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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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141  『掴めたモノ』

「……そうだった。あいつの願いは、誰かを守る事だっけ。なら、俺がそれを叶えるだけ」


 硝煙の中で腕を伸ばし虚無を掴む。何もない訳じゃない。掴む物が何もなくたって、そこには願いや分け与えられた希望が握られているんだ。ユウとリコリスがくれた、一度手放してしまった希望を。もう一度この手で掴む事が出来たんだから、今度は絶対に離さないようにしなきゃいけない。だってガリラッタはもう十七小隊の一員なんだから。


 意識が遠のく中で重い体を起こす。視界が掠れたって問題ない。真っ直ぐに見据えればいいだけだ。眼前に居座る敵だけに集中し、それ以外の全てを無視し、命の全てを賭けて一撃を放つ。何度もやって来た得意分野だ。


 こんな絶望的な世界だ。希望となれるのは本当に難しく困難な道のりなのは間違いない。一度でも折られてしまえば、自分の命なんてどうでもいい。そう思ってしまうくらい絶望してしまうのだから。ガリラッタだってそう思った。自分が死んだ所で何かが変わる訳じゃない。悲しんでくれる人はもういないって。でも、今は違う。


「全く、あいつらは本当に手の焼ける奴らだ。――俺がいなきゃ、誰が武装のメンテナンスをするんだよ」


 震える足で立ち上がる。十七小隊で特殊武装を専門的に扱えるのはガリラッタしかいない。そんなガリラッタが死んでしまったら誰も武装のメンテナンスを出来ないし、それが出来なきゃ戦場で武装が使えない状況に陥ってしまう。みんなを死なせない為に武装があると言うのに使えないんじゃ本末転倒どころの話ではないじゃないか。

 今はまだ死ねない。みんなを守らなきゃ、イサエルの叶えられなかった願いを叶える事が出来ないんだから。


「この腕章に誓って、俺は負けない。負けるのはお前の方だ!」


「奇遇ですね。私もこの紋様に誓って負ける訳にはいかない。負けるのはあなたの方です」


 硝煙の中で互いに狙撃銃を構える。まだ冷却は完全には終わっていない。通常の一撃なら何とか耐えるかも知れないけど、火力調整のリミッターを外せば絶対に壊れるだろう。それでもガリラッタはリミッターを外すと一撃必殺の火力を生み出す。当然、相手も同じ様に一撃必殺の火力を生成した。


「「――――っ」」


 それを互いの息が合った瞬間に解き放つ。すると果てしない衝撃と共に一際大きい巨大な深紅の炎が放たれバレルはその加速と火力に耐え切れず粉々に破壊されてしまう。奴も同じ様に巨大な蒼白の炎を撃ち出すと、二発は耐えていたバレルが完全に破壊され本体の方にも亀裂が走る。これでどっちの攻撃が高火力なのかによって生死が分けられるだろう。どっちが勝つかどうか。――奴はそう考えているはず。だからこそ、ガリラッタはその隙を突いた。


 神速で放たれた銃弾は真正面からぶつかる事はなくギリギリの距離で真横を通り、その風圧でかなりの衝撃波が生まれる。直後に互いに通り過ぎては相殺されずに向かっていく。

 それだけじゃない。弾丸は互いに大量の炎を纏いながらも発射されている。だからギリギリの距離まで接近すればするほど互いの炎を利用して加速し、更にはその間に生まれる風圧すらも炎と共鳴し超加速が生まれる。故に互いの弾丸が通り過ぎた頃には神速が超神速に進化して互いに吹き飛んで行った。


「なっ!?」


「これが、希望との差だよ」


 迫り来る超巨大な蒼白の炎を前にそう呟く。当たれば確実に死ぬ銃弾を前にして。

 ガリラッタと奴の最大の違いは希望を抱いているかどうかだ。心を持っているのなら一度でも折れてしまうと高確率で希望は持てない。それはガリラッタも同じだ。でも、リコリスとユウから希望を貰い受ける事が出来たのだ。その希望が自ら生まれた物じゃなくても、確実に輝く物なのは変わりない。


 だからこそ死ぬ事は出来ない。自分の攻撃も相手の攻撃も加速しているのだから受け流す事は不可能。食らうしかない。なら、ほんの僅かでも生存出来る可能性に賭けたい。

 バレルは既に壊れた。仮にもう一度引き金を引いたとしても炎は暴走し銃身は壊れるだろう。そうすれば奴の攻撃とのダブルコンボで死は免れない。しかし、その爆発で目の前に迫る攻撃の軌道を微かにでも逸らす事が出来るのだとしたら。


 迷いなく引き金を引いて炎を暴走させる。直後に手元の銃身は粉々に砕け散って炎が溢れ出し、それを真正面から受け止めた。当然軽いダメージではない。でもその爆発によって蒼白の炎は微かにでも軌道が逸れ、銃弾その物はガリラッタの真横を掠めて行った。しかし超神速から生まれたソニックブームに巻き込まれて大きく吹き飛ばされる。果てしない衝撃波と共に背後のビルまで吹き飛ばされ、体をコンクリートに打ち付けられた。


「ぁ――――」


 炎により服は燃え皮膚は焦げ、ソニックブームによって肉が抉れ血管が切れ出血する。でも死んではいない。いや、死にそうな威力を前にして意識が根こそぎ持ってかれそうになるけど、それでもまだ生きている。少し暴論だけど死ぬのに比べれば瀕死になる方がマシだ。

 やがて背後で蒼白の炎が巨大な爆発を引き起こすとその風圧に押されて地面に倒れ込む。その風圧は硝煙を全て吹き飛ばしようやく見晴らしが良い状況が作られる。


 何も物音がしない所から見て奴はガリラッタの攻撃を真正面から食らったのだろう。となれば、今頃四肢がバラバラになり死んでいるはずだ。「やったか!?」と言ったくなるのを堪えて仰向けになると曇天の空を見つめて呟く。


「……掴んでやったぜ。欠片だし残飯でしかないけど、叶えられなかった願いを」


 曇天の空に手を伸ばして拳を握る。かつての戦友の事を思い出しながら。

 足掻いて足掻いて足掻きまくって、ようやく手に入れたのだ。本当に欠片でしかないしむしろ掴めたかも分からない程だけど、それでも確実に掴む事は出来た。だからそれに少し満足して倒れ込む。でも決して気を許してはいけない。この負傷で少しでも気を抜けばきっと死ぬだろうから。


 きっと爆発音が止んだのを機に駆けつけてくれたのだろう。複数の足音が駆けつけてくれている。それも機械音と共に。だからリベレーターが助けに来てくれたんだと察した。

 やがて多くの人に囲まれて応急措置が開始される。その中で呟いた。


 ――いつまで続くかなぁ。この奇跡が。


 そのまま意識は遠ざかる。遥か彼方まで。最悪、もう二度と届かない所まで――――。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「え、地上部隊との合流?」


「そうです。私達の作戦はあらかた終了しました。ので、ユウさん達は負傷者を連れて一時後退をお願いしたいんです。それにユウさん自身もかなりボロボロですしね」


「あ~……」


 ラナにそう言われながらも自分の体を見下ろす。確かに凄いボロボロだし、死闘に死闘を重ねた結果包帯だらけになっている。とてもじゃないけど戦えそうななりではないだろう。アリサもユウの姿を見て状況に頷いた。ラナの言う通り負傷者を連れて下がるのが賢明かもしれない。だからこそ彼女の提案を受け入れた。


「……分かりました。俺は最低四人は運べるので、他の負傷者を」


「おぉ、流石元移動用の武装ですね。ではあの人とあの人と……」


 そうやってラナが運ぶ負傷者を選択する中、ユウは戦火の渦を巻く街中を見た。現在もリコリスの捜索は続いている。出来ればそれに参加したい所だけど、またみんなに心配をかける訳にもいかない。ここはみんなを信じて自分は後衛に徹するしかないだろう。まぁ、傷が治ればまた戦線に飛び出すだろうけど。そんな会話をしているとテスが言う。


「じゃあ合流するまでの護衛は俺がするよ」


「え、いいの? でもリコリスは……」


「大丈夫だ。簡単に死にゃしねぇよ」


 するとそう言って先に歩いて行く。だからユウは少しだけ悩んでから自分で頷き、負傷者を双鶴に乗せて移動し始める。その背中をアリサはじっと見つめていたのだけど、ラナが彼女の背中を叩くとアリサも後退する様に行動だけで伝える。アリサの事だから否定するかと思いきや今回に至っては妙に協力的に後退を始めた。

 それから小走りで地上部隊の方まで向かうと軽口を叩く。


「……アリサはてっきり意地でも動かないと思ってた」


「私だってそこそこの負傷してんのよ。それに連戦で疲れたし、リコリスも死なないだろうから休もうって訳」


 さり気なくリコリスを信じてると言いつつも一緒に足並みを揃えてくれる。何と言うか、今回の戦闘を通してアリサと少しだけ距離が縮まった気がする。だって前だったら遠慮なしに置いてかれるだろうし、ここまで素直に話さなかっただろうから。と言っても態度やアメリカンジョークは一向に減らないままだけど。それでも距離が縮まったのなら上出来だろうか。

 そうしていると地上部隊が戦闘していると思われる所まですぐに到着し、彼らがどれだけの勢いで進軍していたのかがよく分かった。


「あ! もしかして空挺部隊の方達ですか!?」


「そうだけど……機械生命体は?」


「ここら一帯の討伐は既に終わってます。ちょっと拍子抜けでしだけど、安全は確保されてますよ。こちらへ来てください。医療班まで案内します」


「ああ、頼む」


 すると先頭にいた隊員がユウ達の状況を見て作戦の進行具合を即行で察してくれる。だから状況を説明しながらも案内してくれるのだけど、ユウ達はその状況に少し違和感を覚えて頭を回し続ける。吸血鬼が出ないのなら納得できる。吸血鬼達はユウ達の作戦区域に集まっていた訳だし。でも重大なのは既に一帯の討伐が終わっている事。いかにタイタンが有能であれどもう機械生命体の討伐が終わってる事なんてないはずだ。だって侵略作戦の時にあれだけの数を見せたのだから、絶対に残っているはず。


 ……と、そこまで考えるのだけど、状況はかなり一変する。と言っても生死に関わる様な状況ではなく人間関係に対しての状況なのだが。

 どうやら医療班は移動式の乗り物に集まっているらしく、テントみたいなのに分かりやすく赤十字が描かれていた。ちなみに下の動く乗り物はキャタピラ方式の乗り物になっている。なんか、こんな複雑な乗り物よく作ろうと思ったなってつくづく思う。

 やがてテントを潜ると予想外の人と顔を合わせる事になる。


「「あっ」」


 相当無茶をしていたのだろう。腕が包帯まみれになっていた、ネシアと。

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