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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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135  『合流』

 ユウが自信満々でそう言った後、アリサは目を皿にして驚き顔で固まる。まぁ当然の反応と言えば当然の反応だろうか。だってユウは過去を話した事なんて一度もないし、ソレに触れる様な話だって一度もしてこなかった。だからこそアリサは過去の一部に触れて驚愕する。

 やがて少しだけ考えこむと言った。


「やっぱり馬鹿ね、アンタ。まぁみんなに影響されたんなら仕方ないけど」


「その言い方だとアリサも馬鹿に入る事になるぞ?」


「……そうね。私も十分馬鹿なのかもしれない。っていうか馬鹿で十分よ。……アンタを命懸けで守る事くらい」


 すると口元に微笑みを浮かべながらも言った。今回ばかりはいつもみたいな悪戯っ子みたいな笑みじゃない。本気で覚悟し、ユウを守れると確信した強い笑みだ。急に様子が変わった事に少なからずびっくりするけど、本調子に戻っているみたいだしこれでよかったと納得する。ユウの過去を軽く聞いただけでそうなるとは少し思いずらいけど……。

 アリサは立ち上がると手を差し伸べて言う。


「ほら、行くわよ」


「近くにはまだ吸血鬼はいないし、もう少し休憩してもいいと思うんだけど……」


「みんなの信号が近くに来てる。救援も向かって来てるみたいだし合流するなら今の内でしょ」


「あ、ほんとだ」


 言われてから確認するとテス達の信号がこっちに近づいて来ていて、離れた所からはラナの識別信号もこっちへ接近していた。となればあと少しでここら辺は激戦区になるだろう。そうなる前に少しでも戦力を拡大しておかないと。そう思い至って双鶴を起動させるのだけど、アリサは肩に手を置くと言う。


「先に言うけど、少しでも無茶しようとしたら背後から刺すからね」


「エッ、何故!?」


「あんたボロボロじゃない。そんな状態で無茶したら本当に死ぬわよ。――危険を感じたら自分の力でどうにかする前に逃げる事。いいわね」


「……分かった」


 本調子へ戻った事に喜ぶのと同時に背後から刺されないかと心配するけど、今はそれでも構わないと言い聞かせて頷いた。彼女も本気で心配している。普段なら絶対に弱さを出さないアリサがここまで言うのだ。これで無茶でもしたらただじゃ済まされないだろう。

 忠告をしっかりと聞きいれて双鶴にまたがるとみんなの信号がする方角へ双鶴を飛ばし始めた。まだ四肢が痛むけど、今は関係ない。先に安全性を確保しなければ。


 さっきまで激しい戦闘音が響いていたものの今は鳴らなくなっているし、つい先ほど聞こえた激しい倒壊音以降は誰も戦ってないみたいだ。となれば索敵に力を入れるのは当然の事。双鶴はジェットエンジンみたいな音がするから静寂に包まれてる時はあまり使うべきではない。けれどユウが重傷を負っている以上徒歩だと遅くなり見つかる可能性がより高くなってしまう。

 結局の所、賭けなのは変わりない。


 ――みんなの信号は近くなってる。でも、リコリスはどこに……?


 確認出来るのはテス、ガリラッタ、イシェスタの信号だけだ。他にも大勢の隊員がいたはずなのだけどどうしたのだろうか。……そんな事を考えるより前に結論は分かっていた。

 死んだのだろう。それか捕虜になっているかの二つ。どっちにせよいないと言う事は戦力が減ると言う事だ。離れた所にいるエルピス達の信号も僅かに減っているみたいだし、果たして戦況は人類か吸血鬼か、どっちに偏るのだろう。


 ――まずい。意識が掠れて来た……。


 流石に無理をし過ぎたか、突然意識を持っていかれそうになって必死に踏ん張る。こんな所で気絶したらそれこそ死んでしまう。せめて誰かと合流しない限り安心は出来ない。いやまぁ、この状況ならどこにいても安心はできないのだけど。

 傷口を軽く叩いて自ら深手を負う。その痛みで意識を保つと双鶴の飛行速度を上げてみんなに接近した。やがてようやく誰かを捉える。


「ユウ、あれ!」


「よかった。これで――――」


 殺気。それを感じて咄嗟にもう片方の双鶴を前に出す。すると立ち尽くしていた人は突然襲い掛かって来て、双鶴と刃を激突させ激しい火花を発生させる。直後にアリサが銃で脳天を撃ち抜くと咄嗟の事に息を切らしつつも冷静に分析した。


「きゅ、吸血鬼!?」


「恐らく捕まえた奴らの身ぐるみ剥して着替えたんでしょうね。となるとこれから会う奴らは気を付けた方がいいか……」


 もしそうなら大分ヤバい事になってるのではないか。何人が捕まったのかなんて分からないけど、もしこれが数十人も固まっているのなら。そう考えただけでも鳥肌が立ってくる。ここまで来たら油断なんてしてられない。どんな時でも気張っていないと気を抜いた瞬間に命ごと刈り取られるはずだ。でもそれをする程の気力があるかと聞かれると――――。

 悪い考えは捨てて前向きに考える。


「奴は《A.F.F》を装備してない。賭けになる事は変わりないけど、その信号さえしっかりと掴めればなんとかなるはずだ」


「そうね。まぁ、難しい事には変わりないんだけど」


「そういう士気の下がる事言わないでよ……」


 ようやく前向きな思考を掴めるのだけど、背後から鋭く事実を言われて少し肩を落とす。しかしどれもこれも事実なのだから仕方ない。夢を見るのならそれ相応の現実も捉えなくちゃ。その現実があまりにも難しいって話なのだけど。


 奴らが変装している以上、視界での判断は困難を極める。今の吸血鬼が《A.F.F》を装着していないのなら他の奴らだって装着してない可能性があるし、そうなれば飛行しながら信号だけを頼りに敵か味方かを判断して戦うしかない。自動的にユウは操縦、アリサが索敵と言った形に収まるのだけど、それでもノンストップでの判断はそれなりに難しい様で。


「――上から来るわよ!」


「ッ!?」


 索敵の時間をも与えないつもりなのだろう。奴らは上から奇襲を仕掛けて冷静な判断力を奪って来る。幸い双鶴の最大出力の方が速いから逃げる事自体は容易い物の、それでもどれを信じたらいいのか分からない状況まで追いやられる。

 とにかくここは一番信頼しやすいテス達と合流するしか……。そう考えた瞬間、通信が入って即座に応答する。


『ユウ、聞こえるか!』


「テス!? 今どこにいる!?」


『お前が向かってる方向の先だ! こっちからでも大体の状況は読めてる。俺達は本物だから安心しろ!』


「わ、分かった!!」


 その言葉に甘えて全速力でテスの方角へ向かう。早い所みんなと合流したいのだけど、運がそれを味方してくれるかどうか。カミサマがこの状況を見て悪い方向へ運命を傾けるかも知れないし、いいことが起りそうだと機転を利かせてくれるかもしれない。まぁ、どっちにせよ奴の力を借りての勝利は全然嬉しくないのだが。


 目に見える部隊を無視してひたすらにテスの所へと突っ走る。信号を見るとどうやら救援部隊と接触出来た様で、大勢の中にテス達の識別信号が確認出来る。だから大きなビルの合間を駆け抜けてそこに辿り着くとようやく見知った顔を視界に収める事が出来た。


「みんな~!!!」


「ユウ! アリサ!!」


 そのまま飛び込む様に降りると何度か前転して衝撃を緩和する。そうしてみんなの前に立つもユウの傷を見た瞬間から心の底から驚愕し、まるで世界の終焉でも見てるかのような表情へと書き換えられた。だからテスは肩をガッシリ掴むと問いかける。


「ちょ、おまっ、その傷大丈夫なのか!?」


「今は平気。アリサがちょくちょく治療してくれてたから」


「なんつーかもうお決まりのパターンだな……」


 普通なら焦って当然の光景なのだけど、ガリラッタは既にこの状況に慣れ始めているのか冷静なコメントを残す。そりゃ毎回こんな大怪我してたら慣れて当然……なのか?

 そしてガリラッタの腕に抱えられていたイシェスタもユウ同様に大怪我をしていて、どれだけ激しい戦闘があったのかが浮き彫りになる。近くで響いていた轟音はもしかしたらテス達が戦ってた音なのかも知れない。だとしたらどれだけ激しい戦いを繰り広げてたんだって話になるけど。


「それよりテス、みんなは……?」


「俺達も上手く分散させられた。今別の救援部隊がアルスクとエルピスの部隊の救援に行ってるけど、動いてる信号以外は……」


 その先は言わなくたって理解出来る。動いている信号以外は死んでしまったって事くらい。故にそれを聞いた二人は黙り込んで考える。もっと早く辿り着けていればって。しかし今は感傷に浸っている場合ではない。既に何人もが犠牲になってしまっているとしても、ユウ達はその屍を踏んで進まなきゃならない。ラナが言っていた様に、今のユウ達に出来るのは、絶望の中で必死に足掻いた証を残す事だけだから。


「ラナさん、状況は?」


「こっちは終わりました。現在は残りの部隊が作戦区域内の探索をしている所です。けど、まぁ……こっちは増援が来て手間取ってるみたいですね」


 喋りながらも上を見るからなんだろうと視線を追いかけるけど、何がいるかなんてあらかた予想は出来ていた。既に何度も見た、ビルの屋上から吸血鬼が顔を覗かせる光景。ソレをまた目の当たりにして軽い絶望に襲われる。でもそれは二人だけならの話だ。今は増援も駆けつけて戦力には幾分か余裕が出来ている。更にこっちは増援を薙ぎ払う程の隊員が山ほどいるのだ。これくらいなんとも――――。そう思っていた。


「しかしここだけに増援が駆けつけるだなんておかしい。何か理由が……」


「え? ここだけ? じゃあラナさんの所には駆けつけなかったんですか!?」


「そうですね。私達の所には増援が駆けつけなかった。だからこうして救援に来たんです」


「そんな……!?」


 増援が来たから向こうも同じだとばかりに思っていた。それらを全て跳ね除けてここへ来たと考えていたが、どうやら違うらしい。何でよりにもよって一点集中の増援が駆けつけるのか。その理由を考える暇もなく吸血鬼は一斉攻撃を開始した。

 だから全員で迎え撃つ。


「――来ますよ! 全員戦闘準備!!」


 すると重傷ではない全員が特殊武装を装備して臨戦態勢を取った。やがて全員が攻撃を開始するとようやくまともな襲撃戦が開始された。それもかなり大規模な。

 まぁ、ユウ達は負傷しているからそこまで戦えないのだけど。

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