県大会、上へと目指すか、下にて待つか?
僕の番号は、35。
100ほどの番号がある中では、少し早く順番が回ってきます。
今さっき読み終わった方は28番。1人あたりの持ち時間は3分。
休憩時間になったので、何度か黙読した後に、小声で少し、読んでみたり。
「おー、アマノン練習中? 真面目だねぇ!」
「ひょっふ?!」
突然、背後から両肩に手を置かれたので、変な声が出てしまいました……。
「小日向先輩……」
「どーお? 緊張してる?」
「い、いいえ、してません。全然、してませんよ」
「……のわりには、青白い顔でプルプル震えてるけど?」
「き、気のせい、なのです」
「そんな時にはこれ、素直になってしまう魔法の薬、我が鷹野家代々伝わってきた、極上の黒飴を差し上げます」
と、鷹野先輩が、ちらり、と市販の黒飴の袋を見せました。
「……あれ? それ、鷹野先輩のご家族様が作られた飴だったんですか? 凄いですね」
「違うよアマノン、今のは、鷹野の笑えない冗談だから」
「誰の冗談が笑えないと仰るのでしょうかねぇ、ん?」
「そりゃもちろん鷹野……イデデデデ! 足踏むなよっ!」
先輩たちは仲良しです。
黒飴を舐めながら、くすくす笑っていると、有徳さんがやってきて、ひょい、と鷹野先輩の黒飴を摘みました。
「どうしたんだい、柳くん。なんだか愉快げな顔をしてるね」
僕は元々こんな顔ですが、愉快げなピエロの顔に見えたのでしょうか?
「この顔で生きてて、ごめんなさい」
「うん、生きててくれて、ありがとう」
ああ、有徳さんはイケメンです……!
「そろそろ休憩時間、終わるよぉ。柳きゅんの緊張も、ある程度ほぐれたみたいでぇ、良かったぁ」
ミミィさんが可愛らしく、そのリボンを揺らして微笑みました。
そして……本番。
「35番の方、どうぞ」
……なんだか、受験の面接みたいです。
ばくばくと煩い心臓の音を誤魔化すように、僕は心の中で冗談を言ってみました。
ぽつんと中央に置かれている椅子に座り、その前にある机に、原稿用紙を広げます。
あ、頭がっ、真っ白ぇすすすっ、と騒がないように、ゆっくり息を吸って……
「35番。東ヶ丘高校、雨野柳。『心体アーポシディ』、作、小日向充」
ゆっくり、ゆっくり。焦らずに。慌てずに。心を込めて、丁寧に。
「青い空を覆う大きな雲。天気予報では快晴になるって言って居たけれど、あと少し時計の長針が回れば、あっと言う間に土砂降りの大雨になるだろう。……まだ少しも雨は降っていないのに、そんなことを思ってしまうのは、何故だろう?」
この風景描写は、主人公の、決して明るくは無い、今にも泣き出しそうな不安な気持ちを表している。
「貴方をいくら想えど、貴方は手に入らぬことくらい分かるでしょうに。この恋は叶わぬと、初めから知っていたでしょうに」
心は女性、けれども、身体は男性。
矛盾した存在である『自分』の、普通なら有り得ない気持ち。
「例え貴方が独り身でも、貴方は私を見るなどしまい。例え貴方が、底なしのお人好しでも、私の方を見るなど、絶対にしまい。私が運命だと信じても、それは私の運命であって、貴方の運命では無いのだから」
『男』に生まれてしまった『女』が、1人の男に抱く恋心を、繊細に、尚且つ豪快に描いた、恋愛物語。
『心体アーポシディ』の1シーンを読み終えて、僕は椅子から立ち上がり、ぺこりとお辞儀をしてから、席に戻りました。
……お、終わりました。終わりました。終わりました!
心臓バクバク、頭の中真っ白で、この原稿をどう読んだか、全く覚えていませんが、とにかく終わりました。
死ぬかと思ったのに、生きてます、良かったです!
……人間、本番とか終わって緊張が緩むと、やけにハイテンションになる時って、ありますよねぇ(←常日頃そうやろ緋和は)




