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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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158  『反撃開始』

「……あら。あの子じゃないのね。傷はもういいの?」


「リコリスじゃなくてごめん。それに、痛みなんて今は知らない」


 地上に降り立ったノアはリコリス達を追いかけていたのだけど、その中でユウに当たって立ち止まる。正直、彼女の前に立っているだけでも死にそうな気がするから怖くてたまらない。だってあれ程の戦闘を普通に行うのだ。足踏み一つで地面に穴をあけたって何らおかしくはない。

 けれど決して臆さずに真っ直ぐな眼でそう言うとノアは冷静にその視線を受け止める。


「さしずめ囮って所かしら。それかその思考を逆手に取った切り札か。どっちにせよ何か私を倒せる策でもあるって事でしょ?」


「その通り。倒せる手段があってここにいる」


「じゃあ見せてもらおうかしら。その手段を」


 するとノアは自ら隙だらけになり攻撃しやすい状況を作り出した。けれどそんな状態で攻撃する人なんてほとんどいないだろう。だって逆に言うと常時カウンター状態でもある訳だし、そんな中で攻撃するだなんて自信のある人しかいない。

 ……まぁ、ユウがその一人であって。


「ッ!!」


「おっと」


 真意を発動させて突っ込むとノアは少しばかりびっくりした様な顔を浮かべる。その反応から彼女自身も攻撃されないと思っていたんだって知る。それならいっその事全身全霊で突っ込んだ方が良かっただろうか。

 しかしこれでいい。これが作戦通りなのだから。


 ユウの刃を自身の持っている剣で受け止めるとその衝撃波を背後へと受け流し、余裕の表情で刃を滑らせると今度はノアの方から攻撃を仕掛けて来る。けれどその一撃と言うのが予想通り途轍もない威力で、真意の刃を全力で振るい受け止めても反動で剣が腕から離れそうになってしまう。直後に切り裂いた衝撃波が左右に分かれて背後のビルを粉々に打ち砕き、瞬時に放った彼女の拳が指先を捉えて人差し指を曲げてはいけない方向に捻じ曲げる。


「っあ!?」


 あまりの痺れに手から柄が離れてしまう。その隙を逃さずノアは剣を高々と振り上げると脳天を叩き割ろうと剣先を調整する。けれど間一髪のタイミングで柄を握り直しては体を回転させて回避し、遠心力を殺さずそのまま刃を叩き込んだ。それは装甲もない腕で受け止められてしまうのだけど。

 次に軽く膝蹴りを入れられただけでも体は飛び上がって鈍い音を立て落下する。その様子をノアはじっと見つめていた。


 ――たった一撃を受け止めただけでもこの威力……! 何て速さ、何て力……!! 分かってはいたけど、やっぱり普通じゃ勝てそうにはないか。


 そう考えながらも起き上がり、上着の裾を噛み千切っては剣を握った手に巻き付けて絶対に外れないようにする。痺れがあるのもそうだけど、重大なのは右手の人差し指だ。さっきの一撃で根元から折れては可動区域を大幅に逸れている。その証拠として指全体が紫色になっては激痛が走っているし。そんな中で剣を振るうなんて無理だからこそ強制的に剣へ縛り付けた。


 たった一撃でここまでのダメージ。元からボロボロだったというのもあるだろうけど、それを除いてもノアの強さが一撃だけで身に染みた。

 そのせいで立ち上がろうとする膝が震える。武者震いのせいで視界がブレては安定しない。たった一撃で身体的にも精神的にもそこまで追い詰められたのだ。でも。


「……あの子に似てるわね。例えどんな事があろうと、絶対に成し遂げると決めた事を諦めない、メラメラと燃える様なその眼が」


「諦めきれない事が、背負ってる事があるからさ。絶対に投げ捨てちゃいけない願いも」


「覚悟は決まってるってヤツなのね。いいわ。今楽にしてあげる!」


 するとノアは剣を握りながらもこっちに向かって走り出す。神速で近づいて来ないって事は、それほど余裕なのか、ユウの真意を警戒しているのか。明らかに前者だと思うけど後者も視野に入れて迎え撃とうとした。もし後者なら攻撃の隙があるかも知れないから。

 やがて真意を発動させると思いっきり振りかざすともう一度真正面からぶつかりあった。それも今度は吹き飛ばされずに。


「ぐぅっ……!!」


「どうやら腕も限界の様ね。まぁ、あそこまで戦ってれば当然な気もするけれど。今、その苦しみから解放してあげるから……!」


 そう言うとノアは力を入れてユウを真っ向からねじ伏せようとして来る。苦しみから解き放つと言っている辺り本気でユウを偽善者の苦しみから解放しようとしてるのだろうけど、その救いを受ける気は毛頭ないからこそ抗い続けた。まぁその分痛みが訪れるのだけど。


「その気持ちはありがたいけど、今は遠慮しておく! 受け取るのは気持ちだけって事で!!」


「っ!?」


 直後にユウの刃はノアの刃を大きく弾いて仰け反らせる。ノアはその事に驚愕した表情を浮かべてはユウを見つめていた。

 すると背後からエルピスとアルスクとネシアが奇襲を仕掛け、更に上空からはイシェスタとエンカクが飛び降りて来ていた。だからユウは微かにでもノアの気を引く為に攻撃を続ける。恐らくノアは既に知っていたはずだ。待ち伏せをされている事くらい。故に注意を引く必要があった。


 けれど全員が一斉に全力攻撃を仕掛けた瞬間にノアは微笑みを浮かべる。その微笑みに危険な物を感じたユウは即座に防御姿勢を取るも既に遅く、全員の攻撃も同じくノアを中心に放たれた謎の衝撃波に弾き飛ばされた。それもビルの硝子を軽く撃ち抜くくらいの速度で。


「ぐぁッ!?」


「何だ!?」


 謎の力で吹き飛ばされた全員は顔を驚愕させながらもノアを見つめる。しかし道具も何も使ってないし、足踏みだってしていなかった。つまり今の衝撃波はノアの身体から放たれたという事になる。あまり信じたくない……というよりかは信じられない事だけど、ここまで来たら仕方ないとしか言いようがないだろう。だって空も飛べるわけだし。

 でもそれだけで諦める訳にはいかない。ユウは即座に起き上がっては真意を発動させてもう一度ノアへと突っ込んで行った。


「らああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


「ふんっ!」


 けれど今度はさっきよりも大きな力が放たれ、ユウは見えない壁に激突したかのような衝撃波と共に吹き飛ばされた。

 分かった。マナだ。単なる力とか魔術ではない。ノアはマナそのものを操りこの現象を引き起こしているんだ。そう理解した頃にはかなりのダメージを与えられていて、ユウは壁に埋まる体を引き抜きながらも呟いた。


「くそっ。体内に溜めたマナを一気に放出する事で見えない壁を作ってるのか……!」


「その通り。あまり無茶し過ぎると骨が折れるから気を付けた方がいいわよ」


 即座に種明かしをすると余裕そうな表情をしてそう言う。でも彼女にとっては実際余裕なのだろうし、これほどの攻撃を行ってもデメリットは僅かな物ののはずだ。正直厄介すぎて嫌になる。けれど作戦を成功させるにはひたすらに攻撃するしかなく、残っていたアリサ、テス、ガリラッタ、ボルトロスも含めて計十人での一斉攻撃が開始される。


「気を付けた方がいいって言ったばかりなのに……」


 ノアが最強クラスの強さを誇っている事くらい分かっている。だからこそ対策を講じつつも攻撃するのだけど、それでもノアの力は誰一人として打ち砕けない。ボルトロスから放たれる銃弾の滝も全て弾かれては無意味になってしまう。


 まずはあの障壁をどうにかしなければノアに攻撃は届かない。憶測じゃあれは質量を持った壁だから、それ以上の質量――――つまりそれを上回る火力で攻撃すれば破れるはずだ。じゃあその火力はどうやって出す。アルスクが真意を使えたのなら障壁の一つや二つは打ち砕いていたのだろうけど、真意はユウに宿っている。真意で突っ込んだとしても破れるかどうか。

 ……いや、出来る出来ないじゃない。やらなきゃ死ぬ。それだけだ。ならかなりの賭けになってしまうけど、少しでも可能性がある方に賭ければいいんじゃないのか。


「ごめんな。リザリー」


 彼女の細剣にそう言いながらも唇を近づける。この細剣をくれたリザリーには悪いけど、この細剣の役目はここで終わり。自分の剣で主人が倒されるのは不本意だろうけどもうこれしか道はないのだ。みんなを守る為に。希望となる為に。もう絶対に退く事だけは許されない。

 立ち上がって軽く構えるとみんなに指示を出した。


「みんな、聞いて。――俺がノアの障壁を破って攻撃を当てる。だからそれまでの十秒、時間を稼いでくれないかな」


『OKだぜ』


『任せて下さい!』


『信じてるわよ』


 一撃すら……近づく事すらも叶わないノアから十秒も時間を稼ぐ。到底無茶な事で、無理難題を吹っ掛けられてるのは向こうも理解しているはずだ。それなのに意気揚々と答えてくれる。みんな、ユウの事を信じてくれているから。

 ならユウもそれに応えなければならない。


 ――高めろ。極限まで。俺がやるべき事はたった一つだ。ノアを追い詰めて撤退させる……! これは俺にしか出来ない事だから……!!


 この作戦を成功させる為に必要な絶対条件はノアを撤退させるまで追い詰める事。この時点で既に無理ゲーな訳だけど、やらなければ道はないとリコリスが言うのだから仕方ないだろう。きっと彼女なら何とかしてくれる。そんな他力本願に身を任せて真意を発動させる。


 すると右目は純白に眩く光だし、あまりの強さに足は踏み込んだだけで地面を粉々にする。そんな中で剣を握ればそこからステラの花弁が大量に吹き出し、空が曇天に覆われているのに対し真っ白な明るい色彩を加えて行った。

 それに気づいたノアは咄嗟に振り返ってこっちを見る。瞬間に危険を感じたのか、ノアは剣を振るって黒い稲妻をぶつけるとユウ諸共消し炭にしようとする。


 その時、誰かが背中を押した。


 幻覚とかそう言うのじゃない。確実に誰かが優しく温かい手で背中を押し、ユウが飛び出すのを手伝ってくれたのだ。だからこそ神速にも似た速度で飛び出しては即座にノアの背後を取る事に成功する。


「っ!?」


 直後に回避された事を悟ったノアは防御しようとマナを解き放とうとするけど、もう遅い。その頃にはユウの真意の刃はとっくのとうに放たれ、ノアの身体へと叩き込まれているのだから。だからこそ想像を絶する程の衝撃波が駆け抜けてノアは吹き飛ばされる。同時にリザリーの細剣に亀裂が走る。


 それでも追撃する事を止めない。ユウはそのままノアを追いかけると地面を蹴った衝撃だけで脆い瓦礫を吹き飛ばし、虚を突かれて動揺するノアへもう一撃を叩き込んだ。剣を振り下ろす風圧だけで周囲のビルの硝子を粉々に砕いてしまう程に。

 ノアもそこまで真意を使うとは思っていなかったのだろう。初めて驚愕すると焦ったように全力攻撃を繰り出して足止めしようとする。


 でも決して足を止めずに進み続ける。確実にノアを追い詰める為に。

 やがて彼女はその姿に危険を感じたのか、リミッターを外すとさっきよりも巨大な火力でユウを押しのけた。瞬間に大きく飛び去っては空間に亀裂を走らせてどこかへ逃げようとする。っていうかそれを普通にやるのか……。


 しかしもう遅い。だってその先には、既にリコリスが待ち構えているのだから。

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