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 ――――金色の鳥の夢を見た。


 それは、広がる大空の中に在った。どこまでも蒼く、青く続く昊天ソラの中に、その赤く燃える翼を広げていたのだ。

 見上げるあたしの視界の端には黒々とした影が迫っているが、赫々とした天の輝きは邪悪が忍び寄る隙さえ与えない。

 ゆらゆらと揺蕩うような意識の中で、きっとあの輝きは、この星の「生きたい」という叫び、願い、――――息吹、そのものなのだろう、と。

 確たる証拠はない。しかし、ともすれば視界を覆い尽さんと迫ってくるこの漆黒の冷たさ、触れるだけであたしの中の何かが吸い取られてしまいそうな凍てつきは、『死』という概念に近からずも遠くないものに思えて。

 竦んでしまいそうな心を叱咤する。纏わりつく黒を解き、輝きに向かって手を伸ばした。――――掌の隙間で、確かに目が合った気がした。



 静かに、その翼は風を掴んではためく。

 そして降って来る。禍に包まれたこの星を、まるごと浄化せしめる金烏の光が。



 燃えるように熱く、そして祓うように清々しい熱量があたしを包み、視界は緩やかな橙に覆われる。

 意識が影色の帳の向こうへと落ちていく間際思ったのは、


「(……嗚呼、まるで、太陽のよう)」




 ………。

 ……。

 …。


 ***



 ――――西暦2020年。突如、隕石が太平洋の真ん中に墜落した。未曽有の大災害を防ぐことは叶わず、太平洋に接する国々はいずれも甚大な被害を受けた。

 しかし、災害はそれだけではなかった。隕石の墜落地点と思しき場所で、『黒い異形のもの』が活動を開始したのだ。

 “それ”らはまずアメリカ合衆国を目指した。隕石によって引き起こされた大津波の被害から未だ立ち直ることのできていなかった沿岸諸都市は、当然迎撃を開始したものの、“それ”らには現代兵器のいずれも有効打とはなり得なかった。


 先の大戦より禁忌とされてきた核兵器の使用さえ検討される中、ついに彼らは北米大陸に上陸。

 ――――その姿は、光を吸い込むような粘性を帯びた漆黒。四肢を生やし、人間を優に超える速度で疾駆する“それ”らは、アメリカという一国家を食い潰し、ヨーロッパへとその魔の手を伸ばすうち、いつしか“ビースト”と呼ばれるようになった。

 彼らに知性はない。理性はなく、本能さえもない。生存のためでもなく、繁殖のためでもなく、ただただ人間を殺し、喰らい、版図を広げていく様は生き残った人類に底知れない恐怖を植え付けた。

 それが単に隕石のせいならば、あるいは津波、あるいは地震、火災、洪水、疫病によるものならばまだ諦めることもできよう。古代の人々がそうしてきたように、自然の神々の怒りだと頭を垂れ震えて過ごすこともできたことだろう。


 だが、このような得体の知れないものどもに無残に食い尽くされるだけの、あまりにも惨めな死を、人間たちは「是」としなかった。

 その意志に星が応えた――――のかは、確かめる術はない。だが小さな人間たちが、獣たちに対抗する術を手に入れたということだけは確かだった。

 力の名を、“星力マナ”。星の深淵より湧き出で、太古より伝説の中にのみ存在してきた超常の存在が、ここに至ってついに立証されたのだ。

 それは意志の力に応じて、時に物理万象さえ覆した。何もないところに炎を起こし、氷を作り、雷を迸らせて風を巻き起こし、そしてそれらを用いて行われた実験戦において、唯一獣たちに対する兵器と成ることが実証された。


 人類は、その事実を受けて瞬く間に物理法則を飛び超える術を――――“星術アストロマギア”を編纂。

 彼らは、かつて荒唐無稽として凍結されていた『月面都市計画』を掘り起こした。星力及び星術によって運用することで月面都市「玉兎」を造営し、そこに生き残った人々を避難させることに成功すると同時、正体不明の異形たちは「星喰ビースト」と呼称を改められた。

 星喰の出現から五十年で、人類の総人口は十分の一にまで減っていた。しかしそれでも、彼らは決して諦めない。諦めることができず過ごした雌伏の時が、ようやく終わった。




 ――――いよいよ始めよう。

 ――――これは、星を取り戻す物語である。

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