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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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185  『友達』

「……え? 今なんて?」


「だから友達! フレンド!」


 一瞬だけ彼女がなんて言ったのか分からなかった。だって相手は各上の人だ。そんな人の頼み事なのだから余程の事なのかと思っていた。それなのにその頼み事が友達になる事だなんて誰が予想できただろうか。到底予想できない言葉だったからこそユウは大いに困惑する。


「でも何で友達……? っていうかこういうのって別の事なんじゃ?」


「あ~、いやその~。ほら、ボクって第一大隊の二番隊隊長でしょ? その肩書があるせいで今までロクに会話出来た事がないんだよね。君みたいにこうやって話してくれた人にもこの事を頼んでるんだけど、誰一人として受け入れてくれた事がなくて……」


「だから俺に?」


「うん」


 その理由を聞いて少しばかり驚く。こんな大物を相手にタメ口で話せるのだから友達くらいなってあげればいいのにと思ったから。……なのだけど、後の事を考えると受け入れない理由が出て来るのも仕方ない事だと思える。だって普通なら話す事さえ難しい様な存在なのだ。今までの人と言うのが分からないけど、後の事を考えると色々ややこしい事になりそうな気がする。


 しかしエクレシアが友達を欲している理由も分かる。ベルファークみたいに呑気に接してくれる人は少ないだろうし、大隊なんていう大きな組織であれば規則は厳しくなって当然。部下ですらもタメ口で聞いてくれる人は少ないだろう。そう考えると十七小隊の規則がどれだけ緩いのかを思い知らされる。


「部下の人達も全員敬語だし、何より……」


「何より?」


「大多数がボクよりも大柄で同じ身長の人がほとんどいないんだよね」


「あ~……」


 彼女の言葉からどんな境遇なのかを想像して納得する。確かに彼女はユウと同じくらいの慎重だし、大隊は大柄の男が多い印象だからそうなっても仕方ないだろう。更にエクレシアは女に見える事も相まって色々と大変な事でもありそうだ。


「で、どうかな。友達……なってくれる?」


「ぅ――――」


 しかし今一度問いかけられて困惑する。彼女の境遇は分かったけど、だからと言って友達になるなんて恐れ多い。せめてユウが同じ隊にいたなら考え方は変っていただろうけど今は違う。そんこともあってユウは断ろうとするのだけど、その瞬間にエトリアから言葉をかけられる。


「いいんじゃないですか? 友達になっても」


「……そう、だな。正直まだ恐れ多い所があるけど」


 エトリアの言葉で背中を押されて多少なりの覚悟を決める。でも恐れ多いのは確かだ。いくらタメ口で話せているとは言え上司を友達扱いする様な物だし。

 それでも、これで彼女が救われるのなら。そんな考えで手を差し伸べた。


「こんな問題児でもいいのなら、よろしく」


「……! よろしく!」


 するとエクレシアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべては即行で手を握った。やっぱり彼女からしてみれば友達がいると言うのは物凄く嬉しい物なのだろうか。本当に心から喜んでいるみたいだった。その証拠として手を握っては少しばかり飛び跳ねている。

 しかし、まさか第一大隊の二番隊隊長と友達になる事になるとは。


「よかったぁ~! ボク、いつかは同年代の友達が欲しいと思ってたんだ~!」


「そ、そうなんだ」


「だって今まで友達って呼べる存在がいなかったんだよ? こんなに嬉しいのは久しぶりだよ!」


「……まぁ、喜んでもらえた様でよかった」


 こうしてみるとただの明るい少女でしかないと言うのに、その正体は幾つもの死線を潜り抜けた第一大隊の一員なのだ。最早何ギャップを狙っているのかも分からない。やがてエクレシアは飛び跳ねていると自信満々の表情で言った。


「あ、そうだ。ボクに手伝える事なら何でも任せてね! 喜んで力になるよ!」


「は、ハイ。ありがとうございます……」


 だからあまり頼る事はないだろうと思いながらも眼を逸らして返す。いくら友達だからと言ってユウが首を突っ込むのはどれも面倒な事ばかりだし、迷惑をかけてはいられない。それに、困った時は一番最初に仲間を頼ると約束してしまったし。

 彼女はしばらくの間だけ喜んでいると、ちょうど喜びが消えていった辺りで飛び跳ねるのを止めて軽く笑う。


「……うん。やっぱり君は聞いた通り変わってるね」


「変ってる?」


「そう。だって友達の話は距離感が近い人でさえも蹴る話だもん。君から見ればボクは怖い対象に入ってもおかしくないはずなのに、それでも友達になってくれたんだから」


「――――」


 エトリアの後押しがあったと言うのもあるけど、決意したのは初めてだったのだろう。確かに彼女の言葉がなければユウもその話を蹴っていたはず。だから正確に言うのならこの選択はユウの選択ではないのだけど、彼女にとってはそうだとしても嬉しい事の様だ。


「変ってる、か」


 確かにユウは変っている。この世界で希望を持つ事が出来て、真意を持つ事が出来て、心を持つ事が出来たのだから。それらの理由は全て異世界人だからという点に置いて依存している。もしユウもこの世界の住人であったのならここまで希望を抱いている事はなかっただろう。

 だからこそ、今だけでも抱ける希望に価値があると思う。


「君は……エクレシアは、希望に意味があると思う?」


 ふと無意識の内にそう問いかけていた。それが自分の抱く希望に答えが欲しかったからなのか、自分以外に希望を持ってる人がいるのかを確かめたかったからなのかは、全く以って分からない。けれど無意識にそんな質問をしていた。

 すると彼女は何の抵抗もなく答えてくれて。


「あると思うよ。希望は眼に見えない物で、触れる事すらも出来ず、誰かから生まれる事でその存在を発揮する。だからこそ、そこに希望の意味がある。ボクはそう信じてる」


「そっか。……なんか、妙な質問をしてごめん」


「これくらい全然構わないよ。むしろ君も迷う事があるんだって知って少し安心した」


 変な質問を飛ばしてしまった事に軽く誤ると彼女は微笑みながらもそう言ってくれる。ユウから見れば厳しく見える彼女だけど、同じ様に彼女から見ればユウは絶えず希望を持ってる人だったのだろう。人間だから当たり前だって言いかえしてあげたい所だけど今はぐっと堪える。


「その様子からすると、君がリベレーターに入ったのは誰かの為でしょ?」


「まぁ、結果から言うとそうなるかな」


「そこの彼女も?」


「かのっ……!? そ、そそ、そうなりますけど……!!」


 するとエクレシアは少し冗談交じりにそう言いながらもエトリアに問いかけ困惑させた。そしてその反応を見ては小さくニヤリと微笑んだ。


「類は友を呼ぶってヤツかな?」


「似たような物かも知れない。俺もエトリアも希望に憧れて、絶望を拒絶した、もう二度と後戻りをする事は許されない愚か者だから」


「愚か者、ね」


 自身の事を『愚か者』と表現するとエトリアが背後で頷く。二人共同じなのだ。ユウはリコリスの希望に憧れ、エトリアはユウの希望に憧れてここまでやって来てしまった。みんなの前に立っている以上もう後戻りは出来ないだろう。それこそ、臆病なのに勇気を持って死地に足を踏み込む愚か者とでも言うべきだろうか。

 そう言うとエクレシアは何かを確信した様子。


「……今度は、本当の意味での頼み事をしたいんだ」


「ん?」


「これはボク個人で追ってる事でしかないから確証も何もないんだけど、確かめたい事があってさ」


 本当の意味での頼み事、というのは恐らく上の立ち場としてではなく友達としての頼み事だろう。だからユウとエトリアは気を引き締めると彼女の言葉を聞くのだけど、それは少しばかり妙な話であって。


「君達はさ、怪しい研究所の噂を聞いた事ある?」


「怪しい研究所……? エトリアは?」


「一応訓練兵の時に耳にしたことがあります。確か人体実験をしてるとか何とかで噂になってました。曰く、そこからは肉を抉る様な音が一晩中響いてたとか」


「うっへぇ。聞いただけでもゾッとするな」


 機械生命体の件もあって肉を抉るとか言う表現に敏感に反応する。

 しかし、訓練兵も噂すると言う事はそこそこの広がりを見せている様だ。ユウはほとんど隔離されてた様な物だから知らなかったけど、噂自体なら他の隊にも伝わっているだろうか。

 エクレシアはそれを追っているのだろけど、彼女程の人がそれを追うって事は、つまり。その予想は見事に的中する。


「でも、噂じゃないんですか?」


「最近まではボクもそう思ってた。でも近頃、子供が姿を眩ます事が多いんだよ。その場所って言うのが、噂の研究所があるとされる第二十八区の中なんだ」


「……!」


「第二十八区はボクの隊の管轄区域でもある。だからこっちで色々と調査を進めてるんだけど中々掴めなくてさ。そこで君達の力を借りたいんだ。どう、かな」


 ラディとクロストルが隊員になっているのを知ってか知らずか、エクレシアはそう言って頼み込んだ。恐らく面倒事と思われると考えているのだろう。けれど、どんな面倒事だとしても誰かが救えるのならやらなくてはいけない。そう考えたからこそユウは頷く。


「もちろん乗るよ、その案。――誰かが困ってるのなら見捨てるなんて事は出来ない。救える人は必ず救うって、そう決めたんだ。例えそれが確証の無い賭け事であっても。それにこっちには少しばかりアテがある事だし」


「私も乗ります。出来る事は少ないかも知れませんけど、でも……!」


 二人してそう言うとエクレシアは嬉しそうに笑みを浮かべる。まぁこっちには情報屋というカードがあるし、困ったら彼らに頼ればいいだろう。そんな人任せな考えでエクレシアの案に乗っかった。


「ありがとう、すっごく助かるよ! ええと、じゃあ二人は第三十区の探索をお願いできるかな」


「三十区? 何で?」


「二十八区以外にも子供がいなくなる事は起きてるんだ。それを回避する為にも他の区域を探索する必要がある。だから、お願い」


「OK。そう言う事なら任せて」


 そう言うとエクレシアは拳を突き出した。だからユウも同じ様にすると拳を合わせて大きそうな謎解きへ挑戦する覚悟を見せる。


 ……後に、命すらも賭ける事になる、大きな事件へ踏み込む覚悟を。

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