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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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122  『緊急集会』

「――今日皆さんに集まってもらったのは、機械生命体の事に付いて他なりません。先日、リベレーターの先行偵察隊が機械生命体の本拠地を見付けたのです」


「やっぱり予想通りだね」


「ここら辺は、だけどな」


 翌日。

 朝っぱらから緊急集会が開かれ、全てのリベレーターが一度に同じ場所へ集められていた。と言っても数百人くらいは抜けがあるはずだけど。

 きっとみんなはびっくりしただろうけど、事前にその事を知っていた十七小隊は特に焦る事もなくそれに対応して話を聞いていた。ついでに言うとリコリス達には吸血鬼の件を全て伝えている。要するにここに集うリベレーターの中でユウ達だけが話の腰を理解している、と言う事になる。


 どうやらラナは“機械生命体の本拠地を見付けた物のそこに吸血鬼がいた”というニュアンスで説明するらしく、まずは機械生命体の本拠地について話し始めた。

 その本拠地と言うのがこの作戦の戦場という事なのだろうか。


「場所はここから北東に二十五キロ離れた廃都市です。そこに機械生命体の基地が生成されつつある事を発見しました。今回はこの機械生命体を叩くのが作戦と言う事になりますね」


「機械生命体の基地、ねぇ……」


「目乗り気じゃないなんて珍しいな」


「いや、以前に遠征で痛い目にあったからさ」


「あ~……」


 そう説明しているとリコリスが深いため息をつき、それにテスが反応した。けれど短くもそれなりの威力を持っていた言葉に言葉を失う。以前に遠征って事はリコリスが十七小隊の隊長になる前に行われた作戦なのだろうか。そう思っているとラナは背後のモニターにある情報を映す。


「ですが、そこで一つだけ問題が発生します。――吸血鬼。現在、機械生命体の指揮権を握り操作していると思われる組織があるのです。先のナタシア市侵略防衛作戦時にも奇襲を仕掛けたと思われてます。こちらですね」


「思われる、って部分は曖昧にするのね」


「そりゃ確定的じゃ何で隠してたって言われる訳だからな」


「ンな事分かってるわよ」


 アリサとガリラッタはそんな事を話しつつも情報を頭に叩き込む。確かに全てを確定的にすると何でそこまで知っていて隠してたって聞かれるだろうし、機密事項なのだから当然の扱いだろうか。やがてラナはレーザーポインターで情報に円を描くと解説を続けた。


「彼らの特徴は何と言ってもその寿命の長さと魔術適正度。剣と魔法の時代から生き抜いている個体もいて、魔術に関しては機械生命体の装甲すらも貫く様な威力を有する個体がいます。――それらが潜伏している可能性があるんです」


 すると一斉に周囲がざわめき始めた。そりゃ、そんな奴らが指揮してる組織に殴り込もうとしているのだ。もし本当に潜伏されていたのだとしたら大打撃どころの話ではないだろう。運が悪ければ全滅するかも知れないのだから。

 向こうは機械生命体を盾に攻撃してくるはず。そうなればこっちの魔術は通らず向こうの魔術は通ると言う構成になる。そんな振り過ぎる状況下で戦いたくないと思うのは当然の心理。


「機械生命体の総戦力で言えば私達でも勝てるでしょう。先の戦闘で機械生命体の討伐数は四千にも上回っていますから。でも、吸血鬼相手ならどちらに分があるかは分かりません」


 ラナは何も包み隠さず素直に答えて見せた。このまま突っ込めばこっちが負けると。何も準備しないで喧嘩を吹っ掛ければ、リベレーターは滅ぼされると。そうなればどれだけの人が苦しみ悲しむだろうか。この街にはみんなの帰りを待ってくれてる人がいるはずだから。

 しかし彼女はモニターを切り替えると一つの機械を映した。


「だからこそ既に手は打ってあります。――リベレーターの地下空間で長年建設していた、大型兵器を使います。それもこの個体だけでも超大型機械生命体にも匹敵するほどの威力と装甲を積んだ兵器、タイタン一号を、です」


 モニターに映されたのは文字通りの大型兵器だ。見た目は作業用ロボットみたいに二足歩行となっていて、移動方法は歩きではなく空気噴射みたいなのを使ったスライド移動の様だった。腕には巨大な釘と砲台がくっつき遠近両用の戦闘を想定されている。見た目は白と蒼を使い見事なコントラストが描かれていた。

 確かにその装備なら超大型すらも倒せそうだ。見たまんまじゃ装甲はどういった物なのかが分からないから反応しずらいけど。

 ラナはその廃都市の地図を見せると軽く作戦概要の解説を始める。


「でもこれはあくまで囮に過ぎません。本命は大暴れするタイタン一号を相手にする吸血鬼の背後を取った主力部隊。要するに第一大隊です。私達はここから侵入し、ここで第一大隊は陣形を組んで状況に応じて遊撃しながら進軍。私達は正面を突っ切ってヘイトを稼ぎます。第一大隊が吸血鬼部隊を討伐し次第第二、第三大隊と第一から第五までの中隊が周囲を包囲し殲滅。これが大体の作戦概要です」


「なるほど。確かに先の戦いもアレは囮で本命は正規軍だったもんね」


「要するに同じ事をしようって事だな。……みんなは納得できてないみたいだけど」


 テスはそう呟くと周囲を見た。いくらそれなりに完成度の高い作戦とは言え、自殺行為には変わらないとも言えるのだから。吸血鬼の存在を事前に知っていたユウですらも寒気を覚える様な情報だ。事前情報を知っている知っていないじゃかなりの差が出てくるはずなのにここまで肝が冷えるとは。

 周囲のざわめきは止まらず肥大化していった。それに当てられて続々と数が増え続ける。

 だからこそ、ラナは軽くマイクを叩くと静かにさせて問いかけた。


「あなた達は、どうしてそこまで怖がるんですか?」


 ――わざと音を出す事で注目を集めた……!


「今までやって来た事とそう大差はありません。ただ敵が異なるだけ。――でも、それはいつだって同じじゃないんですか。私達はいつだってどんな時でも、戦う敵は大きく異なります。無数の殺人機械。正義を振り翳す同胞達。外を跋扈する感染者。時には魔獣だって相手にします」


 突如始まったラナの演説。それに全員が聞き入っていた。

 しかしいつもとは言ってもユウみたいに新しく入って来た兵士もいる訳だし、一度も戦場に赴いていない兵士だって――――。いや、違う。戦場に赴いた事がなくたって、入ったばかりの新兵だって、戦って来たモノはいつだって違ったじゃないか。同時に全てが勝ち目のない敵であった。

 みんなも思うところがあったのだろう。無数のざわめきは静まり返っていた。


「その他にも共感できないからこそ相容れぬ敵が生まれる事だってある。私達はいつだってそれらを跳ね除けて来ました。勝ち目がないなんていつも通り。……それなのに、何故そこまで怖がるのですか」


「――――」


「私達はいつだって苦境に立たされています。これまでも、きっとこれからも。その中で今日まで生き抜き各々の正義を振りかざして来たのは何の為ですか。誰の為に、その正義を振って来たのですか。何故私達は、絶望の渦の中、今日まで生きているのですか」


「――――」


「それは私達が諦めていないからに他ならない。いつの時代も、どの時代も、私達は諦めずに戦い続けた。だからこそ、何百年にも及ぶ最低最悪の時代を、数千年にも遡る神話の時代を、先人達は生き抜き、今日こうして地に足を付け鼓動を鳴らしている。その全てにおいて、私達が諦めなかったから今に存在してる」


 するとラナは突如として口調を変えた。その勢いに押されて多くの人が感銘を受ける。絶望に覆われそうになった中で、こうやって希望を見出せそうになっているのだから。


「三度問います。何故そこまでして怖がるのか。私達はいつだって、絶望の中に存在した証を刻んで来ました。苦しく惨めに足掻き、希望の跡を残して。なら、私達のしなければいけない事は何なのか。正義の痛みに耐える? 恐れながら生き続ける? 救いを求める? ――違う。今私達がしなければならないのは、これから生き行く全ての者に、希望を託す事に他ならない!」


「―――」


「必死に足掻き、もがき、冷たい運命に牙を向き、痛みと苦しみの果てにある希望を残す事だけ! 私達はいつか死ぬでしょう。なら、その生き様を、決して“悪くなかった”と言える様に。自分自身に“正しい死を選べたんだ”と誇れる様に。私達が死ぬ気で刻んだ希望の跡を、私達がここにいた証を、私達にしか出来ない選択を、後世に残すべきなんじゃないんですか!!」


 ラナがそう言い切ると周囲は再び静寂に包まれた。みんな、圧巻されているんだ。ラナの強い意志とみんなを導こうとする意志。そしてこの世界で希望を描こうとしている事に。もちろんユウ達だって唖然とした表情で彼女を見る。

 やがて息を荒げながらもラナは言った。


「……強要する気はありません。作戦開始は二日後になります。戦える者は、集会が終わり次第、即刻作戦準備を整えて下さい」


 いつも通りの演説であったならこのまま多くの人達が話し合いながらもこの場を離れて言っただろう。けれど今回ばかりはラナの演説に圧倒された人がほとんどで、彼女がそう言い切ると会場に万雷の拍手が響き渡った。だからそうなるとは思ってなかったのだろう。ラナは突如響き始めた拍手に少しだけ驚いた。その後に後頭部を掻くと照れ笑いを浮かべる。

 やがてユウを見付けてこっちを見ると口だけを動かしてある言葉を伝えた。


「あり、がとう……?」


「ユウの戦いっぷりに影響されたんじゃないの? 少なくともあの戦いで大半のリベレーターがユウに期待してるみたいだし」


「えっ!?」


 さり気なく初耳な事を聞いて驚愕する。確かにそのつもりでやっていたけど、いざ真正面から言われるとなると緊張すると言うか何というか……。

 それはさておき、ラナの演説は無事全員の士気を固める形で幕を閉じた。全員と言っても必ずしもって訳じゃないだろうし、それでも参加しない人はいるだろう。でもここまでの感銘を与える事が出来るのなら成果は十分すぎると言った所だろうか。


 士気は十分。残るは作戦を実行するにあたってどんな結果が生まれるか。それによって全てが変わって来るだろう。全滅か、完全勝利か。あるいはもっと別の結末なのか――――。

 カミサマは世界の結末を辿るまでの経緯だけが知りたいのだ。その間にどれだけの人が死のうと、混ざり合う人の感情なんてどうでもいい。世界がどう変わりどんな結末を迎えるのかにしか興味がないのなら、ユウがやらなければいけない事はただ一つだ。


 みんなを守り、あいつを殺す事だけ。

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