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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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123  『奇襲掃討作戦』

「りっこ~り――――ぶぇッ!」


「そう言うのいいから」


 二日後。

 集合地点にまで向かった十七小隊を出迎えてくれたのはエルピス達で、彼女はリコリスに飛びかかると突き出された掌に激突して軽く殴られる。そうして屈みながら痛みに悶えているとこの前世話になった隊長達が続々とやって来て、ユウを見るなり一気に駆けよった。


「お、ユウじゃねぇか。久しぶりだな」


「みんな!」


 前はすぐに戦闘準備を整えたから私服っぽい服装であったけど、今回はガッチガチの装備をしているからこそ重圧感のある装備をしていた。と言っても重量武器を使うボルトロス以外はほぼ私服みたいな感じで、外装に付いている装甲がやや増えただけなのだけど。

 アルスクは目の前まで歩み寄るとゴツゴツな掌で肩をポンポンと叩いてはあの時の戦いを称賛する。


「いやぁ~、あの時の戦い本当に良かったぜ。いつか手合せしてみたいもんだ」


「い、命がいくつあっても足りませんよ……」


「そうか? お前の全力ならいい勝負になると思うんだが」


 確かに万全の準備を整えての戦闘であれば勝てはせずともいい勝負は出来るだろう。それも模擬戦程度の準備ではなく今みたいに殺し合いの装備なら、の話だが。

 あの時はすぐに別れてしまったからか、みんなユウに言いたい事があるそうで、わらわらと目の前に集まってはあの時の戦闘に付いて称賛し始めた。だからそこまで褒められる事なんて滅多にないユウは若干頬を染めながらも何とか対応する。ちなみにテスやアリサはその姿を見てクスクスと笑っていた。


 直接話に来ないけれどこっちを見ている人も多く、あの戦いに関わったと思われる人達は周囲に集いながらも一斉にユウへと視線を向けていた。だから今一度自分がどれだけ公に出ている存在なのかと再認識させられる。そりゃ、噂の問題児である上にあんな事をしでかせば当然だろう。

 そうしているとラナがやって来るのを見て会話が一斉に止まる。


「あ、ラナさん」


「ハロー。みんな揃ってるみたいですね」


 さっきまで他の隊長に作戦概要の紙を配っていたからこっちにも来たかと思ったのだけど、彼女は手に持ったファイルから白色ではなくそれなりに装飾された用紙を隊長達に渡すと、ユウ達と一部の隊だけが違う扱いを受ける事になったと報告する。


「これ、作戦概要が載ってる紙です。よく見て下さいね」


「分かった。……あれ、これ、私達も空挺部隊に入ってるけど?」


「私も皆さんは地上部隊に入ると思ってたんですけど、指揮官の指示で空挺部隊に組み込まれたんです。これを機に各隊の配属も色々変わったんですよ。多分例の件が関係してるでしょうね」


「あ~……」


 すると一斉にこっちを見るから自分のせいなのかと疑い始める。いや、って言うかこれに限っては百%ユウのせいだろう。だって例の件でベルファークから実力を買われたって経緯だろうし、彼の事だからやってのけたっておかしくない。自分でやっといてなんだけど、まさかこんな形で影響が出てこようとは……。

 けれど一先ず良い傾向に乗ってると解釈して自分を納得させた。

 続いてエルピスは作戦概要を見ているとある事に気づき、ラナへと質問を飛ばす。


「空中機動作戦って書いてあるけど、私達って即座に降下するんじゃないの?」


「今回は違います。下に書いてある通りまずは地上部隊が注意を引いてから、光学迷彩の輸送機に乗っている皆さんに降下していただき背後を取る。そんな感じですね」


「じゃあ出発時間とかは遅らせるって事でいいんだな?」


「はい。地上部隊とは違い、約一時間遅れでの出発となります。こうでもしないと時間調整がしずらいとニアル=メアルが文句を言ってましたから」


「あ、そっか。二人はアンドロイドだから演算能力もあるのか……」


 その話を聞いて思い出す。二人はベルファークの秘書だから色んな事を手伝い戦いでも支援する、とばかり思っていたけど、考えてみればそりゃそうか。アンドロイドは人間よりも高度な演算機能を持ってる。それに頼るのは当然の心理だろう。

 しかしもし一時間の間に何かが起ったら。そんな心配をしてしまう。でもそんな心配を感じ取ったのか、リコリスは肩を軽く叩くと耳元で囁いた。


「大丈夫大丈夫。何かあったら、必ず私が守ってあげるから」


「……うん。ありがとう」


 その言葉に少しだけ勇気を貰う。だから頷いてはしっかりを前を向く事が出来た。同時に作戦指示を出された全てのリベレーターが集ったと確認が取れた様で、警備兵がラナに通達をしに来ると彼女は頷いて顔色を変えた。

 やがてラナは手を振ると集った警備兵に言った。


「揃った様ですね。よし。それじゃあ……始めるとしますか! ノア・ドミネーター奇襲掃討作戦、開始!!!」



 ――――――――――



 あれから一時間半。一秒一秒が物凄く長く感じる中、ユウ達の乗った輸送機がついに発進し始めた。ここまで凄く長く感じた訳だけど、これからも指示があるまでは何も出来ないとなると辛い時間になるだろう。みんなもユウのもどかしさに既に気づいている訳で、ずっと落ち着かないユウにエルピスが問いかけた。


「……ユウ君、さっきからずっと落ち着かない感じだけど、大丈夫?」


「そりゃ落ち着かないでしょうよ。ユウにとっては初めての遠征任務みたいなもんなんだから」


 するとリコリスが間髪入れずに応えてくれる。その言葉を聞いて少し思うところがあったのだろう。みんなはちょっとの間だけ黙り込んだ。

 これがユウにとって初めての遠征任務だ。それと同時に二度目の大型任務である。前は不意を突かれたから慌てて気にする時間はなかったけど、こうして時間があるとどうしても気になってしまって仕方ない。自分達が向かっている間にみんなが死んでいたらどうしよう。そんな考えが抜けきらないから。


 本当の事を言えば怖くて怖くて仕方ない。今すぐ逃げ出してしまいたいくらいに。幾千人もの命が賭けられた作戦がこんなにも重い物だっただなんて――――。そう思っているとアルスクがとあることに気が付いて話し始める。


「……気になったんだが、ラナは作戦開始時に「ノア・ドミネーター」って言ってたよな。その「ノア・ドミネーター」って何なんだ?」


「言われてみれば……。何なんだろうね」


 その問いかけをきっかけに機内の空気が一変する。そう言われればそうだ。今までノア・ドミネーターなんて聞いた事もないし、ドミネーターって支配者という意味なのだけど、そこら辺の真偽はどうなのだろう。

 と真剣に考えてみる訳だけど、リコリスが作戦概要の紙を見つめつつも呟く。


「吸血鬼が作る組織の名前だって書いてあるけど。ノアってのはその頂点に立つ個体の名前だって」


「え?」


「かなり下の方に書いてあるけど……見てないの?」


「えっ」


 そうして紙を渡されるから見てみると確かに記載されていた。こういう紙って隊長クラスにしか配られていないし、それなら隊長が知らなくて隊員が知らないのも当然……? とにかく各々の確認ミスと言う事で話が付くと次は吸血鬼の事についての話が始まる。


「……なぁ。吸血鬼って、勝てると思うか」


「どした? ボルトロスらしくもねぇな」


「あいつらは高度な魔術を使うんだろ? それなのに俺達だけで勝てるのかって思っただけだ。なんたって、俺達はほとんど魔術を使えないからな」


 言われてみればそうだ。ユウの知る中でも魔術を使えるのはイシェスタやアルスタ、エルピスとユノスカーレットの四人しか知らない。もっと言えばユノスカーレットは回復特化だから攻撃魔法は使えないし、魔術で張り合えそうなのは唯一攻撃特化のアルスクくらいしかいないだろう。

 でも、それでもこっちにだって得意な物がある。それをエルピスが指摘した。


「確かにそうだね。けどこっちには特殊武装がある。上手く使えば魔術よりも役に立つ特殊武装が、ね。魔術で勝負出来ない分、私達の土俵に立たせて勝負するしかないんだよ」


「やっぱそう言う考えに辿り着くよなぁ……」


 彼女の言葉に機内の空気が少しだけ変化するけど、ユウだけは変わる事はなかった。いくら特殊武装や銃器があると言っても限度があるのだから。

 脳裏でアルテとの戦闘を思い出す。彼は炎系の魔術を鍛えまくったおかげで神速で放たれる銃弾をも溶かす程の火力を生み出し、あまつさえビルそのものを切り裂いたのだ。イシェスタみたいにオールラウンダーであるならともかく向こうも一つの事に特化してあるようなら勝算はあまり期待できない。

 そんな風に考え込んでいたからだろう。隣に座っていたガリラッタが肘をついては安心させてくれる。


「大丈夫だ。俺達は今まで数々の戦線を潜り抜けて来たし、お前は例の魔術師とタイマンで張り合って生き残ったんだぞ? 少しくらいは自信を持てよ」


「……ありがとう。そうしてみる」


 しかしそうはいっても簡単に出来る物ではない。タイマンで張り合ったのは確かに凄い事だ。魔術も何も使えず身体能力でしか勝負する物がない中、あの化け物相手に生き残ったのだから。けれどそれはそれこれはこれだ。

 あの時にもっと頑張っていれば。そんな考えが抜けなくて仕方ない。

 ――瞬間、激しい轟音が鳴り響いて全員が反応した。


「何だ?」


「そろそろみたいだな」


 そうして窓の外を見ると廃都市で激しい戦闘が起きていて、かなり上空からでもタイタン一号が大暴れしているのが見て取れた。数々の機械生命体を一撃で薙ぎ払っては周囲の建物に突っ込ませて破壊し続ける。だからその光景を見て息を呑んだ。思ったよりも過酷で、そして残酷な光景であったから。

 次に機内の奥から完全武装を整えたラナが出て来るとみんなに言う。


「みなさん、降下の準備はいいですか」


「ああ。既に準備万端だぜ」


 ラナの問いかけにアルスクが答えると機内にいた全員が頷き、ソレを見て彼女も頷いて返すと空気と表情を一変させて言う。ついに大きな殺し合いが始まるんだって自覚させられる言葉を。


「それではこれより降下作戦を実行します。総員、準備を」


 そう言うと全員で立ち上がってはパラシュートを背負って腰から伸びた金具を上のレールに着ける。よくある軍事物みたいにパラシュートで降下し奇襲するって形らしい。双鶴で飛行しておきながら何だけど高い所から自由落下するのは苦手だから正直言ってやりたくない。

 けれどやらなければ勝てない訳で、ラナも同じ様に金具をレールに着けると輸送機の投下口を開けて準備を整える。だから小さく呟いた。


「うっわ、行きたくない……」


「アンタいっつも双鶴で似たような事やってるでしょ」


「それはそれでもここまで高いと流石にやだよ! だってこれHALO降下なんでしょ!?」


「はいはい、御託はいいからさっさと準備しなさい」


 しかし隣にいたアリサはそんなユウに塩対応で無理やり準備を整えさせる。確かに空を飛ぶ感覚は双鶴で慣れてるけど、流石に高高度からの垂直落下は来る物があると言うか何というか。

 そう思っていると次々と色んな人が降下し始め、あっという間にユウの番に回ってきてしまう。ユウの前にいたリコリス達は我先にと投下してしまったから特に助言なしの状況。そんな中で痺れを切らしたアリサは背中を蹴り飛ばして無理やり外へ投げ飛ばした。


「嫌~! 行きたくな~い!」


「いいから行けっつーの! 鳥になってこい!!!」


「あっ」


 そんな感じで、ユウ達空挺部隊は行動開始したのであった。

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