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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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140  『呪縛』

 数年前。某日。

 ……これは、ユウにも話してない事でもある。

 その日はガリラッタにとって初めての大型遠征任務だった。作戦内容は機械生命体の一斉討伐。この頃のガリラッタはまだ正式にリベレーターの一員ではなかったのだけど、当時開発した武装の唯一の使い手として作戦に参加していた。もちろんベルファークの要請に任意で答えた形で、だ。前々から戦闘は何度も行っていたから戦う事自体は何も感じなかった。


「よぉ、ガリラッタ」


「イサエル!」


 それに、こういった作戦に参加すると戦友にも会えるし、何も悪い事だらけという訳ではない。機械が唯一の友達であるガリラッタにとって彼らは人生を彩る色彩でもあった。

 深紺の髪を掻き上げた男――――イサエルは肩をポンポン叩くと言う。


「今回も期待してるぜ。なんたってお前の武装、すっげーもんな!」


「あんま期待しすぎんなよ。機械だって常に万能って訳じゃないんだ。前回だって何度弾が詰まりそうになった事か……」


「はははっ。でも改良されたんだろ? ソレ」


「まぁな。コッキング動作と火力調整を少しだけ弄っただけだが」


 手に持ったのはWA2000。と言っても大部分が通常ではない構造になってるし、構成する素材のほとんどが純正の機械生命体の装甲だ。彼らには特殊な金属を使ってると言っているが。最初はただの狙撃銃であったというのに、いつの間にこんな魔改造を施されてしまったのだろう。気が付けば現状まで進んでいたのだから集中と言うのは恐ろしい物だ。まぁ、全部ガリラッタ自身の手で作ったのだけど。


「しっかし、よくもまぁあんな火力の狙撃が出来るよなぁ」


「この銃はお前の案から生まれたんだぞ。俺から言わせりゃよくそんな事を思いつくなぁって話になる。普通銃弾の中にニトロぶち込もうなんて考えるか?」


「それに耐える狙撃銃を作ったお前も大概だけどな!」


「だってワクワクしたんだもん」


 銃弾というのは通常なら火薬が仕込まれていて、引き金を引き後ろの平な部分を叩く事によって火花を発生させ、その衝撃で弾丸を飛ばし薬莢が残ると言う仕組になっている。でもイサエルが考え着いたのは銃弾の中にニトロをぶち込んで火力をマシマシにしようぜっていうぶっ壊れた物だ。でもそれを普通の銃でやれば銃身が壊れ、耐えたとしてもあまりの衝撃にバレルが破壊されてしまう。しかしそれを耐える素材があれば途轍もない火力が発揮される。

 そこで思いついたのが機械生命体の装甲と言う訳なのだけど……。


「とにかく期待してるぜ。ガリラッタ」


「だぁ~もう! わかったよ期待してろよ! 絶対こいつで大型に風穴開けてやるんだから!」


「その意気込みだ」


 そう言うとイサエルは親指を立てて拳を高く上げる。だからガリラッタも同じ様に左手で同じ事をする。振り返ってもないのに彼はガリラッタの行動を読んでいて、それ以降は何も言わずに走り去って行った。まぁ、これも彼なりの激励なのかも知れない。ガリラッタにとって唯一の親友はイサエルしかいない。彼もソレを分かっているはずだから。


 でも、現実はそう甘くはなかった。何故ならこの世界の絶望は誰にでも等しく希望を奪い去るのだから。当然ガリラッタだってその輪に入る事となる。この世界に生まれて初めて出来た親友を失うと言う、この世界の当たり前に。


 分かってはいた。戦う以上誰かを失う事は必然なんだと。けれど自分なら守れると思い込んでいた。自分の作った道具がみんなを生かすんだって。自分の作った道具を使い、自分がみんなを守るんだって。しかし現実は残酷だ。どれだけ絆を結んだって全て綻んでしまうのだ。それこそあまりの辛さに自殺してしまった方がマシなんじゃないかって思ってしまう以上。


「イサエル! おいしっかりしろ! おい!!」


「がり、ら……ぁ……」


 人間は脆い生き物だ。銃弾一発でも致命傷になるし、腕が落とされれば治癒魔法を使わない限り治る事は決してない。だからこそ機械生命体の一撃を受けてしまうだけでも瀕死になってしまう。今すぐにでも治癒魔法を行わなければいけない程に。でも、戦場に治癒術士なんかいる訳がなくて。


「待ってろ! 今すぐに後衛に――――っ!?」


 片腕の取れたイサエルを担ごうとするのだけど、背後から大量の熱や風圧が流れ込んで来て吹き飛ばされる。だから何が現れたのかと確認するも、視界の先には大型の機械生命体がこっちを見下ろしていて、真っ赤に光る電子の目を向けていた。

 彼を運び大型から逃げるなんて絶対に不可能だ。出来る訳がない。だから自分でどうにかするしかないのだけど、ある物を見た瞬間から凍り付いてしまう。


 顔だ。奴の足の裏にあった何人もの潰された人の顔。その他にも胴体や内臓がべっとりと張り付いていて、その足で何人もを踏みつぶして来たんだと察せる。でも、今は絶対に死ぬ事なんか出来ない。だから狙撃銃の火力調整のリミッターを外して深紅の炎を発射させる。すると思いのほか高威力で大型の胴体を撃ち抜き、たった一撃で内側から爆破させ破壊する事に成功する。その反動で周囲には大量の硝煙が発生される中でガリラッタはイサエルを抱えて走り出す。


「ッ……!」


「無茶、するな。休め」


「休める訳ないだろ!? それに作戦はもうほとんど完遂したようなもんだ! ここで撤退したって誰にも文句は言われねぇよ! 言う奴がいたら俺がぶん殴ってやる!」


「殴っちゃダメだろ……」


 そんな会話をしつつも必死に後衛に待機してる治癒部隊まで運ぼうとする。けれど傷から見て既に手遅れなのは百も承知。腕を失くし胴体を抉られ、今生きているのがやっとなはずだ。既に目は生気を失くしているし動きもない。だから足がつっかかって倒れてしまう。


「おい、死ぬなよ。こんな所で死ぬんじゃねぇぞ!」


「ガリラッタ。俺は……」


「何も言うな! 必ず助けてやるから、だから……!」


 その瞬間に彼は口から血を吐いて大きく吐血する。その血が頬や服にべっとりと付いて思考を停止させられる。彼は口の端から血の糸を引くと呼吸を浅くして目から光を消失させた。本当に死ぬんだって自覚させるくらいに。


「おい、まて。待ってくれ。俺は――――」


「言いたい、事がある」


 イサエルにゆっくりと手を伸ばすのだけど、彼は伸ばした手をしっかりと握りしめるとそう言った。もう目の前が見えていないはずなのに。感覚だってないはずなのに。全身が冷たくなっているはずなのに。それでもイサエルしっかりとした言葉で言う。


「当たり前に、呑まれるな。生きてくれ。お前にはもっと、多くの人に……」


「それ以上喋るな。本当に――――」


「いいか。お前は人間だ。機械じゃない。だから、それを誇れ」


「……!」


「ったく。お前は本当に、いつまでも……」


 そう言うと握っていた手は音を立てて地面に落ちた。それ以降は言葉も、息も、鼓動も、何もかもが消えて行く。魂が消えていく。……分かっていた。彼がもう助からないんだってことくらい。でもせっかく初めて出来た親友が死ぬだなんて絶対に認めたくなくて。



 それ以降は、よく覚えていない。



 しかし大切な誰かを失うと言う事はこの世界じゃ当たり前の事だ。それこそ人が生きる為に息をするかのように。それを分かっていたのに、それを経験した多くの人をこの目で見て来たと言うのに、まさかそれが自分にも回ってこようとは。

 ソレを経験した人がどうなるかを知っている。パターンは大体三つだ。絶望して塞ぎ込み戦えなくなる人。大切な人を殺された感情を敵に向け復讐者となる人。そしてこれは本当に数少ないけど、大切な人を失い世界に打ちのめされ、それでも尚立ち上がり歩む事を止めない人もいる。ガリラッタの場合、一番最初のパターンに入る訳で。


 自分なら守れると思っていた。でも現実はどんな自信や希望をも真上から押し潰して来る。そして人って言うのは一度折られれば立ち直る為に時間が必要な生き物で、ごくたまにすぐ立ち上がる人もいるけどそれは覚悟がある人だけだ。だからこそガリラッタは塞ぎ込み工場で無為に機械を作り続けるだけの日々が続いた。現実逃避をする為には、必死に何かを作ってなきゃ頭が別の方向に向いてしまうから。

 そんな時だ。彼女が現れたのが。


「あなたがガリラッタ?」


「――――」


 突如現れた謎の少女。長い銀髪に深紅の瞳で、頭にはピンクのモフモフしてそうな何かを二つ乗っけている。そんな彼女はいきなりガリラッタの前に現れるなり単刀直入に言った。助けを求めてる人に手を差し伸べる様な声で。


「あなたの腕と過去は聞いてる。凄い、残念だったね」


「同情しに来たのなら帰ってく――――」


「そこで、私の所に来てみない?」


 その言葉に反応して彼女を見る。この絶望的な世界の元にいるはずなのに、輝かしい瞳を放ち続ける彼女を。腕の腕章からしてリベレーターなのは確実。それも新しく設立された十七小隊の数字が描かれているし、隊長になるなら数々の死線を潜り抜けたはずだ。その中で多くの人を失ったはず。それなのにどうしてそんな眼が出来ると言うのか――――。

 彼女は続けて話しかける。


「あなたの腕があれば、あなたが思ってる以上の人達を助けられる。私の所に来れば施設もあるし工具も山ほどあるの。――誰かに同じ道を歩ませない様に、一緒に頑張らない?」


「……それって新人勧誘って事か?」


「そゆこと。実はまだ立ち上げたばかりで隊員も少なくてさ。隊員は随時募集中なのです。そこであなたがここにいるって噂を聞いたの。――何より、暗い所にいる人は明るい所に連れだしてあげたいから」


「――――」


 怖かった。希望にも似た光を瞳に宿す彼女が。この世界で希望を抱けばどうなるかなんて知っているはずだ。希望を抱けば抱く程、それをへし折られた時に立ち直れなくなる事も。それなのに決して臆さずに希望を抱き続けている。それこそ、この世界で一筋の光になりそうな弱々しい光を。

 ……でも、もしかしたら、彼女なら出来るかも知れない。かつて一度抱いたみんなを守りたいと言う願いを叶える事が。光はかき消されない限り絶対に自らは消えないから。


「あんたは何の為にリベレーターへ入ったんだ。家族の為か? 自分の為か?」


「ううん、そのどっちでもない。誰かの為だよ」


 その受け答えで分かった。彼女は馬鹿だと。普通、リベレーターへの入隊条件はお金目的や保身目的の事が多い。実際レジスタンスよりも給料や条件が良いからその為に強くなる人もいるし。だからほとんどの人が自分の為であると言うのに、彼女はあまつさえ誰かの為だと言い切った。だからこそ、彼女に賭けてみても良いかも知れないと思ってしまった。

 差し出された小さな手を、ガリラッタは優しく手に取る。


「もう一つだけ聞かせてくれ。どうしてそんな事をするんだ?」


「そうだね……」


 すると彼女は深く考え込んで答えを探す。そんな素振りに見えたのだけど、どうやら答えその物は決まっていたみたいで、どうやら言葉を探していた見たいだった。だからこそ真っ直ぐにガリラッタを見据えると言った。


「大切な人の叶えられなかった願いを、叶える為かな」

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