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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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172  『手掛かりの一つ』

「そう言えば、ここに来るのは久しぶりな気がするな……」


「最後に会ったのは防衛作戦前だっけ? そんなに期間空いてないきがするけど」


「色々あったから。まぁ、色々と」


 機械生命体の村へ続く道を行く中でリコリスとそんな会話をする。と言っても道らしき道はなくただ通れそうな所を通っているだけなのだけど。

 リコリスとこうして二人っきりになって歩くのも久しぶりな気がする。最近はみんなと一緒に行動する事が多かったし。とは言っても、最後に二人で歩いたのはミーシャと出会う時だからそこまで時間は経っていないのだけど。


 ちなみに今は意図的にではあれど機械生命体のソナー機能は外していある。プレミアがいる事は分かっているし、変に警報が鳴っても反射で攻撃してしまいそうだからだ。その時点でどれだけ自分が機械生命体に恨みを持っているのかを自覚出来る。あの時は有無も言わさずにプレミアを“殺そう”としたっけ。


 森の最深部辺りまで歩いて行くと見知った光景が目に入り、いよいよ機械生命体の村へ入れるんだと悟った。……でも、どうしてだろうか。味方だと分かっているのに自然と手がうずく。『機械生命体がいる』という言葉だけで、右手が腰に下げた剣に伸びそうになり、意識は背負っている双鶴のエンジンを付けそうになる。

 だから震える右手を左手で抑えた。するとリコリスも手を添えてくれて。


「大丈夫だよ」


「……うん。ありがとう。まだ潜在意識的な所で抵抗感があるのかな」


「仕方ないよ。だって相手はいくら敵意がないと言っても、見た目は機械生命体なんだから」


「――――」


 味方だと分かっている。ユウ達には危害を加えない優しい機械たちだと言う事も分かっている。それなのに一度刻み込まれたあの光景が消えてくれない。機械生命体に食われ死んでいく試験小隊のみんなの顔や絶叫が、脳裏から離れてくれない。

 それこそがこの世界の絶望なのだ。忘れたくても忘れられない恐怖。動きたくても動けない無力感。叫びたくても声を出せない絶望感。


「大丈夫。私がいるから」


 正直、男として女の子に安心させられるのって些かダメなのだと思うけど、今ばっかりはリコリスの優しさに甘えて頷いた。

 心の奥底に刻まれた恐怖や絶望は消えていかない。だからこそ、それをどうにかする為にもユウは踏み出した。機械生命体が集う村へと。


「……プレミア。いるかな」


「はいはい! って、リコリスさんにユウさん!? どうしたんですか!?」


「いきなりごめんね。ちょっとだけ聞きたい事があって」


 リコリスの言葉に他の機械生命体達が反応するとプレミアが古ぼけた家の中から飛び出して来て、二人を見るなり心から驚愕した。まぁユウ達は本来ここに来ていい存在ではないし、当然の反応ともいえるだろうか。

 やがてユウは無意識に警戒しながらも問いかけた。


「俺達【失われた言葉(ロストワード)】ってやつを探してるんだけど、プレミアなら何かしらの情報は掴んでるんじゃないかって思ってさ」


「【失われた言葉】ですか……」


 するとプレミアは少し考え込む様な素振りを見せて俯く。

 プレミアは機械生命体のネットワークに接続できる上、この街の中では唯一友好的な機械生命体だ。恐らく先の奇襲掃討作戦もプレミアの情報あってこそだろうし、情報関連で大きな影響を与えている事だけは確かなはずだ。まぁ、情報を開示する優先順位があったら元も子もないのだけど。

 しかしそれは杞憂の様で、プレミアはその事について話してくれた。


「確かに、データベースにその情報がありましたね。微かですけど、名前以外にも何かあったような……」


「本当か!? ならその情報を教えてくれないか!?」


「だっ、大丈夫ですけどあまり強くされると頭が……!!」


「あ、そっか。ごめん」


 それを聞いて反射的にプレミアの肩を揺らすのだけど、また頭がすっぽ抜けても困るし何とか踏みとどまる。今回は他の機械生命体も見ているのだし弁明は出来ないだろう。

 やがて少しだけ間を開けるとプレミアは言うのだけど、それはユウ達の望むような状況ではなくて。


「少し待っていて下さいね。今ネットワークから情報を抜き取って来るので」


「え、既にあるんじゃないの?」


「すいません。その【失われた言葉】と言うのはたった今初めて聞いたばかりで、言葉そのものはただ見ただけでして……」


「早とちりしちゃったね~」


「こっち見ないで」


 さり気なくリコリスに煽られながらも雑に返す。

 しかし機械生命体の情報はほぼ全て抜き取っているんだと思い込んでいるから少しばかり面を食らう。毎回命懸けで取って来ているのだから情報量は少なくても仕方ない気もするが。

 早速ハッキングに移ろうとするプレミアに対してユウは咄嗟に問いかけた。


「っていうか、今からハッキングするの? それって大丈夫?」


「任せて下さい。私の技術はプロ以上ですから! これでも高性能AIみたいな物なんですよ! えぇと、十分くらいお待ちくださいね」


「「――――」」


 心配をかけない為か、プレミアはそう言って自慢げにコブを作るポーズをして見せる。けれど不安な物は不安な訳で、ユウとリコリスはハッキングの為に移動し始めるプレミアを見つめた。何度もハッキングしているのなら向こうだってある程度の対策は施すはず。それをプレミアは潜り抜けられるのだろうか。

 そんな不安を抱えつつもプレミアが戻ってくるまでの十分を過ごす事になった。

 と言っても、それすらも杞憂である様だったが。



 ――――――――――



「お待たせしました~!」


「うお、早っ」


 十分後。

 プレミアは無事に生還すると大きな木の下で寄りかかっていた二人に駆け寄り、ユウは本当にやってのけたんだと知って驚愕した。リコリスも無理だと思っていたのだろうか。プレミアがやり遂げた事に少しばかりびっくりしている様だった。


「大丈夫だったの?」


「はい。ログも全て消してシステム状況も細部まで確認したのでウィルスもなしです!」


「さらっと凄いな……」


 さり気なく恐ろしい事を口走るプレミアにやや引き気味の反応をしつつも話を聞いた。どうやら今回に限って何か忙しそうだったらしく、プレミアはその隙に【失われた言葉】の情報もそうだけど他の物も引き抜いて来たらしい。凄い事をしている片手間に別の物も抜き取って来るとは、もしかしたら予想以上に凄い技術を身に着けているのかも知れない。

 まぁ、バレたらハッキングで完膚なきまでに破壊されるだろうからそんな技術が身に着くのは当たり前な気もするが。


 やがてプレミアはユウ達の《A.F.F》に接続してウィンドウを開くとネットワークで見つけた情報を見せてくれる。しかし勝手にウィンドウを開かれるって事は、既にユウとリコリスの《A.F.F》にもハッキングしているのだろう。考えただけでも恐ろしい事だけど。

 そこにはこう書いてあった。『【失われた言葉(ロストワード)】調査記録』と。


「調査記録!? 機械生命体が!?」


「この様子を見ると向こう側も何かしらの探りを入れてる可能性が高いね。これだけ見ると正規軍とかじゃなくて機械生命体を叩いた方が速いか……」


 ユウが驚愕する中、隣でいくつかのファイルを開きながらもリコリスがそう言う。しかしそれが本当ならかなりマズイ。ユウ達が手に入れられる情報の全ては【失われた言葉】は文字通り失われている。だから誰も真実を知らないしどんな物かすらも分からない。

 現状でそうなっている最大の理由は移動範囲が制限されていると言うところにある。外の世界に機械生命体や感染者がいるからこそ下手に外へ出られないのだ。


 しかし機械生命体は圧倒的な数で世界中に跋扈している。前にプレミアが言っていたアドミンとやらが指揮をすれば一点に奴らを集める事もかのだろう。それこそが人類との最大の違い。その上、奴らは固有のネットワークを形成している。世界中から情報を集めるなんて――――。

 まるで、この世界を変えようとしているみたいだ。


 調査記録には様々な事が書いてあった。【失われた言葉】は碑石の様な形であったが粉々になった説や、どこかの一族が代々語り継いでいる説や、その他にもいくつかの説が提唱されている。それらは必ず根拠として色んな資料が上げられ、実際にその資料を見ると納得してしまうような内容であった。でも、そのどれもがリコリスの言っていた条件とは噛み合わない。


 ――リコリスは前に世界の真実を書き残した本だって言ってた。でもこの記録にはそれらしき文章が載ってない。つまり、手掛かりとしての意味合いならリコリスが一番真実に近しい存在になるはず。


 手掛かりとしての意味合いならリコリスが。行動力や探索範囲としての意味合いなら機械生命体が真実に近い。だからその二つが手を取り合った時、きっと【失われた言葉】は見つかるだろう。

 しかしその方法はどうする。全ての機械生命体がプレミアみたいな訳じゃないし、アドミンがプレミアを最優先破壊対象として認識している辺り協力関係を結ぶのも難しいだろう。電子空間に乗り込むにしてもプレミアが毎回体を張っている所を見るに警備も厳重。バレたらハッキング仕返されて終わりだ。

 ここからどう動く。それをずっと悩んでいた。


「なぁプレミア。その機械生命体のネットワーク、俺達でも入れると思うか?」


「控えめに言っても無理と言わざるを得ないですね……。アドミンは言い換えれば電子空間の王国。そこに異邦人が踏み入れるとは到底思えないです」


「やっぱりか……」


 プレミアはリベレーターのネットワークに接続しているんじゃなく、まず最初にユウ達の《A.F.F》にハッキングをしているはずだ。つまり――――。

 その時にユウの身体が止まってリコリスが反応する。

 そうだ。そうだよ。どうして今までその考えが浮かばなかったのか。


「ユウ、どしたの? ゆ――――」


「そう言う事か!」


「うおっ」


 ガタッと立ち上がるとリコリスは軽く態勢を崩した。けれどそんな些細な事に構ってられる余裕はなく、ユウは両手をグッと掴むと思い切ってリコリスに提案した。恐らくこれなら【失われた言葉】の問題を解決できるかもしれない事を。

 でも、現実はそう甘くはなくて。


「俺達がネットワークを使えないのなら、使える奴に乗り込んでそこから接続すれば……!」


「あ~、それ原理的には可能だけど現実的には不可能なんだよね」


「そうなん……え、今なんて?」


「不可能です」


 するとリコリスは軽くチョップをかまして額を叩く。だからこの手なら行けるかも知れないと思った希望が一瞬にして打ち砕かれてうなだれる。予想はしていたけど、やっぱり技術的な意味合いでも不可能なのだろう。そこら辺は正規軍の技術云々でまた事情が変わって来そうだけど。


「リベレーターにはそこまで出来る人はいないんだって。まぁそういう系のプロはいるんだけどね。機械生命体のハッキングにまでは通じないらしい」


「そっかぁ……」


 予想通りの返答で更に沈み込む。となれば残るは打てる手段を全て打ち尽くすしかないだろうか。それ自体がかなりの博打となるが。ユウだとそれ以外の案は浮かばないし、どうしたら真実に近づける物か……。

 そう考えていた時だ。リコリスが言ったのは。


「でも、そこまでの道筋なら既に出来てる」


「え?」


「――その道を辿れば、いつか必ず掴めるはずだよ」

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