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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter1 灰と硝煙の世界
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013  『兵士の仕事』

 翌日。

 リコリスが執務室で資料を片付けている時、ふと部屋に訪れたテスは周りを見てから何かを気にするように問いかけて来た。まぁ、その反応からして何に気にしているのかは既に察していたけれど。


「あれ、ユウはどうした?」


「プラン通りにジョギングしてる」


「あいつも大変だな」


 そう言って机の端に乗っけてあったユウの資料を手に取るとソファーに座ってじっと見つめた。普段はあまり誰かの事を気にしないのがテスだけど、今回に限ってユウを気にかけている様だから少しだけちょっかいをだす。


「テスが誰かを気にするなんて珍しいじゃん。どうしたの?」


「言い方……。でもこればっかりは気にするなって言う方が難しいだろ」


 しかし返って来たのは軽口じゃなく真剣な言葉。だから思ったより真剣に考えていた事に面を食らいながらもテスの言葉を聞いた。

 リコリスは訓練中の姿をあまり見てなかったから知らない話であって。


「あいつ、どれだけ疲れてもどれだけ打ちのめされても、俺は大丈夫っつって笑うんだ。――中身もクソもない空っぽの笑顔でな」


「空っぽねぇ」


「既に限界は通り越してる。というかそうじゃなきゃおかしい。それなのにあいつは今もジョギングをしてるだろ? きっと自分の事を見れてないんだ。自分の事を、ゴミみたいに捉えてるんだと思う」


「言い得て妙ね」


「は……?」


 するとそう言ったリコリスに振り向いた。そりゃ、テス達はユウの生きる意味については話してないのだから当然な気もするけど。

 どの道は為すつもりだったのだ。だからこそリコリスは作業を続けながらもユウに付いて話し始めた。


「その捉え方は間違ってない。ユウがどれだけ危険な状態なのか、私も知ってる」


「なら何でジョギングなんか……」


「限界を知らせる為だよ。限界を知らないまま戦う事程不利な物はないからね。まぁ、それが返って更にユウを危険に晒してるのは間違いないんだけど」


「そこブラインドないぞ」


 指先でブラインドを開ける仕草をしながらそう言う。しかしそんなツッコミを無視しつつもリコリスは話し続けた。


「今のユウは生存本能が機能してないの。つまり、自然体で生きたいっていう欲求が沸いてない。だからああやって無茶して頑張るしかないんだよ」


「生存本能が機能してないって、そんなの……」


「あり得ないけど今のユウを説明するにはそれしかない。それはテスも分かったでしょ?」


「まぁ、言われてみればな」


 テスはそう呟いて考えこんだ。

 自分の事をゴミみたいに捉えてる。その例えは確かな事だ。実際にユウは自分の事を大切に見てないからこそ何の躊躇もなく無茶を押し通せるし、テスにそんな例えをさせる様な行動をしている。

 けれどリコリスには一つだけ信じれる事があった。


「だから私は信じてる。ユウがこの世界の人々と触れ合って、変わってくれる事を」


「変わる、か」


 リコリス達だけじゃユウを変える事なんて出来ない。だからこの世界の誰かと触れ合わせる事で何かが変わるんじゃないか。絶対にそうなるって訳じゃないだろうけど、でもそうなる事を信じ続けていた。

 やがてテスが問いかける。


「俺からも言わせてもらうが、リコリスにしては珍しく肩入れしてるんだな」


 するとリコリスは黙り込んで言葉を探す。

 どうして肩入れするのかは自分自身でもよく分かっていない。ただ心配だからってう理由もあるけど、でも、違う答えがある気がするのだ。だからそれを思いのまま口に出す。


「私もよく分からない。心配してるんだと思う。そもそも異世界から転生して来て~なんて話されたらね」


「それを信じる方もどうかと思うが」


「魔眼が反応したんだから仕方ないでしょ。でもその他にも違う答えがある気がしてたまらないの。ユウには何かある様な気がして……」


「珍しいな。リコリスが即座に語源化出来ないなんて」


 自分で言うのもなんだけど、普段は即座に思った事を言うからよく話す人って言われる。でも今回に限ってはこの感情を言葉にする事が出来なくて、リコリスは大いに迷っていた。

 するとテスはさり気なく資料の陰に置いていたプリンを取りながらも部屋を出て行こうとする。


「……まぁ、考えたきゃ考えればいいさ。俺達もユウの事は心配なんだから」


「そうだね。でも一つだけ言いたい事があるの」


「なんだ?」


「――プリンを食うなら自分の食え!!」


「させるか!!」


 そうしてリコリスの撃ち出したペンを手持ちのスプーンで弾くと、リコリスのプリンを賭けて激しい争奪戦が始まったのであった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 既に限界を通り越した体を引きずって街を走る中、朝焼けに照らされながらも住人の動きを見つめていた。見た目が近代的なだけで住人の動き自体は如何にも異世界って感じで、朝っぱらから店を開いている所があれば夜にしかやってないバーみたいなお店も存在する。

 何よりも目を引いたのは元気に話し合う人々だ。誰一人としてつまらなそうな顔をしないで街を行き交っていた。


 だからこそユウは不思議に思いながらも走り続けるのだけど、建物の裏から飛び出して来た人影とぶつかって思いっきり前に倒れ込んだ。だから即座に起き上がると後ろには同じ様にして転んだユウと同じ黒髪黒眼の少年を見た。

 すると彼はゆっくり起き上がりつつも言う。


「いってて……。わりぃなにーちゃん」


「何その酒場のおっちゃんみたいな喋り方……」


 服装はいかにも戦闘服みたいな物で身を包み、その右腕には腕章が付けられていた。リコリス達が付けていた物と同じところを見ると彼もリベレーターなのだろうか。でも、どうしてこんなところに別の隊のリベレーターが? そんな疑問は即座に明かされる。


「丁度良かった。ここって何の隊の管轄区域なのか分かるか?」


「えっと、十七小隊だけど……」


「助かる。迷子になってたから聞けて良かった」


「えっ?」


 迷子なのは分かる。腕章にも【第五中】って書いてある所から見て第五中隊の一員なのだろう。それにしては迷子なのに路地裏から出て来るなんておかしいんじゃないのか。

 だから警戒しつつ聞くと予想とは斜め上の返答が返って来る。


「で、でも大通りを進んで行けばいいんじゃ……」


「まぁ~俺方向音痴でさ!」


「いやそうはならんでしょ。大通りと路地裏を間違えるって天才の領域だぞ」


 すると彼は爽やかな笑顔で豪快に笑って見せる。意外と愉快な性格なのだろうか。一瞬にして苦手なタイプの人間だと思いつつも彼の質問に答えた。


「……こんな時間からジョギングか?」


「まぁね。リベレーターに入る事を目指してるから」


「え、ほんと!?」


 そう言うと面倒くさい所に火を点けたみたいで彼の眼が光輝いた。それから距離を詰めて輝く瞳でユウを見ると何度か質問する。

 やっぱり苦手なタイプだ。


「動機は? 兵科は? どの隊に入るつもりなんだ!?」


「と、とりあえず十七小隊に入ろうと思ってる。色々と世話になってるし……」


「十七小隊? って事はお前見習い兵なのか?」


「まぁ、そうなる」


 リコリスから聞いた話じゃ一つの隊が人材を育てるのは貴重と聞いたけど、本当にそうなのだろう。そう言うと彼は珍しい物でも見た様な眼で見つめて来る。何と言うか、意外と無邪気な性格だ。

 しかしそのまま話しこみそうな雰囲気を押しのけてユウは指摘した。


「って言うか、迷子なんだろ? どこに行くつもりだったんだ?」


「そうだったそうだった。ちょっと十五小隊に用があってな」


「それって四つくらい隣の管轄区域じゃなかったっけ……」


「方向音痴ゆえの事故だ!」


「事故って言ってれば許される問題じゃないと思うぞ」


 意外と深刻な事を自信満々にグッドサインをしながら言い返す。でも用があるのに迷うって大丈夫なのだろうか。何で方向音痴の彼に頼んだのかが気になる所だけど、ユウはジョギングの続きがあるからすぐに手を振って別れると彼とは逆方向に走り出す。


「とにかく気を付けてな」


「おう。にーちゃんもな!」


「俺達ってそんなに歳離れてないと思うけど……」


「口癖だ。気にすんな!」


 そう言うと彼は元気よく走り出しては大通りの方へ向かっていく。……のだけど、早速別の道に迷い込みそうになりながらも慌てふためいて軌道修正した。いや、そこまでやったら最早わざとの領域なのでは。

 危なっかしい姿を見ながらも呟いた。


 ――マジで何であの人に用事を頼んだんだろう……。


 それからユウもペースを上げて元の速度に戻す。時間通りに戻らなきゃいけないのだ。あまり悠長に立ち止まっている暇はない。

 と考えたばっかりなのに、立ち止まらずを得ない現象が起きて咄嗟に立ち止まった。

 だって急に離れた場所にあるビルが爆破したのだから。


「なっ!?」


 突如爆発しては周囲の人々の足を止めさせて悲鳴も上げる。そりゃ急に爆発音が鳴ればびっくりして声を上げても当然だろう。

 しかし大事なのはそこじゃない。ビルの真下にいた人に向って外れた看板が落下していたのだ。だからこそユウは反射的に走り出すと全速力でその人の元へ向かった。やがて飛び込むとユウが下になる形で立ち尽くしていた人を飛ばし出す。


「――危ない!!」


 でもそれだけじゃ終わらず、第二派の爆発を得て大量のガラスの破片が落っこちて来た。流石にこれは無事じゃいられない訳で、せめて守れる人でもと思って自分が盾になった瞬間――――。

 炎の音と熱風が背中をなぞって全ての硝子を吹き飛ばす。


「大丈夫ですか、みなさん!!」


「――――っ!」


 今さっき聞いた声だ。でも彼は火炎放射器なんて持ってなかったし、全ての硝子を吹き飛ばす程の武器も持ってなかったはず。それなのにどうして。

 咄嗟に振り返るとどこから取り出したのか、両手に重そうな重機を装備しながらも駆け寄って来ていた。それも、人々の窮地を助けようとするヒーローの様に。


「あ、さっきの良い人!」


「迷子の人!」


 今さっき別れたばかりの彼は即行で爆破現場に駆け付けたのだった。

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