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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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164  『絶望の名の下に』

 突如地面に亀裂が走っては一斉に崩れ始める。それも一部分ではなく広範囲……見える所全てだから相当広い。この調子で行くと全土に渡って崩れていたっておかしくないだろう。

 ユウ達は双鶴に乗っていたから倒壊に巻き込まれずに済んだけど徒歩で移動しているみんなは巻き込まれてしまってるはず。頑張ればイシェスタやエルピスの魔術で何とかなると思うけど無事ではいられないだろう。なら今すぐにでも向かわなければ――――。

 そう考えているとアルスクが叫んだので我に返る。


「前だ!」


「っ!?」


 地面が倒壊したのだから土台を崩されたビルが倒れても当然の事。だから支えを失ったビルは飛行し続けているユウ達に向かって倒れて来ていて、ユウは咄嗟に行路を左へ切ると間一髪で回避した。本当に危機一髪だったから冷や汗がにじみ出る。


「今はみんなの事を気にするな。自分の事だけを考えろ!」


「わ、分かった!」


 そう言われて自分の身と三人の身を守る事だけを考える。もうここまで来たら戦うだ云々なんて言ってる場合ではない。今はどんな手を尽くしてでもみんなを守らなければいけないのだ。それが自分のみを犠牲にする事になったとしても。そんな覚悟を抱きながらも飛行し続けた。


 しかし地面が崩れるというのは些かおかしな事じゃないだろうか。いくら光の球体が地面を貫いてると言ってもあの地下空間には柱があった。つまりこの地面を崩壊させるにはその柱を全て破壊する必要があり、威力が高くとも落下してる地点はまばらなのだから破壊できる訳がない。となればこの地面の崩壊は光の球体ではない。もっと他の事が原因であるはずだ。

 直後に二つのビルが覆いかぶさるようにして倒壊して来るから咄嗟に行路を切った。


 上に逃げようとしても塞がっていて、下にしか逃げる道はない。だから不本意だけど崩れつつある地下空間への退避を余儀なくされた。

 でも、そこには予想外の光景が広がっていて。


「は――――?」


 地面に亀裂が入ってはそこから青白い光が漏れ出しているのだ。その光の大きさはまばらではあれど確かに輝いていて、ソレが異常な光景である事をユウは即座に察した。するとより一層強く光った部位が天井に直撃するといとも容易く粉々に砕いて落下させる。

 だから即座にまたもや行路を切り替えるとその光景を見ながらも驚愕した。


「光が当たっただけなのに天井が!?」


「ただの光じゃないって訳だ。ユウ、気を付けろ」


「分かってるけど不規則に動く光に気を付けろなんて……。それに落下して来る岩石とかもあるし!!」


 アルスクの言葉に細心の注意を払う物の、天井から崩れて来る岩盤とかを回避しながら光も回避するだなんて無理な話だ。せめてアルスクの火力で全ての瓦礫を吹き飛ばせれば話は変ったのだけど、それをしてしまうと反動で光に近づいてしまう可能性が高い。

 光の威力は少なくともユウとリザリーが全力でぶつかりあってようやく同等の威力なのだから、いくらアルスクの火力があれど相殺する事なんて不可能だろう。


 最終的に獣道を辿らなければならないのは確定した訳で、ユウはうんざりしながらもみんなを守る為と己を鼓舞した。

 ノアもリコリスも疲弊してる。流石にこの状態で守ってくれなんて頼むのは無茶な話だろう。せめて気を紛らわすだけでもとノアの手を軽く握った。すると細い指先が微かに握り返してくれる。


「聞きたい事、いっぱいあるんだから」


「……うん」


 そう言うと小さい声で返してくれた。

 けれどビルの一角が真横を通り過ぎた事でハッと我に返り、アルスクが乗る双鶴を引き寄せながらも光と瓦礫の雨を回避し続けた。すると進んでいた先に元から開いていた大きな穴があって、そこがリザリーと開けた大穴何だと気が付き一直線にそこへ突進する。


「ユウ!」


「分かってる! もう少し、もう少しなんだ……!!」


 直後にリコリスから声をかけられて全速力で飛ばす。しかし今現在、ユウは三人の命を握っている様な物だ。ここでユウが気絶したりしてしまえばみんなは瓦礫に埋もれ光に焼かれてさよならバイバイ。全滅ENDは避けられないだろう。

 それだというのに不意を突くように現れた瓦礫。よければ時間ロスになってしまうのは確実だ。なら真意で体を強化して耐えればいいだけ。そう思ったからこそ瞬発的に真意を発動させると頭突きでその瓦礫を粉々に打ち砕く。当然反動で額から血が流れるのだけど、今はそれすらも気にしてる余裕なんて無くて。


「ユウ、大丈夫!?」


「俺は平気。それより――――いっけぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇッッ!!!」


 血を流しながらも全速力で大穴へと突っ込んで行く。希望の光ってのはこういう事を言うのだろうか。そんな事を思っていると最後の瓦礫も何とか潜り抜け、四人は打ち上げられるかのように大空へと投げ出された。だから逆さになりながらも地上を見るとその光景に唖然とする。

 だって、さっきまでビルが立ち並んでいたというのに、それらが全て崩れ去ってしまっているのだから。


「これが……天災……?」


「そう。発生すればそこには何も残らない。どんな文明があろうと、何がいようと、必ず全て掻き消される。それがこの天災だよ」


 その光景に呟くとリコリスは背後からそう答えてくれる。けれど本でしかその存在を知らなかったユウにとって、目の前に繰り出された光景は途轍もない衝撃を放っていた。人が掻き消されたりする光景は肉眼でも見ていたけど、文明や文化が一瞬にして掻き消される光景を見るのは初めてだったから。

 これが天災なのか。これこそが、この世界で他のエルフやドワーフを絶滅させた天災なのか。こんなのもう災害なんて言葉では言い表せない。もし仮に言うとするなら『神の怒り』とでも言うべきだ。


 そのカミサマの怒りが敵でさえも救ったユウに向けられた物なのかなんて分からない。


 ただ一つ言える事は、こんなのが起きていたらそりゃ壊滅的な世界観になる、という納得だけだった。確かに機械生命体や感染者のせいで大幅に衰退したのもあるだろう。けれど天災は人間だけでなく他種族まで滅ぼしたと聞く。これさえなければ、きっと今頃エルフやドワーフと共にあの街で生きていたかもしれないのに――――。


 こうなった原因は全て奴のせいだ。その事を再確認する。あいつが剣と魔法の世界に飽きたからという理由だけで全てを操作してこんな世界に仕立て上げたんだ。今までどれだけ非道な事をして来たのかと想像した事はあったけど、今回でそれは想像すらも出来ない事だと知った。

 今一度認めなくてはならない。カミサマはいとも容易くこんな天災を起こしてしまう存在なのだという事を。ユウには決して届かない高位の存在だという事を。


 それに牙を剥けるというのはあまりにも愚かで不可能な事だ。まぁ元から分かっていた事だけど、こんな物を簡単に起こせてしまう様な相手を殺せるのだろうか。

 ……いや、殺さねばならない。その後の世界がどうなるかなんて知ったこっちゃない。でも、今はそうしなきゃいけないと思った。

 そうしているといつの間にかユウ達よりも一足先に避難しているみんなを見つける。


「みんな~!」


「ユウ。よかった、無事だったか」


「って言うか速くない? 何で?」


「まぁ、色々あったんだよ」


 接近していくと真っ先にテスがそう反応してくれる。けれどその表情にはあまり元気がない様で、本当に色々あったんだろうと察した。多分移動方法はそれぞれの武装を上手く使って立ち回っていたのだろう。この中で高速移動が出来るのはテスとエンカクとイシェスタと――――。そこまで考えた時だった。アリサの悲鳴にも似た声に思考を遮られたのは。


 彼女が泣き叫ぶとなったら余程の事でしかない。故にユウは即座に振り向くと座り込んでいるアリサがいて、その視線の先には額から血を流すネシアが見えた。それもかなり重症そうで意識も失っている様子。一応ユノスカーレットがもう治癒を始めているのだけど、ユウも心配になって背後から覗き込む。

 でも、大事なのはそこではないと気づく。だってネシアの腹には大きな風穴があかれていたのだから。


 そこからは今も尚大量に血が流れ続けていて、ゴプッ、ゴプッ、と音を鳴らしては臓器の様な物まではみ出てしまう。だからアリサは血が流れないように手で塞ごうとするのだけど、指の隙間からも血は絶え間なく溢れ続けていく。ネシアの命が、零れていく。

 アリサが必死に呼びかけてもネシアの意識は戻る事はなくずっと眼を瞑ったままだ。


「ネシア! ネシア!! しっかりしなさいよ、ねぇったら!」


「嘘。これ、どういう――――!?」


「移動中、大きな瓦礫が降り注いでね。同時に吸血鬼の奇襲にも会った。四人は幸い回避出来たみたいだけど、ネシアちゃんはアリサちゃんを守る為に……」


 エルピスから語られた必要最低限な情報。それだけで全てを理解した。天災の一部に当てられた事も、暴徒化した吸血鬼の危険度も、彼女がもう助からない事だって。恐らくもう内臓がやられているのだ。今はユノスカーレットの治癒でかろうじて生きていたとしてもいつかは必ず……。

 直後に体は勝手に動いてネシアの傍らに移動する。


「ゆう? 何を……?」


「真意は相手の魂に接続できるとかなんとかって言ってた。そして真意は様々な物に上乗せする事でその本質を強制的に拡張させる。なら、ユノスカーレットの治癒に真意を乗せる事が出来れば……!」


 そう言ってネシアに真意を流し込む。するとユウの手を経由して彼女の身体は薄く光り出しては傷の塞がる速度が上昇していき、それと比例して傷が治るのも速くなっていった。これなら助ける。助けられる。

 けれどどの道真意を使っている事には変わりない。だから代償が体を蝕んでは喉の奥から熱い物が込み上げて来るのを感じ、ユウは咄嗟に吐血した。


「ごッ……! ぶ、ぶ――――」


「ユウ!?」


 得体の知れない何かが体の内側を蝕む気持ち悪い感覚。ソレに襲われながらも真意を使えば使う程吐血していく。それだけじゃない。鼻血も止まらなくなっていくし、頭痛や目眩と言った症状も現れて本格的にマズい状況になっていった。挙句の果てには目からも血流して片方の視界が真っ赤に染められる。

 それでも真意の使用を止めない。全てはネシアを救う為にやっているのだから。


「ユウ、真意を止めて! 君の身体が――――」


「今ここで真意を止めたらネシアが死ぬ! 俺の真意があるなら助けられるかも知れないんだ!! ――もう、誰も失いたくない。失わせたくないんだよ!!」


「ユウ……」


 反射的にそう叫ぶとユノスカーレットは何も言い返せずに名前だけを小さく呼ぶ。ここでネシアを助けられなかったらユウはきっと後悔するだろう。でもそんなの嫌だ。アリサの大切な人を失わせたくなんてない。だから自分の命を削ってネシアを助けようとした。

 ……なのに、彼女は腕が動くとユウの手首を握り締めて。


「もぅ、いい、よ」


「ネシア? ネシア!!」


 せっかく意識が戻ったというのに、その第一声が「もういいよ」という残酷な言葉。アリサはそんな言葉を聞き流して涙を流しながらも必死にネシアへ呼びかけるのだけど、その声は未だ降り注ぐ球体が地面を穿つ音で掻き消される。


「もういいって……何言ってんだよ」


「どの道、私はもう助からない。内臓とか諸々やられてるんだもの。ドクターでも、治癒術だけでの蘇生じゃ、困難を極める……」


「それが困難なら、今その困難を乗り越えればいいだけ。喋ると傷口が――――」


「それに、君が死んだら、大勢の人達が悲しむ。リコリスも、アリサも、私も」


「ネシアが死んだらアリサ以外にだって俺達が悲しむ! 今まで関わった人が全員、絶対に! そんな事言ってないで速く……!!」


 その言葉で現実を認識させられる。確か、偏に治癒術と言ってもただかければ再生する訳じゃなく、細胞を復活させているのだから時間がかかる上に人体の構造をある程度は把握しなければならない。それでミスをすれば後遺症を残す事だってあるのだから。治癒と言っても万能ではないのだ。故に、手術が出来ないこの状況じゃネシアを助ける事は困難を極める。


 直後にノアとリコリスも駆けつけて同じ様に治癒術をかけてくれるのだけど、それでも風穴があまりにも大きくて塞がりそうにはない。やはり二人とも最後の戦闘で蓄積された疲労やガス欠のせいで上手く力が出せないんだ。


「何で。何で塞がらないんだよ! 早く塞がれ! 早く……!!」


 涙を零しながらもそう叫んだ。

 三人共死力を尽くしてるという事は理解出来る。それなのに傷口が完全に塞がる事はなく、今もなお血が溢れ出していた。早くしなければネシアが死ぬ。ネシアが死ねばアリサが悲しむ。そんな事はさせたくない。

 どうして彼女がこんな目に合わなければならないんだ。ただ天災に当てられただけなのに。……ただ、天災に当てられただけなのに。


「くっ……! マナが散って上手く制御できない……!」


「マナが散ってってどういう!? ――まさか、天災のせいなのか? あの光が機械生命体の装甲と同じ力を持ってるっていうのか……!?」


 どうしてかは分からない。ただもしそうだとしたならより一層ユウが頑張らなければいけない。だからもっと力を入れようとするのだけど、ネシアはそれを拒んで。


「何で。何で拒むんだよ!?」


「君がみんなにとっての希望だから。ここで君が死ねば、この世界はもう、二度と希望には触れ合えない。君が生きる事でこの先の未来が照らされるのなら、私は君を救いたい……!」


「――――」


 その言葉に喉をつっかえさせる。死に際であっても人助けを諦めないその瞳が、リコリスに似たような物を感じたから。確かにユウはみんなから見れば希望に足る人だろう。でもその本質は別の所にある。ユウがいるだけで未来が照らされるというのなら、リコリスの方がもっとうまく――――。そう考えているとアリサが叫ぶ。


「何よ、ソレ。未来が照らされるなら……? 私、言ったわよね。私の居場所は、アンタもいる場所なんだって。ぐずぐず言ってないで、早く戻って来なさいよ。――もう一度、私にあの笑顔を見せなさいよこの馬鹿!!」


 アリサが心から叫んだ言葉。それを聞いてネシアは少しばかり反応した。

 でも、もう決意した事なんだろう。彼女は手を伸ばしてアリサの頬を撫で、目に浮かぶ涙を拭うと柔らかく笑って見せた。今まで見せていた様な、いつもの笑顔で。

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