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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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156  『一筋の』

「状況は把握した。私達に任せてちょうだい」


「で、でもそのノアってのは物凄く強くて……!」


「大丈夫大丈夫。何とかなるって!!」


 エルピス達が話しに割って入った直後にユウはそう警告するのだけど、彼女は軽めに受け流すと笑いながらも肩をバシバシ叩いて安心させようとする。けれど今回ばかりは流石に前回の様にはいかない。だからユウもエルピスの肩を掴もうとするのだけど、その時にアリサが背中を叩いて隙を作るとその間にエルピスへ問いかける。

 それがどんな意味を持つのか、ユウにはあまり理解出来なかった。


「でも、みんなはリコリスを捜索してたはずなのに、どうしてここに? ってか、ラディとクロストルは!?」


「あの二人は今も捜索中。さっき大きな地震があったでしょ? で、ネシアちゃんの言ってた地下空間って言葉にピンと来て私達だけでもって訳よ」


「なるほど」


 必要最低限の情報だけを交換すると互いに納得し合ってそこから現状を導き出す。それも、事前にユウの情報があったからこそ的確に素早く掴めた物なのだけど。やがて全員の視線がユウへ集中するとどうするのかの判断を求めた。

 ……でも、既に答えは分かっている訳で。


「それでユウはどーすんだ? まぁ一応、答えは聞かなくても分かるんだが」


「決まってる。――ノアとリコリスを追って、ノアを“捕まえる”」


「だよな。そう言うと思った」


 殺すでも倒すでもなく捕まえるという言葉を使ったからてっきり反応するかと思ってたのだけど、みんなからして違和感がなかったのか、はたまた気づかなかっただけか、捕まえると言う言葉には刺して反応せずにユウの答えをそりゃそうだとでも言いたそうな表情で受け止める。だから少しだけ驚き顔で固まった。


「どした? ンな顔して」


「……いや、なんでもない。急ごう」


「そうだな」


 するとアルスクが真っ先に答えてユウが走り出した方角へ向かった。けれどその時に自然と足から力が抜けて躓いてしまい、派手にではないけどその場で掌を突いてしまう。きっとみんなと再会できた事で安心してしまったから気が抜けてしまったのだろうか。そう考えているとエルピスが肩を貸してくれて。


「そんな傷じゃそうなっても当然だよ。……出来ればテントに行く事を推奨したいけど、どうせ拒否するんでしょ?」


「ま、まぁ」


「全くしょうがないね」


「えっ、えっ!?」


 そんな会話をするとエルピスは少しだけ息を吐いてから膝の後ろと背中に手を回してユウをお姫様抱っこをしてみせる。いきなりそんな事をされるから少し不安になるのだけど、彼女は少しだけ体をゆすると自分でも持てると判断して微笑む。しかしエルピスだって連戦続きで疲弊しているはず。それなのにユウを抱えていたら―――――ああ、結局はユウも他人の事は言えないか。


 さっきの轟音からして方角は既に分かっているのだろう。みんなはユウが指示をしなくとも自動でノアとリコリスが向かったと思われる方角へ走り出す。その間に何度か自分の足で歩こうとジタバタしてみるも圧倒的な力で抑えられ無意味になってしまう。だから意地でも休ませる気だと察し、少しの時間であれど休憩する事を決めた。

 今は命の大切さを理解してるつもりだけど、まだ無意識な所で命を無視してるのかもしれない。


「しかし、リコリスがそのノアってのと戦ってるって本当なのか? だってアイツは火力メインじゃなくて速度メインの武装を装備してるはずだが……」


「信じられないと思うけど本当なんだ。多分、魔術を使える事を隠してたのか、あるいは――――」


 ふと呟いたガリラッタの言葉にそう返す。けれどそこから先の言葉は喉から出なくて、一時的にみんなの注目を集める事となる。そりゃそうだろう。だってこれはあの時のリコリスを見たユウだからこそ言える事なのだから。

 リコリスの事を“化け物”と、冗談でもそう言う事は出来なかった。


「……とにかく二人を探さなきゃいけない。そこに俺達が入り込める余地があるのかは分からないけど、少なくとも状況は変わるはずだから」


「そうだね。早くしなきゃ!」


 一個前の言葉を切り離すと別の言葉に切り替える。するとエルピスは意気込みながらも走る速度を上げてリコリスが向かったとされる方角へ急いだ。その後に続いてみんなも同じく走る速度を上げる。ユウは彼女にしがみ付きながらも前だけを見てリコリスを探し続ける。

 でも、わざわざこっちから向かう必要なんてなかった。


 突如耳に届いた轟音。それに反応して全員が足を止めると一斉に音が聞こえた方角を見た。――少し離れた所にあった高層ビル。その最上階を。何があったのか急に爆発しては硝子が全て割れ、支柱とかも粉々に砕かれては今にも崩壊しそうになってしまう。そこへ追い打ちと言わんばかりに深紅の一閃が駆け抜けると完全に切り裂かれて最上階部分が落下して来る。それもよりにもよってこっちへ向かって。


「何だ!? ――って、ヤバイヤバイ!!」


「走れ! 早く!!」


 一斉に走り出すと高速で落ちて来るビルの一部はさっきまで自分達が立っていた所に落下し、激しい衝撃波と共に小さな瓦礫を飛ばしてみんなを吹き飛ばす。その後は何とか全員……ユウを抱えていたエルピスも含めて転ぶ事なく無事に着地するのだけど、問題はそこではなく何故ビルの最上階部分が落下して来たのかだ。

 まぁ、そこはユウだけが予測出来る物で。


「何だ、何が起った!?」


「ユウ、大丈――――って、結構冷静そうね」


「そりゃまぁ、アレを見ればこんな反応にもなるよ」


「アレ?」


「要するにリコリスはあそこだ。あのビルの一番上に――――」


 アリサが問いかけて来るから冷静にビルの最上階へ指を差す。するとみんなの視線はユウの指先を辿って先端部分へ集中していき、煙が上がっている所を見つめた。直後に人影が飛び出すから即座にそれがリコリスだと理解する。それも武装がない状態で空中へ飛び出すのだから驚愕物だ。


「人影……。って、あれがリコリス!?」


「そう」


 テスの言葉に苦笑いを浮かべながらも答えると、今度はノアが煙の中から高速で飛び出し空中で激しい火花を散らせる。普通ならそこで落下するだろう。だってリコリスは特殊武装を装備してないのだし、あれがなければ空は飛べない。それなのにまるで羽が生えているかのように飛び上がってはノアの頭上を取って光線剣を最大出力で叩き落とす。

 しかしノアは空中に見えない壁でもあるかのように急停止すると高速で飛び上がってはリコリスを押し飛ばした。


「あれ、空飛んでる!? 武装もないのに!?」


「信じられないけど本当みたいだな……」


 直後にリコリスは弧を描いて旋回してノアの背後を取り斬りつけた。でもそれにすらも反応したノアは左手を翳すと巨大な隕石をも思わせる火力で炎を放出させた。故にリコリスは普通なら骨すらも燃え尽くされそうな炎を真正面から受ける。

 その光景を見たみんなは最悪な結果を想像して唖然な表情を浮かべた。


 けれどある程度まで炎が収まった瞬間にその中から同じ威力の炎が一閃として駆け抜け、ノアの胴体を撃ち抜いて曇天に赤い色を付け加える。やがて炎が完全に消滅するとリコリスは左拳を握りしめながらももう一度全力で叩き込む。ノアも同じ様にして拳がぶつかるとその場で炎の大爆発が起きた。


「え、何アレ。異能力ものでも見ない光景なんですケド……」


「信じられなくても現実なんだ。どうにかしなくちゃ」


「どうにかって、まさか戦う気!?」


「そう。なら問いかけるけど、アレをほっとこうって思う?」


 ユウは元々戦う気があったかた大丈夫なのだけど、ノアの強さを知らなかったみんなはその覚悟に触れて驚愕する。しかし次の問いかけにて一斉に黙り込み現状を呑み込む。まぁ、あんな戦い様を見せられたらそんな反応になるのも無理はない。

 みんなが驚愕する中で一人呟きながらも考える。


「何はともあれリコリスと連絡手段を作らなきゃ。信号がない以上《A.F.F》は持ってないだろうし、となれば地上からの光か実際に飛ぶしか……」


 そう言うとユウを含めた全員の視線がエンカクに寄せられる。彼はこの中でユウを含めても一番空中戦に優れている隊員だし、ぶっちゃけ言えば空中での機動力はエンカクの方が高い。だからと言ってあの中に突っ込むのは流石に酷な話であって。


「え、俺!? 無理無理無理、あんな中に飛び込んだらすぐに死ぬって!!」


「だよなぁ。俺の拳や脚でも飛べない事はないが、それも一時的な物だし、持続的に飛べてかつ生き残れそうな奴となると――――」


「でもユウ君は武装持ってないしね」


「そうなんだよなぁ……」


 アルスクはそう言いながらユウを見るもエルピスに横槍を入れられて黙り込む。確かに武装さえあればユウが行き会話をする事が出来るだろう。双鶴なら持続的に接続できるし、ユウは真意を使えるからもしもの事があっても対応できる可能性が高い。しかし双鶴はリザリーとの衝突で吹き飛んでしまっている訳で、いまから回収しに行っても絶対に間に合わない。

 ここはやっぱりエンカクに頼るしか……。


 そう考えていた時だ。視界の左下で双鶴のアイコンが一度だけ点滅したのは。それに気づいたユウは左下に視線を集中させて詳しく確認する。でも双鶴はかなり遠くの方まで吹き飛ばされてしまったはず。まさかそんなはずが――――。するとアイコンが何度か点滅しては完全に付いて双鶴に接続したと表してくれる。だからそんな事になるだなんて思わずに驚愕する。


「どしたの?」


「あいや、その、たった今双鶴と通信が繋がって……」


「えっ!?」


 たった一歩。たった一歩動いただけで双鶴と繋がったのだ。そこまで近くにあったって事なのだろうか。いやでも、流石にそんな都合のいい偶然があるはずがない。だって事象の流れを操作しているのはあのカミサマだ。そんなご都合主義みたいな展開は許してくれないはず。それなのにどうして。

 そこまで深く考えずとも、答えは即座に浮かびだす。


 ――まさか、リザリーが……?


 通信で双鶴を引き寄せながらもそう予測する。ユウ達が回収する事は出来ない。でも自由に行動出来るリザリーなら行動する事が可能だ。それにあの時に守ってあげると言っていた。多分、別れてからずっと双鶴を探してくれてたのだろう。

 確証なんてもちろんない。でも、その事だけは分かった。だから口元は自然と微笑みを浮かべてしまう。


「今度は笑ってどしたの?」


「……いや。こんな世界でも、まだまだ捨てたもんじゃないなって思っただけだよ」


「ふ~ん」


「俺がリコリスの所に行く。みんなは周囲の警戒と追跡を頼んだ」


「OK。任せろ!」


 含み笑いを誤魔化しながらもそう言うと真っ先にアルスクが答えてくれる。やがて空から二つの双鶴がやって来ると早速それにまたがって浮上し始める。何か、懐かしい感覚だ。

 やがて手摺を掴むとリコリスの所へと向かい始めた。未だ激しい戦いを繰り広げるリコリスの所へ。

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