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果ての西天  作者: 藤野佑
序章
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部室(2)

部長登場!

俺の容姿は、簡単に想像できると思うが小柄なもやしっ子なのである。

体力測定で平均値を超えたことなど一度もない。自分が平凡な男子高校生だと言うのも誇張した表現と言えるかもしれない。そして顔面だがこれはなんとか普通を維持できていると思う。そこまで不細工だと言われたこともないし、もちろんイケメンや美形というワードとは縁がなかった。そして髪型は日陰者特有の目元までかかるほどの長い黒髪だ。朝は学校に間に合うギリギリの時間を攻めている。髪を整える時間は睡眠に。ーーようは朝に弱いのだ。今まで長々と語り部を気取っていたのに実は対して優れた要素のない日陰者だったことを知られると身も蓋も無い話である。




紅葉谷茜(もみじやあかね)は優等生である。運動神経抜群、成績優秀、背中にかかるほどの長さの赤味がかった明るい毛色の髪に、黄金色の瞳、長い足の長身キレイ系美少女である。しかし、性格に難あり。社交性に欠けることもあり、別にクラスの人気者というわけでもない。しかし、機嫌が良い時は勉強を教えてくれたり、手作りクッキーを振舞ってくれたりと面倒見の良い一面もある。ずっと機嫌が良ければいいのに…。


ーーーーそして最重要項目、彼女の握力は100キロオーバーと言われている。細腕なのに…と信じなかった馬鹿な男子を握手で病院送りにした逸話を持っている。






全てにおいて紅葉谷に劣る俺は、同い年にも関わらず部の中で最底辺の立ち位置を確保したわけです。まあ最底辺と言っても部員は3人しかいないけど。そして、我が部のオアシス、癒し系ゆるふわ美少女の部長が不在の今、部の権力は一極集中。紅葉谷を止めるやつがいない独裁政治。一刻も早く革命を起こさなければ!

「おい!紅葉谷、いつまでもお前が偉いわけじゃあないんだぜ!この部の2番手の立場を貰い受ける!」

ビシッと指を突きつけジョ○っぽいポーズで宣言する。

「へえ、面白いじゃない。具体的に何で勝負するのかしら。腕相撲?指相撲?押し相撲?」

凄く良い笑顔で聞いてくる。

「……え?いやっ、そういうフェジカル系はやめようぜ。やっぱり、身体能力で雌雄を決するのは荒っぽいんじゃないか?やっぱり伝統あるボラ部の権力争いに暴力を絡めるなんて先輩方に申し訳ないよ!……と思います。ここはやっぱり天に任せて運で決めようよ!」

こいつに身体能力で張り合うのは自殺行為だ。頭脳戦も厳しい。能力に一切関係の無い勝負に持ち込めれば勝てる確率は十分ある。自分の土俵に引きずり込めないかと、手に顔を乗せて『考える人』の格好でウンウンと悩む。

「では、ジャンケンでどう?」

先方から思いも寄らぬ提案が。

「……良いのか?」

「ええ、もちろん。天に任せるというのも面白いでしょう?そうね……。10回ジャンケンで一回でも勝ちか、あいこを出せればあなたの勝ちっていうのでどう?」

「は!?それはつまり、お前は連続で10回とも勝たないと勝ちにならないってことだろ?確率的に俺の勝ちは確実だろ」

「ええ、逆に言えばこれであなたが負けたら、笑い者よね。59049回に一回の負けをあなたは引いたことになるもの。こんなに割りの良い賭けは無いわよ。ーーただし、もし負けたら、もう少し私達の言うことを聞いてもらおうかしら」

紅葉谷は今までの苦労を思い出したのかこめかみに手を当てて、疲労を(にじ)ませた声で要求してきた。

「え!?いや、ちょっと怖いんだけど。まあ良いか。いくらお前でも確率は操作できねえだろ」

怪しみながらも不承不承、了解する。

「もちろん、そんな芸当出来ないに決まってるでしょ」

「「最初はグー。ジャーンケーン、ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!」」

ーー全てのじゃんけんで俺は負けた。

「嘘だろ!?」

別に規則的に出したわけでもないのに全敗だと!?

「クススススっアハハハハハ(馬鹿がいる!)」

彼女は笑いをこらえきれなくなったのか腹を抱えて笑いだした。

「え、いやお前そんな爆笑するキャラじゃないだろ。そんな分かりやすいイカサマでもしたのか!?」

「イカサマなんてしてないわよ。で、あなたは負けたわけだけど今後ーー」

「おおっと!そういえば部長は職員室?」

全力で話題を逸らしに行く。

「ええ、そうよ。三村先生を呼びにいったわ」

先ほどのはひと時の話題だったのかすぐに乗ってきた。

「はぁ、早く部長来ないかな。」

「気持ち悪いわね。あなた、嫌われていることに気がついていなかったの?」

「えっ!?」伝えられた真実に愕然と震える。あの部長に嫌われるなんて………。立ち直れない。

「ーーーーーーーーーーーーーーーー」

「…え…そよ」

「ねえ…そよ」

「ねえっ、嘘よっ!」

「あの部長が人間を嫌いになるわけないでしょう?」

「っっっっっっっは!」

膝から崩れ落ち、真っ白く燃え尽き、家帰ったらパソコンのマル秘ファイルを消してから自殺しようかと本気で検討しかけたその時、俺を絶望から救いあげる声が聞こえる。この声は…俺を絶望に落とした声じゃないか。まああの部長が人間を嫌いになるわけないか。

「あなたショック受けすぎよ。キモい。」

「騙した人間のいうセリフじゃないだろ。」

「これだからチビは、体が小さいと器まで小さく見えてくるわ」

「おい、体が小さいことと俺の器が小さいことは関係ないだろ。」

「器が小さい方ぐらいは否定しなさいよ。」

「え、まさか紅葉谷は俺のことを器が大きいと…」

今まで影で紅マッスルデビルと呼んでごめんなさい。紅葉谷様。不肖私、月島秋風あなた様に一生ついていきます!

潤んだ瞳で元悪魔ーー現天使を見つめていると。

「なわけ」

「デスヨネー、っていうかもっとちゃんと否定しろよ。『なわけ』とか雑に否定し過ぎだろ」

お前もどうせ暇なんだからもう少し間を持たせろよ……。

「もっとちゃんと否定してって、まさかあなたそういう趣味が…」

「違うよ!俺を勝手に被虐趣味の変態に仕立て上げるな。」

「それにしても部長遅いわね」

「うん。ほんと何やってるんだろう。」

と聖天使部長の話をしている時にドンッと勢いよくドアが開かれる。

「おはよっ、みんな朝早くからご苦労だね!」

「「おはようございます」」

「お?2人とも息ピッタリじゃん。先輩を除け者にして」

と口の中に食べ物を詰め込んだリスのようにむくれながら文句を言ってくる部長。可愛い。

「「べつに息ピッタリじゃないです。部長」」

「はははっ仲良しー」

クソ、こいつわざとやってないよな。と睨みつけると向こうからも返事があった。ーーー確信犯か。普段真面目な癖にこういう時だけ無邪気な悪ガキのような表情をするから始末に負えない。

「ーーで部長。今日はどこに行くんですか?」

「ん?いやいつもの地域清掃だけど。」

「え、冬休みにわざわざあるんだしもっと特別なことを考えてたんですが。」

「冬休みだからこそだよっ。落ち葉は沢山あるんだから。誰かがやらなきゃ。」

「そんなの別に俺らじゃなくてもぃ…いややりますよ!頑張りましょう地域清掃」

「これが最近話題のイエスマン。将来は有望な社畜になりそうね」

「うるせえ」

「は?」

「いや…まあちょっとだけ言い過ぎたかも…」

「さあそろそろ先生来るから準備してっ」

「わかりました」

「了解でーす」

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