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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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103  『感染者の森』

 翌日。

 早朝からユウの作戦通りにそれぞれのメンバーは既に動き始めていた。クロストルとラディは指定した施設の監視。テスとアリサはとイシェスタは研究所関連の調査。ガリラッタは武装製作。そしてユウとリコリスはユノスカーレットの元に赴き採血の方法と非常事態時の確認を。

 全てユウの言葉と信頼で動いてくれているのだから、それだけでもみんながどれだけお人好しなのかが見ただけで理解出来る。


 もう「○○されて当然の事なのに」なんて言葉は言わない。それこそ、みんなを信頼してないという証明にもなってしまうのだから。

 みんながここまで信頼してくれているんだ。なのにどうしてユウが信頼しない事を許されるというのか。


 ――信じる。それはこの世界に置いてタブーでもある事だ。

 希望を抱く事程ではないけど、それでも信じるだけでもタブーに近しい。だって信じた結果が最悪の結果だなんて事はこの世界じゃよくある話しなのだから。故にタブーと認識されてもおかしくない。

 ……でも、だからこそみんなは信じ合っている。そんな絶望を受け入れる事は、自分達の心が決して許さないから。



 ――――――――――



「意外だった?」


「何が?」


「みんながあっさり受け入れてくれた事」


 もう一度森の奥へ行こうとする中、リコリスからそう問いかけられて軽く振り返る。前なら意外だったと答えるだろう。でも、今は違う。今は仲間を信じる事が出来るからこそ驚く事はなかった。

 だからこそ言う。


「いや、そこまで意外じゃなかった。今はみんなの事を信じてるから」


「信じてる、か。いやぁ~、ユウがそう言ってくれてよかった」


 するとリコリスは嬉しそうに微笑んでは背中をバシバシと叩いた。前までのユウはそこまで不安になる対象だったって事なのだろう。自分で言うのもなんだけど、確かにあの頃は荒れてたなぁと、本気でそう思う。

 そんな些細な事を話しているとついに森の中腹辺りに到達して一時的に会話を遮断する。ここから先は読み合いの勝負みたいな物なのだから。


「どこらへんにいるのかな?」


「分からない。何せ熱源探知に引っ掛からないから……」


 熱源探知さえ機能すれば彼女を探し当てる事も可能なのだけど、何かしらの手段でそれを免れているのだから正直言ってタチが悪い。この森に通信妨害が張り巡らされている訳でもないし、システムは全て正常に機能している。

 となれば向こう側が何かしらのカラクリを仕組んでいるはずだ。と言ってもソレを見抜いたとして、何か対策が出来る訳でもなさそうだけど。


 一先ず前に会った所まで移動しようと小走りで動き始めた。何はともあれ彼女に接触するのがユウ達の目的だし、それが達成できなければ前提条件すらも満たせない。だから森の奥に向かって走り続けた。

 そして、到達する。


「っとと。前に出会ったのかここだけど……」


「ここに住んでるって事は、少なくとももっと奥、って見てもいいかな」


 こんな森の中に仮住まいを作るなんてことはしないはず。ならば森の端っこか、もしくは街の壁沿いに作っているかのどっちか。そんな考察を得て二人は未知の領域へ足を踏み込んだ。

 しかしこの先には感染者がいるかも知れないのだ。空気感染さえ脅威であるパスト病が及んでいる範囲は予測が出来ない。だから最善の注意を払って前へ進む。そして周囲に声を呼びかけながら。

 でも、そんな事は杞憂の様で。


「……お兄ちゃん?」


「っ!?」


 全く存在を感じさせない登場の仕方をするから二人してびっくりする。そうして振り返った先には例の少女が立っていて、薪を腕に抱えてじっとこっちを見つめていた。

 いつの間になんて疑問はもちろんあるけど、何よりも一目見れた事に安心する。やがてユウは距離を離しながらも彼女に喋りかけた。


「よ、よかった。えっと、実は君に用があってここに来たんだ」


「私に?」


「そう」


 いきなり保護しに来たと言っても彼女は信じてくれないだろう。だってまだ会話をしてくれる程度で、その姿勢や表情からは未だ警戒している事が十二分に伝わって来る。

 だからこそユウはユノスカーレットから預かっている採血キットを取り出すとなるべく警戒されないように言った。


「君の血を採血したい。理由は君が完全適応者かどうかを確かめる為」


「完全、適応……?」


「完全適応者。つまり君はこの世界で初めてパスト病に完全なる抗体を持ってる可能性があるんだ。だからそれを確かめたい。……もちろん君が嫌だって言うのならそれでもいい」


「私が、この病気の完全適応者――――」


 きっと今頃どうして自分が、と思っている事だろう。そりゃパスト病は自分達じゃどうにもできない訳だし、何かを判明させるにしても技術を持ってる外部の人に頼むしかない。故にいきなりそんな事を言われれば困惑するのは当然の事。

 このまま質問攻めにするのは追い詰める感じで少し嫌だけど、ユウは問いかける。


「今までの生活で普通の感染者と違った所とかないかな。例えば、急にその角と尻尾が生えて来た事とか」


「……!」


「図星、みたいだね」


 すると少女はユウの言葉に反応して体を震わせる。その反応を見てリコリスは軽く耳打ちをし、軽く頷いてよく観察する。

 あの角と尻尾が元からある物ではないのなら確定する事が二つだけある。一つは彼女の先祖がそう言った種族であった事。そしてパスト病は血液に干渉すると言う事。ちなみに憶測として魔術関連にも繋がりがある可能性も見える。


「その角はいつごろから?」


「えっと、今から三年くらい前に、いきなり角と尻尾が出て来て、本気を出せば木を倒す事も出来るくらいに強くなったの」


「き、木を倒すですか……」


 見た目の幼さからは予想すらも出来ない言葉に唖然とする。まぁ感染者は身体能力が異常向上すると言うし、それくらやってのけてもおかしくはない……?

 妙な納得の仕方をしながらも話を続ける。


「とにかく君は普通の感染者じゃない可能性が高い。それを確かめる為にも、これで君の血を採血したいんだ」


「採血して、どうするの?」


「君を安全な所に保護しようと思ってる。それと、君の持ってる抗体を元に薬を開発する事も出来るかも知れない」


「……!」


 すると彼女は眼を皿にして驚愕した。そりゃ、本来なら感染者なんて保護するよりも排除すると言った考えの方が当然だし、彼女自身もそう思っていたのだろう。でも彼女の場合は別だ。採血さえ出来れば彼女への安心性も高まるし、薬によって多くの人を助けられるかも知れない。

 彼女は少しの間だけ考えこむと答える。


「じゃあ、私の家族も助けてほしいの」


「家族? 家族がいるのか?」


「うん。この奥に集落があって、そこで血清を作って何とか耐えてるの。だから薬が完成したら、私の家族も助けてくれる?」


 訴えかける様に必死でそう言った。合理的に考えるのであれば薬が完成したらまず最初に兵士へ打ち込んで免疫力を高めるのが普通だろう。でも、まぁ、自分勝手に動くからこそ問題児と言われる訳で、ユウは頷くと身勝手に約束を取り付けた。


「もちろん。みんな纏めて助けるよ」


 そう言うと少女は物凄く嬉しそうな表情を浮かべた。同時に薄い光しかなかった瞳には多くの光が灯り、期待の眼差しでユウを見つめる。

 でもそうする事の意味を分かっているリコリスは横目で訴えかけて来る。これでいいのかって。けれどもう言ってしまった訳だし、元々見捨てる事は出来ない性なのだ。だから少しだけため息をつくとユウの行動を許容してくれる。


「全く、誰に似たんだか」


「少なくともリコリスには影響されてる」


 やがてユウは採血キットを渡そうとするのだけど、少女は森の奥を指さすと二人を案内してくれるようで、明るい表情になりながらも走り始める。


「それじゃあ――――」


「えっとね、来てほしい所があるの! こっち!」


「来てほしい所……。家?」


「パターン的にそうだろうね」


 そんな事を話し合いながらも少女の後を追った。興奮して力が少し上がっているのか、少女にしては少しばかり速すぎる速度で走り続ける。やっぱり彼女こそが完全適応者なのだろうか。しばらく走っていると森の最深部にある集落を見付け、そこから感じる巨大な違和感に二人して足を止めた。直接見なくても分かる。この先は危険なんだって、本能とシステムが教えてくれる。

 だって、突然現れた紫色のウィンドウには【WARNING】とパストの空気汚染を感知した事を表す【CHORD-2.3975】と表記されていたのだから。


「え、お兄ちゃん? どうしたの?」


「いや、その、この先からパスト液の汚染反応が出ててさ……」


「あっ、そっか!」


 遠慮気味にそう言うと少女はユウ達がただの人間であると思い出す。

 でもまぁ、分かっていた事だ。彼女が完全適応者だからと言って家族もそうである訳ではないだろうと。人類が半滅しても現れない程の確率なのだから彼女以外の全員は通常の感染者である事は確実。そして感染者が集う集落ともなれば空気汚染度は通常よりも遥かに上回るのは更に確実だ。


 念の為ユウとリコリスはあらかじめ預かっていた血清の上位互換である上位血清を打ち込むと一時的に免疫を高める。と言っても、未だ慣れないあまりの痛さに涙が出て来るのだけど。

 そうしていると彼女の話し声を聞いて一人の男が顔を出す。


「ミーシャ、帰ったのか? 今日は早い――――おっと、この人は?」


「あ、パパ。この人はリベレーターで、みんなの事を助けてくれるんだって!」


「――――」


 けれどその瞬間に少女――――ミーシャの父は咄嗟に前へ出ては右手を二人に向けて翳した。そこからは微かにだけど炎が生成されていく。

 こんな辺境の森、更にその最深部に住んでる人達が独学で魔術を習うとは到底思えない。となるとやっぱりパストには魔術も関連しているんだ。そんな確認をしていると父は言う。


「去れ。娘を利用する気か!」


「まぁそうなって当然だよね……。一応言うけど、私達は――――」


「黙れ! そんな言葉を誰が信じる!」


「…………」


 彼からすればユウ達は正体不明の異邦人ともいえるだろう。そんな人たちがいきなり現れて助けたいと言われても疑うのは当然だ。更に彼らの場合は絶対的な差別対象である感染者のダブルパンチ付き。信じられないのは当たり前だろう。

 だからリコリスは何か手段はないかと黙り込んだ。ユウも説得しようとするけど、当然信じれ貰えないわけで。


「俺達は正規の物じゃなく勝手に行動して来てる。俺達の裏には何もないよ。だからって訳でもないけど、まずは話でも聞いてくれないか?」


「お前達に何が分かる。どうせ人体実験でも――――」


「あんた達をその病気から解放する為の薬を開発したい。その為には彼女の血が必要なんだ」


「なに?」


 するとユウの話を聞いてミーシャを見た。信じないのは当然の事なのだけど、ユウ達の事を信じてくれているミーシャは父に瞳だけで訴えかけた。この人達を信じてあげてって。

 流石に娘の期待は裏切れないのか、父は渋々話だけは聞いてくれる。


「……一応、話だけは聞く」


「ありがとう」


 だからユウは話し始めた。まずは、ミーシャがどういう存在なのかを。

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