プロローグ2 異世界に来たらしいけど……
大画面テレビを前にして、コントローラー片手に腰を捻ったまま固まっているわたし。
洋風テーブルにて、ティーカップ片手に口を付けたまま固まっている純白の美女。
ばっちり、目が合ってます。
わたしから話し掛けるべき? 「お客さん、一緒に踊らないかい」って。ご近所の評判ガタ落ちするでしょう。
いやだよわたし。明日から『ツイストお嬢さん』なんて呼ばれるの。
まして、今から「太極拳やってたんです」とも言えないよ?
……どうしよう。
テレビ画面から流れてくる軽やかなBGMが虚しい空間を満たしていったとき、ついにお客さんが反応してくれました。
非常に整い過ぎた西洋顔の、長い睫毛が羨まな瞳をそっと横に流して、ティーカップに添えていた手で口元を隠して溜め息を零す美人。
ええ。それはとっても現実離れした美しさで、儚げながらも妖艶な仕草がわたしの胸をズッキュンします。
……でも、わたしはわかってる。あれは呆れと困惑を表した仕草なんだって。自分で言ってて悲しくなるけどね。
「ごめんなさいね。ここに人が来たのは久しぶりなのよ」
いえいえ、謝るのはわたしの方ですよ。こんな醜態をお見せしてしまってスミマセン。もう、穴があったら入って絶叫したいくらいです。
「お母さんのお客さんですか?」
「お母様?」
お父さんはありえない。お父さんの知り合いのはずがない。こんな美人に出逢える人生なんて送ってないんだから。
となると、お母さんの知り合い一択なんだけど、こんな西洋美人さんがいたかねぇ?
「お客さんと言うのなら、あなたの方よ。ここはわたし達の空間だもの」
「え? いやいやなにを……」
コントローラーをひらひらさせるわたしを指して、美人さんはわたしの視線をゆらりと上に向けました。次いで右、そんで左。
……で、
「ここどこ!?」
テレビある。コントローラーある。ソファーある。
机ない。壁ない。天井もない。……真っ白だ。
わたしは、いつの間にか真っ白な空間にいた。
「なんで!?」
「さあ? 忍び込んできたのはあなたなんだから、わたしに分かる筈もないでしょう?」
「おうまい……」
なにこれ、なにこの状況。もう、わけわからん……。
「夢?」
「ほっぺた叩いてみる?」
「いや、遠慮しときます……」
美人さんの指先が振られると、頬を張られて首が無くなるイメージが頭に湧いてきた。
仕方ないから自分でやるけど、やっぱり痛い。
「せっかくの可愛い顔が台無しよ?」
「美人さんに言われると皮肉でしかないです」
「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。……もしかして、ほんとに迷子なの?」
「テレビがあって、ゲームが点いてて、コントローラー持ってますけど。迷子なんですかね?」
「テレビゲーム……。時空が繋がるにしても、まさか、そんなこと……」
夢じゃないのかな。美人さんも親身になってくれたみたいだけど。
そんな状況で、わたしの中には1つの考えが浮かんでいた。否定はしたいけど、どうしても離れなかった。どうしても、聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「美人さん」
「……なにかしら?」
「いつからそこにいたんですか……?」
まさか、トチ狂った姿が初めから見られてた? 返答如何では、わたしの人生が終わる。
「ずっとここにいたわ。……それはもう、ずっと昔からね」
「……終わった」
目の前が真っ白になった。
―――――
コンティニュー?
YES
→NO
―――――
【GAME OVER】
こうして、わたしの短い人生は終わりを告げた。
早かったなぁ。もっと遊んでたかった。友達にも、ごめんって言えばよかった……。
「なんだか、人生が終わったような絶望感を漂わせてるけど、まだ終わってないのよ?」
「恥ずかしいんです。放っておいてください……」
「でもそうね。少なくとも、元の人生には戻れないのかしら」
ほへ? いま、なんと?
「一通りの可能性を考えてみたんだけど、どの道、今のあなたでは元の世界に帰れないの」
なぜに?
「この『聖域』まで空間を越えたときに、あなたの魂が不安定になったみたいで、同じ空間を開いたとしても、今のあなたには耐えられない」
まじでふか……。
「そこであなたには、こちらの世界のダンジョンを巡ってもらいます」
「なんで強制?」
「巡ってもらうのは、数多あるダンジョンの中でもオリジナルの6つ。それらに眠る力を纏うことが出来れば、あなたは元の世界の同じ場所、同じ時間に帰れる。……帰りたくはないの?」
「帰りたい……です」
おっと、この状況ってよく見るパターンなのでは?
ま……まさか……。
「異世界チート旅ってやつですか!? 美人さんは女神様だったんですか!?」
「厳密には女神ではなくて、光の賢者と呼ばれて……聞いてないようね」
おお! ついにわたしも異世界勇者か! なんかダンジョンを巡るだけで帰ってこれるみたいだし、お得じゃないかい!?
「フッフー!」
「……どうして小躍りを再開したのかは分からないけど、理解はしてくれたようでなによりだわ」
「異世界~転生~特典~。へへへっ。わたし、ちゃんと魔王を倒せるかなぁ? (わくわく)」
「……魔王はいない筈だけれど。心の準備も万端らしいから、もう送っちゃうわね」
異世界バッチコーイ! いざ行かん! 新たなる大地へ!
光に包まれたわたしは、こうして異世界へと旅立ったのである。
それがまさか、あんなことになるなんて。ほんと、このときの自分をボコってやりたいよ……。