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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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131  『急転直下』

 あれからどれだけの道を飛行しただろう。感覚的に時間が引き伸ばされてるだけかも知れないけど、ユウにとっての長い時間は確実に精神力を削ぎ落して行った。信号を辿ろうにも全力で走っているのか、物凄い速度でユウ達が逃げた方向とは逆方向に移動している。他の隊からは救援が来るとの連絡を受けたけど、それも間に合うかどうか。

 奴らは強い。エルピスならタイマンで勝てるだろうけど、囲まれればひとたまりもないはずだ。それこそ誰かが真意を使えない限り。


 道端に倒れている吸血鬼や機械生命体の骸を見つめる中、ユウは薄れそうになる意識を必死に堪えて飛行し続けた。だって、ユウの意識が途切れてしまえば双鶴も機能停止してしまうのだから。正直物凄く辛いけどここが踏ん張りどころだ。


「ユウ、大丈夫?」


「平気平気。大丈夫だよ」


 アリサからの問いかけもこれで何度目になるだろうか。今は誤魔化せているけど、既に体は限界だ。その証として意識は途切れそうだし手摺を掴む手は震えている。……いや、もうバレているかも知れない。とっくのとうに限界なんだって事は。

 だからこそ、アリサは小さく呟いた。


「……大丈夫って言うなら、少しくらい笑って見せなさいよ」


「――――」


 あの時にユウからアリサへと言った言葉。それを返されて黙り込んだ。まさか同じ言葉を同じ意味で返されるとは思ってもいなかったから。笑顔を浮かべてるつもりではいたけど、どうやらそれすらも出来ないくらい追い詰められている様子。改めて限界なんだって事をアリサから思い知らされる。

 すると彼女は急に背中へと寄りかかり、背中に手を添えると小さく呟いた。恐らくアリサにとっての本音であり、誰にも言えなかったはずの願いを。


「あんまり独りで抱え込み過ぎないで。自分一人でみんなの命を背負おうだなんて、考えないで。……死なないで。私達は、仲間なんだから」


「――――」


 この区域で戦闘をしている者の中で唯一吸血鬼を相手に出来るのは真意を使えるユウだけだ。なら己を賭してでも戦うべきなんじゃないのか。……そう思っていたのだけど、どうやらそう言う訳でもないらしい。例えユウしか戦えない状況であったとしても、戦う事を望まない誰かがいる。そうやって思ってくれる人がいる当たり、ユウはまだ幸せ者なのかも知れない。

 しかしユウが戦わないと死人が出るのも事実。


「……死ぬ気なんてないよ。誰も死なせる気もない。だから、大丈夫」


 みんなの命を背負うという物は途轍もなく重い。それこそ全て投げ出して逃げてしまいたい程に。でも決して逃げ出したくなんてない。だって、そこには助けたい人と守りたい物があるのだから。命に代えてでも救いたい人達が待っててくれる、それだけで戦う理由になる。

 だからこそ、言わなきゃいけなかった。


「絶対に、助けるから!」


 不格好なものの、強気な笑みを浮かべて言うとアリサは少しだけ反応して見せた。やがてユウにとっては初めての安心した笑顔を浮かべる。アリサがそんな顔をするだなんて思いもしなかったから少しばかり驚愕するけど、そんな事は放って飛行に専念した。これに関してはユウの気力次第でどこまで行くのか分からないのだから。


 望むのならば救援部隊との接触を試みたい。そうする事で少しは休憩できるだろうし、戦力的にも状況を立て直せるはずだ。しかしその前提条件として向こう側がある程度の吸血鬼を討伐した、という物が含まれる。それをクリアできていない限り早めの救援は期待できないだろう。だってユウ達の任務は吸血鬼の掃討なのだから。


 ――さっきより音が過激になってる。急がないと……。


 気が付けばさっきよりも一層強い爆発音が鳴り響き、戦況がどれだけ激しくなっているのかを伝えてくれる。方角的にはみんながいる所ではないけど聞いてるだけでも焦燥感が滲み出る。ユウがいない状況でみんながどれだけ耐えられるか。それが問題となるのだけど……。瞬間、背後から熱源の反応を探知して即座に双鶴を左へ逸らす。すると炎の刃が真横を駆け抜け、振り向いた瞬間から驚愕する事になる。


「なっ――――」


「敵の、援軍……」


 空を埋め尽くさんとばかりに増えた吸血鬼。視界に入った数だけでも十五は超えているだろうか。見つからない様に移動して来たはずなのに、どうしてこんな数が。そんな素朴な疑問を抱く暇すらも与えられず、放たれた炎や雷から逃げる為に進路の変更を余儀なくされる。

 しかし相手は徒歩でこっちは飛行。いくら足が速くとも全速力で逃げ続ければきっと。そう考えるのだけど、どうやら相手の方が一枚上手である様で。


「っ!?」


 小道を抜けた先に待ち構えていたのは既に攻撃態勢へ入った数十人の吸血鬼。既に魔術を構えている彼らに驚愕した状態で反撃できる訳もなく、ユウは迫って来る必殺の一撃を視界内に収め続けた。でも、その瞬間にアリサの言葉が自動的に再生されて真意が発動される。

 死なないでという、普段なら絶対に言わない様な……いや、言えない様な言葉を。誰かに心配されるのが嫌であんな性格になったのだ。それなのに勇気を振り絞ってそう伝えてくれた。なら、死なず死なせず、生き残るのが筋って物なんじゃないのか。


 ――ありがとう。約束だよ。


 ――リコリス……。


 【失われた言葉(ロストワード)】を見付ける。カミサマを殺す。みんなを助ける。どれも簡単な事ではない。いずれにせよそれを叶える為には想像も絶する程の努力と絶望が必要になるだろう。分かっていて飛び込むのは凄い嫌だけど、まぁ、それこそが生きる意味でもあるのだからどの道飛び込まなきゃいけない。その為にも今は死ぬ訳にはいかない。


 ユウが真意を発動する為のトリガーは希望だ。みんなを助ける。誰も死なせない。そんな意志が引き金となっているはず。でもユウが戦っておきながら何人が死んだだろうか。離れた場所で何人が世界を旅立っていっただろうか。……どれも簡単に割り切れる物じゃない。ユウが人間であるからこそ手の届かない人は助けられないんだ。

 なら、せめて手の届く範囲にいる人は助けるべきだろ。


 M4A1を握りしめて真意を発動させる。それから手当たり次第に銃弾をばら撒くと全ての弾丸に真意が乗る結果となり、弾丸は輝くステラの尾を引きながら放たれた魔術を全て相殺し、それどころか吸血鬼達の四肢へと命中した。それも一発肩に当たっただけで根元から吹き飛ぶ様な馬鹿げた威力で。そのおかげで窮地を切り抜けながらも飛行を続けた。


「ユウ、今の……」


「何かやったら出来た! それより今は――――!!」


 次々と出て来る吸血鬼を真意乗せの銃弾で撃ち抜く。明らかにさっきまでの量ではない。となるとやっぱりアリサの言った通り敵の増援である可能性が高いだろう。信じたくないけど、それが本当なら本隊の方が大変な事になる。早い所合流しなきゃ。

 そう思っていたのに、次の瞬間から予想は根底から覆される事となる。これで覆されるのは何度目になるのだろうか。


「は――――?」


 だって、突如真横からさっきの吸血鬼が出て来たのだから。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ユウとアリサ、そしてリコリスと離れてからしばらくの時間が過ぎた。吸血鬼の奇襲を避けられたのは良いけど状況は更に悪化している最中である。なんたって奇襲の際に上手く誘導されて散り散りになってしまったのだ。今は急激に相手の数も増えつつある所からみて増援が来ていると見ていいし、そんな中で散り散りになれば最悪な事この上ない。今は何とか隠れられているけど時間の問題のはず。


 ガリラッタとだって運よく合流できた訳だけど、肝心の三人には未だ合流どころか手がかりさえ掴めていない。せめて場所が分かる様な爆発でも響けば分かりやすいのだけど、爆発は至る所に上がっている訳で。


「今はまだ無事っと……。さて、次はどうする」


「どうすると言っても、私達三人だけですから逃げるしか手がないですよ」


「せめて五人はいりゃ一人ずつ奇襲を仕掛けて減らせるんだけどなぁ……」


 今路地裏に隠れてやり過ごしているのはテス、イシェスタ、ガリラッタの三人だ。ラディとクロストルは他の所にいるみたいだし、恐らく合流できるのはリベレーターの増援が来てからだろう。しかしユウとアリサは散り散りになってしまうし、エルピス率いる隊はまた別の所にいるし、リコリスは気づいたらどっかに行ってしまってるし、面倒な事この上ない。全くどうしてこうなってしまったのか。

 まぁ、グチグチ言ってても状況は改善されないからこそテスは考える。


「ここにいても見つかるだけだからな……。理想なのは自ら近づいて行きたい所だけど」


「どの道大通りを通らなきゃいけない」


「そう。そこが問題なんだよな」


 ガリラッタが相槌を打ったのに合わせて唸り続ける。一応合流するまでの道のりはあるにはあるものの、かなり遠回りになる上に時間がかかってしまう。いち早く戦力を集めなきゃいけない現状で長時間孤立して移動するのはあまりにも愚策だ。

 せめてリコリスかユウがいれば状況は打破出来たのに。


「ってか、リコリス本当にどこ行ったんだよ」


「信号が検知出来ないんですよね……。そんな事ないとは信じたいですけど、状況は全く分からないです」


 何度検索したってリコリスの識別信号は検出されていない。一般的には「信号が検知出来ない=死」という認識になるのだけど、リコリスに限ってそれはないはずだ。そう信じたいんじゃない。リコリスは絶対に死ぬような人間ではないと確信できる。

 それに、あの移動速度があれば吸血鬼の追撃だって簡単に躱せるはずだ。十七小隊のリーダーになる前には特殊武装で正規軍と追いかけっこをした~みたいな事だって言ってたし、大丈夫なはず。


 そう言い聞かせて心を落ち着かせると冷静に次の手段を考えた。この状況で、限られた条件で、今考え得る最善策を導き出さなければ明日はない。となると危険な賭けになってしまう事だけは確実だけど、やっぱりあの作戦をやるしか――――。

 と、ここまでなら良かった。しかし流石に運の尽きが回って来たのか、背後から声をかけられて。


「見ィ~つ~けた」


「っ!?」


 振り返ると一人の男がこっちを見つめて立っていた。しかも拳には鮮血が塗りたくられ、今もなお音を立てて地面に流れ落ちている。そこからでも既に何人をも殺している事が見て取れた。だからこそ咄嗟に戦闘態勢を取るのだけど、彼はソレを見ると両手を上げて言う。


「お~待った待った。今は戦う気はねぇよ」


「“今は”って事は後々戦う気になるんだろ。ならそうなる前に殺すだけだが」


「ちっ。交渉って言葉を知らねぇのか……。一つだけ教えてやるよ。俺はなァ……」


「――――!?」


 直後に身の危険を感じて武装のリミッターを解除し全力の攻撃をぶちかます。同時にイシェスタも魔法を放ってガリラッタも脳天に弾丸を打ち込む。けれどその時には既に遅くて。

 彼は魔術によって拳を強化すると思いっきり前方へと解き放った。


「――弱ェ奴を甚振るのが大好きなんだよ!!!」

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