県大会、上を目指して気張れや少年
きちんと最後の人まで読み終わり、そろそろ時計の針が3時を回りそうになりました。
「皆様お疲れ様でした。それでは本日最後に、僭越ながら私から、合格者7名を発表させて頂きます」
司会のお姉さんが、にこやかに、手にした紙を見ながら言います。
……ど、どきどきしてきました。
もしかしたら、もしかすると、県大会……僕も、通ることができるでしょうか。
「三河三郷さん、日山梨花さん、宇野美嚢さん、築地龍斗さん、日野下美礼さん」
心臓が、どきどきを通り越してバクバクと鳴ってます。
「有徳稟さん、小日向栗兎さん。呼ばれた方は、こちらまでお越しくださいね」
よ……呼ばれてます!
呼ばれませんでしたが呼ばれてますっ!
有徳さん、凄いです。小日向先輩、凄いです!
感動で震えます。ぷるぷるします。
でも何でしょう……なんだか、お腹の中が、ぐるぐるします。
「イヤッハーッ、やっと終わったよ、やーやー、皆お疲れ〜! 打ち上げ行こーぜっ打ち上げ!」
「リツくん、うちの部には打ち上げする金なぞありません。諦めろ」
「リアルなこと言うなよ、鷹野! じゃあ、カラオケ行こうぜ皆で!」
「今からカラオケ行きますと、帰りが遅くなり、補導される可能性が高まりますのでダメです」
「なんでだよぉーっ!? 俺ら高校生だよね?!」
「高校生でもフラフラしてたら補導されますよ、知らなかったのですかリツくん?」
「うるさいよぉ、そこの男子夫婦ぅ。そのまま結婚しなよぉ」
「「俺、ホモじゃ無いんで」」
また漫才してます、この先輩たち……ミミィさんのツッコミがよく分かりませんけども。
「まぁ、オレと雨野さんでリツくんに呪い……もとい、祝いの品をあげても良いかもしれませんね」
「待って鷹野、さらっとアマノン巻き込んで、俺に呪いの品を、とか言い出すのやめよ?」
「チッ、人が珍しく祝ってやるっつってんのに」
「いや、呪う気満々だったろ!?」
だってねぇ、と鷹野先輩が肩を組んできました。
「明らかに優秀な、オレと雨野さんが落ちたのに、なんでリツくん県大会出場決定なんですか? おかしいでしょう」
「ウクルンとミミィンも、県大会いくけど?!」
……ん?
待ってください、今なんか、ミミィさん、と聞こえた気がするのですが。
「柳きゅん、ミミィも県大会出場決定だったっけぇ、って顔してるねぇ」
そんな素直な顔してましたか、僕。
「三河三郷、って言ってたよねぇ?」
……え? それって……あの司会のお姉さんが1番最初に呼んだお名前、ですよね。
「それ、ミミィの名前だからぁ」
「ああそうなんですか〜。……え?!」
「みかわ、みさと。女の子みたいな名前でしょお♪」
くすくす、とミミィさんが笑いました。
そして、僕の方へ、その笑みを見せます。
「柳きゅん、あんまり無理したらダメだよぉ」
「……え」
「うん、ミミィの言う通りだ。無理したらダメだよ、柳くん」
「まーね、うん。何事も初めっから上手くはできないけど、アマノンは頑張った方だよ」
「審査員も、身を乗り出して聴き入ってましたからね」
皆さんが、次々に口を開きます。
「え……?」
「アマノン、今、腹の中がぐるぐるしてんだろ?」
ずばり、と、微笑を浮かべた小日向先輩に言い当てられました。
完全なる図星です。
「な〜んかよぉく分かんないけど、ぐるぐるするんでしょお」
大きなリボンを頭の上で揺らしながら、ミミィさんが笑います。
「雨野さん、ご自分で気づいてなさって無いようですね」
鷹野先輩が、黒飴を1つ取り出して、口の中へ放り込んでから、唇の端を吊り上げます。
「つまりね、柳くん」
ふ、と柔らかく笑む、有徳さん。
「君は今、悔しいのさ」
……悔しい?
「県大会進んでみたかったんだろう。全国に行ってみたかった」
「……え」
「今まで、そのために練習してきたんだからさ。そりゃあ、悔しくない訳がない」
……ああ。そうか。
このぐるぐるするのは、悔しくて嫉妬してるかはなんだ。
悔しいなんて、思うのは、初めてかもしれません。
「有徳さん、ミミィさん、小日向先輩、鷹野先輩」
僕は、皆さんのように笑って見せました。
「打ち上げ、行きたいです」
そういうと、仕方ないなぁと皆さんの表情が、さらに柔らかくなりました。
「そんじゃ明日、打ち上げ行こうじゃないか!」
小日向先輩の声が、高らかに、辺りに響きました。
何気に土曜なんですよね、Lコン。
モデルとなったNコンも、休日に行われていたはずです。
……つまり、休日が潰れてるんですな。Nコンに出た従姉妹ちゃんは、そのことを愚痴ってましたね。うん。「平日にしてくれたら学校行かなくて済むのに!」ってね。




