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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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143  『命を賭けて』

 みんな、ただじっと見つめていた。体に乗せられる途轍もない殺意に体を硬直させては顎すらも動かす事が出来ずに人影を見つめる。真っ赤な瞳をこっちに向け続ける彼女の姿を。もちろんユウだって咄嗟の事に反応出来ず驚愕しながら見つめていた。

 ありえない。その一言に尽きる。だってユウ達がいた作戦区域はみんなで捜索活動を行っているはず。となれば見つかるのは当然のはずなのに、どうしてここに。そう思った時には既に体は動いていて。


「――――っ!!」


 並列展開される幾つもの魔術。それに対抗すべく咄嗟に撃ち放つ真意の弾丸。M4A1の弾丸は真っ直ぐに放たれた幾つもの魔法に接近していき、真正面から衝突しては激しい衝撃波を撒き散らし硝煙を発生させる。事前に奴らの魔術の対策法を思いついていたからよかったけど、真意の銃弾で対応可能と気づいていなかったら今頃丸焦げであっただろう。


 と、大事なのはそこじゃない。仮に真意の弾丸が届いたとしても彼女は絶対に跳ね返す。そんな確信を得る事が出来たからこそユウは咄嗟に双鶴を起動させ腰から剣を引き抜き走り出した。背後から声をかけられるも当然止まれる訳がなくて。


「ちょっ、ユウ!?」


 真意で強化した足で思いっきり踏み込む。すると踏み込んだだけで地面には亀裂が走り、その部分が微かに抉れていった。やがてその脚力を真下に向けると体は大きく飛び上がって硝煙の中へと突っ込んで行く。そして大きく刃を振りかざすと硝煙の中から出て来た彼女も大振りな動作で刃を振るっていて、真正面から激突すると周囲の硝煙を全て吹き飛ばすくらいの衝撃波を発生させる。

 けれど驚愕したのはその威力ではなくて。


 ――真意の刃でも弾けない!?


 普通ならこれで大きく弾けるはずだ。そこに真意の銃弾を叩き込めばそれで終わり。なのに彼女の剣は弾かれるどころか押し返す勢いで力を増していく。さっきとは別物の様な変貌に驚愕しながらも顔を見る。その瞬間、全ての理由を察した。


 彼女の瞳は元々紅色であった。けれど今はそれよりも遥かに深く深淵を描いたかのような深紅。瞳からは無数の筋が流れて普通ではないと思い知らされる。その他にも彼女の気迫や剥き出しになった牙で命を賭けた全力なんだと知らしめられる。だから最終的に互いに弾かれ地上にまで降り立つ。しかし真意の刃でも弾けないのならかなり厄介な事になる。こっちも全力で振るわなきゃいけないだろうし、そうなった時、その戦いに付いて来れる人は数少ない。つまり一騎打ちで決着を付けなきゃいけない訳で。


「――全員、周囲の警戒に当たれ! こいつは俺が足止めする! ここにやって来たのがこいつだけだとは限らない。囲まれてるのは、俺達かも知れない!!」


 そう叫ぶと防御を固めるのと同時にみんなを離れさせて孤立した状況を作る。もっとも、アリサとネシアはユウの背中をじっと見つめていたが。途轍もなく重い物をたった一人で背負いながらも彼女と向き合う。ガリラッタは一人で抱え込もうとするのがユウの悪い所だと言っていたけど、これに限っては誰にも背負う事が出来ない物だ。それこそ真意を使えるユウにしか。


「あら、随分と容易く孤立させてくれるのね」


「俺達が全力で戦ったとして、ここに介入できる人はいない。ならいっその事大暴れした方が得だろ? それに、大暴れして功績を掻き消すのは俺の専売特許だし」


 軽口を叩き合いながらも必死に考える。奴をどう対処しどう倒すのかを。きっと簡単には倒されてくれないだろう。となれば残る方法としてユウも命を賭けなければならない。次大きく使えば命の保証がない真意を、全力で。分かっていて自ら激痛に飛び込むのはそう容易ではない。容易ではないからこそそれ相応の覚悟が必要となる。ならばユウの抱く覚悟はたった一つだけ。


 剣先を彼女に向けて間合いを測る。彼女も同じ様にして間合いを測った。互いに佇む中静寂はそよ風を連れて来て、ユウのボロボロになったブラウンの上着を。彼女の長くウェーブの掛かった灰髪と黒い服装、そしてドクロのスカーフを軽く煽ぐ。そして最後の時間稼ぎとして名乗った。


「……リベレーター第十七小隊所属、高幡裕」


「ノア・ドミネーター一番隊大隊長、リザリー」


 すると彼女……リザリーも名乗ってくれる。だから少しばかりでも会話の通じる相手と知って一安心した。まぁどっちにせよ安心できる状況ではないのだけど。やがてリザリーと目を合わせると周囲の空気を震わせた。互いに命を賭けた殺し合いなのだから相手を殺すつもりでやらなきゃいけない。だってこれは、ユウが負ければアリサ達が。リザリーが負ければ仲間が死んでしまうのだから。

 互いに負ける訳にはいかない。故に腰を低くした瞬間から飛び出した。


「「――――ッ!!!」」


 息を合わせて刃を振りかぶると輝くステラの花弁が舞い散り、リザリーからは深紅のオーラが舞い散って互いに激しい衝突をした。それも真正面からぶつかっただけで周囲の地面が抉り飛んで行ってしまうくらいに。その衝撃波に目を細めたアリサとネシアは呟く。


「あれがユウ君の力ってやつ!?」


「そう。何か真意とかって言ってた。でもあいつ、あのまま使ったら……」


 ――確実に死ぬ。その前に決着を付けなきゃ。その為には短期決戦で全てを出しきるしかない!


 上限を設定するのなら十撃以内に決着を付けたい所だ。それ以上真意を使い続ければ命の保証はない。文字通り命を削って戦うしかないだろう。でも、リザリーだってそうしているはずだ。仲間を守る為に自ら命を削って戦ってる。その覚悟があるからこそここまで載り込んで来たのだろう。なら、その覚悟をもへし折って相手を殺す覚悟くらいしなきゃ、彼女には絶対に勝てない。


「らあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


「っ!?」


 咆哮しながらもギリギリで刃を受け流し回転した遠心力を使い攻撃。高速で撃ち出したから結構自信があったのだけど、リザリーは脊髄反射で受けると微かに骨の軋む音を響かせつつも必死に耐え続けた。歯を全力で食いしばっては普通なら潰れて当然の攻撃を堪え続ける。それだけでも普通じゃない覚悟でここにいる事が伝わって来る。つまり狂ってるって事だ。まぁ、敵陣ど真ん中に単身突撃をかましてるのだから当然な気もするが。

 やがて刃を滑らせて受け流すと反撃に転じる。


 その攻撃を間一髪で回避しては地面に着地した瞬間に攻撃し、振り向きざまに刃の先端をリザリーへと叩き込む。しかしその一撃を受け止めた瞬間から背後に受け流された衝撃波が駆け抜け、土埃を発生させながらも空気を裂いて向かいの廃ビルまで突っ込み爆破の様な衝撃波を放つ。そしてリザリーは何度か回転するとその遠心力を殺さず攻撃。真意で動体視力さえも強化されているのか、反射的にギリギリの距離で受けては同じ様に衝撃波を背後へと受け流す。それだけでも死を実感させる程に。


 直後に懐まで踏み込んで急接近する。こんなパワーを好き放題撃たせる訳にはいかないし、背後にはまだアリサやネシアがいる。そんな状況で攻撃を許す訳にはいかない。だから早く倒さなきゃいけないのだけど、リザリーはその瞬間からわざと体を仰け反らせて真意の刃を躱す。

 それから飛ぶ斬撃と化した一撃は背後のビルを切り裂き、リザリーはそのまま後転して手元を蹴り上げるとその隙に心臓を突こうとして来る。だから双鶴で軌道を逸らし肌を掠めさせる。


「あら、そんなモンかしら?」


「全然!」


 咄嗟に双鶴にも真意を乗せると持てる全ての手段を尽くして攻撃を始めた。でも傷が回復しても疲労はまだ残っているし、精神的疲労も未だ残り続けている。そんな中で彼女に勝てるかどうか。――いや、勝たなければいけない。勝てなきゃリザリーはみんなを殺しまわり同胞を殺した報いを受けさせ、仲間や部下を守る為に人類を滅ぼそうとするだろう。そんな事、絶対にさせない。


 とはいってもやっぱり有言実行はかなり難しい訳で、ユウが全力を出したとしても実力が均衡するのでやっとだった。となれば可能性はたった一つ。どちらの気力が先になくなるかで勝敗が別れるだろう。

 互いに負けられない物がある。それを理解しているからこそ彼女を殺してでも進むしかない。


 けれどそうこうしている内に設定した上限であった十撃目はあっさり終えてしまい、そこから先の攻撃は命の保証が無くなってしまう。予想通り真意の反動は十撃目から跳ね返り何かが体を蝕んで行く。それももう一度吐血してしまうくらいに。


「ッ――――」


「もう限界? ならいいわ。苦しまないように、一撃で!」


「だが断る!!」


 その隙に攻撃を叩き込もうとするから意地でも抵抗し、剣の塚で刃を受けてはその部分を破壊されながらも剣先を頬に掠めさせる。するとリザリーは自分の血を見て微かに微笑んだ。それからどうやらスイッチが入った様で、口元に笑みを浮かべながらも魔術を織り交ぜた連撃を放ってくる。今までよりも強力な一撃を連続で。


「さぁ、あなたはどこまでこの攻撃に耐えられるかしらね!」


「うっそ!?」


 普通に炎を織り交ぜての攻撃ならまだマシだったのかもしれないけど、彼女の場合は隕石をも想像させるような攻撃と共に刃を振り下ろして来るから一層タチが悪い。そのせいで視界にはリザリーの他に炎しか映らなくなる。かなり絶望的な光景だけどその対策方法は既に会得している訳で。

 双鶴を第二武装に変形させ真意を纏わせると隕石に真正面から激突させる。しかし完全に防ぐ事は叶わず、抜けて来る炎の欠片を真意を使わず雷を纏わせた剣で撃ち落とした。


 にしても凄まじい火力と衝撃波だ。今は双鶴があったからこうして対応出来ている訳だけど、これがなかったら今頃ぺしゃんこになっていたはず。そんな事を思いながらも炎の中を突っ切って現れたリザリーに真意の刃で応戦する。けれどそのほとんどが弾かれてしまい、挙句の果てには反撃まで食らってしまう。やっぱり真意の反動と言うのは尋常ではないらしい。


 ――駄目だ。このままじゃ……!


 リコリスはまだ見つかっていない。だからみんなが今必死になって捜索しているはずだ。イシェスタやガリラッタだって吸血鬼と戦いボロボロになっているはず。アリサやネシアだって同じくそうで、テスさえもやられる可能性が高い。そんな最中にリザリーが現れたらどうなるだろう。


 ――リザリーは全てを……文字通り命を捨てる覚悟で戦ってる。そんな相手に、たかが小さな正義だの希望だので勝てる訳がない。勝つのなら、相応の物を捨てなきゃならない。


 リザリーの連撃に圧倒されながらもそう考える。ユウはまだ命をギリギリ拾えるか拾えないかの距離で戦っている最中だ。けれど彼女はそんな次元には立っていない。仲間を守る為。同胞の殺めに報いる為。命を投げ捨てる覚悟で戦ってる。そんな相手に希望などで勝てるわけがなくて。

 ならば、こっちも。


 ――ごめん。リコリス。


 脳裏でそう呟きながらも倒れそうになった体を起こす。そして真意の刃を振りかざした。仲間を守る為に。同胞を殺した事に報いる為に。何より、死なない為に。

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