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果ての西天  作者: 藤野佑
序章
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部室(1)

誤字脱字、慣用表現ミスなどありましたらご指摘ください。

夢の内容を一通り書き連ねた俺は朝ごはんを食べるためにキッチンに向かう。冷蔵庫から昨日買った1セット3パックの納豆を一つ取り出す。そしてキッチン袖にある炊飯器からおわんにご飯を一杯盛り付ける。食事用の机に冷たい納豆と温かいほかほかご飯を置き椅子に腰掛け、納豆のパックを開ける。それをご飯に入れてかき混ぜる。

「いただきます」

スプーンに手を伸ばして、ネバネバほかほかの栄養満点の納豆かけご飯を豪快に口の中に放り込み咀嚼していく。朝ごはんのメニューは変わらない。昼夜は母さんが作ってくれた弁当や作り置きを食べるのだが朝は自分で用意する。朝だけとはいえ毎日料理をするわけだから、料理の技術も上がりそうなものだが、上がることはまずないだろう。楽な方に流されやすい俺は、今日も料理とすら呼べるか怪しい納豆かけご飯だ。

洗面所で寝癖を直すと制服に着替える。

昨日から冬休みに入ったのだが今日は部活である。休みなのに部活を休ませてくれない。紅葉谷もみじやも酷いことをしてくる。サボると後で小1時間ほどのお説教と物理的に制裁があるのは経験済みなので

「よし、行くかっ!」

と気合を入れドアを開け家から出る。部活だ!青春だ!頑張れ俺!寒いな……戻ろ……意気揚々と外へ出たが冬の寒さを失念していた。




部屋で10分ほど粘って言い訳を考え続けたがどれも直近で使ったことのあるものだった。

マフラーと手袋を装備し自転車で高校まで向かう。所要時間30分ほどで着く。家を出た時間から高校へ着く時間を算出する。少し遅れそうだ。足に力を入れてスピードを上げていく。八百屋のおっちゃんからの挨拶を適当に返し、商店街を抜け、大通りを駆け抜けていく。いつも曲がる場所で曲がり、いつも止まる場所で止まる。平凡な日々だと自嘲気味に笑いーー昨日の非凡な出来事が脳裏に蘇る。

「寝たら忘れると思ったけど……妙に悲しい夢を見た気もするし……。何だったんだろう」

再び胸中を不安が支配しそうになったので、ブンブン頭を振って気分を切り替える。気分と一緒に落ちたスピードを取り返すように立ち漕ぐ。


ここが俺たちの通う地元で一番の学力を誇る私立A高校だ。




ローファーから上履きに履き替えると部活塔上4階の最奥にある部室に辿り着く。

俺が入っている部活はボランティア部だ、A高校では全生徒の部活動が義務付けられている。

ドアの前で頬をパチンと一回叩き気合を入れ、ドアを開ける…部長と紅葉谷はまだいないようだ…、慎重に見回していく。

組み合わされた長机の上にはカバンが既に2つある。2人は既に高校に来ている。しかし…出かけている?いやまだ集合時間前である。出立の可能性はない。部長は職員室に先生を呼びに行っているのだろう。紅葉谷はまた何かを仕掛けるために隠れているのだろうか。前回はロッカーに隠れていた。

「今回はどこだ、どこから俺を狙っている……」

「……考えろ月島秋風、前回の雪辱を果たすんだ!

感覚を研ぎ澄ませていく。後ろのロッカーに忍び足で近づくーーいない。他に隠れられる場所というと、机の下ぐらいのものだが、当然そんな安直な場所にはいない。どこにいるのだろうか?キョロキョロと挙動不審に動き回る俺に後方から声がかかった。

「何をしているの?月島君。」

「うわぁっ!」

驚き、慌てながら後ろを振り返る。教室の入り口に紅葉谷が立っていた。俺が入ってくるときにドアを閉め損ねたからドアの開閉の音が聞こえなかったのだ。赤面し、顔を手で隠しながらながらポツリと(うめ)く。

「どこから見ていた…」

すると紅葉谷はキョロキョロと挙動不審に動き回ると精一杯の声真似、額に手をそっと触れて、芝居掛かった仕草で

「今回はどこだ、どこから俺を狙っている……」

「さいですか……うわあああああああぁぁああ!」

最初からじゃないか…っていうか俺そんな厨二くさいポーズは取ってないよね?そういうのはもう卒業したから!実は無意識に取ってたとかじゃないよね?自分のやった軽率な行いが脳内に反芻される。発狂しながら頭を抱え身悶えをする。こうしてまた新しい黒星が、黒歴史が青春の1ページに追加されたのであった。



敗北を胸にそっとしまい込み、ふと湧き出た疑問を紅葉谷にぶつける。

「どこ言ってたんだ?カバンを置いて。」

「それは…べつに関係ないでしょ。月島くんには。」

と頬を赤らめた。

「ん?いいじゃんか、別に教えてくれても。」

言っているうちに気がついてしまった。今度は俺が赤面する。あーそうですか、トイレですか。ここはスルーするのが男の度量ってものかな。だがしかし!少し照れてしまったがここは今度こそ雪辱を果たせという神様の粋な計らいか。ちっぽけなプライドを守るために虎の尾を踏みに行く。

「お花を摘んでらしtぐばぁっ」

飛来した拳によって調子に乗った俺は本日二度目の敗北を喫することになるのだった。



5分ほど、自分の顔面に叩き込まれた拳の重さに戦慄していると、再度紅葉谷から声がかかる。

「来るなんて意外だったわ。」

「心外だな」

「大して上手くないわよ。」

「おう……」

二度あることは三度ある。最後のチャンスだと思い放った渾身の洒落はあえなく撃沈。恥を三重に上塗りしたところで本題に入る。本題に入るまでの犠牲多すぎる……。

「今日はどこに行くんだ?」

「それはまだ私も知らされていないわ」

使えねー。っと危ない、危ない。表情に出したらだめだ。この前、表情で内心ついていた悪態がバレた時のことを思い出せ。また紅葉谷デストロイパンチ(命名・・月島秋風)を食らったらマジで頭蓋骨にヒビでも入ってしまいそうだ。







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