寿命縮めず歩こう少年?
放課後。
教室内の女子たちが、廊下を見て急に色めき立ちました。
はっはーん、僕でもこれは読めましたよ。さては彼の人ですね、あのお方がいらっしゃったのですね、ええ、わかってますとも。
……僕のくせにふざけました。ごめんなさい。
「おーい、柳くん」
とあるお茶のCMを思い出すような感じで、僕の名前が呼ばれました。
……分かりました、明日からどうにかして、お茶同様、煎じられてこようと思います。
「なので、そのイケメンオーラを振りまきながら爽やかに笑うのはやめてください、有徳さん」
「うん? 何が『なので』なのかはよく分からないが、分かったよ。笑うなってことだろ」
「いいえ、爽やかに笑わず普通に笑ってください」
「……なんだか難しいこと言うな、君は?」
なんだか難しい……ああ、小賢しいと思われましたか、そうですか。
「ごめんなさい、死んできます」
「待て待て待て、何がどうなって、そうなったんだ、柳くん?!」
……ああ、こんな僕の命を惜しんでくれると言うのでしょうか。さすがイケメン、性格までカッコイイです。
もう一生お伴します、なんならパシリでもなんでもします。
「不束者ですが、宜しくお願いします」
「いろいろ語弊が生まれることを分かって言ってるかい、柳くんよ?!」
ごへい、ですか?
「……へい、おまち?」
「……君は天然なのかな?」
「……ああ、僕は魚だったんですね……」
「天然は天然でも、そっちじゃ無いよ?!」
はぁ、と有徳さんは、額に手を当てて、溜息つきました。
「……まぁ、いいか。部活案内するよ。だから……おいで?」
きゃぁぁ、と後ろで上がる黄色い悲鳴。
なぜ今そこで、小声にしてタメたのか、お尋ねしてもいいでしょうか。
「……なるたけ、早くお願いできるかい?」
どうやら彼も、自分のイケメンオーラに気づいているようです。
さてはあれですか? モテ過ぎて困っちゃうな、ですか?
僕の中のイケメン像ってそんな感じなんですけど、有徳さんもそうなんですか?
……ということは口に出さず、僕は素早く荷物を纏め、教室を出ました。
……皆さんの視線が、僕に集まりました。
えーと……こういう時は、何か言わなければいけないんですよね、何か。
さようなら。
「もう学校に来たく無いなと思います」
「急に何を言い出すのかな君は?! いじめられでもしたのかい?」
……あ、心の声と実際の声が、逆になりました。
「……じゃ無いです。さようなら」
こうして僕は、有徳さんに先導されながら、部室へと向かったのでした。
「ここが部室だよ。……柳くん、聲質研究部に、ようこそ」
爽やかに有徳さんが笑って、部室のドアを開けてくれました。
そこに、僕を出迎えるように佇んでいたのは、2人の男子生徒で──
「ねぇねぇ鷹野〜、見学の人来る前に、ちょっとだけ、ちょっとだけで良いからさ!」
「嫌ですよ。どうせ貴方、あれ挿れるでしょう」
「いーじゃん! あんあん言えば!」
……ぱたん。
静かに扉が、締められました。
「……あの、有徳さん、今のは」
「気にしないでくれ」
「いや、でも」
「気にしないでくれ」
有徳さんの表情は、笑みを浮かべたまま、変わりません。
「大丈夫、何も無かったから」
「でもなんか、挿れるとか」
「何も無かったから」
「でも」
「何も無かったから」
「……」
触れてはいけない事柄なのでしょうか。
「でも、健全な部活だから、安心してくれ」
……本当ですかね?




