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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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190  『招待状』

「ユウ、これは何?」


「え~と~……招待状?」


 翌日。

 明け方に一通の手紙が届いたのだけど、その手紙は現在進行形で十七小隊に大きな戦慄を巻き起こしていた。過程はいたって単純。朝一で起きたイシェスタが届いた手紙を渡され、それを次に起きて来たリコリスと確認した所とんでもない物だと判明し、そこにユウの名前が書かれていた事もあってなんやかんやで全員集合して話し合いになっているのだ。


 そしてユウが来るなりリコリスは険しそうな表情で手紙に書かれたユウ充ての内容とある招待状を見せびらかす。けれど翌日に来るなんて予想すらもしていなくて、ユウは真正面から面を食らうと眼を背けながらも小さく言った。

 するとリコリスは机を叩きながらもどれだけの事なのかを伝えてくれる。


「招待状でも何の招待状か分かってる!?」


「セントラル・タワー竣工五周年記念パーティの招待状です……」


「うん、そうだね。有名人じゃないと招待されないパーティの招待状だね。じゃあここに書かれてある人の名前は?」


「第一大隊の二番隊隊長のエクレシアさんです……」


「うん、そうだね。私よりも二十倍くらいは凄い人だね。じゃあ何でその人からユウ充てにこんな招待状が送られて来るのかな?」


「――――」


 どれだけの事かは分かっている。ハッキリ言うとエクレシアはリコリスと比べてしまえば天地の差がある程の凄い人だ。到底ユウが手紙を貰っていい相手ではない。いやまぁ、後々説明する気ではいたのだけど、まさかこんなにも早く来るとは思いもしなかった。そしてその事情を知っているエトリアとラディとクロストルの三人は手紙を見るなり軽く眼を背けた。

 やがてリコリスは招待状を押し付けると威圧感マシマシで言う。


「今回は何したのかなー?」


「いや、その、話そうとは思ってたんだけど……その人と友達になったって言うか……」


「友達ぃ!?」


「で、昨日そのパーティーに出てくれないかって言われて、一応考えるって言っておいたんだけど……思ったより早くて……」


 するとその件を知っている四人以外は一斉に驚愕した。そりゃそうなるだろう。だっていくら友達と言っても相手は有名人とも受け取れる程の人なのだから。

 しかし、本当の本当にタイミングを失ってしまった。というより考えとくと言ったのに翌日になったら招待状を送って来るだなんて誰が予想できただろうか。その事を微塵も予想できなかったユウは依然動揺を見せる。


「ち、ちなみにその理由は?」


「本当なら自分達で出る予定だったんだけど、今色んな事件を追ってて忙しくて、せめて隊長だけでもって話になったんだって。でも一人だけ出る訳にはいかないから数合わせとして俺達に……って訳」


「私達みたいな低い所じゃなくて知り合いに頼めばいいのに」


「その、エクレシアは外見的には女の子なんだ。だから上手く友達が出来ないらしい」


「あ~……」


 向こうの状況を説明するとリコリス達も察したのか、何か哀れむような表情をしては短く呟いた。でも自分は少女なのに周囲の人間は大柄の男ばっかりなんて、ハッキリ言ってあり得ない。恐らく力量だけは上り詰める事は出来ないから、あの小柄な体を利用して奇襲などの戦術で功績を上げて来たのだろう。

 と、話はそこではない訳で。


「……出てくれと」


「一応考えるって伝えたんだけど……どうする?」


 招待状を見つめるリコリスへそう返す。招待状と言ってもユウ個人ではなく十七小隊全員を纏めた招待状で、一応この場にいる全員が参加する事が出来る。もっとも、テスとかアリサは面倒くさいとか言う理由で行かなさそうだけど。そう思っていたのだけど、どうやらそうでもないらしい。


「みんなはどう? 生きたい?」


「俺は行けるのなら生きたいな。だってパーティなんだから美味い物がいっぱいあるはず!」


「私も賛成よ。どうせならコネなり何なり手に入れておきたいしね」


「俺もだ。ひょっとしたら有名な鍛冶師もいるかもしんねぇ」


「わ、私も生きたいです! ただ、亜人を受け入れてくれるかは別ですけど……」


 本来なら参加できるはずのない巨大なパーティなのだ。逆に参加しない理由がないらしく、その場にいた全員が参加したいと覚悟を決めていた。その後にもラディとクロストルが頷き、ユウも賛成するとエトリアが続いて肯定する。だからリコリスは少しだけ溜息をついて言う。


「まぁ減るもんじゃないし、参加しよっか。え~と……一週間後ね」


「それまでの間に正装とか見繕わなきゃな」


「言われてみれば、私達って正装と呼べる正装ありませんもんね」


 するとその瞬間から既に楽しみにしているみたいで、みんなはパーティに対して想いを馳せていた。確かにそのパーティには多くの大物が参加するだろうからユウ達みたいな小隊にとっては格好の餌(意訳)だし、上手くやれば今回のユウみたいに何かしらのコネを手に入れる事だって出来るかも知れない。


 そんなこんなで即行で話がまとまるとパーティに向けての準備が始まる事になる。正装を準備したり姿勢の正し方を教わったり。

 エクレシアの方もパーティまでは自分の足で調査を進めているらしく、時折メールとかで現状報告をされながらこっちも準備を進めていた。もちろんパーティが終わってから動き始める準備だが。ちなみに招待状の件はエクレシアに送ったら二つ返事で「OK! 手配は任せて!」と連絡が入った。


 ……でも、この時は知らなかった。

 行った先で大きな事件が起こるだなんて、予想すらもしえなかったんだから。



 ――――――――――



 一週間後。

 十七小隊はきちんとした準備を終わらせ、万全な状態でパーティに挑む事になった。挑むと言ってもそこまで緊張すべき事ではないのだけど。大物の中に飛び込むような物なのだから気持ちは分かる気がするが。

 そして今はエクレシアが手配してくれた車に乗る直前なのだけど、そこで早速一つ目の問題が発生して。


「あっ、やべ……」


「どったの?」


 そう言えばエクレシアから貰ったリザリーの手紙を読むのをすっかり忘れてしまっていた。その事を今になって思い出した。しばらく会える訳じゃないだろうから今すぐ読む必要もないし今読まなきゃいけないと言う訳ではないだろうけど、それでも放っておくとまた忘れそうだから今取りに行こうと決意する。


「ごめん、ちょっと忘れ物!」


「え、今!? 時間は!?」


「双鶴で飛んでくから大丈夫ー!」


「――私も行きます!」


「エトリアまで!?」


 するとエトリアも車から降りてユウの後を追って来る。本当なら戻れって言うべきなのだろうけど、まぁ、双鶴なら最低四人は乗れるし全力で飛ばせば大丈夫だろう。そんな事を考えたからこそ呼び止めずに追いかけて来る事を許容した。


 しかし双鶴で飛んで行くとは言っても今回のユウはリベレーターとしてではなく数合わせとして参加するのだ。パーティーの中に一人だけゴッツゴツの武装をしたまま参加する事は出来ないし、どこかで預けるか置いてこなければいけない。一応GPS的なのがあるから奪われても問題はないのだけど警戒は怠れないだろう。


 さらにここは十七小隊本部の前という訳でもないから戻るのにはそれなりの時間がかかるし徒歩なのだから余計時間がかさばるはず。いくら双鶴があるとはいえそこまでの猶予はないと思ってもいい。まぁ、最終的にはんな事してないで一緒に行けば万事解決って話だ。ぶっちゃけて言うとこの行動そのものにはユウが忘れにくくなると言うメリットしかない。


 そんなこんなで十七小隊本部まで戻ると急いで自分の部屋まで駆け抜けていつも着ている上着のポケットから手紙を取り出す。すると背後からエトリアが当然の問いを投げかけて来て。


「それを取りに?」


「うん。まぁ、別に今遅れてまで取る物でもないんだけど、忘れそうだから」


「最近は忙しかったですし、仕方ないですよ」


 怒るかと思いきや彼女の返答はまさかの同調。だから少しだけびっくりしながらもついでに別の物も取りながら部屋を出ていく。これは本当に念の為でしかないのだけど、ガリラッタからもらった雷を出せる装置を手に持ちながら。


 車は恐らくもう出発して中腹辺りまで行っているはず。距離的には圧倒的に遠い方になってしまうのだが、双鶴で建物を超えて一直線に向えばギリギリ間に合うだろうか。こればっかりは分からない事だけど。やがて外に出て双鶴を起動させると二人で乗り込んでは浮かび上がらせる。


「そう言えば、もうセントラル・タワーには何人か集まってるんですかね?」


「さぁ。一応開始の一時間前に着こうと予想してるけど、それよりも早く集合してる人もいるかも知れない。エクレシアもあらかじめ予想してたし揃ってるかも」


 そんな会話をしながらも双鶴での飛行を始めると一気にセントラル・タワーに向かっていく。今までは遠くから「でっかいな~」くらいにしか思った事がなかったのだけど、流石に竣工五周年記念にまでなるとそれなりに大きいパーティーになる様で、遠くからでも目立つくらいにライトアップがされていた。何というか、向こうの世界での東京タワーとかスカイツリーを彷彿とさせるライトアップの仕方だ。だからと言って驚くわけではないのだが。


 一応服装が乱れたらマズいのでそんなに風が強くない高度を維持して飛行する。

 でも、その時だ。微かではあれど違和感を感じたのは。


「ユウさん、どうしたんですか?」


「いや、今、暗闇に紛れて人が屋上を渡ってた様な……」


「え?」


 そう言いつつも《A.F.F》を付けて小隊を確かめようとする。これには暗視ゴーグルみたいな効果も付いていると聞いたし、それを付ければ正体が何なのか分かるはず。と、そこまでは順調だったのだけど、重大なのは次の瞬間からだった。

 だって、完全に意識外からの狙撃を行われたのだから。

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