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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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179  『とある日の日常』

 街の見回りをしつつリベレーターの日常を説明した後、ユウはある所に足を運んでいた。ここの道はこの前もあるいたばかりだと言うのに、建物が建て直されたり改築されただけで別の道を歩いている様な感覚に陥る。相変わらずこの世界の技術には驚かされるばかりだ。

 やがてある通路に差し掛かった所でエトリアは自分から走って行く。


 かつては自分が暮らしていた建物へ向かって走って行き、防衛作戦でボロボロになってしまったとしても、彼女はそこにかつての育て親がいると信じてドアノブに手をかけた。

 普通なら安全性とか諸々の理由でいないだろう。それでも一縷の望みをかけて。

 崩れてしまった【労いのバー】の扉を開けると真っ先に呼びかけた。


「――おじいさん!」


「おや、エトリア?」


 するとカウンターでグラスを吹いているマスターがいて、その人を見かけるなりエトリアは駆け寄ってマスターの手を握る。そして満面の笑みで話しかけ、眼からは大粒の涙が頬に流れていた。

 そっか。エトリアからすれば三か月ぶりの再会になるのか。この三か月間はユウも色々と忙しくてマスターに会えなかったし、色々と募る感情もあるのだろう。


「おじいさん、ただいま! 私リベレーターになったんだよ! 頑張って頑張って、ついに……!!」


 マスターも彼女の成長に驚愕しているのだろう。エトリアと分かっても身長や身体の変化に驚いている様だった。まぁ無理もない。だってつい三か月前まで弱々しく控えめな性格だった娘が、ここまで凛々しく悠然とした兵士になって帰って来たのだから。 

 だからこそマスターは微笑むとエトリアの頭を優しく撫でる。


「おかえり、エトリア。ここまでよく頑張りましたね。立派に成長してくれて、私は嬉しいです。本当に。立派になって……」


 けれど育て親でもあるマスターにも色んな感情が渦巻いているのだろう。立派に成長してくれた嬉しさや自分から離れてしまう悲しさ、大切にして来た子が命を張って戦うという残酷さ。マスターの涙からはそれらの感情を読み取る事が出来た。


 これは、怒られても文句は言えないだろうか。エトリアがマスターから離れてリベレーターを目指したのはユウがいたから。ユウに憧れてしまったから。だから娘が離れてしまったんだと八つ当たりされても文句は言えない。

 ……そう考えていたのだけど、その気は微塵もないらしく、むしろ彼女を変えたユウに感謝を示してくれた。


「ありがとうございます、ユウさん。娘をここまで導いてもらって」


「え?」


「貴方がいなければ、娘はきっとあのままでした。誰にも心を開く事がなくずっと……。だから、娘を導いてくれて、ありがとうございます」


「ちょ、おじいさん!?」


 予想外の言葉を言われて硬直する。まさかそんな事を言われるなんて。

 でもそんな事情があれば分かる気がする。だってエトリアは三年前に捨てられた捨て子で、マスターが拾わなければエトリアは餓死していたはずだ。その事実は心へ確実にダメージを届かせたはず。アリサみたいに一時期であれど誰も信じる事が出来なくなるのは無理もない。

 するとエトリアは顔を真っ赤にしながらもその事を隠そうとする。


「えっと、私はあの~その~! 別にユウさんだけに心を開いたって訳じゃなくて……!」


「大丈夫だよ、そんなに焦らなくても」


 やっぱり好意を持ってる事は確実なんだろう。何というか、一昔前のツンデレヒロインを見てる様な感覚になる。

 既に言われてしまった以上撤回する事なんて出来ず、最終的にエトリアは肩を落とすと素直にその事を見つめて話し始めてくれる。


「……私、前は誰も信じられなかったんです。どうせ自分を見捨てる。誰も相手にしてくれないって。でも、その中でユウさんの背中が鮮烈に見えたんです。誰かを救う背中が、かっこよく思えたんです。だから私もなりたいって思って、それで……」


「リベレーターに入ったと」


「はい」


 誰かを救う背中が鮮烈に見えた。それはこの世界だからこそ言える事だろうか。誰も救えないからこそ見苦しく足掻く人は滅多に見ないのだから。更に言うとこの世界はアニメや戦隊物のテレビはやってないし、特番的なやつで似たような事はやってもそれは一時的な物だ。

 憧れるのが悪い事だとは言わない。でもやっぱり、そこに命を賭けられるのかどうか。そこが一番大事になって来る。まぁ、質問しても答えは分かり切ってるからしないけど。


「別にいいんじゃない? 誰かに憧れる事は悪くないし。それに、マスターに恩返しできるいい機会なんだからさ」


 さり気なくエトリアの目標に新しい物を結びつける。すると彼女はマスターに向き直って少し考え、どうすれば恩返しが出来るかを考えた後に一つの答えを導き出す。


「そうですね、それじゃあ……。私、もっと強くなってこの街を守ります! 今度は誰も、おじいさんも傷つかない様に、強くなって見せます!!」


 その答えが良い傾向なのか悪い傾向なのか、どう捉えればいいのか分からなかった。エトリアを見れば見る程リコリスと影が被ってしまって、このままで大丈夫なのかという心配が浮かんできてしまう。それこそ心の底から心配してしまうみたいに。

 みんなってユウを心配する時はこういう感覚だったのだろうか。


 そう言うとマスターはエトリアの一途な姿に微笑ましく思ったのか、口元を緩ませながら激励の言葉を送っている。その光景をユウは傍から見つめていた。

 しかしこれからどうした物か。個人的には過激派の連中がまた何かしらの騒動を起こすかもしれないと予測しているけど、そこにエトリアを連れ行ってもいいのだろうか。こういったタイプの責任については疎いしあまり下手に動かないのも手なはず……。


 あまりにも優遇し過ぎていると割と冗談にならない変な噂が立つかもしれないし、ベルファークの指示なら仕方ないが、先輩としての判断となるとどう選択すべきなのだろう。

 過激派とか隠れ正規軍の情報は現在ラディとクロストルが必死こいて集めている。それを見てからでも判断するのは遅くないはずだ。要するにその場で臨機応変に対応するしか道はない。


「しかし、三か月で変わりましたね。髪も伸びて体も大きくなって」


「毎日牛乳とか飲んでたからかな」


 ――そういう物か……?


 脳裏でエトリアの言葉に対してツッコミを入れる。確かに牛乳を飲むと胸が大きくなるだとか身長が高くなるとか聞くけど、たった三か月でここまで変化する物か。まぁそこは個別差があるのだろうし、エトリアは偶然そういう体質だったと言うしかないのだろう。

 やがてマスターはこっちを見ると冗談混じりに言う。


「ユウさん、私の娘、貰ってもらえませんか」


「え?」


「ちょっ!?」


 するとエトリアは耳まで真っ赤に染めながらもマスターの肩を掴んでは激しくゆすった。それと同時に照れ隠しの演技も行いながら。


「おじいちゃん、いきなり何言ってるの!?」


「冗談、冗談ですよ。ただ彼ならエトリアを任せられるというだけです」


「だけど言い方……っ!」


 二人を見ていると本当の祖父と娘に見えて来てしまう。実の親は違くとも二人はこの世界で笑えるほどの絆を結んでいる証になるのだ。それだけでも、十分奇跡と言えるだろう。

 そんな事を思っているとエトリアはこっちに振り向き、まだ正式な挨拶がまだだった事を思い出して敬礼のポーズを取った。ユウよりもずっと綺麗な敬礼を。


「そ、そういえば正式な挨拶はまだでしたよね。――本日付で入隊しました、エトリアと申します。よろしくお願いします、ユウさん」


「タイミング悪くない?」


「いいんですそういうのは! 思い立ったが吉日ってヤツです!!」


 その言動が照れ隠しと言う事を分かっていたユウは大人しく言う事を聞いて敬礼で返す。確かにあった直後から柔らかい感じで話していたし、こうなっても仕方ない……のか?

 しかしまさかあのエトリアがやって来るなんて。どうしてもそう思ってしまう。


「まぁいいや。よろしく、エトリ――――」


 と、ここまでの流れは若干強制的な部分もあったが感動の再会系に一括りされる所だろう。でもここからは毎回全く思い通りにならない展開が巻き起こる訳で、今回もその例に当てはまるらしい。その証として聞こえた爆音を聞いて即座に反応する。

 外に出るとある方角に黒煙が立ち上っていて、黒煙の位置からスラムに近しい工場付近だと察し若干肩を落とす。


 相手は恐らくマフィアだ。ラディが前にそんな様な事を言っていたし、たった今何かしらの攻撃が起ったと言う事は誰かがマフィアの邪魔をしたって事になる。まぁ理由がどうにせよユウは向かわなければいけない訳で、双鶴を起動させるとエトリアにある言葉を放った。


「行こう、エトリア」


「……! はいっ!!」


 入隊初日からの初任務。普通なら疲労も溜まっているのだから嫌で嫌で仕方ない事だろう。それなのにエトリアは嫌な顔一つせずに頷いて見せる。だからもう一つの双鶴に乗せるとマスターに軽く手を振りながらも現場に急行し、念の為公道を飛行している中でラディの呼びかけを食らうから素直に応答した。


「どした?」


『あー、今の爆発気づいてる? こっち来てる?』


「今向ってる。その反応だと何かやらかしたのか?」


『やらかしたなんて事はないぞ! ただマフィアが闇取引してたから邪魔しただけ』


「十分やらかしてると思うんですけど……」


 ラディとクロストルはいつもどこへ行ってるか分からないから位置情報が掴みにくかったけど、まさかマフィアがいる所にまで行動範囲を広げていたとは。

 念の為にレジスタンスへ要請を送りながらも現地へ急行した。とはいっても既にみんなも動き始めてるだろうし、救援もすぐ到着するだろうが。


 しかし今になってマフィアが凶悪になるのは些かおかしな話ではないだろうか。だって暴れるのなら一番手薄だった街の復興作業中に大暴れをすべきで、その時ならユウ達も色々と手伝っていたから強盗とか諸々をする余裕はあったはず。それなのにどうして今……?

 何か大事な取引とかだったらまだ分かる。でもそれを簡単にラディが見つける様な場所にするだろうか? 何か裏があるとしか思えない。


 そんな事を考えていれば工場地帯に差し掛かっていて、ユウとエトリアは双鶴から降りると《A.F.F》の索敵機能をONにして進み始めた。


「エトリア、大丈夫か?」


「私は大丈夫です。それより……」


「そうだな。じゃ、行こっか」


 そう言って歩き始めた。既に敵が大半を埋め尽くしていると思われる工場地帯を。

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