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4話 ダンジョン都市へ行くために



 ソフィアが掲げた本は、わたしが持ってる土の魔道書と同じ雰囲気がした。

 わたしの魔道書の色が橙色なのに対して、彼女の本は服装と同じく真っ白なもの。


「ねぇ、それって魔道書じゃないの?」

「よくわかりましたね。これは星の神子へと至る道標となる『星の魔道書』。それも光の魔道書です」


 わたしの言葉に頷いたソフィアは、光の魔道書とやらを大事そうに抱え直すと、先ほどまでの不安な様子も捨て去って意気揚々に語り始めた。


「この大陸には数多くのダンジョンが存在していますが、その中でも星の創造主である6人の賢者様の力が眠る場所を『賢者のダンジョン』と言うのです。光・火・水・風・土・雷属性の6つのダンジョンで、それぞれが5大国とエルフの森によって管理されているのですよ」


 たしか、光の賢者様からも「6つのオリジナルダンジョンを巡れ」って言われた気がする。

 今の話でも6つの『賢者のダンジョン』って言ってたし、わたしが元の世界に帰るには、それらを攻略しないといけないってことだね。


「なら、『星の神子』ってのは何なんだ?」

「賢者様の力が眠るダンジョンを聖域として、その場所を守護する役目を持った女性を『星の神子』と呼ぶのです。六星教会から神子候補として選ばれた子ども達は、星の魔道書を託されて、そのお力を借りてダンジョン攻略の旅に出ます」


 子ども達? 候補は複数なのかな?


「はい。レース形式で、最も早く全てのダンジョンを攻略した者が、星の神子となれるのですよ」

「そういや十数年に1度、そんなことが起こるって聞いたかもな」

「白い嬢ちゃんは、その候補の1人として旅に出たのか」

「正解です!」


 ふむふむ。ソフィアは何か特別な使命を持った旅をしているようだ。


「その初っ端から躓いて、この町に流れ着いちまったんだな」

「ぅぅ……、返す言葉もありません……」


 お金も使い切っちゃったみたいだし。こんな女の子に一人旅を強いるだなんて、六星教会とやらも鬼だね。


「いちおう、1人で旅をしなくちゃいけないとは決まってませんよ。貴族が有利にならないように身内の護衛の同行は禁じられていますけど、自分で稼いだお金で助けを求めたりするのは許されています」

「そりゃあ、ダンジョン最深部には『ガーディアン(守護者)』が居座ってるし、Aランクの冒険者ですら1人での攻略は不可能なのが大半だ。協力してくれるヤツを雇うのも、試練の1つなのかもしれんな」


 おほ! なんだかサラリとパワーワードが飛び交ってますよ!

 ガーディアンだって、強そうだね。冒険者もいるらしいよ。あとでギルドを見に行かないと(わくわく)。


「白い嬢ちゃんの事情は分かった。先のことはロナルドに相談するといい」

「ありがとうございます!」


 ソフィアに早速、協力者が現れたみたいだよ。よかったね。


「で、嬢ちゃんはどういうことなんだ?」

「へ、なにがですか」


 ジロリと冷たい視線をジェイコブさんが送ってくる。なぜにそんな視線を。

 そわそわするわたしに、ジェイコブさんは呆れたように告げた。


「魔道書だよ。持ってたよな?」


 ジェイコブさんはわたしが持っている本が魔道書だと気づいた様子。ソフィアの話を聞いてピンと来たのかな。


 でも、わたしが持ってる本は『星の魔道書』とかいう大層なものではなくて、ただの、ほんとに普通の、扱えもしない魔道書なのだ。


「初めから所持品はその魔道書だけだったよな。金も無い、水も食料も無い。なのに魔道書だけは持っていた。……どこで手に入れたんだ?」

「これは光の賢――言わない方がいいのかな?――。いや、あ~、空から降ってきた?」


 テーブルに出した橙色の魔道書。『魔道書:土』というタイトルのこの本は、わたしが異世界に来たときに空から降ってきたものだ。

 これは光の賢者様からの贈り物だと認識しているけど、確証もないし、説明もできないし、言わない方が賢明ってのがお決まりだよね。


「空から降ってきた? 意味が分からん……」


 うん。わたしもわからんのよ。


「こ……これ! 星の魔道書ですよ!!」

「はえ?」


 わたしの魔道書を注視していたソフィアが、なにやら確信を持ったように叫び声を上げた。

 光の魔道書を土の魔道書の横に並べられてみれば、確かに装飾からも同じ神秘的な印象を受ける。けど、魔道書なんてみんな同じようなものじゃないの?


「見てください。この表紙には土の賢者を示す紋章が刻印されてます!」


 はあ。ただのカッコいい絵だと思ってた。


「これは後に複製された魔道書ではなく、オリジナルの魔道書だというなによりの証! オリジナルの魔道書は、世界にある6冊の星の魔道書しかないんですよ!」

「おお! これも星の魔道書だったのか!」


 やっぱり、これはチート特典だったんじゃん! やったね、わたし! これで無双の魔法使いになれるよ!


「あなたも神子候補だったのですか!?」

「ん、そうなのかな?」


 神子とかについては何も言ってなかったと思うけど、これが星の魔道書で、それを持っていて、賢者のダンジョンを目指しているのなら、わたしも神子候補になるのかな?


「ダンジョンを巡れとは言われてるんだけど……?」

「なら、嬢ちゃんも神子候補ってことじゃねぇか」


 そうだったのか。ダンジョンを巡り終えても、わたしは元の世界に帰るんだけどな……。


 まあそんなことより、わたしも神子候補なら星の魔道書を使えるはずでは!?


「ねえねえ! さっき魔道書を使ったときは鼻血出して気絶したんだけど、正しく使えばすごい力が発動されるんだよね!?」

「いえ、それは単に魔力総量が不足していただけかと」

「ぉぁっ……」


 使えないんかい! 椅子から崩れ落ちるわたし……


「チート特典をくれるんなら、魔力もチートにしておいてよ……」

「そ、そんなに落ち込まないでください。わたしだって、まだ初級魔法しか見ることを許されてないのですから」

「嬢ちゃん。魔力ってのは鍛えれば属性の適性も増えていくもんだし、これから鍛えていけば、ちゃんと使いこなせるようになる……かもしれん」

「さっきからジェイコブさんが、わたしの理想を打ち砕いていく……」


 いいさ。わたしもいつかはクールビューティーな魔法使いになるんだから。


「嬢ちゃんがいじけちまったが……、さて、これからどうしたもんかな」

「神子候補が2人も路頭に迷ってやがる。しかも、ライバル同士になるのなら気軽に手を貸すのもマズいんじゃないか?」

「偏らなけりゃいいだろ。女の子が困ってるのに、助けねぇ理由はない」

「だな」


 おお、なんだかとっても頼もしい言葉が聞こえてくる。これは膝を抱えている場合ではないようだ。


「ていうか、そもそも勘違いをしてるみたいですけど、わたしは神子になりませんよ?」

「は? だって、嬢ちゃんも神子候補なんだろうが」

「候補だろうが、どの道わたしにはなれませんし、ダンジョンを巡れと言われたのも別の理由です!」

「理由ってのは?」

「えっと……、故郷に帰るため?」


 うん、間違ってはない。こればっかりは信じてもらうしかないんだ。


「あ……あの……」


 どうやって信じてもらおうかと頭を捻っていると、隣からの、とっても可愛らしい呼び掛けがわたしの心を震わせた。

 なんだか危ない扉を開いてしまいそうになりながらも必死で堪えるわたしは、ゆっくりと隣に座っている女の子、いや、白い天使を凝視する。


「あの……神子にならないのなら……わたしと一緒にダンジョンを巡ってくれませんか……?」


 祈るように組まれた小さな手。覗き込まれるように低い位置にきた幼い顔。内なる不安に揺れた空色の瞳。

 それはもう、控えめに言って――



 天使、キターーーー!!



「おっふ、危ない。鎮まれ……鎮まるのだ、わたしの邪なる心よ……」

「ど、どうかしましたか?」


 やだ、ダメ、待って。そんな風に見つめられたら、浄化されてしまう。


「……やっぱり、ダメで――」

「いいよ! オッケー! バッチコーイ! 喜んでお供致します!!」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」


 大男2人がドン引きしてるけど、そんなこと気にしないの!


「わたし達、2人でダンジョン巡りを頑張ります!!」





 と、その前にやることがあるのだった。


 食堂の朝は早く、支度を済ませた冒険者で店内はカラフルな混沌に満たされている。

 それでも軽食ばかりの注文に回転率も凄まじい。今もまた、1組のお客さんが席を立ち、入れ替わるようにして新たなお客様が扉を開く。


 店内を軽やかに奏でるドアベル。すぐさま駆け寄る2人の女の子。


「「いらっしゃいませ。『森の憩い亭』にようこそ!」」


 ダンジョン巡りの旅に出るため、わたしとソフィアは住み込みバイトを始めました!



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