だってそれは勝てないかもしれないという事の裏付けにもなるのだから。

 でも相手はそんな考え何て読めないし隙があるのなら攻撃するだけ。

 だからこそ、もう一度閃光が走ってはユウ達の足元に直撃した。

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