115 『賭ける意味』
リベレーターに所属するほぼ全ての隊を掻き集めた後、全員が研究所前広場に集って目前に迫った敵を見つめていた。普通なら絶対に嫌だの一言で一蹴されるだろう。でも、今回は違う。ユウが吠え続けたからこそ、それを受け入れてくれた人がいた。そしてそこから枝分かれして希望が集ったのだ。だからここまでの数を集める事が出来た。
それをやってくれた人達が前に出ると彼に言う。
「確かに普通なら絶対に手を貸さなかった。でも、勇気を出して初めて誰かを信じる事をした子が、必死に助けたいんだって、手を貸してくれって、何度も諦めずに吠え続けてたんだよ。手を貸す理由なんて、それで十分過ぎる」
「エルピス……」
彼女はユウの頭に手を置きながらも真っ直ぐにそう言い、直後に優しい微笑みを浮かべた。十七小隊以外の人達に笑顔を向けられるのは初めてだから少しムズムズするけど、今は必死に堪えて次々と出て来る人達の言葉を聞く。
ボルトロス、アルスク、エンカクの言葉を。
「そうだ。誰も彼もが相手が悪すぎると、どうせ行っても絶望しかないと思う中で、こいつだけは希望を捨てずに吠え続けた。その覚悟が、俺達をこうして引付けたんだ。そんなのが出来るのは余程な馬鹿しかいないからな」
「褒め言葉として受け取っておくぜ。――諦めねぇ奴は控えめに言っても大好きだ。だからこそ、俺はこいつに賭けたくなった。こいつは『希望』だからな」
「命懸けで誰かを助ける。それはもう立派なヒーローだ。この世界で……いや、この街で希望となれるのは、そんな奴だけ。なら俺はそのヒーローに力を貸す。俺だって、ヒーローになりたいんだからな」
「みんな……」
十七小隊だけではない。彼らだけではない。ここにいるみんながユウの覚悟と勇気に触れて集ってくれたんだ。この人なら絶対的な絶望を払ってくれるかもしれない。そんな期待を抱いて。
つまり今、ここにいるみんながユウに賭け、そして試しているのだ。この世界に――――この街に満ちる絶望を希望に塗りつぶすに足る人物であるかどうかを。
ユウは特別な力を持っている訳ではない。先頭に立つカリスマ性がある訳でもない。でも、それでも唯一希望を持っている人間だ。それだけで試される理由には十分なのだろう。
やがて彼はロボットを一点集中でもう一度突撃させると集ってくれた人達が何も言わずとも迎え撃ってくれる。
『はははっ。あぁ、分かったよ……。貴様ら全員、この場で殺してやる!!』
「させるか!」
「彼を守れ!」
「俺達の希望には手を出させないぞ!!」
「みんな……!」
ユウ一人でも軽く十数機は相手を出来たのだ。この数ともなれば大量のロボットを防ぐのはあまりにも用意で、一瞬の攻撃を得て第一波は全て防がれた。だからその強さに唖然として立ち尽くす。そうしていると背後から全力で走って来る音が聞こえ、名前を呼ばれてから誰なのかを理解する。
「ユウ!」
「その声、ユノスカーレッ――――とぉ!?」
すると走って来たユノスカーレットはユウに抱き着いてその場で何度か回転した。その光景にリコリス達はびっくりして少し距離を離した。やがてユノスカーレットは地面に着地するとさっきのリコリスみたいに体のあちこちを確認し始める。
「怪我とかしてないよね。骨折とか……」
「まだしてないから安心しなさい! っていうか、どうしてユノスカーレットがここに?」
「言ったでしょ、手を貸すって」
要するに回復役に徹してくれると言う事なのだろう。ドクターが治癒してくれる事程頼もしい事はない。だから彼女のご厚意をありがたく受け入れて頷いた。そしてみんなを向くと突っ込む覚悟を固めて走り始める。
でも、その時に優勢だったのが少し変化して。
「――上から来るぞ!」
その声に反応して上を見る。すると建物の屋根から黒のロボットが数十体も落下して来て、全員は一時的に距離を取る事を余儀なくされた。驚くべきなのは現れた事ではなくその数。高性能なAIが搭載されてるのだからコスト的な意味もあって量産は難しいと思っていたのに、軽く三十体は出現して見せたのだ。
「黒……。そいつらは普通のよりも高性能のAIが搭載されてる! 気を付けて!」
「事前情報サンキューな! それなら対策のしようがある……!」
そう言うと戦っている内の一人がそう言って陣形を変え始める。すると次第に道が開けて行き、小さいものの内部にはいる為の道が生まれた。みんなの努力を無駄にしない為にも、全員で顔を合わせて頷くと全力で走り抜ける。ちなみにユノスカーレットは既に疲れている様だからユウがおんぶして駆ける。
レールガンのせいで走りにくくなった足元を駆け抜けるもある程度まで進むと通路にロボットが待ち受けていて、ユウ達を見るなり一斉に襲いかかった。
けれど直後にアルスクが前に出て拳を握りしめる。
「アルスク!」
「おう! 機械生命体じゃなけりゃ遠慮はいらねぇ!」
「えっ、えっ?」
まさか殴る気なのか。あの硬い装甲を素手で? そう思ったのだけど、彼は腕を引き絞ると全力で拳を前に突き出した。けれど腕から炎が出る所で既に様子がおかしく、正拳突きを繰り出した後なんかは炎がビームの様な感じで一直線に駆け抜けてロボットを撃ち抜く。そんな高火力が出るだなんて思わずに驚愕しているとリコリスが解説してくれた。
「アルスクはあんな番長系の成りでも魔術師なんだ。得意魔法は炎系で、爆発させる事で戦ってるの」
「んな滅茶苦茶な……」
爆発って事は恐らく殲滅力はかなりの物のはず。機械生命体は魔法を無効化するから直接爆破させる事は不可能だけど、恐らく爆破の衝撃波なら通じるはず。だからこそ「機械生命体じゃなけりゃ」なんて言ったのだろう。
流石第三大隊五番隊隊長。やる事なす事滅茶苦茶だ。
「なっ、シャッターが!?」
「甘ェ!!」
そうしていると前の通路が封鎖されそうになってしまうのだけど、隊長達の前じゃそんなの無意味にも近い。アルスクが爆発で粉々にし、ボルトロスが背負っていた特別製のミニガンを放つと更にその奥の壁も連続で破壊する。隊長達って基本的に小細工で火力を上げたりしないのだろうか。実際にリコリスも移動速度は回避よりも攻撃力特化に使ってるみたいだし。
すると最後のシャッターをユウの武装で破壊すると大きな広場に辿り着く。
「ここは……試験場? かなりデカいんだな」
「そして、ここまで来たと言う事はアレが待ち受けてる訳で……」
奴らが何をするのか分かり切っていたエルピスは面倒くさそうな表情でそう言う。視線の先には文字通り大量のロボットが待ち受けていて、刃物ではなく全員が黒いのと同じハンマーを装備していた。何が何でもここで食い止めたいらしい。
だからユウ達は臨戦態勢を取った。
直後に試験場内に彼の声が響き渡り、何をしようとしているのかをはっきりと告げる。
『まさかここまで入って来るとはな……。だが謝ったってもう遅い! そいつらには振れば爆発するハンマーを装備させている。近づく事も出来ずリーチの差を突かれて死ぬがいい!』
「ここで殺すって言ってる当たり逆上してんな」
「うん。多分、もうミーシャを使って実験する気はないんだと思う。今は私達を皆殺しに出来れば満足なんだろうね。彼らにとったら本末転倒な訳なんだけど」
アルスクとリコリスはそう喋りながらも武装を起動させる。アルスクの武装はイシェスタと同じ種類の物らしく、懐から謎の球体を浮遊させては大気中にあるマナを拾い集める。ボルトロスはミニガンを構え、そしてエルピスは腰にあった二つの剣を引き抜いた。
ユウはユノスカーレットを下すと自分も剣を抜く。
「ユノスカーレット、俺から離れないで。絶対に守って見せるから」
「うん」
彼女を下して剣の間合いに入れると向って来るロボットを迎え撃つ。それも武装を上手く使って足場を作り、ユノスカーレットには当たらない程度に戦い続ける。ついでに雷を上手く操っては軽い部品を嵐の様に回転させて投げつける。
それらを四肢の隙間に埋め込ませて身動きを取れなくさせては武装で破壊する。
「凄い、そんな戦い方出来るんだ……」
「全部みんなが鍛えてくれたからだよ!」
雷を上手く操って一直線に放つと内側から爆発させる。だからそうなるとは思えなくてびっくりするのと同時に、一筋の希望を見付けて意気込んだ。
姿勢を低くすると全速力で突っ込み、ユノスカーレットはその後を付いてきてくれる。だから安心して突っ込んでは先陣を切って大暴れし始めた。その光景に隊長達もびっくりする。
「おお、随分暴れるこって……」
「私に毒されちゃって……。しょーがない。援護してやりますか!」
するとリコリスも武装で加速しては突っ込んで手助けしてくれる。そのおかげでかなり戦いやすくなり、リコリスと背中合わせで戦い始めた。
初めてにしては中々の連携でロボットたちを打ち倒し、ほんの数秒だけでもかなりの数を打ち倒した。でも中には通常とは異なった動きをするロボットもいて、リコリスの背面を突いて急接近していた。
直後、初めてにしてはあり得ない動きに出る。
「――リコリス!!」
「っ!?」
名前を叫ぶとリコリスは回避するために姿勢を低くして攻撃を躱した。でもその瞬間にユウがリコリスの背中を乗り越えて剣を振りかざしてロボットの脳天を切り裂く。直後に剣を逆手に持つとリコリスも光線剣を逆手に持ち、互いに目の前まで接近していたロボットを貫いた。
その後にもリコリスが大きく上半身を下げるとユウは背後を転がって向かい様に破壊する。だからそんな事が出来ている自分自身でも驚愕した。
――あれ。俺、いつの間にリコリスとこんな連携取れる様になったんだ……?
リコリスと一緒に背中合わせで戦ったのなんてこれが初めてだ。それなのにずっと前から一緒に戦っていたみたいな、九死を共にした相棒みたいな、そんな感覚を得る。まるでずっとそうしていたかのように。
何だろう。この懐かしい感覚。
「ユウ、私の動き読めてるの?」
「よくわからない。でも何となく分かるんだ」
「何となく……。不思議な物もあるんだね!」
すると他の隊長達も参戦して戦線を保った。刻一刻と攻撃をしては一斉にロボットを破壊する。だからユノスカーレットに近づける事もなく倒す事が出来ていた。
でも、だからこそ見逃していた。
――奥の方で狙撃銃を持っていた複数のロボットを。