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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter1 灰と硝煙の世界
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017  『生き残る為の一手』

「はい捕まえた!」


「すっげ、七時ぴったり」


 全員が抵抗する中で二人はそう呟き、すぐに手錠を掛けてはユウを手伝ってベクにも手錠をかけてくれる。これによってようやく一息付けたユウは力を抜こうとするのだけど、傷を見たリコリスはぎょっとした表情で肩を掴んだ。


「ふぅ。これで一先ず――――」


「ちょっ、その傷どうしたの!? 大丈夫!?」


「ああこれ? 今の所は大丈夫だ。痛いけど」


「そりゃ痛いでしょうけど!!」


 すると即座に応急措置用の布を取り出すと血が流れてる所に縛り付けて止血する。こんなにも布塗れになった事は初めてだろうか。

 そうしてリコリスがユウに手当をしているとガリラッタは大きな狙撃銃を片手に口の軽かったラテリアに問いかける。


「正規軍っつってたよな。つまりこれは正規軍直々の指令で起こしたって事でいいんだよな?」


「あ、ああ、そうであってるッスよ。痛い事しない……?」


「大人しくした上で吐く事吐けばな」


 正規軍……。まだリベレーターの事を覚えるので精一杯だけど、確かもう一つの民間軍事組織だったっけ。この街からかなり遠くにあり機械生命体が潜んでいた所に本拠地を構えるとか何とか。

 つまり彼らはそこから遥々やって来たって事なのだろう。あの過酷な外の世界を通って。


「正規軍とリベレーターが敵対してるって、どういう? それに裏切ったって言ってたけど……」


「…………」


 リコリスに質問しても答えが返って来ない。つまりなにかしらの隠す事があるか、リコリス自身もその話を知らないって事なのだろう。だからこそ口を開くとこんな事を喋り出す。


「少なくとも敵対してるのは事実。奴らが宣戦布告の第一手って言う所を見るに、そろそろ仕掛けて来る気なんでしょ」


 つまりはあの爆破を起こした人も正規軍の一人で、文字通り捨て駒にされたって事なのか。それにしても第一手が大雑把な上に単純すぎる気もするけど……。

 するとリコリスも自分の銃を手に女性の首に銃口を突き付けた。


「第一手って言ってたけど、何する気だったの? 大きな爆弾でも設置して吹き飛ばすつもり?」


「答える義理はありませんわ。それに、仮に私達が失敗しても変わりはいくらでもいる。あなた達に未来はありませんのよ、裏切り者ども」


「本性表したね」


 けれど彼女は答えずにリコリスを睨み付ける。だから現状じゃ口を割らないと知ったリコリスは諦めて三人を運ぼうと担ぎ上げた。まだ警報が鳴り響く中、一先ずは身の安全を確保出来た事である程度の余裕が生まれる。

 故にリコリスは肩をポンポンと叩くと何かを喋ろうと口を開く。それも、第三者の介入によって防がれるのだけど。


「ユウ、よく――――」


「――前だリコリス!!」


 ガリラッタがそう叫ぶとリコリスはユウの襟を掴んで柱の陰に隠れた。すると左右から灼熱の炎が飛び出して通路の全てを溶かし始める。もちろん柱でさえも。

 そんな高熱の炎なんて即座に出せるはずがない。だからこそリコリスはその正体をすぐに見抜く。


「魔術師か……」


「魔術?」


「何もない所から水とか炎を出す人の名称。要するに大昔に存在した魔法って奴ね」


 そう言われて思い出す。確かにこの世界じゃ魔法はほぼ存在しないけど、完全に消え失せた訳じゃないんだ。ただ衰退しただけで魔術は今でも残ってる。故に魔法を撃ってる人もこんな事を可能にしてるのか。

 と考えられるのも今のうち。炎が止まった瞬間からリコリスは銃を構えて誰かも確認せずに銃撃戦を始めるのだから。


「ユウは下がって! 魔術師相手じゃ分が悪すぎる!」


「わかった」


 するとガリラッタは三人を簡単には炎が通らない場所に運び、ユウもそこに飛び込む。直後にもう一度炎が立ち込めて周囲の硝子を全て破壊し尽くした。

 だからその事に舌打ちするとガリラッタは狙撃銃を構えながらいつでも撃てるところまで移動する。


「正直言って魔術師は苦手なんだけどな!」


「え、そうなの?」


「だって遠近両方に対応して銃とは別の攻撃をしてくるんだぞ。魔法を使えない俺達にとっちゃ天敵も同然だ。まさか敵としてやって来るとは……」


 狙撃銃をコッキングして弾を入れ替える。そしてユウがある程度まで動ける事を知ってか否か、懐から拳銃を取り出してユウに投げ渡す。


「三人を見張っててくれ。銃の扱い方は分かるな?」


「味方に撃つな」


「合格だ」


 ガリラッタそう言って援護射撃を始める。

 今彼らを見張れるのはユウだけなんだ。そう言い聞かせて振り返るのだけど、状況が緊迫し過ぎる故に気が付けなかった。奴らが工作兵だからこそこんな窮地くらい当たり前に抜けられる事を。


「あっ……」


「――――」


 三人のうち女性が手錠を外しベクの手錠をピッキングっぽいので外そうとしていた。だからそれを見た瞬間に両者とも硬直して時間が止まる。

 次に時間が動いた瞬間にはユウの腕は稲妻の如き速度で動き、何の躊躇もなく彼女の足に狙いを定めては引き金を引いた。故に即座に足を上げると弾を躱して走り出す。


「ちょっ、容赦なし!?」


「逃がすか!!」


 離れてる間でも身動きできないように思いっきり飛び上がっては寝転がってる二人の腹を全力で踏みつける。普通なら背骨が何本か折れるくらいの威力で。それで気絶させながらも彼女を追う。


「ユウ!?」


「気絶させた! こっちは任せろ!!」


 驚愕するガリラッタを放って彼女を追う。今は銃も持っているんだ。彼女がどんな武器を持っているかは分からないけど、追い詰めればきっとどうにかなるはず。幸い痛みは熱さで半分が埋め尽くされているから体も動きそうだ。

 とにかく助かる為に全力で走り続ける彼女を追い続けた。


 ――仮に逃したとしても、顔くらいは見ないと!!


 今のユウに出来る事はどれだけみんなへの負担を減らせるかだ。ここで捕まえられればそれでいいのだけど、仮に逃す結果があるのなら素顔くらいは見ないと調査が難航するはず。だからこそユウは彼女の足に狙いを定めた。


「危なっ!? ったく、容赦なしなのね!!」


「逃げるなっての!」


 逃げる動作を極限まで最小限に留める彼女に対し、ユウは似たような事が出来ても既に銃で撃たれて限界寸前。……いや、疲労と言う意味でなら既に限界は通り越している。

 だからこそたまにもたつきながらも彼女を追い続けた。


 すると彼女はリコリス達とは反対方向まで逃げるとさっきのユウみたく硝子の前で急停止しこっちを向いた。だからユウは拳銃を構えて今度は彼女の胴体に弾丸を放とうとする。しかし両手をローブの中に入れた彼女は何かを取出し全力で前に投げ出した。

 それはいくつかのC-4爆弾であって。


「っ!?」


「ジ・エンド!」


 そうして彼女は姿勢を低くすると手に持った起爆ボタンを押して設定したC-4だけを爆破して見せる。危険には察知しやすい性格だからか、幸いながら死なない事には成功する。でも代償は左腕と左半身の更に半分を骨折し火傷を負いながらも回避した。

 普通なら動けなくて当然の傷。だからこそユウは寝転がりながらも爆煙の中で拳銃を乱射した。うっすらと見える誰かの影を頼りに。


「ぐっ!」


 ――当たってる。これなら……!


 ガリラッタからもらった予備のマガジンも全て使い切る勢いで撃ち続ける。恐らく三発は当たっているから行動制限が掛かってる。血の跡を辿って行けばきっと見つかるはずだ。

 瞬間、殺意の視線を感じて咄嗟に動く。


「こんのッ!」


「っ!?」


 するとナイフを構えた彼女が仮面のない状態で迫って来た。同じ黒目黒髪の容姿を見れたのはいいけど、横に回転すると頭があった所にナイフが突き刺さって殺意を表す。続けて振り下ろされたナイフは右手に突き刺せながらも抑えた。

 このままじゃマズイ。そうは言ってもどうにもできない訳で、リコリスの反対側だからこそガリラッタは狙撃銃で射線を通すと指示を出した。


「――ユウ、顔を上げさせろ!」


「……! らぁッ!!」


 そう言われた直後から頭突きをかまして彼女を少しでものけぞらせる。するとガリラッタの放った弾丸は彼女の胸を貫いた。

 腕や足ならともあれ、胸を撃たれた彼女は目を皿にしながらも背後に倒れ込む。それも血を流しながら。


「とりあえず、これでもう一先ずだ」


「じゃあ次の一先ずまでどれまで掛かるかな?」


「そうだな。とにかくなるべく短くが良いけ――――」


 殺意。それを感じ取って即座に前転と同時に蹴り上げた。

 ガリラッタでもない。テスでもない。他の誰かの男の声。だからこそ顎を蹴り上げると相手は上を向き、その隙を突いてリコリスが途轍もない威力で顔面を殴った。それも地面にめり込むくらい。

 だからユウを抱えて滑りながら距離を開けると思いっきり睨み付ける。


「り、リコリス? 魔術師は……」


「あいつよ」


「え?」


「微かでも気を逸らした瞬間に移動したの。どうやったのかは知らないけどね」


 確かに殺意は突如真後ろに現れた。それも瞬間移動でもされたかのように。本当にそうならリコリスが焦る理由も分かるけど、そんなのあり得るのか。

 けれど考える隙なんて無く右手に炎を纏わせるとリコリス目掛けて解き放った。だからユウを床に叩きつけるとギリギリの距離で回避する。


 ――魔術師相手じゃ分が悪いって言ってた。何か手は。何か……!


 銃弾は全て撃ち出した。背後に出現させる炎は狙撃をさせない為だろう。銃声が鳴り響いてるのに奴は銃弾に撃たれなかった。炎と同じ赤目赤髪の彼はメラメラと燃える様な視線でリコリスを見つめる。


 ――これなら、もしかして。


 その瞬間に爆煙が立ち込めて周囲の確認が出来なくなる。こうなると下手に動けばリコリスにも撃たれかねないから寝転んだままソレを掴んだ。

 炎と銃声、そして足音だけが響く中でこの状況を覆せる一手の用意をした。完全に爆煙に紛れる事が出来るのなら、きっと可能性はある。


 しかしその時に窓が割れて周囲の爆煙は一気に外へ流れ出て行った。だからこそユウは乱暴にソレを周囲にばらまくと最後に掴んだ物を持って割れたガラスまで移動する。やがて爆煙が全て外に流れるとリコリスはユウの狙いに気づいて自ら外に身を投げ出す。――それも、手にはガリラッタと繋がった無線機を持ちながら。


「ふんっ。仲間を見捨てるとは最低だな」


「そうだな。狙い通りに動いてくれるって最高だよ」


「ほう?」


 ようやく彼と対面する。リコリス程ではないけど、赤の瞳がユウを見つめると両手に炎を纏わせた。今の所奴にとってはユウが囮になっていると見えるはずだ。それが即座に思いついたユウの作戦。


「所詮貴様は囮だろう。土壇場にしては良い作戦だが、全体的に見るなら愚策もいい所だ」


「お前、結構策士なタイプだろ」


「ああ。この作戦を仕立て上げたのは私だからな」


「なるほど」


 となれば殺すのはもったいないけど、やらなきゃユウが殺されるだけ。だからこそ微塵も躊躇せずに殺す覚悟を決めると奴の瞳を見つめる。

 殺害対象が囮。それ程なまでに楽で警戒しなければいけない作戦はないだろう。つまり一秒でも隙を見せればユウは即座に燃えカスになるって事だ。故に重心を後ろに向けながらも問いかけた。


「俺がお前を殺すって言ったらどう思う?」


「何とも思わん。貴様には殺す手段がないし、殺す覚悟もないだろう。精々神に祈るんだな」


「そっか、なら残念だったな。俺は神に祈った事なんて一度も無い。この世界の神なんてもう一度も信じない。そして――――」


 カミサマに騙さなければきっとこんな苦しみを受ける事なんて無かった。だからこそ一方的に恨みを募らせながらもそう言う。本音を言うなら神なんてクソくらえだ。

 そしてユウは右手に握った起爆ボタンを見せると空中に身を投げ出しながらも告げた。

 今までの様な瞳じゃなく、一切の慈悲もない、人殺しの眼で。


「――俺は人を殺すのはこれが初めてじゃない」


「っ!?」


 瞬間、彼はようやく背後に投げ捨てられたC-4に気づいて咄嗟に振り向く。でももう遅い。起爆ボタンは全てのチャンネルに接続してあるのだから、後はボタンを押すだけで全ての爆弾が起爆する。

 だからこそ全力でボタンを押すとさっきまでユウが立っていた所には大量の爆炎が放たれる。そして、自由落下をしていたユウを受け止めたのはリコリスで。


「……全くもう、馬鹿な事するね」


 呆れたような声でそう言われたのであった。

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