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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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146  『痛みと痛み』

「あ! お姉ちゃんおかえり~!」


「おかえり~リザ姉ちゃん!!」


「ただいま。元気にしてた?」


 どこかの古びた家の中。ドアを開けた瞬間に子供達がそう言いながら飛び付いて来る。

 これは、誰の記憶だろう。最近流れ込んで来てなかったノイズが鮮明になって来てるって事なのだろうか。その証として流れる記憶には所々にノイズが発生しているし。けれど今はリザリーと戦っているはずだ。それなのにどうして。


 きっと『お姉ちゃん』の一人称視点で記憶が流れているのだろう。視界の右側から包帯の巻かれたボロボロの腕が伸びると抱き着いて来た子供達の頭を撫でて愛おしそうにする。すると子供達は嬉しそうに顔を上げては満面の笑みを浮かべる。

 けれど『お姉ちゃん』は少しだけ子供達と戯れた後に自分の部屋の方まで歩いて行ってしまい、彼らを置いていくかのような態度で閉じこもった。


「何やってんだろ。私……」


 そう言いながらも洗面所の方まで移動する。自分の体を見下ろすと一見軽傷にしか見えないけど、服を全て脱いだだけで至る所にまかれた包帯が目に入る。どうやら『お姉ちゃん』は子供達に心配をかけない為に無理をしていた様子。華奢な体に刻まれた数々の傷は彼女の駆け抜けて来た死線の数を表している。

 やがて鏡の前に立つとその素顔と共に見えない所にまである傷が確認出来た。

 リザリーの全身に刻まれた、過酷な傷跡が。


「あの子達のお姉ちゃんになれる資格なんて、ないのに」



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「――――ッ!?」


 途轍もない衝撃波に体を叩かれて意識を覚醒させる。一瞬の驚愕と共に前を見ると苦しそうな表情をするリザリーがそこにいて、伸ばしている掌から生成される炎はユウの握る二本の剣と激しい衝突を繰り出している。それで全てを思い出した。今はリザリーと最終決戦に挑んでいる最中だったんだって。

 だから気を入れ直して力を入れると微かにリザリーの方が押されていく。


 ――今のは、リザリーの記憶? でもなんで今になって……!?


 どうして彼女の記憶が見れたのかなんて分からない。っていうか本音を言うのなら彼女の記憶なんて見たくなかった。互いの過去を知らないからこそ容赦なく斬れるって言うのもあるけど、何より待ち続けてる人が永遠に返ってこないと言うのは、あまりにも残酷な物だから。


 そうこうしている内に溜りに溜まった衝撃波は行き場を失くして大爆発を引き起こす。だから互いにその衝撃波に吹き飛ばされて地面をボールの様に転がった。しかしユウは細剣を地面に突き立てて即座に起き上がり、リザリーは地面に炎を噴射する事で無理やり体を起こし立ち上がった。それから同時に突っ込んではまた攻撃を始める。


 けれど今のユウは二刀流でリザリーは素手。どっちも両手を使って攻撃できる訳だけど、リザリーの場合は重い攻撃をする度に間を入れなきゃならない。そうなってしまう分手数の差ではこっちが勝っていて、両腕を高速で動かすと剣先は縦横無尽に駆け巡りリザリーに反撃の隙を与えなかった。

 でも、鋭く流れ込んで来る記憶がユウの連撃を一瞬だけでも止めてしまって。


 ――お姉ちゃん!


「しまっ……!?」


 たった一手を外しただけでかなりの反撃を食らう。掌を翳すとそこから大量の炎が飛び出し、それらは爆破として全身を叩いた。だからかなりの速度で吹っ飛び巨大な瓦礫や岩を粉砕してようやく停止する。普通なら死んでいる衝撃でも生きているのは真意のおかげだろう。ほんと、アリサが激励してくれなかったら今頃脳震盪とかで気絶していたかもしれない。


 って、そんな事考えてる暇なんてない。こうして距離を離してしまった以上リザリーには少なからず大技を出す為に準備する時間を与えてしまった。となれば出来る事は三つ。こっちも大技を出す為に突っ込まず力をチャージするか、突っ込んでチャージするまでの猶予を与えないか、逃げに専念して足に力を溜めリザリーの攻撃を見極めるか。そのどれもが簡単ではない上に割り切れる物ではない。

 けれど今のユウに出来る事と言うのなら。


「させるかッ!!!」


 二つ目の突進。ユウはアルスクみたいに火力と力技で勝負するのではなく、テスやエルピスやリコリスの様に手数で勝負をする戦闘スタイルを取っている。圧倒的火力の前では工夫のない手数は無意味。真意で強化されているとは言え双鶴も彼女の全力には耐えられまう。となれば残る可能性はこうする事だけ。

 真意のおかげで剣先のリーチは少しだけ伸ばされている。つまりユウの剣の間合い、その少し先の間合いにリザリーの首が入った瞬間に振れば――――。そう思っていた。でも、振るった瞬間からリザリーの姿は影も形もなくなってしまって。


「なっ!?」


「こっちよ」


 瞬間移動とでも言えばいいだろうか。目にもとまらぬ速さで背後に回り込んだリザリーはそう言いながらも顔面に掌を突き出した。ヤバイ。避けなきゃ。そう思った頃には掌から衝撃波が放たれていて、意識が掻き消されそうになりながらも吹き飛んで行く。


 ――さっきの大技はフェイント!? となれば次は、怯んだ隙を突いて小攻撃を――――。


 そう思い至って剣を振り上げつつも前を見るのだけど、そこにリザリーはいなかった。彼女は高く飛んでは掌の爆破で軌道変換を繰り返し、不規則な動きかつ回転しながら急降下して来る。そうする意味はたった一つでリザリーは掌に溜めた炎を全て放出した。それも回転で威力を極限まで高めた状態で。

 だから双鶴で無理やり自分の体を引きずって少しでも衝撃波に耐えようと工夫する。でも、そのあまりの威力に双鶴すらも呑み込まれてしまって。


「手数はこっちの方が上、なんて思ってるのなら大違いよ」


「くそっ……!」


 それからも絶え間なく攻撃を仕掛け、ユウの思考を悉く逸脱しその隙を攻めて来る。だから次第と大きくなる焦燥に身を焦がして思考をブレさせた。

 リザリーの攻撃は強い上に手数も多い。そんな悪条件の中で必死に考え続けた。


 ――予測してから戦う俺のやり方じゃ間に合わない。俺は既にリザリーの土俵に立たされてるんだ。なら、その土俵をひっくり返す事さえ出来れば……!


 こうなったらもう単純な反応速度と第六感に任せて戦うしかない。元よりユウの反応速度や動体視力は素で凄い方だとリコリスやアリサからも言われているんだ。もちろん今までのトレーニングでそれらを鍛えて来た訳だし、こんな所で負ける訳にはいかない。だからこそユウは気を入れ替えると深読みをする思考に枷をかけて動き始める。

 でも、


 ――また帰って来てね、お姉ちゃん。約束だよ!


「ったく、何なんだよ!!!」


 流れ込む記憶に邪魔されて体が思う通りに動かない。って言うか何で今になって記憶が流れ込んで来る。これも彼女の使う魔術のせいなのだろうか。吸血鬼なんだから出来そうな気もするけど。

 記憶によって動きが制限されながらも順調に反撃を続けた。時には体術も織り交ぜて隙を極力減らし、双鶴も同時に使用して連撃を絶たずに攻撃する。


「随分と苦しそうね」


「そりゃまぁ、お前の記憶を見れてるみたいだし!」


「私の記憶……? それ、まさか真意?」


「っ――――」


 彼女に真意と見抜かれた瞬間に小さく反応する。この世界の住人は基本的に真意を知らない。となれば真意の存在を知っているのは事前に知らされている者か実際に使える者か。どの道リザリーが使っている深紅のオーラも真意みたいな感じだし同じものを使えるのだろう。そう考えるけど、どうやらそこまでの深読みは当たってはいないみたいで。


「まさか、真意を使えるのか!?」


「いいえ。私は真意を知ってるだけ。丁度知り合いに真意の使い手がいてね。……真意は魂から世界に接続して発生させてる。だから、世界を通じて相手の魂にまで接続する事が出来るらしいわ」


「相手の魂に、接続……?」


「アンタが見たのはその影響でしょうね。他人に勝手に記憶を見られるってのはいい気はしないけど」


 リコリスだってそんな事は言ってなかった。となればやっぱり吸血鬼とか人間以外の種族の方がそう言う事に詳しいのだろうか。まぁ、彼女達は剣と魔法の世界から生きているのだから話しとかが受け継がれているのだろう。そう決めつけてある事を質問する。


「……【失われた言葉(ロストワード)】って知ってるか?」


「名前だけは知ってる。でもどこにあるのかは知らない。それ系の噂もないわ」


「そっか」


 しかし帰って来たのは予想通りの言葉。リベレーターはこうして遠征任務をする事はある物の、そこまで遠くに行く事は少ないだろう。となれば【失われた言葉】の情報を収集出来るとすれば交戦する敵からの情報だけ。仮に手に入れたとしてそこからどうなるかは後々考えればいいだろう。

 話したい事はある程度話した。ここからは殺し合いに戻る時間だ。


「それじゃあ――――死んで!!」


「ぐッ!?」


 直後に腹を蹴られて思いっきり吹き飛ぶ。隙を突かれたとは言えかなりの衝撃波に蹲る。こういうのってあまり慣れてないから起き上がるのが苦手だ。

 そうこうして起き上がったとしてもリザリーは既に攻撃の準備を始めていて、右手を空に翳すと漆黒のオーラを纏わせた球体を出現させて見せる。それは漆黒の雷を周囲に放っては空気を張り詰めさせ、瓦礫や土を浮かしてどれだけの威力を持ってるのかを知らせてくれる。


 今更突っ込んだってもう遅い。そう判断して反撃か避けるかの二択を迫られる。でも、見ただけでもその一撃が途轍もない一撃を秘めてるんだって理解し、仮に相殺出来たとしてもただでは済まないと思い知らされる。二本の剣だけで防げるとも思えない。けれどユウは避けるよりも相殺する事を選んで。


「タカハタ・ユウ、だったかしら? 私の人生において、最大最高の我が好敵手に、最上の敬意を以ってこの一撃を捧げるわ」


「そこまで言われると流石に照れるな。……じゃあ俺も、それに全身全霊で答えなきゃな」


 そう言いながらも右腕を引いて剣先をリザリーに向ける。同時に真意を発動させて今までにないくらい輝かせた。今は絶望なんて微塵もなく、希望だけを抱けているのだから。これでもし死んだとしても、死に方としては悔いがない方に入るだろう。まぁ元から死ぬ気なんて微塵もないが。

 やがてリザリーは奥歯を噛みしめると全力で死の一撃を解き放った。だからユウも大きく踏み込むと溜めに溜め込んだ真意を一気に爆発させて超高火力を生み出す。それはリザリーの一撃と真正面から衝突して激しい衝撃波をもたらす。


 好敵手……ライバルか。生まれてこのかたそんな関係なんて持った事がないから少し嬉しくなる。この世界は敵だとしても絶望の名のもとに等しく裁かれる。だから敵も味方も関係なく痛みを共有できるんだ。考える事は皆同じ。それなのに生まれや大義名分が違うと言うだけで。


 直後、ユウの一撃がリザリーの一撃に風穴を開けて純白の一閃を走らせた。まだ完全に相殺出来た訳でゃない。今は一点集中で一時的に風穴を開けられただけ。でも、それで十分だ。

 右の剣での攻撃が終わった。となれば左の剣で攻撃を繋げるのは当然の事で、リザリーの持っていた漆黒の剣に真意を纏わせるとその風穴の向こう側にいるリザリーへと純白の一閃を解き放つ。するとユウの一撃はリザリーの元へと伸びて行って――――。


 次の瞬間、ガス爆発をも思わせる超巨大規模の爆発が発生する。

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