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こちら、聲質研究部?  作者: 緋和皐月
第4章
33/45

練習するのは明日からですが

「ふ、ふぇぇぇえん!」

「えへへへへ」

「ばびゃーー!」

「きゃわぁぁぁぁ!」

「あははははっ」


 部室に、奇妙な声が響き渡ります。

 僕の泣き声、小日向先輩の含み笑い、鷹野先輩のどこか恐ろしい奇声、ミミィさんの悲鳴、有徳さんの爽やか笑声です。

 ……すみません、泣く権利も無い僕だけ泣いてて、すみません……。


 鷹野先輩とミミィさんは、『大和撫子 雨物語』を。

 小日向先輩と有徳さんは、『笑えや騒げ』第1巻を。

 そして僕は『心体アーポシディ』を拝読しました。

 どれも、小日向充先生の大作ばかりです。なるほど、本の帯に書いてある〈天才作家〉という言葉に嘘偽りは無いようで、大変興味深く読みやすかったです。


「特にこの、主人公の葛藤を読んでいると、本当泣けてきます……」

「うんうん、すご〜く分かるよ〜、アマノン! 俺が読んでも涙ボロボロだったもん、はいティッシュ」

「ありがと、ござぃます……ずずずびっ」


 そして小日向先輩はニヤンとしました。


「小日向充、充兄さんの文章って、ホンッット〜神ってるだろ?」

「はい。小説の神様みたいです」


 そうだろそうだろ、と小日向先輩がにこにこと笑いました。なんだかとても、嬉しそうです。


「充兄さんはね、コメディ、SF、ホラー、ミステリー、青春、学園モノ、恋愛系、冒険、純文学、詩集、小説、ほとんどぜ〜んぶ書けるんだよ! 充兄さんが今まだ書いてないのは殺人とかエログロとかだけど、まぁそういう清純作家としても評価が高くて、このまま清純貫いても良いし新しいジャンルに手を伸ばしてみるのも良し良しって、俺たちファンは、これからの充兄さんの作品にも期待してて尚且つ今までの作品も……」


 うわわわ。

 えっ息継ぎいつしてるんですか、ってくらい、小日向先輩が語り出しました!


「鷹野チョップ★」

「だか、痛ぇぇえっ?!」


 と、言葉をなおも紡ごうとしていた小日向先輩に、鷹野先輩が笑みを浮かべて、右手でチョップを食らわせました。

 ……よほど痛かったのか、小日向先輩は膝から崩れ落ち、頭を抱えて蹲ってます。


「まぁ、リツくんが重度の叔父コンってことは、もうお分かりでしょう。語りだすと止まらない、変態の話は最後まで聞いてはいけませんよ、雨野さん」

「え、あ、はい、分かりました」

「えっなんで?! 最後まで聞いてよー!」

「うるさいですよ、変態」

「変態って、鷹野だけには言われたく無い!」

「何を今更、オレも変態ですよ?」

「認めちゃうのね、お前は!」


 ……えーと、ところで、なんのお話でしたっけ。


「柳くん、……なんだか先輩2人が騒がしいけども、ちゃんと読めたかい?」


 有徳さんが、爽やかに優しく聞いてきました。


「はい、読めました。とっても良いお話でした」

「そうかそうか、それは良かったよ。それじゃあ柳くん」


 ぴらり、と有徳さんは紙を持って、僕に見せてくれます。

 ……なんでしょうか。


「ここに、100字詰め原稿4枚分、つまり800字書ける原稿用紙がある」

「は、はい」

「この『心体アーポシディ』の中から、自分が読みたいと思うところを、朗読して約3分未満に収まる範囲で書いてきてくれるかな」


 ……?


「えーと……え?」

「『心体アーポシディ』の、3分未満で朗読できるシーンのみ、丸写ししてきて欲しいんだ」


 朗読……? ああ、朗読……。


「本当に、するんですか?」

「うん? 朗読かい? するよ、さっきから言っていただろう? ああ、あと、この書類に印鑑押して持ってくるんだよ」


 明日から練習だから、忘れたらいけないよ、とにこやかな有徳さん……。


「あなたは味方と思っていたのに……」

「私は君の味方さ」

「……天然すぎて、どうすれば良いんでしょうか、このイケメン……」

「え、褒めてくれてるのかい? ありがとう」


 もう僕は、悟りを開こうと思いました。

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