寿命縮めず 歩けば少年?
麗らかな早朝の木漏れ日が、まだ冷んやりとした空気を漂わせる時間帯。
美形を前にして、僕はひたすら、ただひたすら、謝っていました。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「大丈夫大丈夫、このくらい大したこと無いって。気にしなくていいさ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「だから良いって……えーと、話聞いてるかい?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「もーしもーし?」
「ごめんなさいごめんなさ……ひょぅっ?」
ぺたっ、と額に手を当てられました。
その手の、涼しいとも言える冷たさに、僕は我に帰ります。
「……ぁう」
「良いかい、君。私は大丈夫だから、謝らなくて良いんだよ。ぶつかったのは此方のほうだしね」
「……でも」
「ではこう言おう。謝らないでくれ」
「……そう……です、ね」
確かに、僕なんかにずっと謝られているなんて、考えただけで嫌気がさしますよね……。
「ごめんなさ……えと、承知しました」
「うん、その敬語がちょっと固いけど、分かってくれたようで嬉しいよ」
さすが美形、さすがイケメン。言い方も対応の仕方もイケメンです。
僕にだって気を配ってくれているらしいことが、他人と関わりたくない病を患っている僕にも分かります。
イケメンは皆イケメン。良い人ばっかり。
そんな気がしてきてなりません。
まぁそんなイケメンさんだとしても、僕のことを嗤うのには変わりは無い……、と思ってしまう僕は、なんて失礼な奴なんでしょう。
僕がそんなくだらないことを考えていた、その時。
「あっれぇ、アリノリ様じゃないですかぁ。おはようございますぅ」
ひょこっと美形さんの背後から出てきた人影……もう少しで悲鳴をあげるところでした。
「あっアリノリ様っ、そのお顔どうしたのぉっ?!」
「何でもないよ。転んだだけさ」
「まさか、その男がっ?」
キッと、その人は僕を睨みました。
……そうです僕です、悪いのは僕です、ごめんなさい、睨むならいっそ殺してください……。
「違うって、私の不注意だよ」
美形さんは、さらりと否定しました。
……いいえ。僕なんかを庇ってくれたのです。
なんて良い人なんでしょうか。
……はっまさか、優しく見えるのは外面だけで、内面は腹黒とか、影で僕のことをくすくす嗤う算段なのでしょうか。
イケメンさんって、なんて怖いんでしょう……。
「すまないね。私のせいで、不快な思いをしただろう」
美形さん……やはり良い人にしか見えません。何という演技力。
「私は有徳だ。君の名前を教えてもらっても良いかい?」
僕は、背後をそっと振り向きます。……誰もいません。
……まさか、僕に見えない何かが見えてらっしゃるんでしょうか。
美形さんは人間の領域を超える方でしたか……。
「いやいや、君だよ?」
ぽん、と肩に手をおかれました。
……え、今、僕が聞かれてるんですか?
「……ぁ、雨野、柳でし」
…………何ということでしょう、僕は今、噛んでしまいました。
自己紹介で噛むなど、一生の恥……! もう僕、高校2年にならなくて良いです、今すぐ死にますごめんなさい。
……でも、その前に言い直したほうが良いですよね、気分を害されているでしょうが、言い直すのが、きっとこの現代社会での、最低限のマナーですよね。
「……です」
……テンパり過ぎて『です』しか言わないとか、なんて僕は失礼な奴でしょうか。
美形さん……有徳さんは、口元を押さえました。
……ですよね、笑っちゃうほど失礼でしたよね、ごめんなさい。
その隣で、先程ひょこっと出てきた方が、肩を震わせました。
「クソカワ……!」
くそかわって初めて聞きました。どういう意味でしょう……あ、カワウソよりも格下っていう意味でしょうか。
はい、僕は生まれてからずっと、この世の何よりも格下の存在です。
「かわいぃ……じゃなかったぁ、ミミィだよ☆ よろしくねぇ、柳きゅん」
「……え、はい。不束者ですが、宜しくお願いします」
「「ぶっ」」
格下だからこそ受け入れられた、のでしょうか。
……有徳さんとミミィさんは、何故かずっと笑ってらっしゃいました。




