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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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184  『活発な隊長さん』

「君が最近噂になってるユウ君なんだね!?」


「え、あ、はい。そうですけど……」


「やった! 一回顔を合わせてみたいと思ってたんだ~!」


 ユウを待っていたと言う少女はユウに会うなり立ち上がっては手を握って嬉しそうな表情を浮かべてこっちをマジマジを見つめていた。それも光輝く様な瞳で。だから困惑していると彼女は咄嗟に手を離しては適切な距離を取る。


「あ、ごめんごめん。ちょっとはしゃいじゃった」


「…………」


 彼女は少し手を振りながらもこっちの様子を見る。何というか、今の行動だけでもかなり心に正直な人なんだって思わせる人だ。性格的にはネシアに近しい物を感じる。初めて会うのにまるでずっと前から友達だった様な独特な距離感。

 改めて姿を見るとリベレーターにしてはやや特殊な服装をしている。


 大体の人は支給品の上着を着てそこからアレンジを加えていくのが鉄則だ。アリサとかガリラッタみたいに形を崩す人もいるけど、アレンジとしてはリコリスが代表例だろうか。

 しかし彼女は支給品の服は着ておらず、膝まで届く黒いコートと肩と胸にある軽装甲に、下は濃緑のポロシャツにややブカブカの黒いズボンと近未来と若干のファンタジーを混ぜた様な服装をしていた。だからそんな服装もする人がいるんだと初めて知る。


「いや~さ、ここに来てあの子達と会話してたら君の話が飛び出して来てね? せっかくなら会ってみたいな~って思ったんだ」


「そ、そうなんだ……」


「にしてもまさか本当に会えるなんて思わなかったよ!」


 どうやら彼女はユウと会えた事に本当に喜んでいるみたいだった。エトリアみたいに前々から出会っていたと言うのなら分からなくもないけど、少なくとも彼女と出会った事はない。だからタイムトラベルでも起ったような感覚に陥る。

 すると彼女はずいっと距離感を詰めて問いかけた。


「ねぇねぇ、君って今まで数多くの事件に関わって来たんでしょ? その時ってどんな感じだった?」


「どんな感じ……。ええと、全ての戦闘において相手が各上だったから負けたくなかった、みたいな」


「なるほど。負けず嫌いなんだね」


「地味に今の質疑応答で性格を知られた!?」


 普通こういうのって戦闘に関しての情報を抜く物なのだけど、今のでユウの性格の一部を知られて少しばかりびっくりした。しかもユウの性格上合ってる様な物だから更に驚愕する。今の答えなら別の性格だって読み取れると言うのに。だからラディとクロストルを相手にしてるような感覚になる。

 その感覚のせいで少しばかり彼女を警戒し、次の質問が飛んで来る前にこっちから質問を飛ばした。


「それじゃあ次は――――」


「まった。えっと、まず君は……?」


「あ、そっか。自己紹介がまだだったね」


 すると彼女はもう少しだけ距離を離して自己紹介をし始めた。活発な性格だからこういうのは省略すると思っていたのだけど、思いのほか細かい所まで説明してくれるからこっちもエトリアを含めて自己紹介を返した。


「ボクの名前はエクレシア。所属は第一大隊の二番隊隊長だよ」


「俺は高幡裕。こっちはエトリア。同じ十七小隊所属で――――え?」


 しかし彼女の言葉を脳裏で復唱した瞬間から言葉をピタリと止める。今、何て言ったのだろうか。まさか第一大隊と言ったのか? 更にその二番隊隊長だと言ったのか? なに、となると彼女はベルファークにも近しい存在となると言うのか。

 そんな大きな存在がわざわざユウに会いに来たと言うのか。


「い、今、第一大隊の二番隊隊長って……」


「うん。言ったよ?」


 その瞬間からユウは態勢を整えては背筋をピーンとして深々と頭を下げる。だって上官に向かってタメ口を聞いていた様な物だ。それによく見てみると腕章には【第一大】と書いてあるし本当に二番隊隊長なのだろう。規則に厳しい人が相手なら到底許される訳の無い言動。それを理解して即座に謝罪した。ただ見ていただけのエトリアはビシッと敬礼をする。


「失礼いたしました! 先ほどまでの不敬な言動を――――」


「ああいや、別にそこまで改まらなくたっていいよ! 顔を上げて!」


 それなのに彼女――――エクレシアはその言動には目もくれずに許容してくれる。だからユウは恐る恐る顔を上げてエクレシアの表情を見た。するとそこには慌てふためく彼女の顔があって、どうしてそんな表情をするのかと疑問に思いながらも言葉を聞いた。


「やっぱそうなるよね……。知ってから言われるのは無理があると思うけど、敬語じゃなくてもいいし、そんなに気張らなくてもいいよ。ボク、今日はオフだから」


「しかし……」


「君には上官としてじゃなくて一人の兵士として会いに来たんだ。だから、気さくに話しかけてくれると嬉しいな」


「…………」


 すると微笑みを浮かべながらもそう言う。でもそうはいっても上官みたいな立場である事は変わりない訳だし、上下関係くらいはユウでも把握できるから大きく戸惑う。答えを求めてエトリアの方を見ても同じ表情をして見つめ返して来るから選択を委ねられる。

 タメ口で喋る事は出来るだろうけど、もし他の人に聞かれでもしたらマズイ事にならないだろうか。同じ隊ならともかくエクレシアは第一大隊でユウは十七小隊。その差は歴然だ。


 念の為罠じゃない事を確認する。だって第一大隊ともなる大きな所だったら有無も言わさず権限を利用して会いに来る事も出来たはずだ。それなのにどうしてここまで遠回りな道を選択したのだろう。その点も含めて無意識に警戒するのだけど、彼女の微笑みがそれを次第と溶かしていく。

 まぁ、言質は取っているし、大丈夫だろう。そんな決めつけで答えた。


「……分かった」


「ありがと」


 そう言うとエクレシアは嬉しそうに微笑んだ。ベルファークも似たような事を言っていたけど、やっぱり上位な存在になればなるほど友達みたいに話せる人がいなくなる物なのだろうか。それなら敬語じゃなくてもいい理由は分かる気もするが……。


「ボク、基本的にどこ言っても敬語で話されるからさ。毎回こう言ってるんだけど、それを実行してくれたのは君で十人目くらいだよ」


「あ、結構いるのね……」


「それでも少ない方だよ。だからボク、今すっごく嬉しい」


 何というか、ボクという一人称や活発なのもあってボーイッシュな少女だ。きっとリコリス辺りとなら馬が合うんだろうなぁ、なんて事を考えつつも話を進めた。


「……それで、エクレシアは何で俺に?」


「そっか。まだそこを話してなかったね」


 ある程度の状況を読んだ所でユウを探していた理由を聞く。だって普通、問題児であるユウにわざわざ会いに来ようなんて考えないはずだ。学校とかで優等生がヤクザに会いに行くような物だし。だからそこが一番の疑問だったのだけど、エクレシアは懐からある紙切れを取り出すとユウに差し出した。


「――先の作戦で、ある人がボクにこれを渡して言ったんだ。「もし可能であるのなら、貴方の仲間の中で一番大きな希望を持った人にこれを渡して」って。それに、ボク個人としても君の事は前々から気になってたからね」


「なるほど……。ちなみにその人と個人的な理由っていうのは……?」


「女の人だったけど黒いローブを着てたからよく分からない。どの所属なのかも。で、希望を持った人って言えば君しかないと思った。そして個人的な理由って言うのは、君と話し合いがしたかったから」


 女の人、という言葉だけで相手はあらかた絞る事が出来た。あの状況下でユウに渡し物をしてくれる女の人なんてリザリーしかいないだろう。全く、どこまでユウを気にかけているのか……。敵ながら恐ろしい。ユウはその手紙を受け取ると引き続きエクレシアの言葉を聞く。


「君はこれまで多くの事件に関わり解決して来た。そうだね」


「うん」


「そこでボクはこう思った。――君は、イレギュラーな存在なんじゃないかって」


「っ!?」


 今までエクレシアに会った事なんてない。そしてユウが異世界人だという事は十七小隊の面々とベルファーク、ラナ、ユノスカーレットしか知らないはずだ。機密事項扱いされてかつエクレシアが上位な立場とはいえ、普通の兵士にその事を話すとは思えない。つまりエクレシアは何の前情報もなしにその結論に辿り着いたのだ。

 動揺する様な反応をしてしまったけど、一応隠し通そうとする。


「ど、どうして、そう思うんだ?」


「簡単な話だよ。この世界の絶望を知ってる人間がそこまでの希望を抱けるはずがない。そこまでの希望を抱けるのなら、その人は今まで外へ出た事がないか、あるいは……。どっちにせよイレギュラーな存在には変わりないんだ」


「希望……」


「そう。君からしてみればボクの言葉は諦めにも近い言葉かも知れない。でも、君にも分かるはずだよ。希望を抱いていたからこそ肥大化する絶望を」


「――――」


 エクレシアの言う通りだった。ユウは転生者だからこそまだこの世界の絶望を味わい尽くしていない。そして、希望を抱いているからこそより多くの絶望に裁かれる事も。

 ふと脳裏で思い出す。手の届く人なら助けられると思い込んでいたあの時の自分を。けれどどうだっただろうか。ネシアは救えただろうか。手が届いていたにも関わらず、その命を掬い取る事に成功しただろうか。


「君の事情に深く踏み込むつもりはないし、それを知ったからって誰かに言いふらす様な真似はしない。ただ知りたかったんだ。君の事を」


「俺の、事を……?」


「もしかしたら君がこの街を変えてくれるかもしれない。そう思ったから」


 しかしそんなユウを知ってもエクレシアは期待しているんだ。ユウの希望に。いや、状況だけ見たら責任転嫁の様な事をしているだけか。どの道困難な道を押し付けているのは変わらないのだから。

 それを仕方のない事と決めつけてしまう辺り、ユウもまだまだ甘いのかも知れない。

 するとエクレシアは言う。


「……一つだけ、頼み事をしてもいいかな」


「うん。俺の出来る範囲でなら」


 第一大隊の二番隊隊長が直々に下す頼み事だ。聞かなければならないだろう。そんな考え方だと頼み事って言うか命令みたいな物になってしまうけど、どの道自分のやれる範囲でならやるつもりだと決めつけて覚悟を硬くした。

 のだけど、その頼み事はあまりにも突飛な物であって。


「――友達に、なってくれる?」

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