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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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099  『孤独の少女』

 集合会議から数日後。

 ユウ達はある任務を受けて別の小隊の管轄区域をうろついていた。本部からの要請によると街の端っこにあるスラムの更に奥で正体不明の影が見つかったらしく、その先行偵察としてユウ達が選ばれたという訳だ。敵性体であるのなら討伐してもいいとの事。


 全く不明な存在である事から十七小隊だけではなく他の計六つの小隊が参加している。それ程なまでに警戒するべき相手らしい。

 と言っても街の端っこにはスラムが多く存在し、中にはリベレーターの手すらも届かない場所も存在するとか何とか。それに関しては警備ロボットの巡回ルートとして組み込んでいるらしいが。


「やっぱり見つかるのならもっと奥か……」


「ここも結構スラムの奥だと思うんだけどな」


 リコリスとそんな事を話しながらもユウは道の先に見える森を見た。どうやらプレミアの時みたく全然手の届いてない場所は森になっているらしい。と言ってもあの場合はわざと手を付けてない、と言った方が正しいかも知れないけど。

 熱源探知は常に回していてもいつ敵が襲って来るか分からない。だから五感の全てに気を入れつつも森の奥へ足を向けた。


「そう言えば正体不明の影って言われてたけど、どんな形してたんだ?」


「何かね、聞いた話だと悪魔みたいな見た目らしいよ」


「あ、悪魔ですか……」


「そうそう。早い話が人にこう、カクってなってる角がぶっ刺さったみたいな感じみたい」


「ぶっ刺さったて」


 そんな事を話しつつもM4A1を構えて周囲を警戒する。でも影と言ったって“そう見えた”だけかも知れないし、本当は感染者みたいな化け物がいるかも知れない。だからその可能性を視野に入れつつも進み続けた。

 マップを見ると他の隊員たちも順々と森の中に入っている様で、次第と距離を詰めていった。


 しかしそんな化け物がいるのならもっと前にも観測されてしかるべきなのではないのか。だって発見された当時の映像はかなりひょいっと出て来たみたいだし、そんな感覚で移動しているのならもっと―――。そう考えているとリコリスが待ったをかける。


「止まって」


「どうした?」


「……足跡だ」


 するとリコリスはしゃがんで小さな足跡を見た。その足跡は土を踏んだ跡をしっかりと残していて、真っ直ぐと森の奥へと続いていた。

 何よりも気になったのが足跡の大きさで。


「子供、なのか?」


「大きさから見ればね。でも化け物なのだとしたらかなりの軽量型になるはず。まぁ、いない事を願いたいんだけど」


 そう言ってまた追跡を再開して歩き出した。少なくとも何かしらの生き物がここにいた事だけは確認出来たのだ。上々と言うべきか、残念ながらと言うべきか。

 複雑な心境になりながらもリコリスの跡を追った。

 しかしその痕跡もすぐに途切れてしまって。


「あれ? 足跡が……」


「なるほど。茂みに隠れて上手く足跡を消してるんだ。少なくとも知性はあるみたい。となれば鹿とかそこら辺の生き物が妥当かな」


 妙にそう言った生体に詳しいリコリスに首をかしげつつも他に何か手がかりがないかを探した。せっかく足跡が続いてたんだ。きっとどこかに別の手掛かりが……。そう思っていると茂みの中にある物を見付けて取り出した。


「リコリス。これ」


「えっと……レコード? 何でこんなところに?」


「さぁ」


 見つけたのは古ぼけたレコード。っていうかこの世界観でレコードってかなり違和感があるのだけど、聞けるのだろうか、コレ。確かにこの世界にも音楽の文化は伝わっているけど、そこまで需要は高くないはず。それがこんなところにあるだなんて些か不可解だ。

 リコリスも同じ事を思ったのだろう。互いに顔を合わせると同時に頷いた。


 誰かが捨てたんじゃない。誰かが落としたんだ。きっと足跡を付けた何かが通った痕跡のはず。となれば通ったのは人間になるはずだ。

 って事はここには人が住んでるのだろうか。

 そう思っていると何かが動くのを二人して捉える。


「――リコリス!」


「うん!」


 物音が響いた方角へ走り出す。まず人がいる可能性は少ないからいるとすればやっぱり動物だろうか。こんな所に野生の動物がいるとも思いずらいけど。

 ある程度まで近づくとまたガサガサッと物音が響き、周囲を見渡しては草木が微かに揺れているのを見て走り出した。


 少なくとも敵対生物でない事を祈りたいけど、相手は正体不明の生物だ。何をしてくるなんて分かった物じゃない。――そう考えていると動いている物の頭頂部を視界に収めて人であるのを認識する。でも何よりも驚いたのがその頭についていたモノで。


「いた、人だ! ってか……角!?」


「やっぱり人だったんだ。でもなんでこんなところに……って、あれ?」


 しかし姿を隠してから完璧に隠れてしまい、仕方なく立ち止まると熱源探知を起動させた。まだそう遠くには逃げていないはず。なら熱源探知を入れれば逃げられない。

 と考えていたのだけど周囲に反応は何もなくて。


「熱源探知に反応しない……? でもさっきそこにいたよね」


「いた。絶対にこんな短時間で索敵範囲外に逃げられる事は出来ないはずなんだけど……」


 そんな事が出来るのは全力のリコリスくらいだろうか。見つけて早々すかさず姿を消さないって事は、そこまでの速度は出せないって事だ。身長から見ても子供に見えた。子供で長距離を全力疾走する能力なんて平均じゃたかが知れてる。

 つまり、今はこの周囲に何かしらの手段で熱源探知を回避しつつ潜伏している――――。

 一通りの推測を終わらせてユウはその子が聞いている事を願って喋りかける。


「えっと、聞こえてるのなら話を聞いてくれ。俺達は君に危害を加える気はない。ただここに何がいるのかって確認しに来ただけなんだ」


 しかしその子は一向に姿を見せては来ない。そりゃ、今さっきまで叫びながらも追いかけて来た人間なんて信用できなくて当然か。だからどうにかして姿を見たいのだけど誤解を解く方法なんて無くて。

 必死に考えている内に一つの結論に辿り着く。あるじゃないか。彼女を呼び出せるかも知れない物が。だからこそユウは手に持っていたレコードを翳すとその子を誘導する。


「……茂みに落ちてたレコード。これは君のだろ?」


「…………!!」


 すると少し離れた所で茂みが微かに動いた。でも追ってはいけない。ここは子供が自ら姿を出すまで耐えなきゃまた逃げ出してしまうかも知れない。

 原理はまだ分からないけど熱源探知にも引っ掛からないのだ。もしもう一度隠れられたら今度は見つけられないかもしれない。


「何で集めてるのかは分からないけど、君に渡したい。だから姿を見せてくれないか。もちろん危害を加えるつもりはない」


「そうだよ。私達はあなたに危害を加えるつもりで来たんじゃない。姿さえ見せてくれるのなら、私達はすぐに返るから」


「えっ?」


 すぐに返るという言葉に小さく反応しつつもその子の反応を待った。

 最初はどう出るのかと思ったのだけど、しばらくすると茂みの中から人の手が出て来て少しだけ安心する。そして全身を見せるのだけど、次の瞬間に二人同時に驚愕して。


「――――」


 現れたのは十二にも満たない子供だった。

 紫色の短い髪の毛と紫眼にボロボロになった古い布――――いや、洋服。そして何よりも驚愕したのはこめかみ辺りにあった角と竜みたいな尻尾、ついでに肌に現れていた醜い痣だ。

 だからそんな姿になってるんだと思わずに二人で硬直する。

 そうしていると少女は話しかけて来るのだけど、その内容に少しだけ顔をしかめる。


「……げて」


「え?」


「投げて。お願い」


「……?」


 その発言の意味は分からなかったけど、こっちも姿を見れた以上レコードを渡さない意味はないので要求通り彼女にレコードを投げた。

 すると少女は手に取ったレコードを大事そうに抱えてこっちを見る。


「お兄ちゃん達は、どこから来たの?」


「この森の外から来た。ここで正体不明の影が確認されたから偵察して来てくれってさ。でも、それは君、でいいんだよな」


「うん。そうだと思う」


 取り合えず会話を出来た事にホッとする。会話が出来るのならある程度の交渉は可能だろうし、もしかしたらプレミアみたいに訳ありでここにいるのかも知れない。となればまずはここの情報を少しでも引き抜かなきゃ。そう思って更に話しかけた。


「君は何でこんなところにいるんだ?」


「……私達は、森の中で暮らしてるの。外の人達と触れ合わないように」


「――――」


 それは単に亜人差別を怖がっての事なのか、もしくはもっと別の事情があるのか。様々な推測が出来る中で亜人の種族別な差別に目を付ける。

 ケモ耳が生えた亜人でも一部の地域じゃ差別されるのだ。となれば竜族の亜人なんかどんな差別をされるかも分からない。一応差別される亜人が集められる区域があるけど、そこにも竜族の亜人なんて見た事も聞いた事もない。


 つまりこの少女の種族は最終的にこの森まで追い詰められたって事なのだろうか。いや、でもその記録が残っているのならリベレーターが何とかするはずだ。大体ベルファークは困ってる人を見捨てられる人ではない。救える手段があるのならソレを使う。それがベルファークという人間だ。

 だからこそ、そんな彼がここまでボロボロになった少女を放って置くなどあり得ない。


「差別なら大丈夫だ。きっと俺達のリーダーが何とかしてくれる。だから――――」


「近づかないで!!」


 少しだけ距離を詰めようと歩き出すのだけど、その瞬間に鋭く叫ばれて立ち止まる。やっぱり彼女からすれば普通の人間は怖いのだろう。

 と、最初はそう考えた。でも現実は想像以上に過激で、そして残酷で。

 少女は涙目になりながらもレコードを抱えて逃げる態勢を取った。


「だ、大丈夫だよ。私達はあなたに危害を加えるつもりは――――」


「そうじゃないの! 近づいたら、ダメなの!」


「何で……?」


「だって、私は……!」


 その先の言葉は喉に突っかかって出て来ない。だから少女は口ごもって何とかその言葉を喋ろうとする。ユウ達では何も出来ないからこそ待ち続けるのだけど、やがて少女はハッキリとユウ達に告げた。

 少女が知るには、あまりにも残酷な現実を。


「私は、感染者だから!!」

作中で一番の希望が描かれるのはここからとなります。何度かフェードアウトすると思いますけど、それでも変わったユウとその覚悟と、彼が描く希望をぜひ見届けてください!

「ここ○○に似てるな~」って思ったらそこは私の個人的に好きなシーンです(保険)。

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