旅人 【月夜譚No.2】
地震などといった天災は、人の力ではどうにもならない。それを改めて思い知らされた。
青年は無意識に重い溜息を漏らして腰に手を当て、目の前の広い川を見下ろした。岸から一、二メートルほどの段を隔てて、轟々と音を立てながら水が流れている。時折水面に見えるのは、上流で巻き込まれた木の枝だろう。そして昨日まではあったはずの橋が、両岸に柱を残してすっかりなくなっていた。昨夜の大雨で川が増水し、流されたらしい。
その大雨で足止めを食らった青年は近くの村で一晩を明かしたのだが、朝起きてこんなことになっているとは夢にも思わなかった。さてどうしたものか、と思案していると、不意に背後から元気な声がかかった。振り返ると、昨晩世話になった家の子ども達だ。
彼等の嬉しそうな笑顔を見て、今度は苦笑にも似た溜息が口を衝く。橋が修理されるまでは村に留まることにしよう。青年が軽く頷くと、子ども達の顔が先ほどより輝いた。