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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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100  『完全適応者』

「感染者って、え……? どういう……?」


「私は感染者なの。だから、近づかないで」


 “感染者”と言う言葉で即座に距離を取った後、ユウは目の前の少女が感染者とはとても見えなくて驚愕する。リコリスも同じ様に目を見開いて驚いている様子。

 でも感染者なら今こうして立っている事も出来ないはずだ。だって感染者は見つけ次第即座に処理される。なのに何で――――。


 違う。殺されない為にこの森に住んでるんだ。自分達がリベレーターに見つかった瞬間から殺される事が分かっているからこそ、こうしてこんな薄暗い森の奥に隠れているんだ。

 亜人で差別される事が怖いからの嘘だと信じたい。でも真偽の魔眼を持ってるリコリスからすればその真偽は既に見抜かれていて、彼女の表情からは今の言葉が嘘ではないという真実が読み取れる。だから目の前の少女が感染者だという現実を叩きつけられる。


「そんな、何で……」


「感染者だとしても姿がおかしすぎる。初期症状でさえ角が生えるだなんて事例はない。となると、あの子は感染者の中の変異体――――」


「お願い。この事はみんなに伝えないで! 私達を、助けて!」


「っ……!」


 突如言われた言葉に動揺する。だってリベレーターは街の平和の為に戦っているのだ。感染者である以上、もう普通の人間に戻る事は出来ない。後は血清で必死に抵抗しながら闘病するだけで、その結末は初期症状で終わるか末期症状まで進行するかのどっちか。

 状況から見ても仲間がいる事は確実。ならリベレーターの所属している物として危険因子を減らす為に少女らを“処分”するのが鉄則……。


 そんな現実を視認したからこそ二人は戸惑った。だって、殺さなきゃいけないなのは分かっているけど、涙を流す少女を簡単に殺せるはず何てない。

 だからこそ手を剣の柄に持って行こうかと迷い果てる。

 でも、ユウは規則違反を選択して。


「……分かった。仲間には言わない。危害も加えない。約束するよ」


「本当?」


「うん。でも、またここに来てもいいかな。君達の力になりたいんだ」


 するとユウの背後でリコリスが軽く反応する。そりゃ規則違反を選ぶという事は、最低でもリベレーターから追い出される事になると言う事だ。けれど助けを求めてる人を殺すだなんて、ユウには出来ない。

 少女は頷くとその話を呑み込んでくれた。


「ありがとう。えっと、じゃあ、俺達はもう行くから」


「大丈夫?」


「平気だよ。心配してくれてありがと。ほら、リコリス」


「ああ、うん……」


 リコリスはユウの選択にまだ呆然としている様で、街の方まで歩いて行くと自動で付いて来る。やがて深い所から抜けるとハッと我に返ったリコリスはユウの肩を思いっきり掴んで遠慮なくぶんぶんと揺らした。


「……じゃなくて、何やってんの!? 勝手に約束していいの!?」


「だ、だってあの状況ならそうするしかないだろ。それに助けてって言って来たんだ。助けを求める人の手を払いのけるなんて、俺には出来ない」


「そりゃそうだけど! ってか、私も絶対に同じ事をする訳だけど! もう少し戸惑いとか葛藤とか……! まぁ、ユウだし仕方ないか」


 けれどリコリスはユウの今までの戦績を思い出したようで、ふと動きを止めては俯いて大きなため息を零した。でも最終的に同じ事をする気だったのなら問題はない。まぁ、そこに迷いや葛藤が加わるなら話は変わるのだけど。

 すると二人の信号を見て疑問に思ったのかエルピスが通信越しに問いかけて来る。


『お二人とも、戻ってどうしたの? なんかいたの?』


「いや、奥まで行っても何もいなかった。多分鹿とかと見間違えたんじゃない?」


『やぱりそうだよね。だって私ん所でも全く見当たらないもん』


 そんな会話を聞きつつもみんなの信号を調べる。どうやらみんなはまだ奥の所までは行ってないみたいで、少女に出会った付近はまだ手つかずの様であった。だから全員がいきなり後退していったユウとリコリスに向けて通信をかけて来る。


『リコリス、どうだった?』


「こっちは駄目。そっちは?」


『こっちも全然ダメだ。鹿とかリスしかいねぇや』


「鹿……」


 その様子からして鹿の見間違えなんじゃないかと言う見解が多いみたいだった。話を聞く所他の小隊も鹿の見間違えと言う結論を出しているし、みんなもソレに賛同しているらしい。

 何はともあれまだ少女は誰も見付けてないんだ。それだけでも良かった。アリサやテスなんかに見つかればどうなるのか分かった物じゃないし。


『この森には何もないみたいだし、そろそろ戻りましょ。このままじゃ作戦終了時間までほっつき歩くだけよ』


『だな。熱源探知にも引っ掛かんないし、打ち止めにするか』


 アリサとテスの言葉を機に全ての隊が街へと戻って行った。そりゃこんな森の中をただほっつき歩くのなんて退屈だし、なにより熱源探知に引っ掛からないのだ。みんなにとってそれは何もいないと捉えられても当然の結果。

 本当は何かしらの手段で通信を傍受してるんだろうか。


 一先ずこれであの少女に危険はなくなったと安心し、ユウとリコリスも街の方へと歩いて行った。その最中に別行動を取っている二人へメールを送る。聞きたい事や教えて欲しい選択肢が山ほどあるんだから。

 だからユウは早速あの二人へと頼った。

 今もいつも通りに別行動をしている、ラディとクロストルに。



 ―――――――――



「で、何の用だい?」


「私達をメール一個で呼び出せるなんて相当レアだぞ~」


「分かってる。ただ、教えて貰いたい事があるんだ」


 作戦終了後。自由時間になったみんなはそれぞれの隊で話し合ったり、合同訓練の提案をしていた。でもそんな中でユウは路地裏に入り込んで二人を呼び、一番気になっている事を質問する。もう報酬は要求してこないと言うし、ここまで頼りになる情報屋なんてそうそういないだろう。


「――今さっきまで行ってた作戦で、一人の少女に出会ったんだ。頭にこれくらいの角が生えて竜みたいな尻尾が生えた」


「少女? 森の奥深くで?」


「そう。そしたらその子はこう言ったんだよ。自分は感染者だって」


「「…………」」


 すると二人は黙り込んでそれぞれに思考を巡らせる。

 この世界に竜族の亜人はいないはずだ。既に絶滅したと前に聞いている。となればあの姿は従来の物ではない。そしてパスト病の初期症状は皮膚が腐敗した跡や痣だけが残るのに角まで生えるという事は、あの少女は普通ではないのだ。

 やがて二人はそれぞれの情報を元に話し始める。


「突然変異ってやつかもしれないね。普通はそんな事あり得ない。まぁ、突然変異自体もあり得ないんだけど……」


「じゃあ先祖返り的なのは?」


「先祖返り?」


「そう。とある研究所から持ち出した情報だと、パスト病は血液とか細胞にまで干渉して人の姿を変えるらしい」


「ラディ、そんな事までしてたのか……」


「文字通りの命懸けだったからね」


 さり気なく研究所に忍び込んだ事を公言しつつも真剣な表情でそう言う。という事はあの少女は先祖が竜族で、パスト病が血液とか細胞に干渉してああなってしまったって事なのだろうか。元々パスト病自体が魔術の結晶みたいな雰囲気があるし、あり得ない事はなさそうだ。

 と思っていたのだけど、スマホを弄って情報を探していたラディは訂正した。


「……訂正。そうでもないみたいだぞ」


「そうでもないって?」


「――完全適応者。もしかしたらそれが適するかも知れない」


「完全適応者って、聞いただけでもゾッとするな……」


 イントネーションの響きだけだけど、絶対にロクな事になら無さそうだ。だってパスト病はウィスルみたいなものだし、それの完全適応となればどこぞのバイオハザードみたいになりそう。

 やがてラディは少しだけ間を開けるとそれがどういうものなのかを説明する。


「完全適応者っていうのはパスト病に完全なる抗体を持った人の事。忍び込んだ研究所にはどこから引っ張り出したのかはわからないけど、確率は百万人分の一を遥かに上回るらしい」


「んな無茶苦茶な……」


「そりゃ、今まで完全なる抗体を持った人なんて見つかってないしな。人類の半分が感染しても一人も見つからなかったんだ。可能性は千万かもしれない」


「――――」


 一千万分の一。その確率はあまりにも果てしないものだ。人類の半分……元から何人いたかも分からない訳だけど、もしそうだとしたら彼女は途轍もない存在にもなりうる。

 まだ確証はない。確信もない。そんな中で決めつけるのは流石によくないが、でも、本当なら大変な事に――――。


「つまりその子は人類初の完全適応者になるかも知れないって事だ。要するに……」


「研究機関の争奪戦が始まる」


「そう言う事だ」


 クロストルはユウの言葉に頷いて肯定する。それは真の意味で大変なことになりうるのだ。それこそ、このナタシア市全体を巻き込んでしまうくらいの。

 この街にはリベレーター付属の研究所の他にも複数個の研究所が存在する。中には暗部の研究所まであるのだとかなんとか。聞けば聞くほどこの街のセキュリティがどうなってるか気になる所だけど、つまるところ、それらの間で電子空間でも現実世界でも何かしらの戦いが起こるかもしれないって話だ。

 彼女にはそれだけの価値がある。


「どうするつもりなの?」


「そうだな……。現状で一番最善なのは放置する事だ。誰にも言わずそっとしておくのが最善策。でも……」


「見捨てられない、だろ?」


「うん」


 彼女は何かしらの形であれ助けてくれって叫んだ。その言葉を見捨てることなんてユウにはできない。だって既に赤の他人も助けてみせると誓ってしまったのだから。

 ゆえにこれからどうするのかの方向を固めた。


「頼れる人はいるのか?」


「……いる。ただ一人だけ、こんな俺でも信じてくれてる人が」


 そう言ってポケットから名刺――――もとい、ユノスカーレットへの連絡先を取り出す。彼女は研究者じゃなくドクターな訳だけど、立ち位置的にはほとんど変わらないはずだ。治療のために薬品を研究しているのだから彼女も研究者の一人として見ていいはず。

 困った事があったら連絡してと彼女は言った。なら今こそその困ってる時だ。


「力を貸してくれ。ユノスカーレット」


 そう言ってユウは彼女への名刺を見つめた。

今回で百話目だ~! 特に何かがあると言う訳でもないですけど記念すべき百話目だ~!

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