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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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161  『全てを賭けて』

 ノアはゆっくりと立ち上がると剣を杖代わりにして体重を支える。その光景をゆっくりと見守っていた。ユウは詳しく知らないけど、きっと再生するにもそれなりの力を使うはずだ。つまり今さっきの一撃を回復する為にかなりの体力を削ったはず。となれば既に限界を通り越していてもおかしくない。それなのにノアは尚も立ち上がろうとした。


 どうしてそこまでして自分の全てをぶつけたくなるだなんて分からない。でも、それが彼女の望みなのだ。その果てにノアが救われるのならいくらでも付き合わなきゃいけない。

 だってこれはリザリーの願いなのだから。


 相変わらず馬鹿な事をしてるなぁと自覚する。だって本当なら殺し合わなきゃいけないのに、手を取り合いたいと、背中を預けたいと、助けたいと、本当にそう願ってしまうのだから。それらを踏み込んではいけない領域なのだと知っているのに。

 でも、もし仮にそれを成し遂げたらどうなるだろう。この世界はどんな変化を見せるだろうか。そんな未来を望むからこそこうできる。


「ここで、終わりにしましょう。私は負ける。影が光に照らされる様に、絶望も同じく希望に照らされるから。――それでも、この願いだけは……!」


 額から流れる血は拭わずに立ち上がった。そして剣を振ると真っ先にユウへと向ける。自分の願いを叶える為に……いや、守る為に、全力を出してぶつかると。それに応えなければいけないと、直感で感じたからこそユウは今一度構えるといつ攻撃が来てもいい様にと準備を整えた。

 背後からは二人を見たみんながこんな事を話し合う。


「ユウさん……」


「大丈夫だよ。ユウは負けない。絶対に勝つから」


「――――」


 イシェスタの心配そうに呟くとリコリスが静かに返す。だからみんなは黙り込んでユウの背中を見た。リコリスとは打って変わって頼るには少しばかり小さすぎる背中を。

 やがてノアは少しだけ力を溜めはじめた。だからユウも真意を発動させて力を溜める。


 しかしもうリザリーの剣は折れる寸前だ。あと五連撃以内には壊れてしまうだろう。そうなる前にノアと決着を付けなくてはいけない。いくら真意で強化されているとは言え、ノアの全力攻撃を真正面から食らったら流石にひとたまりもない。

 上手く見切れる訳がないと思うけど、剣へのダメージが少なくそれでいて最大限の威力を出せる角度を選ばなければ不可能だろう。そんな悪条件に苦笑いを零す。


 ――きっと、ノアにも待ってくれてる人がいるんだろうな。それでもこの願いだけは……。


 “救う”という定義は人それぞれだろう。命を救えばそれで終わりな人。命だけではなく、心すらも救おうとする人。その人の過去でさえ救おうとする人。リコリスは当然一番最後の人種だろう。その無理難題を実際にクリアして十七小隊の面々や赤の他人も救っているのだから。

 けれどユウはどうだろうか。口では救うと言っておきながら、過去を救う事は出来ない。それどころか救うと言いながらも相手の願いをへし折ろうとしているのだ。到底偽善者と呼ぶに相応しい現状だ。


 リコリスならもっと別の手段を考え着いたのかも知れない。今のノアを感化させるような言葉を放つのかも知れない。でも、ユウは憧れただけでリコリスではない。だからこんな方法しか思いつかなかった。

 結局、やろうとしている事はこの世界の当たり前と同じって訳だ。

 誰かの血と涙が流れない限り、この戦いは終わらないのだから。


「凄いな、リコリスは。俺にはそんな事出来そうにないや」


 誰にも聞こえない程小さな声でそう言う。みんなはユウがこの世界を知らないからこそ大きな希望を抱けると言っていた。ならばそれ程の希望を抱けるリコリスはどうなるのだろうか。この世界の住人にありながらこの世界を知らないのか、もしくはもっと別の、この世界から消えて―――――。

 その先は考えたくないから思考を切り捨てる。


「行くぞ、ノア!!」


「ええ!!」


 真意も最大までチャージし終った。だからそう叫ぶと一気に腰を下ろして飛び出す態勢を作り、同様にノアも姿勢を低くすると右手に握った剣に大量の圧縮された炎を振って地面を蹴る。やがて二人の剣が真正面から衝突すると炎と純白のステラが混ざり合い、もう一度凄まじい衝撃波を走らせた。


「ッ――――!」


 互いの全力が同等の威力だったのだろう。実力が均衡しては大きく弾かれて吹き飛ばされてしまう。ノアも同じ威力なのは、恐らくこれまでの戦闘でリコリスが彼女の体力を削っていたからのはず。もしリコリスが押されていたらユウは今頃丸焦げになっていただろう。

 ユウは空中に吹き飛ばされる中で双鶴を引き寄せ、ソレを足場にすると強化した脚で蹴り飛ばしては急接近する。硝煙の中から現れたノアも同じ様に急接近して今度は空中で刃を交わらせた。


 相変わらず同等の威力に反動が駆け抜けて刃が激しく震える。そのせいで刃毀れした剣の欠片が頬を掠めて血を流させる。

 もう持たない。次の一撃で本当に壊れてしまうだろう。となれば何とか回避したり受け流したりする事で剣の耐久を節約するしかないか。それをさせてくれるのかは別として。


 ――俺じゃリコリスみたいには立ち回れない。可能性があるとすれば……。


 咄嗟にリコリスの投げ捨てた漆黒の剣を見る。仮にアレを使えるのならユウにも勝機があるだろうか。その代わりに色んな代償を背負うハメになるだろうけど、それでも勝てる確率が少しでも上がるのなら。けれどリコリスの様子を見てからその考えを断ち切る。


 ――アレは駄目だ! あんな憎悪に満ちた剣、握ったりなんかしたら一瞬で意識を呑み込まれる……! やっぱり俺自身の力で勝負を付けるしかない!!


 次の瞬間からユウは地面を踏むと一気に土埃を舞いあがらせ、ノアがそれを振り払うまでの一瞬で背後に回り込む。直後に駆け抜けたノアの一閃を剣の柄で受け止め、その部分が壊れた瞬間から回転して回し蹴りを顔面に食らわせると骨が折れる音共に吹き飛ばされていく。

 これで一撃は節約できた訳だ。

 すかさず追撃を仕掛けながらも話しかける。


「お前は何でそこまでして戦うんだ。どうして、そこまで戦えるんだ!」


「守りたい人がいるから! 私を待ってくれてる人達がいるから! ――私の大好きな仲間が、生きて欲しいって願うから!!」


「ッ――――!」


 やっぱり変わらないんだ。吸血鬼であっても守りたい人がいて、待ってくれてる人がいて、死ぬ事を望まない人達がいてくれる。その人達に答える為に戦い続ける。それがノアにとっての正義なのだろう。全く同じ本質を持った正義に触れて奥歯を食いしばる。その正義をへし折るにはかなりのリスクが必要となるはずだから。

 投げつけられた業火を真意の拳で打ち消すと立て続けに白兵戦を繰り広げる。


 けれどまだまだ全然足りない。ノアを倒す為にはもっと多くの攻撃が必要だし、もっと強い攻撃を叩き込まなければいけない。後一撃でそれに足る攻撃を出来るかどうか……。

 だからだろう。ノアが瞬時にユウの背後を取ったのは。


「だから私は、その願いの為なら、何度でも――――!!!」


 そう言って炎の刃を振り上げた。それもユウの真意以上に強力な一撃を。回避は不可能。受ければ死ぬ。となれば方法は一つしかない訳で、ユウは振り向きざまに真意の刃を叩き込むともう一度均衡した威力を発揮してノアとぶつかり合った。

 しかし剣が壊れる確かな手応えが腕に届いて歯を食いしばる。やっぱり真意で強化しているとは言えここまでの衝撃を食らえば壊れてしまうのだろうか。


 やがて数秒間は耐えてくれるのだけど、互いに大きく弾かれたその瞬間からリザリーの剣は粉々に砕け散ってその破片を周囲にまき散らす。刀身の半分が折れてしまった剣を握りしめつつも受身を取るとノアはお構いなしに接近していていて、ここぞとばかりに追撃を仕掛けて来る。まぁ、分からなくもないけど。

 故にただの付け焼刃でしかないけど、双鶴に真意を乗っけると腕の変わりに扱って何とかノアの攻撃を逸らさせた。


「クソッ、剣が折れちゃ何も出来ないだろ……!」


 無意識に愚痴を零しながらも回避に専念する。せめてリコリスみたいに電源が切れない限り壊れる事がない、みたいな光線剣でも持ってればよかった。アレは扱いに慣れてないと大怪我するとか言われてガリラッタが渡してくれなかったけど無理やりにでも奪えばよかっただろうか。

 やっぱりこの状況で頼りになるのはリコリスの出した黒の剣――――。


 でも、仮にそれで戦えたとして、ユウにその剣を握る事が出来るだろうか。見ているだけでもあまりの憎悪で腰を抜かしたと言うのに、それを握ったら自分の意識を保てるのか。

 そう考えていた時だった。エルピスが叫んだのは。


「――ユウ!!!!」


「ッ!?」


 直後に飛んで来た二本の剣。反射的に手に取るとそれはエルピスの持っていた特殊武装で、片方は紅色の刀身をした剣と、もう片方は紺色の刀身をした剣であった。だから何はともあれ、武器があるからこそ次の攻撃を防ぎ弾く事に成功した。


「サンキュー、エルピス! 助かる!!」


「その武装はリミッターを外すとより強い攻撃力が生まれるの。それを生かして!」


 そう説明された時から即座にリミッターを外し、紺色のオーラを纏わせるとそこに真意を上乗せして攻撃力を更に拡張させた。だから二本同時に振るえばさっきよりも遥かに高い威力を発揮してノアを吹き飛ばす。

 当然反動は腕に駆け抜けるものの、それでも吹き飛ばせるのならまだいい方だ。

 やがて倒れる事を拒んだノアは足を踏ん張ると真っ直ぐにこっちを見据える。


「私は。私は……!」


「――――」


「負ける訳にはいかない!!」


 絶望には勝てないと言う事を知っている。希望には抗えないと言う事を知らされている。それなのにノアは願いを叶えたいと、それだけを行動原理にして攻撃の手を緩めなかった。全ては自分を待ってくれている大切な人の為に。

 それ故に、ノアは背後に巨大な魔方陣を展開させるとそこから大量の業火を生成させる。しかもそれは渦を巻いて一点に収束させる事によって風や上昇気流を発生させ火力を底上げする。アレが正真正銘最後の攻撃って訳なのだろうか。


 無傷では済まされない。そう悟ったからこそユウはもう一度武装のリミッターを外すと真意を最大限に発動させてステラの花弁を舞い散らせる。純白の輝きを放つ華は空に舞い上がり、曇天の空に小さく眩い色彩を加えて行った。


 出し惜しみはナシだ。ノアの全身全霊に対応するにはこっちも全身全霊を出しきるしかない。この一撃さえ耐える事が出来ればこっちの勝利のはずだから。

 右目だけが純白に光る中で真っ直ぐにノアを捉える。極大魔術を用意しつつあるノアを。


「この極大魔術は私の力を全て凝縮した物だ。もし貴方がこれを受ける事が出来なかった場合、この街ごと全てが消える事になる。それを理解しなさい」


「……ああ。理解したよ。だからって退く訳にはいかないんだけどさ」


 やがて右足に力を込めると一気に飛び出し、ノアはそれを合図に自身の全てをユウへと投げつけた。一歩でもミスれば全てが燃やし尽くされる一撃。回避も防御も許さない死の一撃だ。みんなを救う為にはソレを切り裂きノアを攻撃するしかない。

 仮に彼女の一撃を切り裂けたとして、その後はどうなると言うのか。

 違う。今はそんなのどうでもいい。今だけは、目の前の壁をぶち壊す事だけを考えろ。


「らああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ―――――――ッッッ!!!!」


 そう咆哮しながらも地獄の業火に真正面から刃を叩き込んだ。直後に全身を駆け抜ける反動に奥歯を噛みしめる。――硬い。途轍もなく硬い。どれだけ力や真意を込めても炎は微塵も裂ける事はなく、それどころかユウを押しのける勢いで攻撃力を高めた。

 純白の一閃は業火を食らい尽くそうと光の尾を引いて突撃するのだけど、それでも切り裂けない。それどころか本当に炎に攻撃をしているのかと疑問になって来るくらいだ。


 これがノアの全身全霊、全てを込めた一撃と言う訳か。予想をも上回る威力を発揮して来ると思ったけど、いざぶつかってみるとその凄さが身に染みて理解させられる。彼女がどれだけの覚悟を持ってしてここに立っているのかが。


 でも、こっちだって譲れない物を背負ってここに立ってる。それこそ絶対に捨てられない希望や意志を抱いて。なら相手がどれだけ強くたって関係ないんじゃないのか。みんなが待ってくれてる。みんなが信じてくれてる。それだけでこの先を生きていけて、何度でも立ち上がれるんじゃなかったのか。――お前の原初を思い出せ。高幡裕!

 そう言い聞かせた瞬間だった。腕が急に軽くなったのは。


「――――」


 当然だろう。だって、さっきまでみんなに体を預けていたリコリスがユウと一緒に業火へ攻撃していたのだから。それも例の黒い剣を使って。真横に並んで刃を叩き込んでいるリコリスの表情は穏やかで、微塵も苦しそうな表情はしていなかった。それどころか強気な笑顔を浮かべて勇気をくれる。一緒に行こうとでも言うかのように。


「行くよ、ユウ!」


「……うん。行こう!!」


 直後からステラの花弁はより一層強く輝いて炎を押し返して行った。真っ赤な炎を純白の花弁が塗り潰す。それに比例して三本の刃は次第と炎を切り裂いていく。

 行ける。リコリスとなら、どこまでだって行ける。今は本当にそう思えた。まるで、ずっと前からこうして幾つもの危機を超えて来たみたいに。


 瞬間、真っ赤な彼岸花の花弁が舞い上がった。


「なっ!?」


 ついに地獄の業火が切り裂かれる。切り裂かれた業火は形が揺らいでは背後で爆発し、不完全な爆発であるからこそその大部分は上空に向いて炎が発射される。そしてユウは地面を大きく踏むと体を前方に撃ち出して神速で突撃をかました。

 当然、そんな事になるだなんて思っていなかったノアは動揺して眼を皿にしてこっちを見る。


「これで――――」


「まだだッ!!!」


 左手に握った剣をノアへ叩き込もうとするのだけど、その時に放たれた一閃が左腕に直撃して肩の根付けから斬り落とされる。でも、それは向こうも同じだ。ノアの方もユウの刃によって右腕が肩の根付けから斬り落とされる。

 けれどこっちにはまだ右が残っている。

 だからこそ、ユウは叫びながらも右の刃を思いっきり叩き込んだ。


「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


 振り下ろされた刃はノアの胴体を切り裂いて思いっきり血を噴き出させる。確かな手応えと共に、ノアを切り裂いたのだ。これでユウは彼女の願いや希望を全て断ち切ったと言う事になる。

 ……でも、何故だろう。ノアは微塵も悔しそうな表情をしていなかった。

 ようやく解放される。そんな眼でユウを見つめていた。

最終決戦的な扱いになる話なのにリアルの方でわちゃわちゃして投降するのを忘れてしまっていた! これから調子を戻して行きたい……!

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