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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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189  『結果と憶測』

「――で、結局証拠は掴めなかったと」


「そう」


 エクレシアと別れてエトリアと合流した後、ユウはラディとクロストルとも合流してビルの間で軽い情報交換会を開いていた。ちなみにエクレシアはエクレシアで色々と考えてから動き始めるらしい。そこら辺の行動力と権限の強さは流石としか言いようがない。

 クロストルは腕を組んで壁に背中を預ける。


「こっちも一日かけて街中を走りまわったが、確信に迫る程の情報は何もなかった」


「私も。噂程度の話なら飽きるくらい聞いたんだけどね~」


「やっぱりか……」


 二人の情報屋の力を持ってしても確信に迫る情報を掴めないだなんて殆どなかった。だからこそこの件だけは今までとは全く違う物があるんだと理解する。そうなる原因は二つ。それ程なまでに証拠隠滅が上手いのか、それとも元からそんな事は起っていないか。


「もう一度聞くが、子供がいる様な証拠はなかったんだろう?」


「うん。怪しさは満点なんだけど、よく見てみるとただの良い研究者だった。とはいっても、マッドサイエンティストを自称する難しい性格の持ち主だったけど……」


「マッドサイエンティスト、ね。本当にただ単純に好きなのかミスリードなのか……」


「そこが肝だな」


 ラディの言葉にクロストルは頷く。

 言われてみればそうだ。あの時は大型のタンクをそれっぽい雰囲気を出す為に置いてると言ってたけど、深読みすればそう言う事で詳しい事を何も知らないユウ達を欺けるという事にもなる。その証拠として一番最初にユウが大きな反応を見せたのが良い例だろう。


 別に関係ないのなら関係ないと割り切る事も出来るだろう。そうすれば子供の失踪事件の方だけに力を入れる事が出来るし。でも、それをさせてくれないのがあの怪しさであって。

 エトリアはふと問いかけた。


「嘘つきの眼……でしたっけ。眼を見ただけでそんなに分かる物なんですか?」


「ハッキリ言うと普通なら絶対に分からない。――それこそ、大勢の嘘つき達に囲まれて生き続けない限り。ミーシャとかレティシアはその事を理解出来るはず」


 でも返って来た重苦しい言葉に黙り込む。それはユウが同じ道を通って来たと言う証明になってしまうのだから。

 しかし本当にその通りだ。普通の人には分からないけど、騙され続けた人と言うのは常に相手の顔色を窺うようになる。そこからユウはそこから独自の観察力を身に着けただけ。更にそこからネットで見つけた技術からコツを覚えた。それをミーシャやレティシアは独自でやってるはずだ。


「――コールド・リーディング。観察力とコツさえあればだれでも出来る技だよ。俺の場合はこれとは違うけど、さり気ない話し合いだけでも相手の情報を抜き取ったり、相手を信じさせたりする事が出来る。この二人や指揮官がよく使ってる」


「え、そうなんですか?」


「事実俺達はよく使う。……要するにユウはそいつも似たような物を持ってるって言いたいのか?」


「そう言う事」


 コールド・リーディング。直訳で「準備なしに相手の心を読む」というこの技術は詐欺師や営業担当者がよく使う……ではなく、コレがあると優位に立つ事が出来る技術だ。その最大の利点は初対面でも心が読まれてると相手に思い込ませる事が出来る事。それにより情報を引き出したり信頼を勝ち取ったりする事が出来るのだ。

 例え簡単な物であったとしても何も知らない相手ならば簡単に通じる。それこそエクレシアの様に。


「あの老人は短時間であってもエクレシアを言い包めた。じゃあ俺が最後まで警戒してたのは何故か。その答えは簡単。俺はそれに近しい技術を事前に知っていたのもあるし、相手の顔色で感情を読み取る事も出来たから」


「む、難しい話ですね……」


 すると話の腰にあまりついていけてない様子のエトリアがそう呟いた。でもそこら辺は仕方ないとも言えるだろう。だってその技術を知らないエトリアにとってはレベルが高い話でもあるし、何より純粋である彼女にとって誰かを強く疑うという話は苦手なはずだから。

 しかし否が応でも話は進んで行く。


「怪しさもあって依然警戒は怠れない相手なのは間違いない。場所はさっきも伝えたけど、複数の拠点を持っててもおかしくはない」


「まぁ妥当な判断だな」


 そんな憶測を立てて徹底的にあの老人を怪しむのだけど、それを行動に起こせるだけの確証がないのも確か。だからユウはもどかしくて奥歯を噛みしめた。


「で、ユウは最終的にどうしたいの?」


「望むのなら直接問いただしたい。でもそれをしていい相手でもないんだよな……」


 ラディがそう問いかけて来るから答えるのだけど、それはあまりにも曖昧な物で自分自身でも悩んでしまう。――だって開いたウィンドウに表示されていたのは、あの老人が本当の科学者だという証明写真的な物だったのだから。


 あの老人……資料によるとクルスチュアドなる名前らしいあの老人は本当に公認の研究者で、今まででも機械生命体用のソナーや《A.F.F》の開発に携わっているなど、数々の功績を上げている様だ。そりゃそんな凄い人が例の噂の張本人だなんて誰も思うまい。そしてそんな凄い人がスラムの辺境に研究施設を構えている事も。


 ここまで来るとクルスチュアドは白なんだという証明が取れた様な物だ。一番最初から予想していた様に子供の失踪とは全く関係ないのだろうか。

 と、そこまで考えた時だ。エトリアがある事を言ったのは。


「正規軍、っていう可能性はありませんか? それが失踪事件に繋がる訳でもないですけど、一つの可能性として……」


「正規軍か……。言われてみれば考えた事もなかった」


「確かに奴らならやってもおかしくないな。確証は何もない訳だが」


 するとエトリアの話を聞いたクロストルがエトリアの言葉に賛同して頷いた。ラディも同じ様にして頷いていて、新しくその可能性がある事を示唆する。

 あくまで偏見でしかないけど、可能性としてはありえるだろうか。だって隠れて街中に爆弾を仕掛ける様な連中だし。しかし野蛮な奴らが多い印象だけど中には良い人もいる。あの魔術師がその例だ。

 ユウはここ三か月は全く知らない事もあって二人へ問いかけた。


「そう言えばここ最近は正規軍とかどうだったの? 何か反応合ったりした?」


「いや、残念ながらこれっぽっちも反応はない。むしろもうこの街にはいないんじゃないかってくらい足跡も何もないくらいだ」


「私も路地裏とか走り回ってたけど一度も出会わなかったぞ」


「となると可能性は低いか……。明日辺り、本部の方に行ってみるのも手かも知れない。とは言っても制限があるだろうけど」


 二人には少し失礼だけど、正規軍の事を知るのなら本部から直接情報を聞いたり見たりする方がいいだろう。そっちの方が的確だろうし。でもそこまで行ける権限がないのも確か。だから早速行き詰っているとラディが言う。


「例のドクターの力を借りるのは?」


「それも難しい。主治医的な扱いである事から会う事自体は簡単だとしても、ユノスカーレットは今色んな解析に着手して忙しい状況なはず。ミーシャもノアも俺が押し付けた様な物だし……」


「あ~……」


 するとユノスカーレットの現状にユウのせいだと把握した三人が同時にそう言う。ミーシャの件もまだ終わってないのにノアのデータ採取を一任してしまっているし、彼女にこれ以上の負担はかけられない。だからラディの提案は却下して別の方法がないかを考え始める。


「情報屋ってリベレーター本部よりも情報を掴んでたり……?」


「どんな物かにもよるが、正規軍や街の噂などの情報なら向こうの方が遥かに上だよ」


「やっぱり」


「まぁそこら辺は情報網が違うからねぇ~。私達はそういうのを専門にしてないんだぞ」


 となるとやっぱり本部に突っ込むしかないのだろうか。まぁ正規軍相手だから分からなくもないのだけど。やがてユウは一つの結論を出すと指を鳴らしながらも言った。


「……情報を待とう」


「待とうって?」


「この件についてはエクレシアも関わってる。だから、情報を待とう」


 ユウが選んだのは行動でもなく突撃でもなく停滞。このまま変化があるまでじっとしていようと言う考えだった。子供の失踪が掛かっているのだから動かない訳にはいかないのは分かってる。けれどユウ達は十七小隊という、比較的権利の低い所属だと言う事を忘れてはいけない。そしてあまり出しゃばっちゃいけないと言う事も。


 この選択が最善とは言えないだろう。でも状況を見るのなら別の事に動けると言う事になる。研究者と子供の失踪。その二つを割り切ればユウ達だって微かではあれど出来る事はあるのだ。


「その代わりに子供の失踪に関して追う。これも噂らしいけど……もし本当なら見過ごせない」


「わ、私も手伝います!」


「……そうだな。私も賛成」


 正々堂々とそう言うと一番最初にエトリアが賛成し、その次にラディとクロストルが頷いた。人手と言う意味なら普段から暇しているテスやアリサも巻き込むのが手っ取り早いだろう。でも今はまだ試行錯誤の段階。手を貸してくれと頼むのは後々でも問題ないだろう。

 ……と、そう思っていた。この瞬間までは。


 突如スマホが振動するからなんだと思い確認するのだけど、画面に映っていたのはエクレシアの名前と電話の通知。だから何か新しい情報でも掴めたのかと思ったのがその予想は大きく外される事になる。


「もしもし、エクレシア?」


『あ、よかった通じた……! ユウ、一つだけお願いがあるんだけど、いいかな』


「俺に出来る事なら」


 だってそのお願いと言うのはあの老人の事ではなく、ましてや子供の失踪の事でもなく、ユウという問題児に頼むにしてはあまりにも無謀で無茶な物だったのだから。


『簡潔に言うよ! 今度開催されるセントラル・タワー竣工五周年記念のパーティに参加してくれないかな!?』


「……え?」

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