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短編集

異世界転生教の教祖になったら世界一の宗教になった件について

作者: 巫 夏希

 宗教は心のよりどころ、なんてことは昔からある話で、神に祈れば来世は良いところに行けるだの今の苦行は神が与えた試練だの言ってしまえば何でも宗教で解決出来てしまう。……まあ、人によってはこの言葉だけで結構敵を作ってしまうのだけれど。

 でも今の若者はそういうものにまったく靡かないわけ。はっきり言ってしまえば手っ取り早く来世に転生したいと。しかも異世界に。しかもハーレムかチートか或いは両方かを所望される。正直言って贅沢を言いすぎだと思う。そんなものが簡単に叶うわけがあるまい。

 けれども、今の宗教に無いポイントはそこだ。『手っ取り早く』転生したい――という点。

 だから私は一つの宗教を作ったわけだ。信じれば来世は良い所に行ける。これは良くある話。けれど、もう一つ追加した。

 それは、神を信じれば異世界に転生できる、ってこと。

 そうすればわんさか若者が集まって毎日教会に集まるようになってきた。お祈りを捧げ、適当な教えを説いて、取敢えず神を信じればいつか異世界に行けるよチート人生を送れるよ女の子ときゃっきゃうふうふのハーレム人生まっしぐらだよと説いてあげるとあら不思議。あっという間にお布施が集まるわけだ。

 気付けばキリスト教を越えて世界一の宗教にまでのし上がってしまったわけだけれど、ここで一つ問題が出てきた。

 それは厄介な信者どもがいつになったら異世界に転生出来るのか、と苦言を言ってきたことだ。毎日の祈り、お布施、お札やお守り(勿論全部何の効果も無い!)をたくさん購入したにもかかわらずいつになっても異世界転生が出来る気配がしない、と。

 当たり前だ。転生するなら先ず死ね。

 死を無くして転生など出来るわけがない。

 そう言ってしまえば楽だがそうするとこの宗教もあっという間に崩壊。私は殺されるか世界最強の詐欺師などと言われて警察に突き出されるかのいずれかだろう。はっきり言ってそんなのはまっぴらごめんだ。こういうのは一度走り出したらもう止まらない。それこそ坂道を転がる雪だるまが如く。

 じゃあ、どうすりゃいいかって。

 答えは簡単だよ。殺してしまえばいい。死人に口なし。昔からある言葉だ。特別な修行をさせてあげようと言って教会の奥に連れ出して殺す。

 それこそ絞首服毒刺殺撲殺溺死なんでもござれ。何人殺したかは覚えちゃいない。まあ、皆それこそ異世界転生を望んだんだ。死ぬことぐらい辛いことじゃないだろう?

 でもやはり切りが無い。いつまで経っても異世界に転生出来ない。ハーレムは。チートは。やり直しは。悪役令嬢は。ダンジョンは。美少女は。もううんざりだ。

 お前らは現実世界で得られなかったものを、異世界という絶対に行けない空間に求めているだけじゃないか。

 そして私はそれをうまく活用して金だけ搾取出来れば良い。神なんて居たらそもそもとっくに人類は救われている。救われるべき人間は救われ、裁かれるべき人間は裁かれているはずだ。けれど、そんなことは有り得ない。人間が人間を裁き、人間が人間を救っている。

 つまりは、人間が神と同じってことじゃないか?

 お前らを救ってやってるのは、この私なんだぞ?

 はっきり言ってしまえば教徒など人参をぶら下げた馬のようなもの。いつまで経っても人参にはありつけない。けれど馬は走り続ける。走るという成果を得続ける。そしてそのまま息絶える。そうさ。そうあればいい。それこそが理想だ。

 けれど、どうだ。こいつらは。転生は未だか、トリップは未だか、召喚は未だか、と五月蠅くて仕方が無い。

 だから私は言ってやったんだよ。そこまで言うなら、お前ら全員を異世界に送ってやる、とな。



 以上が、死刑囚○○○○の調書に書かれた文章である。

 彼はその後教徒を率いて本部のあるビルに毒ガスをばらまき集団自殺を図った。

 しかし教徒の一部が警察に自首したため、この事件は未遂に終わった。

 死んでしまった彼らが異世界に行けたかどうかは、定かでは無い。

 尚、本宗教は解体され教徒の一部は別の宗教を設立し、現在は公安の監視下におかれている。


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