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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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106  『分担調査?』

 数時間後。

 ユウは夕方になるまで例の男について足取りを追っていた。事故現場ではなく一定の区域内にある全てのカメラを調べて回ったのだけど、結果は変わらず素顔だけが掴めないまま終わる事となる。こうなったらハッキングを受けていた~とかで納得するしかないだろう。

 先手を打つ為に瓦礫から指紋を取ろうとするも粉々になった瓦礫から指紋が取れる訳がなく、ようやく掴めた手掛かりも指紋ではなく手袋痕だったりと、中々に上手な様だ。


「手掛かりはなし、か……」


 そう呟きながらもオレンジ色に染まる空を見つめる。ここまで手掛かりが掴めないなんてラディの分身を追っているみたいだ。実際今までラディを探してた人はこんな感じだったのだろう。今となって自分がどれだけ幸運に恵まれていたのかが目に見えて分かる。

 だからこそこの現状に大きなため息を吐いた。


「ユウ~!」


 すると落胆して立ち尽くしていたユウに向かって突っ走って来る人影があり、そっちを向くとリコリスが何枚かの紙を手に持ちながらも走って来るのが見えた。それも紙を持ってる方の手を振っている。

 そういえばミーシャの血の解析結果を聞くのを忘れてたっけ。完全適応者である事を願いながらも背筋を伸ばして向かって来る彼女に問いかけた。


「リコリス……。結果はどうだった?」


「二人の憶測は正しかったよ! 見てこれ!」


「えっと、とりあえず免疫力が百%って思っておけばいい?」


「その通りです!!」


 見せて来た資料にはパストの濃度や抗体の数が書かれていて、その強さや態勢についても事細かに記載されていた。そして統計して見た結果として完全適応者である事もシステムによって断定されている。

 これでユウとユノスカーレットの憶測は正しかったという確証が得れたのだけど、大事なのはその先に掛かれていた事だ。


「この感染率ってのは? ゼロって書いてあるけど」


「ミーシャが他人に触れても感染しない確率だって」


「ふぁっ!?」


 いくら完全適応者と言っても感染者である事は変わらない。だからこそ彼女に触れればこっちも感染する物だと思い込んでいたのだけど、どうやらそうではないらしい。その表情を見ていたリコリスは軽く噴き出して説明を始めた。


「ユノスカーレットによるとミーシャちゃんの免疫細胞が完全にパストを食って自分の物にしちゃうんだって。だから感染する事はないらしいの。って言っても、それを見付けた本人が驚いてたけど」


「そりゃそんな結果が出ればびっくりするでしょ……」


 免疫細胞がウィルスを食う。その説明の仕方自体が普通じゃ聞かないからこそびっくりする。でもわざわざそんな説明をするって事は本当にそんな現象を確認出来たのだろうし、実際に何かしらで実験をしたからそんな事が言えるはずだ。ユノスカーレットの事を信じてその話を受け入れた。

 にしても意外だったというか何というか。


「でも感染率がゼロ%か。って事は本当に大丈夫なのか?」


「血の一部だけでもここまでの反応がでるのなら大丈夫って言ってた。ミーシャちゃんの体は私達が思ってる以上に頑丈かも知れないってね」


「通りで、あの時に痛がらなかった訳だ」


 その言葉で採血した時の事を思い出す。普通なら涙が出るくらいの痛みだと言うのに、ミーシャは全然痛がるような仕草はしなかった。そこからでも免疫痛覚共に耐性があると見て取れる。

 やっぱり彼女は普通じゃないんだ。

 ある程度の確認が取れるとリコリスは問いかけた。


「で、これからどうするの?」


「あ~、それなんだけどさ」


 けれどいきなりミーシャの件から抜けるとは言えない訳で、ユウは眼を逸らして後頭部を掻くと申し訳なさそうな声で解説を始める。


「実は今日、そこで事故が起こってさ。それが明らかに人為的だったので犯人を追いかけたいな~という所存でございまして……」


「今朝起ってた事故とユウが行けなくなった理由ってそれだったんだ。まぁ、大体は予想出来てたけど」


 流石にリコリスもユウの思考パターンが読めていたのか、驚く様子は特になくただ納得して頷いてくれていた。意外とのほほんとしてるアホの子系かと思いきや仲間の事はしっかりと理解出来てるらしい。

 だからその考えに肯定してくれると思っていた。でもリコリスはむすーっと頬を膨らませると脳天にチョップをかまして言う。


「でも駄目です!」


「あうっ」


「人を助けたいって気持ちは分かるよ。だからこそ多くの事に手を伸ばす理由も。――でも自分が人間だって事を忘れないで。手を伸ばせる所には限りがある事を、私達を頼る事を忘れないで」


「た、頼る……?」


「確かに今も頼ってくれてると思う。けどね、私達はそれぞれで歩けなくなった時の為に寄り添ってるの。そしてこのままじゃユウは絶対に手が届かずに行き止まる。だから忘れないで」


 リコリスとは思えない言葉に驚愕する。でも、何よりもユウの心を見抜いた事に驚愕していた。だって何も言ってないのにリコリスはユウの心を覗いていたのだから。

 魔眼と言うのは心さえも読めるのか、なんて思いながらもリコリスを見つめていた。


 ……リコリス達の事は十分信頼している。もう仲間ではいられないだなんて言いたくないくらいに。故に彼女は見抜いたのかも知れない。ユウはこれ以上心配をかける訳にはいかないからこそ無理をするんじゃないかって。

 強欲なくらいに救いたいと思っていたユウの心はリコリスによって引き剥される。


「よく、わかったな」


「そりゃあれだけ騒いだ後にこんな事が起ればね」


 そう言うとリコリスはえっへんと笑って見せた。やっぱり今までの行動だけでも動き方自体が純粋だからユウの行動は読みやすいのだろう。

 彼女はドヤ顔をかますと自慢げにそう言う。


 もっと信じろって事なのだろう。みんなを信じている今でも、もっともっと、心の底から。――リコリスのその発言自体がユウを信じてくれている証拠だ。みんながユウの突飛な事に乗ってくれたのも。

 なのにどうしてユウが信じない事が許される。

 だからこそ頷く事が出来た。


「……じゃあ、お願いできる?」


「バッチシ任せなさい!」


 するとリコリスは自慢げにそう言って胸を叩いた。それも嬉しそうな表情をして。しかしここ最近リコリスには心象を見破られてばっかり泣きがする。前もそうだったし、また違う時もそうであったし。そこまでユウを救おうとしてくれてるのかも知れないが。

 今一度イシェスタの言っていた救われる覚悟っていうのはこういう事なのかも知れない。


「それで今日は一日中それを追ってたんでしょ? 何か情報は?」


「全くない。どのカメラから見ても全て死角に隠れられて、素顔が見れた事は一度だってなかった。ラディみたいに」


「って事はかなり追うのは難しいって事だね」


「そう。人為的に事故を起こした理由とか、諸々突き止めなきゃいけないのに手掛かりすらもないのが現状なんだ」


 そう言うとリコリスは現状の難しさに深く考え込んだ。聞いた情報だけでもその人が普通じゃない事が分かるはず。それこそラディと同じ様な人間であることが。

 故にリコリスは眉間にしわを寄せると呟いた。


「手掛かりがない状態での追跡、ねぇ……。その言い方からするとデータベースにも引っ掛からなかったんでしょ?」


「ご察しの通り」


 何よりも厄介なのがデータベースに引っ掛からなかった事だ。それさえあればもう犯人を捕まえられたかも知れないのに、隠れるのがうまいからこそこうして悩まされている。

 もどかしい感覚の中でユウは一緒に考え続けた。


「それじゃあ他の手は?」


「具体的に言うと」


「足跡を辿るとか」


「それが出来たら苦労しないって……」


 あの男がいた所はコンクリートの上だ。砂利とか土の上ならともかく、コンクリートの上で足跡が残るだなんて考えずらい。それこそ滅茶苦茶目がいいとか特殊な能力がない限り追うのは不可能だろう。普通に追うだけでもかなり難しいと言うのに。

 だけど、その普通をぶち破るような作戦を考える人は中にはいて。


「なら監視カメラでその人が向いてたほう、こう……」


「リコリス?」


 呟き続けていると途端に言葉を詰まらせた。目の前で手を振るもさして効果はなく、彼女はただ目を丸くしてぽかーんと固まっていた。だからどうしたのだろうと思っていると彼女は静かに言った。隠れるのが上手なあの男に一杯食わせる方法を。


「監視カメラがない場所……」


「え?」


「そこまでするのなら監視カメラがない場所を移動するはず。仮にあったとしても決して素顔だけは見せない。それならカメラに映ってる時の体の方向とカメラがない道を参照すれば、ある程度のルートの予測は可能になるはず」


「あ、そうか!」


 その考えを聞いてから気づかされる。確かにそれが出来れば男の跡を追う事も出来るしあわよくば根城を特定出来るかも知れない。拠点さえ特定できればデータベースから検索をかける事も出来るし、運が良ければそこから張本人すらも掴めるかも知れない。

 だからその考えを称賛した。


「よくそんな考えを思いついたな」


「えっへん! これでもみんなのリーダーですから!」


 そう言って自慢げに胸を叩く。いつもだったら茶化す場面だけど、今だけは素直にほめるべきと判断して手を叩く。すると茶化されるとばかり思っていたのか、リコリスは若干面を食らうような表情をしながらも軽く頬を染めた。

 それから指を振ると有言実行と言わんばかりに資料を預けてせっせと走って行った。


「では私はこれで! 街の平和を守る為にも捕まえるぞ~!」


「ほ、程ほどに~……」


 彼女もユウみたいな問題児である、みたいな事をアリサから聞いたからそう言う。リコリスは振り返らずに走り続けるとグッドサインを突き上げて夕日に向かい突っ走って行く。そんな光景を見ながらもリコリスを見送った。

 やがてテンションの高い彼女を見送り再び一人になったユウは静かに呟く。


「戻りますか」


 リコリスに託されてしまった以上、これだけはやり切らなければいけない。それにみんながここまで背中を押してくれているのだし。ミーシャが完全適応者だという確証が取れた今、やるべき事はたった一つしかない。彼女を保護する。その一点のみ。

 せっかくここまで策を張り巡らせてきたのだ。ここ一番で失敗する訳にはいかないだろう。と言っても、それすらも彼女の意志で決まるのだけど。


 それでもやらなきゃ彼らが救われないし彼女も救われない。同時に、今まで苦しんで来た全ての人が報われなさすぎる。人の死に意味を与えるのは生者の務めなのだから、全力でやらなきゃ。

 断ち切るんだ。負の連鎖を。

 そんなキザな事を考えつつも本部へ戻った。ここから更なる策を練る為に。

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