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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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171  『新しい約束』

「来たよ、リコリス」


「うん」


 夜……と言っても真夜中。

 ユウはリコリスの言った通り十七小隊本部の屋上に足を運び、真意を話してくれた時みたく夜景を見つめていたリコリスの元へ向かった。今回はいつも来ている服を着ている彼女の元へ。

 ユノスカーレットに包帯でぐるぐる巻きにされた体を引きずりながらも隣まで移動すると手摺に寄りかかり、戦闘で疲労が溜まっていたのもあり体重をかけた。


「ず、随分とぐるぐる巻きにされたね……」


「君は無茶し過ぎだよって怒られながら巻かれた。まぁ休暇を貰った直後にこれじゃあそうなっても当然なんだけど」


 腕と脚はもちろん頭も巻かれ、更には胸とかにも巻かれている。圧迫感が凄いけどこれで我慢しろと言われたので我慢しているのが現状と言った所だろうか。

 しかし彼女の言う事も分からなくない。何かある度にボロボロになるのがユウだし、パターン化されてたりするのも否めないから当然の結果だ。ユノスカーレットって意外と心配性だったりするし。……と言ってもただユウが暴れすぎなだけかも知れないけど。


 ユウの言葉に軽く噴き出すとリコリスは口元に手を当てて小さく笑った。その様子から少しは調子も戻った様で安心する。彼女自身は自覚してないかも知れないけど、リコリスは何かを隠す時は態度というか、オーラに変化が現れるから少しばかり分かりやすいのだ。もっとも、その“感情の気配”を感じ取れなければ不可能な話だろうけど。

 上半身を起こしてリコリスを見つめると早速本題へと入った。


「……それで、話したい事って?」


「うん、ちょっとだけ話したい事……っていうか、確認したい事があってさ。――転生者であるユウにしか話せない事だから」


「――――」


 転生者であるユウにしか話せない。そう聞いて黙り込んだ。多分、ユウが思っている以上に重大な話だろうから。しかしユウ関連であるのならまず最初にベルファークへ話をしそうな物だけど、そこら辺はどうなっているのだろう。彼なら話すだけでこの先の事を見通せるだろうし。

 と思ったのだけど、リコリスは問いかける暇すらも与えず喋り始めた。それも一番最初から言葉が詰まってしまう事を。


「ユウ、前にこの世界にいた様なって言ってたよね」


「確かに言ったけど……」


「――それって、未来を見たって後付にならない?」


 そう言われて眼を皿にした。今まで考えもしなかった可能性を指摘され、それが今までの現象と当てはめれば理解出来る事もあるのだから。

 今まで見てきたノイズの正体。その原理その物は判明しなくとも映像の意味が分かればある程度の推測は可能だ。そこから導き出される結論から動き出せることだってあるはずだし、ご都合主義ってくらいに明日からは時間が大量にある。色々と思考錯誤は出来るだろう。


「偏に未来って言っても、どの時間軸に当てはまるのかは分からない。でももし仮に世界が大きな変化を遂げない時間軸の物だとするなら、可能性はある」


「言われてみれば……。観測者側なのによくそんな事を……」


「これでも洞察力は高いつもりでいるんだよ」


 確かにこれはユウにしか話せない事と言えるだろうか。実際この事を話しているのはリコリスしかいない訳だし、今までは周囲のインパクトがデカすぎて対して気にしていなかった。これを機にノイズを気にしてみるのも何かしらの手段になるかも知れない。

 それに、未来を観測できるからこその利点も存在する訳で。


「その背景から情報を抜き取れれば何かしらの憶測が立つ。そこから状況を見れれば……。この事はまだ指揮官にも話してないけど、本当にその通りなら話すつもり。だからユウ、教えてくれないかな。君がどうしてあの時にああ言ったのか。何を見たのかを」


「――――」


 リコリスの言う通り未来を観測するという事実はこの世界において最大手とも成り得る一手だ。大げさにな例えになるけど『強くてニューゲーム』状態にも近しい事になる訳だし。ただ重大なのがどの時間軸になるのかって言うのとノイズがある事で、ユウは少し俯くとその事を継げた。


「それが……流れ込んで来る記憶にはノイズが混ざってるんだ。それもかなり複雑で多くのノイズが。俺が分かるのは微かな事でしかない。だから、それを前提として聞いて」


「分かった」


 それからユウのリコリスへ今まで見たノイズ交じりの記憶を全て伝えた。その全てにおいて不鮮明かつ途切れ途切れの記憶でしかなかったのだけど。彼女には魔眼があるがからある程度の判断は付くはず。そんな他力本願を元にユウも考えながら話し続けた。


 しかし思えば思う程おかしな話だ。どうしてユウが。何でユウだけがこんな記憶を与えられなければいけないのか。張本人は恐らく……というか百%カミサマだろうけど、それはそれで矛盾が生じて来る。

 だってあの時奴は「私が予測し私が望む結末なんていらない」と言っていた。それなのにユウへ未来を知らせるような事をするだろうか。だとしたら何故未来を観測させる? それをさせる事によって奴にどんな利益が生まれる? もしかしたら戒めなのかも知れない。けれどその理由を考えずにはいられなかった。


 ユウがこの世界で特別扱いをされているのは確実……なはずだ。カミサマにとってユウはこの世界で一番観測しがいのある存在であるはずだし。その他諸々の理由を含めたって今すぐ殺そうとは思えないだろう。希望を持って行っている事でも、奴からしてみれば掌で踊っているに過ぎないのだ。

 皮肉な話だよ。本当に。


「……って言うのが、今まで見て来た記憶の全て」


「なるほど。確かに情報と呼ぶにはあまりにも欠けてるね」


「ごめん。もう少し有意義な記憶があればよかったんだけど……」


「ユウが謝る事じゃないよ。それに、欠片でも手掛かりが掴めた事には変わりない。後は指揮官に報告すれば何とかしてくれるって!」


 リコリスもそう言ってさり気なく他力本願を発動しながらも励ましてくれる。まぁ先々を見通しているのはベルファークくらいしかいないし、未来を予測するのなら彼に頼るしかないのだろう。実際先々を見通していた訳だし。

 何度か頭をポンポンとされると彼女は言った。


「でも、どうして未来なんかを観測してるんだろうね。何か伝えたい事でもあるのかな」


「分からない。記憶と一緒に入り込む感情はいつも怒るか悲しんでる。それが俺に何を伝えたいかなんて分からない。ただ一つ言える事は――――」


 記憶の中の自分はいつも誰かの為に奔走している。そしてその度に誰も救えないと嘆き、手を伸ばし、口の中を血で汚しながらも叫んでいた。もしそれが未来の自分だというのなら――――。

 その先はあまり考えたくなくて思考を無理やりにでも断ち切る。

 だからその代わりに言葉の続きを話した。


「後悔するなよって事だと思う」


「後悔、か」


 ガリラッタも言っていた。「この世界に後悔しない奴はいない」って。まさしくその通りだ。自分と言う存在がこの世界に存在している限り絶望は絶え間なく降り注ぐ。その中で後悔しない人なんて誰もいないだろう。

 ネシアが死んだ。それはユウに果てしない後悔を募らせた。

 きっと彼女がいたらどれだけ楽にいられただろうか。


 世界の支配構造でもある絶望。それは今も未来も変わらないのだろう。絶望の名の下に誰もが等しく裁かれる。なら、ユウはもう二度と後悔なんてしたくない。仲間を失うのは嫌だから。……心が傷つくのは、もう嫌だから。

 流れ込む記憶はその為の布石なのだろう。と言っても、どうしてそんな物が流れ込んで来るのかなんて分からないのだけど。


「ユウはさ、この世界の事、本当に変えられると思う?」


「……分からない。もしかしたら何も出来ずに死ぬかもしれない。でも、そうだとしても、この世界には負けたくない。【失われた言葉】を見付ける日まで。あいつを殺す、その日まで」


「――――」


 ふと問いかけられた言葉にそう返す。未来が観測出来たからと言ってその未来を捻じ曲げる事なんて出来ないかもしれないし、全てが徒労に終わってしまうかも知れないのだ。確実に変えられる事なんてほぼないだろう。

 しかしそんな運命が待っているとしても諦めたくなんてない。この世界の真実を知りたいから。カミサマをぶち殺さなければ気が済まないから。


 結局今回の作戦でそれらしい情報を手に入れる事は出来なかった。まぁ忙しすぎたって言うのもあるのだけど。

 でも、そこら辺は改めてノアに聞いたら何かしら分かる事があるかも知れない。


 彼女に何かを聞いてみるって言うのもいいと思うのだけど、その時にユウはある事を思い出してパッと顔を上げた。今まで色んなことがあったから忘れていたけどいたじゃないか。ユウ達よりも遥かに膨大な情報を持ってそうな人達が。

 その件もあってユウはリコリスへ提案した。

 けれどその事は既に知っている様で。


「そうだ。リコリス、明日一緒に行ってみたい所が――――」


「プレミアの所でしょ」


「そうそう。プレミアなら何か知って……るかも……?」


 え、今プレミアって言ったのか。リコリスが? 何故それを知っている? それ系の言葉が脳裏で渦を巻いては次第に混乱していく。だってリコリスはまだプレミアの事を知らないはずだ。プレミアは森の奥に入らないと出会えないし、基本的にあんなところには近づかない。それこそユウとテスみたいな状況でない限り。


「えええぇぇぇぇっ!? プレミア知ってんの!?」


「知ってる。彼にはちょいちょいお世話になってるからね」


「い、以外……。だからあんなに対応が丁寧だったのか……」


「その様子だと既によろしくされたみたいだね」


 リコリスはユウの反応を見るとどんな仲なのかを知って微笑んだ。しかしプレミアは機械生命体で本来は相容れぬ敵同士なはずだ。まぁリザリーとかプレミアとかと和解したユウが言える事ではないのだけど……。リコリスだって機械生命体にはそれなりの恨みを持っていておかしくない。それなのに既に打ち明けているだなんて。

 すると彼女は言った。


「でも、いいかも知れない。プレミアに聞いてみるのも」


「え?」


「明日辺りにでも行ってみよっか。真実を確かめに」


「……! 分かった!」


 またもや話が急展開を迎える予感。そんな感覚を抱きつつもリコリスの言葉に頷いた。と言っても、その急展開ってのは少しばかり嫌な予感がする物なのだけど。

 これも第六感って奴だろうか。

 と、向こうが聞きたい事はあらかた終わった所で次はこっちの番だ。明かしたい謎、それは大きくあるのだから。それを確かめる為に問いかけた。


「ところでリコリス」


「なに?」


「――あの戦いで真意を使ってなかったか?」


「っ……!」


 するとリコリスは軽く反応して表情を一変させる。だからその反応に何かを確信して更に問いかけた。確実にリコリスは何かを知ってるんだって。


「あの時、俺の真意以外にも紅色の花弁が見えたんだ。それが何なのかは分からなかったし炎に紛れてたから確証はなかったけど……どうやら当たりみたいだな」


 きっとあのまま誤魔化せると思っていたのだろう。魔術の時も言わなかった所を見てユウしか見てないだろうし、隠し通したかった物のはず。別に無理に吐かせるだなんてつもりは微塵もないけど、気になる謎だから知っておきたいのだ。

 リコリスは少しだけ間を開けると問いかけた。


「答えたくないのなら答えなくてもいい。――リコリスは真意を使えて、それを隠してたのか? その理由は?」


「…………」


 前は姉から話を聞いたと説明されて納得したけど、自身も使えるのならもっと納得できる。だって真意の感覚はユウの中で彼女が一番詳しいって事になるのだから。

 少しばかりの静寂が二人の間に割り込む。だからユウは息を呑んだ。

 リコリスは一向に喋ろうとしない。その姿に不信感を覚える。しかし答えない気はないみたいで、軽く噴き出してはお腹に手を当てると素直に白状した。


「なんだ、もうバレてたんだ」


「え?」


「一応、こればっかりは隠しておきたかったんだけどね……。うん。君の言う通り、私は自分の真意を隠してた。ちなみにこれは誰にも言うつもりはない。君だから言うんだよ」


「――――」


 彼女の様子に眉をひそめる。姿や中身は何も変わっていないのだ。それなのにリコリスの中の何かが不信感を募らせる。

 その理由は明確であった。


「少し話が逸れるけどリコリスってさ、たまに俺の事を『君』って呼ぶよな」


「うん。呼ぶよ?」


「その時、本当に俺に向かって君って言ってるのか? 言葉だけ聞くと俺に向けて言ってるっていうのは分かってる。でも君って呼ぶ時、リコリスの眼は必ず俺や俺以外の何かを見てない。別の何処かを見てるんだ。本当に、俺の事を言ってるのか?」


 リコリスは普段ならユウの事を『ユウ』と名前で呼んでくれるけど、たまに『君』と呼んでくるときがある。しかしその時のリコリスの眼は必ずと言っていい程ユウではない誰かを見ている。果たしてそれは誰なのか――――。

 そう思っているとリコリスは二つの質問に同時に答えた。


「……一つ目の回答は『怖かったから』。私の魔術と真意を混ぜればノア並に強くなる。その強さを見せて化け物って思われるのが怖かったんだ」


「え?」


「二つ目は……よく分からない。ただ、何となくそうなるだけなの。ユウの影に、あの人の影が重なるだけで……」


 半分が答えでもう半分が答えではない回答。普通ならかなり無理やりな納得の仕方をしなければ納得しないだろう。それでもユウはそれがリコリスの答えなんだと信じてその答えを呑み込んだ。

 すると彼女は驚愕して。


「……分かった。その答えを信じる」


「信じちゃうんだ?」


「うん。その答えが、俺の納得できるものなんだって信じてるから」


 真意を教えたくなかった理由だって考えれば分かる。リコリスがノアに攻撃した時、ユウにああいった理由も。普通の人間が普通じゃない人間を見る時、きっと恐怖するだろうから。――それこそ希望を抱き過ぎるリコリスを見たユウみたいに。

 そう言うとリコリスは軽く噴き出して。


「全くどうして、ユウはそんなにも簡単に人を信じちゃうのか……」


「リコリスだから信じるんだよ」


「そーですか」


 今さっき自分が言った言葉を返されて微笑む。どうやら馬鹿みたいに優しいのは自分だけではないと自覚した様子。

 あっさり終わってしまった質疑応答だったけど、今はこれでもいい。そう決めつけて自分を納得させた。それに隠したい事を無理やり聞くのは嫌だし。リコリスも聞かれないのを良い事に黙り込んで情報を伏せ続けた。

 でも今はこれでいい。今は。

 しばらくそうやって考えているとリコリスはふと喋り始め、手摺を掴んで身を乗り出した。


「……ユウはさ、どんな絶望にも立ち向かう覚悟って、ある?」


「もちろん」


「即答ですか」


 そんなの聞くまでもない。絶望に抗うなんて事は、ずっと前から決めていた事なのだから。だから即座に答えるとリコリスは何かを確信した。それが自分と同類って事なのか別の意味を悟ったのか、ユウには何も分からない。

 ただ一つ、何かしらの覚悟が生まれた事だけは理解出来て。


「この世界はまだ私達の知らない事で満ちてる。だからこそ私は、この世界に眠る真実を解き明かしたい」


「リコリス……?」


「その為の一歩を、一緒に踏み出そう」


「……!!」


 優しく微笑んだ顔を見て確信する。

 だからこそ、ユウは言わなきゃいけなかった。


「もちろん。一緒に、抗おう」


 夜景を前に今一度決めた決意。恐らく途轍もなく脆く柔い物だろう。それでも、未来を夢見るにはそれだけで十分だった。

 だって、それこそが二人の新しい約束でもあったのだから。

色々訳あって挿絵を削除しました。新しいのが描け次第乗せて行こうかと思ってます。それがいつになるかは分かりませんけどね!

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