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こちら、聲質研究部?  作者: 緋和皐月
第1章
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寿命縮めず 歩けば少年?

 麗らかな早朝の木漏れ日が、まだ冷んやりとした空気を漂わせる時間帯。


 美形を前にして、僕はひたすら、ただひたすら、謝っていました。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「大丈夫大丈夫、このくらい大したこと無いって。気にしなくていいさ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「だから良いって……えーと、話聞いてるかい?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「もーしもーし?」

「ごめんなさいごめんなさ……ひょぅっ?」


 ぺたっ、と額に手を当てられました。

 その手の、涼しいとも言える冷たさに、僕は我に帰ります。


「……ぁう」

「良いかい、君。私は大丈夫だから、謝らなくて良いんだよ。ぶつかったのは此方のほうだしね」

「……でも」

「ではこう言おう。謝らないでくれ」

「……そう……です、ね」


 確かに、僕なんかにずっと謝られているなんて、考えただけで嫌気がさしますよね……。


「ごめんなさ……えと、承知しました」

「うん、その敬語がちょっと固いけど、分かってくれたようで嬉しいよ」


 さすが美形、さすがイケメン。言い方も対応の仕方もイケメンです。

 僕にだって気を配ってくれているらしいことが、他人と関わりたくない病を患っている僕にも分かります。

 イケメンは皆イケメン。良い人ばっかり。

 そんな気がしてきてなりません。

 まぁそんなイケメンさんだとしても、僕のことを嗤うのには変わりは無い……、と思ってしまう僕は、なんて失礼な奴なんでしょう。


 僕がそんなくだらないことを考えていた、その時。


「あっれぇ、アリノリ様じゃないですかぁ。おはようございますぅ」


 ひょこっと美形さんの背後から出てきた人影……もう少しで悲鳴をあげるところでした。


「あっアリノリ様っ、そのお顔どうしたのぉっ?!」

「何でもないよ。転んだだけさ」

「まさか、その男がっ?」


 キッと、その人は僕を睨みました。

 ……そうです僕です、悪いのは僕です、ごめんなさい、睨むならいっそ殺してください……。


「違うって、私の不注意だよ」


 美形さんは、さらりと否定しました。

 ……いいえ。僕なんかを庇ってくれたのです。

 なんて良い人なんでしょうか。

 ……はっまさか、優しく見えるのは外面だけで、内面は腹黒とか、影で僕のことをくすくす嗤う算段なのでしょうか。

 イケメンさんって、なんて怖いんでしょう……。


「すまないね。私のせいで、不快な思いをしただろう」


 美形さん……やはり良い人にしか見えません。何という演技力。


「私は有徳(ありのり)だ。君の名前を教えてもらっても良いかい?」


 僕は、背後をそっと振り向きます。……誰もいません。

 ……まさか、僕に見えない何かが見えてらっしゃるんでしょうか。

 美形さんは人間の領域を超える方でしたか……。


「いやいや、君だよ?」


 ぽん、と肩に手をおかれました。

 ……え、今、僕が聞かれてるんですか?


「……ぁ、雨野、柳でし」


 …………何ということでしょう、僕は今、噛んでしまいました。

 自己紹介で噛むなど、一生の恥……! もう僕、高校2年にならなくて良いです、今すぐ死にますごめんなさい。

 ……でも、その前に言い直したほうが良いですよね、気分を害されているでしょうが、言い直すのが、きっとこの現代社会での、最低限のマナーですよね。


「……です」


 ……テンパり過ぎて『です』しか言わないとか、なんて僕は失礼な奴でしょうか。


 美形さん……有徳さんは、口元を押さえました。

 ……ですよね、笑っちゃうほど失礼でしたよね、ごめんなさい。

 その隣で、先程ひょこっと出てきた方が、肩を震わせました。


「クソカワ……!」


 くそかわって初めて聞きました。どういう意味でしょう……あ、カワウソよりも格下っていう意味でしょうか。

 はい、僕は生まれてからずっと、この世の何よりも格下の存在です。


「かわいぃ……じゃなかったぁ、ミミィだよ☆ よろしくねぇ、柳きゅん」

「……え、はい。不束者ですが、宜しくお願いします」

「「ぶっ」」


 格下だからこそ受け入れられた、のでしょうか。

 ……有徳さんとミミィさんは、何故かずっと笑ってらっしゃいました。

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