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いつか夢見る人心核  作者: かめったろす
三. 反撃開始
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反撃開始

 アルバ・ニコライの心が折れた時点から、時計の針を数分巻き戻す。


 紀村ナハトはモニター室で、国連宙軍が放った核弾頭〈トライデント〉が〈SE-X〉に向かう様子を確認していた。レーダーが機能する範囲でのみミサイルの追跡が可能だが、ナハトにとってはそれで十分だった。


 ナハトの隣で、事態の急変に驚愕を隠せないフェンがいる。計画に狂いはないと、フェンの懸念を一蹴しただけの自信。この半年間の準備は全てこの瞬間のため──オルガ・ブラウンの生まれ変わりとして恥じない謀略を巡らせた。


「〈トライデント〉の軌道……! これは……!」


「黙って見ていろ!」


 ナハトの作戦は、国連宙軍が保有する核弾頭の弾道プログラムを書き換えることが要となっていた。


 それにより達成する目標は二つ。国連の手によってハワード候補を爆殺すること、および、人心核イヴの確保である。


 〈神の代弁者(プロフェット)〉を操る臨界突破者を、戦闘機によるドッグファイトで倒そうと思うなら、それは梶原奈義以外不可能であることは明白。ならば、邪道を進むしかあるまい。新量子を引きはがすのには、核弾頭が効率的だと考えた。


 それにはまず、国連宙軍がイヴとの闘いで〈トライデント〉に頼るしかないと気づくことが必要だった。最もナハトが懸念していたのは、国連側が、何の策も見いだせず〈SE-X〉に嬲り殺される結末。それだけは避けなければならないけれど、そこまで介入するには準備が足りない。軌道エレベーターに駐在する人員の操作は、その人数の多さから掛けるリソースがあまりに多大だった。


 時間は限られていたのだ。月面防衛戦線がする戦争までの備えは、おそらく機体の調整のみだったから。


 したがって、国連宙軍が〈トライデント〉の使用に踏み切った今、ナハトが仕込んだ弾道修正プログラムが作動する。


 まず核弾頭の一つは、ハワード達を集めたラグランジュ5の宇宙ステーションに向かうように細工した。


 これによりハワード候補たちは全滅。8人中2人まで絞ることができる。あと二人は時間をかけて、アルバと共に各個撃破すれば良い。


──最も、ジョンソン・ガルシアが明龍に捕らえられていることは予想外だったが。


 そしてもう一つの目的──それは人心核イヴの確保。


 こちらもナハトによる弾道修正プログラムが作動している。


 確かに〈神の代弁者(プロフェット)〉による乱重力場は強大だ。あらゆる質量兵器は着弾する前に原子レベルまで分解される。その際の蛍光や燐光が、光の渦になり煌びやかな地獄を実現させる怪物。


 <SE-X>に向かう軌道を描く49発の<トライデント>。ナハトによる弾道操作は、有体に言えば逐次着弾である。


 国連宙軍が発射させるミサイルは最強の敵を前に、確殺の念が込められている。戦争を終えるための決戦兵器は、間違いなく敵を滅ぼし尽くさなければならない。


 ナハトにとって、国連がどのように<トライデント>を撃ち込むか、予測できなかった。もし、全弾同時発射ならば、ナハトはその弾道、速度を調整しなければならない。


 <SE-X>は放射線を捻じ曲げる効果を持っていることは予想できた。人体模倣研究所では光学迷彩を使用していたのだから。


 ただし地球で戦っていた様子を鑑みるに、それは万能ではない。すべての攻撃が尽く防げるわけではない。実際、奴はレーザー照射を避けて見せた。


 結果として、<SE-X>は核弾頭が放つ地獄の光を、多大な<神の代弁者(プロフェット)>を消費して防ぐのだろう。一発なら凌ぐだろう。なら、二発は? 五発なら? 十発でも防げるか?


 いずれイヴには限界が来る。49発の核弾頭をまともに食らえば、死んでしまうだろう。


 そこで先ほどのフェンの質問の回答ができる。


 ナハトの仕組んだプログラムは、ミサイルを逐次着弾させる命令だ。一発、二発と順次<SE-X>に着弾するように、速度、方向を調整するプログラム。


 そして限界が来たその瞬間──神秘の鎧がはがされたその瞬間に、核弾頭の推進が止まる仕組み。


 すなわち、ナハトは臨界突破者から<神の代弁者(プロフェット)>のみをはぎ取ろうとしているのだ。


 それは実験に近い。一発ずつ核弾頭を凌ぐ<SE-X>は果たして、いつまで神秘の防壁を張り続けることができるのか。


 <神の代弁者>が消えたとき──レーダーが使用可能となったとき、残りの<トライデント>は停止する。


 その後、物量で勝る国連宙軍にイヴが鹵獲されれば、ナハトは国連からヘレナの身体を取り戻す策を講じるだろう。


 少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「待っていろ、ヘレナ」



        ◆



 精神感応という現象がある。


 クローンと遺伝的オリジナルは精神的に影響を与え合うという考え方だ。


 それにより、<ドウターズ>はソフィア・ニコライの精神を推察した。これはオリジナルからクローンへ、情報が流れた例である。

 

 ならば、逆も起こりうる。クローンからオリジナルへの思念が未知の媒介を通じて流れ込む可能性。


 すなわち──。


 ハワード・フィッシャーは、クローンの「声」が一際大きく聞こえてしまう。


 読心能力に指向性が生じるのである。故にハワードは、クローンを殺す際は、自らの手で、相手の目を見て、万全の覚悟を持って行為に及ぶ。その人間の一生を自身に刻み込むように──マイク・ドノヴァンやジョンソン・ガルシアがその身に宿るように。


 だからこそ、ハワードはクローンたちを放逐していた。当たり前に生きて幸せを掴んでくれていたら、その声はハワードには届かないからだ。


 強すぎる思念は、ハワードの精神にも負担になる。


 ナハトによるクローンの爆殺は、当たり外れこそあれ、悪手ではなかったのだ。ハワードにダメージを与えるという意味では、正攻法ですらあった。


 ただ、計画に綻びがあるとすれば──ハワードは自身の弱点を把握し、ナハトはそれを知らなかったことにある。


        ◆

 

「うおぉぉぉぉおおお!!」


 イヴは、迫る大型ミサイルに気付き、乱重力の強度を最大限まで引き上げる。まさに絶対絶命。殺戮の閃光が迸る。同調率は青天井に上昇を続ける。二つの莫大なエネルギーが、宇宙に木霊する。空間ごとねじ切らんばかりの超出力で、自身の防壁を強化するイヴ。


 自身の周りにいた国連宙軍の戦士たちが消し飛ぶ姿を、極限に圧縮された時間の中で、確認した。


 イヴは大粒の汗を額に浮かべながら、それを嘲笑した。


 国連宙軍の仲間意識なんてその程度。いとも簡単に仲間を切り捨てる。


──我々は違う。そんな吹けば飛ぶような繋がりを絆とは呼ばない。


「はぁぁぁああああ!!!」


 次弾のミサイルが炸裂。<神の代弁者>の生成速度を上げることで、その暴力に対応する。激しい光の中、力と力の応酬は留まることを知らない。


 そして第三発。これにはイヴも歯を食い縛る。同調率の上昇が、乱重力場の強度を引き上げるため、イヴは<マシン>へ意識をトレースする。人体模倣の壁を超えた自らに不可能はない。より強くなるために、梶原奈義を倒すために──月が、地球の影に隠れることのないように。


 誰のために戦うか──人心核イヴの内側で、仲間との絆を燃料にした紅炎が激しく燃え盛る。


「こんなものぉぉぉぉお!!!」



 そしてイヴは異変に気が付いた。


 遥か遠方に一発のミサイルが軌道を逸らしている。


 直ぐにミサイルの道筋を計算する。


────!


「そういうことね」


 爆轟に揺さぶられながらも、イヴは理解した。


 ミサイルの行き先は、ラグランジュ5宇宙ステーション。


「それが…………」


 イヴは怒りに震えていた。仲間を大切に──そう教えられた彼ら彼女らは、その一発が致命的に許せないものだと直感した。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ゆえに続く命令は──どうか、なんの罪もない彼らを守ってほしい。


 クローンからハワードへ流れる精神感応は、読心能力と合わさり、脳へ衝撃を与えるだろう。


 それこそ、核の炎に焼かれた6人分の悲鳴など、耐えられるものではない。


「それが、お前のやり方か、紀村ナハトぉぉぉ!!!」


 イヴは仲間を守る。絆を守る。


 ハワードを守るために、なんとしてもあの核弾頭だけは止めねばならない。


 しかし、イヴ自身が攻撃されている今、助けにいけるはずも──。


「ぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


 同調率は等比級数的にはね上がる。もはや誰にも止められない。

 

 乱重力場は強度、領域ともに別次元の変化を遂げた。世界を飲み込むように、絶望の光に抗うように。


 まさに、人心核イヴは人体模倣の先の到達点──狂信者たちが言うところの神へと、足を踏み入れた。


 あらゆる不都合をねじ伏せて、圧倒的な物量をはね除けて、既存法則を叩き潰し、仲間を助ける綺羅星になる。


 絆が彼らの武器だから。


 乱重力場にもはや核の光は通らない。イヴは追い詰められたが、ここで屈するほど弱くない。梶原奈義ならこれくらいできる。やってのけると、信じているから。


 英雄を打倒するには、同じく英雄の格を纏う必要がある。


 皆の力を糧にして──赤い女神が宇宙を駆ける。


 



「反撃開始よ!!」




 イヴは玉体<マシン>に乗り、ラグランジュ5に向かう<トライデント>を追う。

 

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