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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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166  『それからとこれから』

 ▼『ノア・ドミネーター奇襲掃討作戦:報告書』より。(簡略版)


 兵力の約四割半が犠牲となった今回の作戦『ノア・ドミネーター奇襲掃討作戦』は、一人の兵士の指示を元に複数の兵士が敵の指揮官を捕縛する、という形で幕を閉じた。幸いと言っていいのか否か、その後に起きた天災での死傷者は数百人程。結果だけを見れば此度の戦いは人類の勝利で終わった。

 此度の作戦は主戦力となるリベレーターと護衛任務を主にされる上位レジスタンスの精鋭部隊も参加している為、比較的に見れば損害は少ないと言えるだろう。


 しかし死亡数は四桁を越え、リベレーターの最大戦力ともなる第一大隊ですらも数百人規模の犠牲者を出した。一時吸血鬼に捕縛された兵士は何かしらの術式によって昏睡状態に陥っており、魔術に耐性があると思われる兵士は平気だったものの、重傷者も含め身動きが取れない兵士の総数は三千を超えた。


 これにより先刻にて実行した『ナタシア市侵略防衛作戦』の犠牲もあり、少なからずリベレーターとレジスタンスは多大な損害を受ける事となった。

 慢性的な金銭・復興問題もさる事ながら、今後は兵力の見直しや動員数も視野に入れなければならないだろう。


 捕縛された敵指揮官であるノア・リスカノールは敵意がない事も確認され、唯一彼女を止める・触れ合える事が出来た部隊として十七小隊の監視下にてユノスカーレットがドクターを務めるナタシア総合医療施設に“監禁”される事となった。彼女から採取されるデータは今後の発展に大きな進歩をもたらすと期待されている。


 吸血鬼は魔術適正度が高いのもさることながら特有の再生能力も持ち合わせている為、そのデータが取れれば負傷した兵士の回復にも繋がるので多大な恩恵を受けられるのだとか。しかし十七小隊やユノスカーレットの意志もあり、過酷な人体実験は行われる事はなくなった。


 だが、それと同時に生きていると吸血鬼側に伝えられれば奴らは再び攻めて来る事になるだろう。今回はその対策としてこっちから奇襲を仕掛けた訳だが、向こう側に知れ渡っているのなら奇襲されるのはこっちの番となる。

 警戒は依然抜けない。恩恵もそうだが、ノア・リスカノールは祝福と共に呪いも連れて来たのだ。


 その点も含めてリベレーターの各部門での会議が行われている。大暴れするより早く殺した方がいいだとか、敵意がないのなら奴の力を利用するべきだとか。ノア・リスカノールの存在は治安保持専門のリベラル派と“例の兵士”も所属している調査・戦闘専門の保守派にて争いが続いている。

 結果はどうであれ、最終的には保守派が勝つと予測されている様子。


 作戦成功によって街の平和は一時的にも保たれ、ノア・リスカノールを捕縛した計十人の兵士には勲章を授与された。最後に起きた天災により犠牲となった、もう一人にも。



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 とある墓の前。

 アリサはこの世界の言葉で「ネシア・ルーレット」と刻まれた墓標の前に座り込み、手を合わせて語りかけていた。その姿を付き添いとして来たユウはじっと見つめる。


「終わったわよ、ネシア。これでアンタのお役も御免ね。……ノアを捕まえた功績で勲章が授与されたの。興味ないと思うけど、一応かけときなさい」


 そう言いながらもネシアの分の勲章を墓石の前に置く。ついでに彼女の好物であるらしいショートケーキも追加しながら。

 ……あれからネシアの遺体はこの墓地に埋められ、遺品などは家族とかも既に他界しているため一時的にアリサが預かる事となった。だからアリサの装いはリニューアルされ、今までは普通のパーカーであったけど、ネシアの着ていた黒地に朱色のラインが描かれたパーカーを羽織っている為、以前の様な学生感はなくなり軍人っぽさが若干上がった。

 ちなみに彼女の付けていたヘアピンも付けている。


 向こうの世界ではこういうのって葬式を上げる物なのだけど、この世界は戦争が起れば一度に多くの人が死ぬ。だから葬式をやる暇なんてないとの事で、関係者のみを集め別れの言葉や最期の挨拶を済ませるだけで終わってしまった。最も、その関係者と言うのは今回一緒に戦闘をした人のみなのだけど。

 やがてアリサは用が済んだ様で、何とか喋り切ると立ち上がってはこっちを向いて申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさいね。ノアやミーシャとの面会もあるのに、付き添いに巻き込んじゃって。その、一人じゃ少し不安だったから」


「別にいいよ。二人にはリコリスやみんながいるし、後で会いに行けばいい。巻き込まれる事にもなれてるしね。それに、アリサが初めて素直になったんだから」


「……そうね。私が素直になるのなんて珍しいんだから感謝しなさい」


「あ、それ知ってる。確かツンデレってやつで――――ぐーぱん!?」


 アリサが本調子に戻っている事を確認しつつもそう軽口を叩くのだけど、流石にそれ系のボケは見過ごせない様で、軽く言った直後から拳が飛んで来て膝から倒れ込む。何というか、素直なアリサも新鮮だけどやっぱりこういうツンツンしてる態度のアリサが一番って言うか……。

 そんな「慣れは怖い」と認識せざるを得ない事を考えているとアリサの言葉を聞いた。


「自分でもツンデレっぽいって認識してるのが嫌な所だけど……まぁ、間違ってないと思うわよ」


「じゃあ何で殴る必要があるんですか!?」


「そう認識してるのが嫌だからよ」


 しかし偏にツンデレと言ってもラノベとかにありがちな王道ツンデレではなく、クール系なツンデレだろう。対象もゼロ人から十七小隊全員に変更されているし、元々依存していたネシアの影響とは言え凄い変化だ。精神面での成長……と言えるだろうか。

 そう思ったのだけど、どうやらアリサが自らユウを指名したのにはそれ相応の理由があるらしくて。


「アンタに声をかけたのは、アンタがあまりにもアイツに似てたから。まるで生まれ変わったみたいに。……アンタといれば、寂しくないって思った」


「――――」


 素直になり過ぎて逆に怖い。だって今まで寂しいとか言った事なんて一度もないし、自分から誰かを求める事なんてもってのほかだったのだから。でもまぁ、それ程信頼してるって裏返しになるのなら、それもまた一興と言った所だろうか。

 落ち込んでると思って物凄く心配してたけど、どうやら大丈夫な様子。


「大丈夫みたいでよかった」


「え?」


「……俺はネシアの代わりにはなれないと思う。でも、アリサが望むのなら、俺は好きな様に巻き込まれるよ」


「――――」


 すると今度はアリサの方が黙り込んだ。恐らくネシアにも同じ様な言葉をかけられていたのか、そう言うとは思ってなかったのか。どっちにせよ唖然としていた。

 やがて小さく噴き出すと本調子に戻して軽口を叩き合う。


「何それ、口説いてるの?」


「じゃあ口説かれてみる?」


「遠慮しとくわ。アンタにはもっと相応しい奴がいるじゃない。ほら、行くわよ」


 そんな会話をしている内にアリサは気持ちを入れ直して行ったみたいで、一度だけ俯いては前を向くと既に表情を切り替えていた。彼女はネシアの墓を後にするとユウの肩をポンポンと叩き、みんなが待っているであろうユノスカーレットの場所へと向かった。

 しかしその時にユウはふと呟いて。


「でも、せっかく勲章が授与されたのに、こんな何の変哲もない墓でよかったのか? この街じゃネシアは十分有名なのに……」


「これでいいのよ。派手過ぎるのは好まないし、何よりここは家族も眠ってる所だからね。せめて家族と一緒に眠らせる事くらいはしなきゃ、報われないわよ」


 アリサはユウの言葉にそう返して墓地を見つめた。けれどその言葉は皮肉となり自分へと跳ね返っていて、自分自身に対して「報われる事はない」と言っているような物であった。だってアリサの両親は他界してるんじゃなくアリサを捨てて逃げたのだから。

 けれどそんな事を気にさせる暇もなく、アリサはポンポンと肩を叩くと歩き始めてしまう。だから何か言い返そうと思ったのだけど、ここでそれを言うのは野暮だと感じて口を閉じる。


 そうして総合医療施設まで歩いて行く最中では行き交う人々が今回の作戦について話し合っていて、捕縛した敵指揮官の処遇をどうするのかとか、それを捕まえた小隊の人達は期待の新人だとか、そんな事が小耳に入る。

 一応、この街で一番の権利を持ってるのはベルファークだから彼が全てを決める事になるのだろうけど、彼も個人の意見を尊重して街を動かすなんて事はほぼしないはずだ。ベルファークの選択次第でノアの生死は決められる。せめてその時までは必死に頑張らなくては。


 と、今後も無茶をしそうな事を考えていると総合医療施設の前でラナが立っていて、ユウ達が帰って来るのを見るなり顔を上げて駆け寄って来る。彼女がここへ来るって事はノアに用でもあるのだろうか。そう思ったのだけど、少しばかり違った様子。


「ハロー、二人とも」


「ラナさん、どうしたんですか? ……ノアに用でも?」


「いや、違いますよ。用があるのは皆さんで、私は今ここに入る為の手続きをしてました」


 すると職員から確認が取れたと伝えられ、ユウとアリサはラナと一緒に施設の中に入って行った。しかしラナ程の高位な人になれば顔パス的なアレで通れると思ったのだけど、流石にそう言う訳にもいかないのだろうか。顔じゃなくても専用のコードくらいは持っていそうだけど。

 やがてみんなが集まっている所まで辿り着くと声をかける。


「ハロー、みさなん」


「あっ、ラナさん! どうしてここに?」


「実は皆さんに少しばかりお話がありまして」


 ロビーまで行くとあの時の戦いに参加出来なかったラディとクロストルもいて、体感的な話にはなるけど、ようやく久しぶりに十七小隊が集結していた。ついでにミーシャも含めて。だからミーシャはユウを見るなり駆け寄っては抱き着いた。

 そうしているとラナは用件を話し出す。


「みなさんはここ連日、数々の事件や騒ぎを解決してきました。それも普通の小隊なら絶対に勝てない様な敵を相手に」


「まぁ、ショッピングモールの一件とか、防衛作戦とか、ミーシャの一件とか、掃討作戦とか、色々とやって来たしな……。もっとも、その他にもユウだけは色々とあった訳だが」


「あれはエンカウントする相手のレベルが強いだけ!」


「まぁそこはいいんです。重大なのはみなさんにあまりにも負担をかけさせてしまっているという事。要するに働き過ぎなんです」


「えっと、つまり?」


 ガリラッタの言葉にユウはツッコミを入れるのだけど、それはラナに綺麗さっぱり受け流されて少しばかり面を食らう。この中じゃ圧倒的にユウの方が負担は大きいのに無視するのか……。なんて思ってる暇もなく、ラナは少しだけ間を開けるとハッキリとした声で言った。それもリコリス達にとてはとても嬉しい事を。


「休暇命令です。みなさんには約二か月半強制的に休んでもらいます」


「「えっ?」」


 その瞬間に全員の時間が止まった。きっと頭が今の言葉を理解する為にかなりの容量を使用しているのだろう。まぁ、この世界じゃ軍人に休みはない、みたいな認識だから分からなくもないけど。少し経った後にユウは両手でミーシャの耳を塞いだ。故に彼女は顔をしかめながらもこっちに振り向こうとするのだけど、その理由は直後に判明されて。


「「――よっしゃああああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」」


 と、そんな感じに全員で叫びながらも拳を突き上げる。そりゃ年中無休で街の治安を守らなければいけないし、一種の軍人であるからこそ上からの作戦命令には従わなきゃいけない。それこそ普通の小隊なら壊滅している様な任務であっても。

 だからこそ、彼らにとって“休み”の一言は“楽園”にも近しい一言になるのだ。そうは言ってもここまでの反応をされると社畜以上に酷いと再認識させられる。向こうの世界の会社がどれだけホワイトなのかが理解出来た。まぁ、向こうで働いた事なんて一度もないけど。


「休み! 休みだよ! 旅行だったりゴロゴロしたり好き放題に時間を使える!?」


「もう面倒くさい書類作業をやらずに済むんだ! これでようやく仕事から解放されるんだ!!」


「二か月半も時間がありゃアレが作れるな。それに試作段階で取って置いた武装もあるし……!」


 そんな風にしてみんなは既に二か月半の自由時間へ想いを馳せていた。それを聞いていたユウとラナ以外。二人は常日頃から銃声を間近で聞いていたから慣れてるけど、ミーシャだったらあまりの大声に耳がキーンとしてる頃だろうか。


 と、これからの予定は休日で埋め尽くされた。ただ二か月半ではあるが。

 これで長かったリベレーターの日々がようやく一区切りされたって感じだろうか。本当に一区切りではあるけれど。


 でもまだ気が付けなかった。休日が決まったとは言え、更なる試練が待ち構えていたという事を。

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