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こちら、聲質研究部?  作者: 緋和皐月
第4章
43/45

県大会、上へと目指すか、下にて待つか?

 僕の番号は、35。

 100ほどの番号がある中では、少し早く順番が回ってきます。

 今さっき読み終わった方は28番。1人あたりの持ち時間は3分。

 休憩時間になったので、何度か黙読した後に、小声で少し、読んでみたり。


「おー、アマノン練習中? 真面目だねぇ!」

「ひょっふ?!」


 突然、背後から両肩に手を置かれたので、変な声が出てしまいました……。


「小日向先輩……」

「どーお? 緊張してる?」

「い、いいえ、してません。全然、してませんよ」

「……のわりには、青白い顔でプルプル震えてるけど?」

「き、気のせい、なのです」

「そんな時にはこれ、素直になってしまう魔法の薬、我が鷹野家代々伝わってきた、極上の黒飴を差し上げます」


 と、鷹野先輩が、ちらり、と市販の黒飴の袋を見せました。


「……あれ? それ、鷹野先輩のご家族様が作られた飴だったんですか? 凄いですね」

「違うよアマノン、今のは、鷹野の笑えない冗談だから」

「誰の冗談が笑えないと仰るのでしょうかねぇ、ん?」

「そりゃもちろん鷹野……イデデデデ! 足踏むなよっ!」


 先輩たちは仲良しです。

 黒飴を舐めながら、くすくす笑っていると、有徳さんがやってきて、ひょい、と鷹野先輩の黒飴を摘みました。


「どうしたんだい、柳くん。なんだか愉快げな顔をしてるね」


 僕は元々こんな顔ですが、愉快げなピエロの顔に見えたのでしょうか?


「この顔で生きてて、ごめんなさい」

「うん、生きててくれて、ありがとう」


 ああ、有徳さんはイケメンです……!


「そろそろ休憩時間、終わるよぉ。柳きゅんの緊張も、ある程度ほぐれたみたいでぇ、良かったぁ」


 ミミィさんが可愛らしく、そのリボンを揺らして微笑みました。




 そして……本番。


「35番の方、どうぞ」


 ……なんだか、受験の面接みたいです。

 ばくばくと煩い心臓の音を誤魔化すように、僕は心の中で冗談を言ってみました。

 ぽつんと中央に置かれている椅子に座り、その前にある机に、原稿用紙を広げます。

 あ、頭がっ、真っ白ぇすすすっ、と騒がないように、ゆっくり息を吸って……


「35番。東ヶ丘高校、雨野柳。『心体アーポシディ』、作、小日向充」


 ゆっくり、ゆっくり。焦らずに。慌てずに。心を込めて、丁寧に。


「青い空を覆う大きな雲。天気予報では快晴になるって言って居たけれど、あと少し時計の長針が回れば、あっと言う間に土砂降りの大雨になるだろう。……まだ少しも雨は降っていないのに、そんなことを思ってしまうのは、何故だろう?」


 この風景描写は、主人公の、決して明るくは無い、今にも泣き出しそうな不安な気持ちを表している。


「貴方をいくら想えど、貴方は手に入らぬことくらい分かるでしょうに。この恋は叶わぬと、初めから知っていたでしょうに」


 心は女性、けれども、身体は男性。

 矛盾した存在である『自分』の、普通なら有り得ない気持ち。


「例え貴方が独り身でも、貴方は私を見るなどしまい。例え貴方が、底なしのお人好しでも、私の方を見るなど、絶対にしまい。私が運命だと信じても、それは私の運命であって、貴方の運命では無いのだから」


『男』に生まれてしまった『女』が、1人の男に抱く恋心を、繊細に、尚且つ豪快に描いた、恋愛物語。


『心体アーポシディ』の1シーンを読み終えて、僕は椅子から立ち上がり、ぺこりとお辞儀をしてから、席に戻りました。



 ……お、終わりました。終わりました。終わりました!

 心臓バクバク、頭の中真っ白で、この原稿をどう読んだか、全く覚えていませんが、とにかく終わりました。

 死ぬかと思ったのに、生きてます、良かったです!



……人間、本番とか終わって緊張が緩むと、やけにハイテンションになる時って、ありますよねぇ(←常日頃そうやろ緋和は)

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