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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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137  『土壇場の救助活動』

「……これで周囲にいる吸血鬼は全員ですかね」


「やっと、やっと終わった……!」


「最早苦行だったな」


 気が付けば戦闘が終了していて、全員は疲弊して何人かは地面に座り込んだ。テス達もあまりの疲労に倒れ込む。

 あれだけ派手な戦闘を行っておいて死傷者はゼロ人。重傷は何人かいるものの、それでも総合的に見れば大勝利と言えるだろう。ユウも真意を使って戦っていた訳だけど、何というか、そこまで苦戦する事はなかった。それ程なまでにみんなが強いって言う証だろうか。


 真意を使う事も殆どなかったし、エルピスとアルスクが前線にて敵の注意を大きく引付けていてくれたから大分余裕が出来ていた。何度か危ないと思うシーンがあっても他の隊員が対処してくれるし、当たり前なのだけど、やっぱり数がいいってのは良いなって率直な感想を抱く。

 でも倒したからと言って休憩が出来る訳でもなくて。


「……他の隊も作戦区域内の探索を追えた様ですね。地上部隊もそこそこ余裕があるみたいですし、寄り道をしましょうか。――捕まった仲間、助けますよ」


「…………!」


 ラナがそう言われて全員が反応した。やっぱりみんな気にしないフリをしてもかなり心配だったのだろう。助けに行くと決まった瞬間から立ち上がって意気込みを現した。疲れたと呟いて倒れ込むテス達だって同じ様子。ユウだって助けられる人がいるのなら助けたい。そう思っているからこそ立ち上がる。するとラナは即座に状況を見て最善の編成を組みだした。


「どんな敵が現れても良い様に陣形を組みます。仲間と最後に別れた場所は?」


「えっと、確かこことここと……ここかだ」


「なるほど。この地形なら行けますね。それじゃあ編成ですけど――――」


 エルピスやアルスクから仲間の位置情報を聞き出すと自分で予測しどこに運ばれているのかを探り出す。それを元にどんな地形があるのかをAR上の立体マッピングで確かめ、作戦を実行するにあたって必要な編成を導き出す。それもその場所に適したメンバーで。


 凄まじい集中力だ。現地を見た瞬間から今いるメンバーで各々の武装を把握し、適切な編成を整えるのは時間がかかるはずなのに、彼女はソレをほんの数秒の内にやってしまうのだから。とは言っても仲の良さも組み込まれるらしく十七小隊はそのままの編成で保留される。まぁ、ユウは他の隊と合同で戦った事は少ないし、合理的と言えば合理的な編成だろうか。


 その他にもただ編成して突撃するだけじゃなく、相手がどうやって動くかのパターンをあらかじめ考えて簡単なプランを複数作る。複雑な内容なのに分かりやすく説明してくれるのだから彼女の語彙力というか説明力はかなりの物だ。正直その能力が羨ましい。

 やがてある程度の作戦を整えると結論を出して行動に移る。


「うん、こんな感じですかね。――では、行動開始!!」


 すると全員が彼女の声と共に動き始めた。互いに互いをフォローできる距離で走り捕まった味方がいるかと思われる地点へ向かう。無線でもラナ達以外の別の隊が一部の兵力を貸してくれると言っているし、そこまでここへやって来た増援は多いのだろう。聞けば聞くほどよく生き残れたなぁって思う。


 作戦全体の状況は良好とも言えるらしい。一部で非常事態が発生し犠牲者が出た物の、全体と比べてしまえば損害は少ない。……その報告を聞いて、確かに人間は吸血鬼の言う通りなのかも知れないと思ってしまう。移動中にテス達から話を聞いたけど、相手はそう思っている様だ。この区域の犠牲者だけでも四十はいくだろう。部隊で見れば大損害だけど全体で見れば些細な損害だ。だからこそ彼らの考えを認めてしまって――――。

 反射的に顔を左右に振って雑念を払う。ユウ達は人間で、無駄な命なんてどこにもないのだから。


「ユウ、顔色悪いけど大丈夫か?」


「あ、ああ、大丈夫。少し考え事してただけ」


 そうしているとガリラッタから問いかけられて即座に答えた。けれどその答えを聞いた彼は少しだけ黙り込んでしまい、無言のまま言葉を探し始めた。だからどんな事を言うのかと思っていると彼は言って。


「……どれだけ苦しくても、生きる事だけは諦めるなよ」


「え――――?」


「世界がどれだけ残酷だって、俺達はユウの味方だ。だからこそ、俺達がいなくなったとしても、お前は生きるんだ。それだけが俺達の願いだから」


「――――」


 激励、のつもりだろう。予想していたのとは違い背中を押してくれる様な言葉だったけど、それでも励まされたのは確かだ。色んな考えが渦巻いていたけどその言葉で全てがはじけ飛ぶ。まだ迷いはある。戸惑いもある。でも、自ら吹っ切れるフリをするにはあまりにも十分だった。

 肩を叩いて走る速度を上げると意気揚々に返した。


「もう誰も死なせないよ。だって、それだけが俺の願いなんだから!」


「……そっか。いらない心配だったか?」


「いらない訳ない。俺は何度もそれらの言葉に助けられてる。言葉は、時に人を大きく変えるんだぞ!」


 良い意味でも、悪い意味でも。脳裏でそう付け加えながらも走り続けた。その背中を見て彼は微笑むと走る速度を合わせて肩を並べてくれる。

 目標地点はもうすぐそこだ。味方がいるのかいないのか、はたまた生きているのかいないのか。通信がないからこそ全く分からない状況だらけだけど、今はとにかく突っ込むしかなかった。作戦としてはユウ達囮部隊が突っ込み先行偵察。それ以降の相手の出方と合図を元に隠れている後衛が接近、敵が現れ次第制圧。そんな感じだ。

 でも、予想とは違った光景が目の前に映って。


「これは……」


「わっかりやすい罠だな」


 幸い信号が検知されない兵士は生きているみたいだった。いなくなった数を合わせても一致する。と言っても手足を縛られ口も塞がっているが。分かりやすく古典的な罠を目の当たりにして全員が少しだけ立ち止まった。でもまぁ、迷う理由なんてほとんどない訳で、みんなは顔を合わせて頷くと一斉に飛び出した。

 最優先に人助け。その次に奇襲して来る奴らの掃討だ。しかし飛び込むのが分かっているのだから確実に潰せる戦力を整えるのは当然の事。つまり、今この場にいる戦力だけでも足りない可能性がある訳で。


「来るぞ!」


 アルスクがそう叫ぶと陰に隠れていた兵が一斉に飛び出した。同時に瓦礫に隠れていた数多くの吸血鬼達も。ここで彼らの選択がどう傾くかによって対応が変わって来る。ユウ達を攻撃して来るのなら防御。安全策を考慮してラナ達を攻撃するのなら真下からの攻撃。二つの選択の内どちらを選ぶか――――。瞬間、彼らは後者を選んだ。だからこそアルスクは拳を握りしめるとアッパースイングで上空へビームを飛ばす。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるァッ!!!!!」


 すると真下から放たれたビームとその余波に当てられて吸血鬼が空中で態勢を崩し、その隙に無数の銃弾が撃ち込まれた。同時にユウの武装でエルピスと他の隊員数名が打ち上げられ、取り逃した敵を一気に仕留めては空中に血の雨を降らせる。それをしっかり見据える事で現実を認識する。こんな状況で現実逃避なんてしてちゃ、絶対に勝てないから。


「第二波、来る!!」


 エルピスがそう叫んだ直後にさっきよりも多くの吸血鬼が飛び込んで来る。それも全員魔術攻撃する気満々で、既にチャージが終わった状態で。だからって怯む訳にはいかない。ユウ達の目的は捕まった人の救助なのだから無理に戦う必要はないのだ。それにユウの武装は運搬にもってこいの代物。自分で二人担ぎ、武装に二人ずつを乗せる事で一人だけでも六人救助する事が出来る。故に他の隊員と一緒に重症の人を担ぐと一気に駆け抜けた。


「大丈夫か!?」


「あ、ああ……。しかし罠だと分かってるのによく飛び込めたな……」


「もう誰も死なせたくないからな。お前達だって同じ立場だったらそうするだろ?」


「違いない」


 軽傷の人は縄を解いただけでも勝手に上がって来るから重傷者に集中する。吸血鬼達は全力で逃げてくユウへ攻撃を仕掛けるのだけど、それをテス達が邪魔をする事によって防いでくれる。しかしあまり長くは持たないだろうし、救助が完了したらユウも手を貸さなきゃいけない。全力の真意を使えば一分程度で片付くだろうか。まぁ、それを使うなら反動も視野に入れなきゃいけないのだが。


「残りは!?」


「この人で最後だ!」


「よし。じゃあ行って来る!!」


「おぅ、随分と好戦的なこって……」


 そうして剣を引き抜き走り出すとある隊員からそう言われる。次に双鶴を足場にして飛び出すと即座に瓦礫の上まで到着し、視界に入る吸血鬼達に向かって遠慮なしに真意を発動させる。やっぱり彼らを殺すのは心苦しいけど、でも、これだってみんなを守る為だ。だからこそ全力で振りかざすと前方広範囲に真意が行き届いて彼らの四肢がバラバラにされる。


 剣の間合い外にいる敵には真意を乗せた銃弾を打ち込んで確実に息の根を止め、突っ込む・魔術で攻撃してくる敵には剣を振り回す事で一瞬にして殺す。その大暴れ様を見て驚愕したのだろう。みんな「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」みたいな目でこっちを見て来る。テスやエルピスも「なんだアイツ」みたいな目でこっちを見ていた。

 まぁこの数相手にそんな無双状態を繰り広げていれば当然の反応だろうか。唯一反動の事を知っているアリサが心配そうな目で見ていたが。


「ユウ、あんなに強かったっけ……」


「アレは真意ってヤツのおかげらしいわ。詳しくは知らないけど、なんか無茶苦茶強くなるらしい」


「それってあれか。特殊能力的な」


「そんな感じじゃないかしら」


「なるほどな……」


 テスとアリサはそんな軽めの会話をしつつも大暴れするユウに呆然とする。もちろん援護はしてくれるのだけど、ユウの暴れ様があまりにも激しくて近づけもしないみたいだった。そこまで高威力で戦い続けてるつもりはないのだけど……そこは真意だしと片付けるしかないのだろう。だって真意だし。

 やがて瓦礫の中から蒼い炎が飛び出して来るとユウはそれにも真意を向けて弾き飛ばそうとした。でも、その炎がユウの真意をも上回るくらいの高威力で受け流すのがやっとであって。


「なっ!?」


「ほぉ。私の一撃を受け流すとはやりますね」


 瓦礫の中から現れた狙撃銃を持った男。それを見た瞬間に確信する。一番最初に狙撃をして来たのはこいつなんだって。

 即座にラナが隊員に指示を出すのを確認するとユウは時間稼ぎに徹した。


「一応、今のは全力だったんですがね……」


「その「一番最初は手抜きでしたが何か」みたいな言い方止めてくんない?」


「実際その通りですよ。手抜きの一撃は弾かれて当然と思ってましたが、全力でも弾かれてしまうとは。あなたのその力はあまりにも強大みたいですね」


 こうなってしまった以上奴はユウを狙うだろう。同時に、唯一真意を使えるユウでしか弾けない攻撃を仕掛けて来るのだから、一緒に戦える人はほぼいない。強いて言えばエルピスとアルスクくらいだろうか。戦況が悪化する一方でこの強敵とは、ユウも中々運がない。

 しかしやらなきゃ死ぬだけだ。そう言い聞かせてもう一度真意を発動させる。


「同胞を殺した報いてもらいますよ」


「だが、断る!!」


 その瞬間、蒼い炎と真っ白なステラの花弁が周囲に巻き上がった。

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