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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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148  『昔へ戻る覚悟』

 地面に巨大な穴が開いてからしばらく。アリサはようやく驚愕から立ち直るとゆっくりと歩み寄りながら穴に近づき覗き込んだ。相当深くなっているのか、ここからじゃほとんど下が見えない地下空間を。……いや、この場合は空が雲で覆われているから、と言った方が正しいのかも知れない。


「嘘……」


 誰が気づけたであろうか。自分達の立っている真下に巨大な地下空間があっただなんて。いくら感の良いベルファークやラナでさえもこの空間については知らない様だった。つまりこの地下空間への入り口は少なくとも目に見える場所には無い。瓦礫の奥底に沈んだか、こうして穴でもあけない限り入れないのか。そう考えているとネシアが隣まで来て同じく覗き込んだ。


「うっわ。かなり深くまで落ちたみたいだね……。無事でいられるかどうか――――」


「ユウなら無事に決まってる! あいつはこんな程度じゃ死にはしない!!」


「お、おぅ、結構信頼してるんだね……」


 ネシアの不吉な物言いにそう返すと当たりが強かったのか少しばかり怯みながらも呟いた。しかしそうは言う物の無事ではないだろう。だってあのリザリーとかいう吸血鬼と一緒に落下してる訳だし、もし互いに生きているのならすぐにまた殺し合いが始まるはず。そうなれば能力の差で圧倒的に吸血鬼が有利だ。早い所助けに行きたいけど……その手段がどこにもなくて。


「どうやって助けるの?」


「ンなのわかんないわよ。せめてユウみたいな武装があればいいんだけど……」


 そう呟きながらもユウの武装が吹き飛ばされてしまった所を見つめる。二人が最後に衝突した時、ユウの意識から双鶴が抜けてしまったのか、双鶴はかなりの勢いで遠くの方まで吹き飛ばされてしまった様子。持って来てあげたい所だけど、吸血鬼に囲まれてるかも知れないこの状況下で下手には動けない。しかし助ける手段と言えばそれくらいしかない訳で。


「とにかくあいつを助ける手段は双鶴を持ってくる事だけよ。今は早く――――」


「危ない!!!」


 いち早く双鶴を持って来て接続してもらい脱出してもらおうと動き出す。けれどネシアがそう言いながらも突如飛び込んで来て、アリサはネシアに抱きしめられながらも一緒に地面へ叩きつけられる。そして、アリサが立っていた所にはナイフが鋭く差し込まれて。

 それだけで敵が来たんだって分かった。だからナイフの刺さった方角から相手の位置を特定すると、電柱の上に立っている謎の男がこっちを見下ろしていた。


 真っ黒な髪に深紅の瞳。全身をボロボロの黒い布きれで覆っては同様に古ぼけた赤いマフラーを巻いている。そして何よりも目を引いたのが腰にある幾つものククリナイフと、太腿にある幾つもの投擲用の黒い小型ナイフ。一昔前の暗殺者を思わせる装いに二人はじっと見つめていた。

 やがて彼は腰からククリナイフを両手の逆手持ちで振り抜くと二人を見下ろしながら言う。


「人間を発見……始末する」


「何か面倒くさそうな奴が来たわね」


「それもかなり手強そうだよ。アリサ、自信ある?」


「何言ってんの。――ユウの重みに比べたら、こんなの全然大した事ないわよ」


 真剣な眼差しでそう言うとネシアは面を食らった様な顔をする。その反応からアリサが無意識にユウを信頼してるんだって自分でも気づかされる。なるべく人は信頼しないようにして来たけど、どうやら二人でいた時間の中で信頼したくなるくらい距離が縮まったらしい。全くどうして、面倒くさく、残酷な話しだ。

 攻撃される前に腰から銀色の筒を取り出して薙刀に変形させる。


 奇襲をするのなら陰から全力で命を刈り取る攻撃をするはずだ。この作戦の一番最初にやられた狙撃の様に。見た目から見ても奴は視界外からの奇襲を得意とするはず。ならば一撃で仕留める為に最大の攻撃を使って当然。それが投げナイフって事は、少なくとも奴のメイン攻撃は魔術ではない。まぁ武器から見て分かる事だけど。

 つまり距離を取りつつ銃での攻撃で奴を殺す事が出来ればこっちの勝ちだ。


 ネシアも同じ様に打算を積み重ねているのだろう。真剣なスイッチが入った様で、鋭い眼差しで奴を見てはじっと黙りつづけていた。

 やがて互いに行動を探り合うと奴は即行で右手を振るう。だからアリサとネシアはそれぞれの銃で即座に照準を向けて発砲するのだけど、奴は眼にもとまらぬ速さで移動しては銃弾を回避する。


「はやっ!?」


 電柱の上から離れた所にある電柱を伝いネシアの背後へ回る。その間が一秒程度である事に驚愕する。普通なら最低でも五秒は掛かるはず。それなのに音もなく高速で飛び回るだなんて明らかに人間では……ああ、そうだった。奴は吸血鬼だったのを忘れていた。

 ならば予想外の事をして来て当然の事。そう言い聞かせて発砲するともう一度飛び上がって周囲を移動する。


「どこだ!?」


「遅い。遅いぞ人間共。――ここだ」


「ッ!?」


 どれだけ視線で追いつこうとしても目で捕捉する事が叶わない。だから奴の速さに翻弄されていると声をかけられる事でようやく背後まで回られてると気づき、咄嗟に振り向いては薙刀で攻撃しようとした。でもその時には振り上げられたナイフで腕を軽く斬られていて。


「ぐっ……!」


「低速な人間共と一緒にしてもらっては困るぞ。人間は脆い。遅い。柔い。弱い。それに比べて俺達は速い。お前達が目で追えぬほどに!」


「っぁ!?」


 直後、どこからか放たれたナイフがネシアの腕を直撃して深くまで突き刺さる。だから血が噴き出ると同時にネシアは微かに態勢を崩した。その隙を逃さず真正面から飛びかかり首を落とそうとする。――しかし、そんな一撃をアリサの攻撃が間一髪で弾いた。


 すると弾かれた衝撃で奴は空中に投げ飛ばされ、足場がない状態でこっちを見るだけになる。そんな彼に向けてAR-15を構えると引き金を引いて腕と太腿に弾を命中させる。

 普通なら人間の出来る反応ではない。だから奴はギョッと眼を皿にすると、落下中の敵に弾を当てるという神業をやってのけたアリサを見つめた。それが出来る理由なんてたった一つ。次にまた飛び上がり背後に回り込んだ攻撃を防ぐと回し蹴りを繰り出しながらも言った。


「確かに人間は弱いわよ。でもね、だからこそ私達は強くなる。知恵を磨く。技術を磨く。そうしてここまで歩いて来たのよ!!」


「ぐっ……!」


 武装のスイッチをONにする。

 回し蹴りを食らわせると奴は怯んで後ずさりし、そこへネシアが銃弾を浴びせる事によって奴に更なるダメージを与える事に成功する。なのに奴は即座に傷を再生させるとまた起き上がって高速で飛び回ってしまう。だからその速度に翻弄されながらも奴を目で追った。


 ――銃で撃たれた程度の傷なら即座に再生される。いやまぁそれでも凄い傷だけど……。なら、それをも越える傷を与える事が出来れば……!


 真意さえ使えればここまで苦戦する事もないだろう。でも二人とも真意なんて力は持ち合わせていないし、だからこそ今までの戦況がユウに依存していたのかを悟る。こんな奴がいてもユウさえいればすぐに片付いていたのだから。

 しかし御託を並べたって何にもならない。故に今打てる最善手を弾き出そうとした。


 今までの戦闘で腕を斬りおとしたくらいじゃ駄目だと言うのは分かってる。再生不能にさせるのなら四肢を根こそぎ斬りおとすくらいしかないだろう。殺すのなら首を刎ねるか心臓と脳を潰すか。どの道簡単にできる事ではない。ソレを行う為の準備をするにも確実に時間が必要だし、それをどうやって稼ぐのかも問題となる。

 せめてネシアの右腕が平気なら。そう考える。


 ――後ろ向きに考えるな! 今は前だけを見て考えて! 今の私達に出来る最善手を……!!


 奴の攻撃を弾きながらも頭を動かした。数回弾いた程度でしかないけど奴の攻撃パターンは一定かつ規則的だ。周囲を飛び回り決して前に着地する事はない。不意を突く為に音もなく背後に回り攻撃するか、視覚外からの投擲で攻撃する程度。まぁ奴の速さと持ってる武器からすればそんな戦術になるのも分からなくないが。

 つまり奴が背後に回った瞬間そここそが攻撃のチャンスだ。

 そう思っているとネシアが肘でつつきながらも喋りかけて来て。


「アリサ、アリサ」


「なに?」


「――やるよ!」


「……!」


 強気な笑みと共にネシアはそう言う。その言葉と表情はいつもネシアが単身突撃する合図みたいな物でもあって、上位レジスタンスに入っていた頃はそう言う度に剣と拳銃を手に敵へ突っ込んで行ったっけ。それが途轍もなく不安だった。でも同時に、その表情が途轍もなく頼りになり、心から信頼出来る事も確実だった。


 もう、見れないと思っていた。ネシアは自分を恨んでいると、そう思っていたから。ここまで絡まって絶縁関係にあったのだ。そうなっても至極当然なはず。けれどネシアはあの時と何も変わらない。何があっても、どんな時でもアリサを信頼し、決して諦める事をせずに前へ突き進み続ける。そのせいであの大怪我をしたと言うのに。

 ネシアがここまで頑張ってるんだ。……なら、昔の自分に戻らねばならない。ネシアと背中合わせで戦い、ごくたまに弱さを零していたあの頃に。


「……ええ。やるわよ!」


 アリサも強気な笑みを浮かべながらそう言った。何も恐れる事はない。やる事は何も変わらないのだから。剣が使えなくたって、銃しか使えなくたって、それは一緒。

 ずっと答えを求め続けていた。これでいいのかという問いに答える為に。でもそんな答えを探し求めている内にここまで来てしまった。リコリスから勇気を貰い、みんなから優しさを貰い、ユウから覚悟を貰いながら。それにユウが必死こいて答えのヒントを見出してくれたんだ。それに応えなければ――――ユウに救われなければ彼の努力が無駄になってしまう。そんなの嫌だ。


 救われよう。今になってようやくそんな覚悟が芽生える。もうずっと強がる事なんてしない。強い者であるなんて真似はしない。弱さを打ち明ける。それすらも強さに変わっていくはずだから。それをユウが教えてくれた。


 だからこそ同時に動き始める。あの時と全く同じように。

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