132 『一手』
そういえばガリラッタが合流した経緯が書かれてねーじゃん! という事に気づいたので前回の内容をちょっと手直ししときました。これで完璧! 多分!
奴の拳からアルスクみたいな一撃が放たれた後、全員の攻撃はいともたやすく弾かれて死を眼前に捉える。けどそんな事はさせないからこそ武装を使ってイシェスタとガリラッタを放り投げると自分は間一髪で回避する。その光景を見て彼は関心を示し、無傷でやり過ごした事に喜んでいた。
「おぉ、俺の一撃を初見で見抜かれたのは久しぶりだなァ」
「幸いこっちには似たような技を使う奴がいるもんでさ」
「なるほど。じゃあこれはどうだ!」
すると今度は両方の拳からビームを放って来る。今さっきの一撃だけでも路地裏が廃滅寸前となっているのに、二発同時に当てられればひとたまりもないのは確実な訳で、テスは地面を叩いてなけなしの壁を用意すると武装を壁に突き刺し飛び上がる。その時に足が掠るも関係ない。直後にもう一度飛び上がっては全力の一撃を脳天に叩き込むのだから。
同時にイシェスタとガリラッタも彼の背後から同時に襲う。一撃だけで強いというのは分かったからこそ、上手い連携と数で掛かればいずれは倒せるはずだ。と言っても、質量では負けてしまう訳なのだけど。
だから奴はテスの武装を手で受け止め、背後からの攻撃を手の甲で叩き跳ね除ける。
「ッ!?」
「弱ェなぁ。こんな程度ならまだ機械生命体の方が強ェぞ!!」
そう言うと武装を握りしめて振り回し、テスを離れたビルの壁に激突させた。せめてもの抗いに手先を斬るも意味はない。即時再生で微かな傷はすぐに治してしまうのだから。背後からイシェスタが襲いかかったって全て拳で弾かれてしまう。ガリラッタの狙撃銃だって何故か拳で弾いては意味がなくなってしまう。っていうか拳銃なら分かるけど狙撃弾を素手で弾くか普通……。
――まずい。戦闘音を聞いて他の吸血鬼がすぐに駆けつける。短期決戦でケリを付けないと……!
彼が吸血鬼の中でも無茶苦茶強くて一人でも平気、と思われているのなら救援は来ないだろう。まぁ、そう言った場合には力でねじ伏せられるだろうけど。力で押されるか数で押されるか。テス達はその狭間に立たされている。
やがて彼はある程度の攻撃を弾くと言った。
「一応言うが、救援はもう来ねぇぞ」
「何だと?」
「周囲にいる奴らは既に制圧した。勢い余って何人かぶっ殺しちまったが、まぁ、人間なんて馬鹿みてぇにのたまってンだから問題ねぇだろ?」
「……!」
拳に付いていた血はそう言う事だったのか。信号が検知され続けていたのは死なない程度に攻撃されていたからで、恐らくテス達が最後の動ける部隊、彼はその部隊を仕留めに来たと。全く動かないから隠れていると思ってたけどただ動けなかっただけなんだ。
すると彼は懐から無線機を取り出して言う。
「それにテメェらの動向は常に把握してる。三人がここにいんのもよ~く分かってたんだぜェ?」
「妙に統率が取れ過ぎてると思ってたけど、そう言う事だったのか……!」
「おいおい、吸血鬼だからって舐めてもらっちゃ困るぜ。俺達は剣と魔法の世界から生き延びてるが、ある程度はこの世界観にも対応してるんだぜ? 通信機の一個や二個は普通に使えるっての」
それは彼自身が剣と魔法の世界から生きてるという意味なのか、吸血鬼と言う種族が代々紡いできているという意味なのか。やがてテスは起き上がると地面まで下りて間合いのギリギリまで接近する。まぁ、彼にとっては間合いなんて関係ないのだろうけど。
でも何も手がないと言う訳ではない。こっちにはずっと一緒に戦って来たと言う実績や絆があるのだ。それなら彼にも勝てるかも知れない。
吸血鬼は人間の身体能力より数十倍も強いと聞く。アリサが限界まで動体視力を鍛えても、それが吸血鬼にとって当たり前のはず。その他の身体能力も同じだろう。その調子で行くのならリコリスとアルスクとエルピスとボルトロスとエンカクを割らずに足した感じだろう。普通に戦えばまぁまず勝てる訳がなく、仮に勝つ手段があるとすればそれは一%かそれ未満の確立を掴むしかない。
アイコンタクトすらも使ってはいけない。彼はそれを絶対に見逃さない。
――連携は閉ざさない。絶対に倒しきる。じゃなきゃ、死ぬ……!
互いに互いの命を背負うのだ。責任は途轍もなく重いし、逃れられない。だからこそ絶対に守り切らなきゃいけない。やるなら最後までやらなきゃ死は避けられないはず。
三人で奴を囲むと息を整え始める。これで連携を組んで倒されると奴は踏むだろう。ならばその虚をつかなきゃ。その突き方っていうのが――――。
「ッ!!」
「はぁッ!!」
テスが武装を前方に翳すと攻撃を仕掛け、イシェスタは空気の振動を発生させ衝撃波での攻撃を試みる。しかしそれはいとも簡単に弾かれ反撃すらもくらい怯んでしまう。だから残ったガリラッタが突っ込み白兵戦を望んだ。
「ハッ! この俺に白兵戦だなんて死にてェのかァ?」
「俺をそこらの奴らと一緒にしちゃ困るな!!」
すると奴は馬鹿げた威力で連続のビームを放ちビルを崩壊させる。普通なら当たるのが恐ろしくて突っ込む事すら出来ないのだけど、ガリラッタはデカい図体の割には機敏な動きで確実に拳を弾きビームを受け流していく。それ故に驚愕して足を躓かせた奴の腹へ拳を叩き込み、初めてダメージを与える事に成功する。
「ぐッ、テメェ……!!」
「残念だったな。俺は体術に関しちゃ誰にも負けないんだ。なんたって俺、近接武器持ってないからな!!」
奴に喋らせる隙を与えず攻撃を続ける。確かにガリラッタはリベレーターの中じゃ人一倍に体術を得意としている。とはいっても彼より強いのは普通に蔓延っているのだけど。しかし体術を知らない相手に使うのなら普通に有効だと成り得る。こうして今の彼みたいに。
立てつづけに喋らせる事を否定しては拳を叩き込む。その合間にもテスとイシェスタの攻撃が続いては少しずつではあれどダメージを蓄積させていく。
「テメェら……!」
――絶対に喋らせるな!
――考える隙を与えちゃいけねぇ!
――もう一手だって打たせない!!
自然とみんなの考えが読めて来る。きっとこんな事を考えてるんだろうなぁ、と欠片ではあるがみんなの覚悟が伝わって来る。
一人での攻撃だって三人で重ねれば果てしない連撃となる。普段なら状況が限られるからあまりこの連携を取る事は少ないけど、でも、その状況下にいれば敵はいつだって倒せた。それが感染者であろうと機械生命体であろうと。……しかし彼は吸血鬼なわけで。
「鬱陶しいんだよ!!」
「ッ!?」
その一言で両手を広げては体内に溜めていたと思われる熱エネルギーを放出する。だから一斉に弾かれては連携が途切れてしまう。っていうかそれだけで全員が吹っ飛ぶって、どれだけのエネルギーを溜めていればそんな事になるのか。
やがて彼は言う。
「テメェら勘違いしてねぇか? 俺はただビームをポンポン出す訳じゃねぇんだぞ? 俺はなぁ、マナを体内に溜め込んで爆破させる事で馬鹿げた威力を出してる。それにより底上げされる火力! テメェら如きが到底追いつける事じゃあねぇんだよ!!」
直後に足へ溜めたマナを爆破させると素早く移動し、テスの動体視力では追えないくらいの速度で懐まで潜り込んだ。だから咄嗟に反応して防御姿勢を取るも真正面からの超高火力によって全て崩され壁の方まで殴り飛ばされてしまう。それもビルの壁が抉れてしまうくらいに。故に吐血すると地面に血が掛かって音を立てた。彼はソレを見て嬉しそうな声を上げる。
「ははっ! 血だァ! やっぱ血のある喧嘩は楽しいなぁオイ!!」
「お前、狂ってやがる……」
「逆に狂わなきゃこんな世界なんかやってけねぇよ。なぁ!」
そう言いながらもまた白兵戦を仕掛けるガリラッタだけど、今度はしっかりと気張ってるからなのか、一撃目から拳を弾くと立て続けに柔軟な動きで発揮する連撃を捌いて見せた。それだけでも彼がかなりの反応速度と動体視力を持っている事が分かる。
そして、軽く膝を撃ち出しただけでもガリラッタも吹き飛んでしまって。
突撃をかまそうとしていたイシェスタの真横を通り抜けて壁に激突する。けれどイシェスタは決して怯まずに二人が起き上がるまでの時間を稼ごうとした。大きな鎌を振り回しては同時に魔術も発動させ、足元から氷を伸ばして牽制、自分は雷を上手く使い壁に飛び移り不規則な動きで背後を取った。強さの割に動きが鈍い彼には有効な手立てとも言えるかもしれないけど、問題はそこから先で。
背後を取ったイシェスタは左手を伸ばして全力の雷を当てようとした。彼も反応はしているが動こうとはしない。もしこれが当たれば、また連携を出来るチャンスが生まれるはず――――。そう思っていた。
「え――――」
雷が掻き消されていく。まるで機械生命体の装甲にでも触れたかのような形で。でも機械生命体の装甲なんてどこにも見当たらないし、だとしたら絶対に雷は命中するはずだ。一体どうして。と、そこまでは考えるのだけど、その先は彼自身が種明かしをしてくれる。それも殴って武装を壊しイシェスタを吹き飛ばしてから。
「俺に魔術は効かねぇよ。なんたってこの装備にゃ機械生命体の装甲が仕込んであるんだからなァ!」
「っ!?」
直後に大きく踏み込むとそこから炎が地中を伝ってイシェスタの元まで駆け抜けていく。しかし当人は瓦礫が引っ掛かって上手く起き上がれないらしく、苦しそうな表情をしながらも迫って来る炎を見つめていた。だから武装を伸ばして地面を叩くと無理やりながらもその場で爆発を引き起こさせる。直撃すれば確実に死ぬくらいの。
だけどそんな事をすれば隙が出来るのは確実で、彼は飛び上がると空中にいるテスを殴って地面へと叩きつけた。当然地面が微かでも抉れるくらいに。それから一度だけバウンドしては力なく横たわる。今ので頭を強打して意識が薄れているのだろうか。
彼はテスの額から流れる血を見ると更に嬉しそうにして拳を握りしめた。これを回避出来なきゃ死は確実。
「いいねいいねェ! もっと楽しませてくれよォ!!」
そう言って飛び出すと回避の隙すらも与えてくれず拳を振りかざした。テスはその光景を見ている事しか出来なくて、降りかかろうとしている巨大な拳を、ただ死を実感しながら見つめていた。――だからだろうか。イシェスタが動いたのは。
「っ!」
「イシェスタ!?」
さっきの一撃で同じく額から血を流したイシェスタは起き上がって突っ込んだのだ。それもあろう事か武器も持たず、拳を握りしめた状態で、真正面から。