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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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130  『嫌な予兆』

 邪魔が入って威力が弱まったとは言え、斬撃の余波は十分な威力を持っている。だからユウの顔面に直撃した時にはしっかりと切り裂かれて血が噴き出した。眼に当たらず斜めに斬れたのが不幸中の幸いと言った所か。

 それでも足をもつれさせてその場に転がり込んでしまう。


 何度か転がっては自動的に手を付いて起き上がるけど、その時には既に彼女は目の前まで迫っていて、もう一度顔面に膝を食らわせる事で更にユウを吹き飛ばした。次に飛ぶ斬撃を三発放って牽制し、真意で弾いた瞬間から一点突破の火の針を打ち込み方を貫く。その後にも腹を蹴って柱まで吹き飛ばした。だから吐血しつつも前を見る。


 音を鳴らしながらも剣を落とす。彼女は剣を振り回しながらも近づくと動けなくなったユウを見て微笑む。ソレを見て確実に普通の性格じゃないと判断しては対策を考えた。ああいう性格の持ち主は戦闘力が高い上に技術も抜きんでているから倒しずらいし、相手を甚振る事しか考えてないから様々な手を考えている。要するに簡単には手を出せないって訳だ。

 その証としてボロボロになったユウを見て目を笑わせる。――正直、一番嫌いな性格の持ち主だ。


「さてと。次はどうしようかしらね。聞こえる? みんなの悲鳴が。あなたが助けないからみんなが死んでいくのよ。あなたのせいでね」


「――――」


 でも、手を打ってない訳じゃない。孤立した以上追い詰められるのは分かっていたし、そうなった時の為の手はその時には打たないと死が確定する。それは今までの戦闘で学んだことだ。だからこそ彼女のふいを付けると確信した。

 だから双鶴を自分の近くに近づけながらも言った。


「死にはしない。必ず助ける」


「へぇ、どうやって? そんなボロボロの身体で」


「確かにボロボロで助けられる様な成りじゃないよ。――だから、俺はその仲介役って事で!」


 直後に浮上して来たもう一機の双鶴と、それに乗っていたアリサ。彼女はSTAR-15を構えると吸血鬼の脳天目掛けて一斉射撃を行い、ユウは流れ弾に当たっても言い様に双鶴を盾にする。だから彼女が咄嗟に避けると全ての銃弾は双鶴に飛び数多くの銃弾が弾かれる。

 やがてアリサは双鶴に導かれるとユウの真横で停止する。


「ユウ、あんた無事なんでしょうね!」


「今のところは、だけどな……」


「ならいい。逃げるわよ!!」


 自力で立ち上がる力はあるから自分で立ち上がる。その直後からアリサは手を引っ張ると退避した彼女とは反対方向に走り出し、床も何もない空中へと身を投げ出そうとする。しかしそんな事は許さない訳で、叫びながらも巨大な火球を放つと二人を焼き尽くそうとした。

 だからあえて高く飛ばずに下へ直行する様な飛び降り方を選ぶ。すると背後に炎が駆け抜けてはコンクリートの部分を軽く溶かした。


 ギリギリ双鶴の手摺を掴んで向かいのビルまで移動しても束の間の休憩。彼女も飛び上がってはもう一度炎を放つからまた飛び降りる事を余儀なくされ、今度は迫って来る炎に若干背中を焼かれながらも地上まで飛び降りた。直後にアリサは名前を叫びながらもスモークグレネードを空に投げつけ、ユウは雷で破裂させると気休め程度の煙幕を作り上げた。

 が、それも少し手を加えるだけで反撃の手立てにも成り得る訳で。


 風で煙幕を薙ぎ払って来た彼女に向かってユウは双鶴に乗りながら飛び出し、剣に真意を纏わせて思いっきり振り下ろした。それも煙幕から顔を出した瞬間に。だから焦って剣を構える彼女に真意の刃を叩きつけて無理やり地上まで突き落とした。

 それから双鶴で自分を回収すると二人で一緒に飛行して逃げ始める。


「ちょっ、その怪我大丈夫なの!?」


「俺の事はいいから自分の事を! あいつは、これだけじゃ終わらない!」


 その言葉通り背後で爆発音が聞こえては炎が迫って来て、彼女は自身から噴射する炎を利用して飛行しているみたいだった。そんなエンカクみたいな事をする彼女に驚愕しながらも更に双鶴の速度を速めて距離を話した。

 道順何てもう分からない。行き当たりばったりで行路があれば手当たり次第に突っ込んでるだけ。当然みんなとは離れてしまうけど、今は彼女と戦闘する事が一番危険であった。


 しかしガタが来ているのは間違いない。何度も短期間に真意を使った反動は必ず体に訪れていて、それは確実にユウの体を蝕んでいた。だからこそ何かが食道を遡って来る感覚に襲われ、それを手の中に吐き出すとべっとりとした鮮血が付いていて、それを見て自分自身でも驚愕する。


「え、何ソレ、血……? だってユウはまだ……!」


「俺は大丈夫だから! さっき腹を強く蹴られたから、その反動かも知れない」


「そ、そんなもん?」


「そんなもん」


 無理やりアリサを納得させつつも予想以上に追い詰められてる事を察する。それも自分が思っていた以上に。確かに真意と言うのは非力なユウでも吸血鬼とタメ張れるくらい強くなれる物だ。実際コンクリートの壁を突き抜けても痛い程度で済んだし、一撃で通常の奴らは即座で殺せていた。それ故に強大な力には必ず代償があり使用制限が掛かる。多分そんな認識でいいはず。

 血塗れになった掌を握り締めつつも脳裏で呟いた。


 ――これは、かなりマズイかもな……。


 控えめに言っても作戦はまだ始まったばかり。第一大隊とかは既に指定範囲の吸血鬼を討伐したと思ってもいい頃だけど、まさかここまで苦戦を強いられるとは。やっぱり大隊と小隊じゃかなりの実力差があるのだろう。実際小隊の隊長が中隊の○番隊隊長とか言われてるし、そうなると大隊の部下達は全員リコリス級と思っていいはずだ。想像してみるとかなりの地獄絵図だけどそこら辺は味方だと言い聞かせるしかない。


 これ以上真意を使うのはあまりよくないかもしれない。代償は決して軽くないし洒落にならない。しかし真意を使わなければ生き残れなかった場面はいくらでもあった訳で、きっとこれからも数多く直面するだろう。そんな時に真意を渋っていれば死ぬのはこっちだ。みんなを守る為にもここは真意を使い倒すしか――――。直後、激しい衝撃が双鶴を襲って操作を失いビルに突っ込んでしまう。だからアリサを抱きしめて少しでもダメージを肩代わりするとようやく停止する。


「馬鹿ッ、あんた自分の傷分かってんの!?」


「叱りの言葉なら生き残ってから好きなだけ聞く! だから今は……!!」


 起き上がっては突っ込んで来る彼女を見た。不死鳥みたいに全身を炎で包む彼女を。その光景から掠っただけでも死ぬという事を感じ取り、ユウはアリサを突き飛ばすと剣を両手で握り締めては真意を発動させる。それも今まで以上に激しく。


「ユウ!?」


「大丈夫! 受け流すだけ、受け流すだけ……!」


 自分にそう言い聞かせて大きく一歩を踏み出す。これを失敗すればきっと死ぬ事になるだろう。死ぬだなんて断固拒否したい所だけど、残念ながら戦場で“正しい死”なんてものは選べない。九十九%の努力と一%の運が全てを決めるのだから。

 故に全力で抗わなければいけない。


「受け流す、だけッ!!!!」


 叫びながらも真意の刃を振り下ろすと真正面から激突し、アリサがいない左方向への受け流しを試みる。と言っても出来るかどうかの微妙なラインであるが。全身が悲鳴を上げる中で無理やりにでも剣の向きを変えると彼女の燃え盛る刃は次第に逸れて行き、最後に相討ち覚悟で剣を逸らすと予想通り左斜め後ろへと突っ込んで行った。

 だから反動が来る前にアリサを連れてもう一度双鶴へ飛び移る。


「アリサ!」


「え、えぇ!」


 今度はさっきよりも時間がある。これで逃げられればいいのだけど……今回ばかりは杞憂である様だった。追ってこない事を確認するとある路地裏まで入り込み、不格好な着地を得てその場に転がる。そして少しでも時間が出来るなりアリサはユウの傷を確認しだして。


「ユウ、あんた本当に大丈夫なの!? 傷とか諸々……!」


「大丈夫。これくらい、いつもの傷と比べればなんて事ないから。にしてもアリサってそんな追い詰められた様な表情もするんだな」


「なっ、馬鹿じゃないの!? こんな時に冗談言ってる暇なんかないでしょ!」


 軽口を叩いた直後にごもっともな事を言われて黙り込む。確かにこんな非常事態に冗談を言ってる暇があるなら頭を回せって言いたくなるのも分かるけど、逆にこんな状況で最善策を見付けられる物だろうか。激戦区で孤立してしまった以上死は確定してしまった様な物だ。これからじわじわと追い詰められて確実に殺されるだろう。まぁ、そんな事される気は毛頭ないのだけど。

 しかし手を打ちにくい状況下にいるのも事実。向こうも何かしらの手段で通信を行っているはずだから救助信号も信号弾は逆効果。ならこっちからみんなの信号目指して辿ってくしかないが……。


 その場の思い付きで逃げてみたけど、こんな事になるなら無理やりにでもみんなと合流した方が良かったかもしれない。そうなったら彼女はみんなを狙うだろうから戦闘状況が悪化するのは間違いなしだが。どの道悪い方向にしか転がらないのなら、今は生存確率が上がる方を選んだ方がよさそうだ。

 そんな事を必死に考えつつも応急措置をしてくれてるアリサは呟いた。


「……ほんと、アンタとアイツって似てるんだから」


「二人称ばっかだな……。アイツって、ネシアの事?」


「そうよ。アイツもユウに似て誰かを助ける為なら~つって敵陣に単騎突撃かます様な馬鹿だったの。今のユウを見てるとあの馬鹿を思い出すわ」


「――――」


 アリサの方からネシアの事を話すなんて少なかったから少しびっくりする。思い出に浸ってるだけなのか、はたまた何かの予兆を感じているのか。こんな状況じゃ少し話しにくいのだけど、ユウは包帯を巻いてくれるアリサに問いかけた。


「……ネシアとは、どう?」


「っ――――」


 しかしアリサは硬直してしまう。予想は出来ていたけど、やっぱりまだ完全に打ち解けてはいないんだ。アリサの事だから謝罪くらいはしたかもしれない。けれどこの反応から見て完全なるねじれは解けていない様だ。

 すると少しずつ腕を動かしながらも小さく話し始める。


「一応、謝りはした。でもやっぱり勇気が出なくて、あと一歩が踏み出せなかった」


「そっか」


 ネシアの事だから、今頃もみんなに援護されつつ敵陣に突っ込んでるはずだ。けれどその話を聞いた瞬間から嫌な予感が胸を突いてたまらなかった。もしかしての事を想像し出したら止まらなくなってしまうから。そんな事ないとは信じたい。でも、この世界じゃその想像が現実になる事は何もおかしくない訳で。

 そんな思考から逃げる為に頬を強く叩いて雑念を振り払う。次に立ち上がると言った。


「……行こう。みんなの元に」

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