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こちら、聲質研究部?  作者: 緋和皐月
第3章
28/45

味方と身内でここに在る

「それじゃあ、柳くん」


 有徳さんのイケメンボイスが、仰向けに寝転がった僕の耳をくすぐります。


「両手を腹の上に乗せてごらん」

「……はい」

「それじゃあ、腹が風船のイメージで、鼻から空気を吸って、口から吸った空気を出すように、ゆっくり、ゆっくり呼吸してみよう」


 すぅぅ……はぁぁ、と僕は、ゆっくり呼吸しました。

 と、有徳さんの大きな手の平が、僕の両手の上に乗りました。

 ……ちょっとくすぐったいです……んっ。


「膨らんだり、凹んだりしたの、分かったかい?」

「んんっ……はい」

「ねぇぇ、何ぃ? 何の時間、これぇ? なんか、柳きゅんのセリフとアリノリ様の声だけ聞いてたら、えちぃーよぉ」


 ミミィさんが、ズズズッ、と音を立てて、ジュースをストローで飲み干しました。

 ちなみにジュースの中身は、この部活に学校から支給されている、スポーツドリンクの1種です。

 熱中症って、夏じゃ無くてもなるらしいので、年がら年中、水分補給は欠かせないのです。


「だってぇアリノリ様の声、ただでさえ腰にクルんだからぁ。そんな風に耳元で囁いちゃったら、柳きゅん、キュン死しちゃうでしょぉ?」


 きゅんし……急死……でしょうか。


「皆さん、今まで、ありがとうございました」

「よし、まずは落ち着こうか柳くん。はい深呼吸、吸って〜吐いて〜」

「すぅ〜、ふぁぁ〜……」

「なんかウクルン、アマノンの扱い方が上手くなった?」


 ふぁ〜……なんか、深呼吸すると眠くなりますよね。


「おやすみなさい……」

「あっ、寝たらダメだよぉ柳きゅん」


 ぴょこん、とツインテールを揺らしてミミィさんが、寝たら怒だよぉ、と言いました。

 本当に、女の子にしか見えないですね……。


「いやでも、雨野さんの寝顔は多分きっと凄く可愛いので、写真に撮って待ち受けにしたいですね」

「鷹野、お前、変態発言は極力避けるようにしてくれる?」


 まぁとにかく、と小日向先輩はホワイトボードを指さし、僕を見ました。


「ウクルンに実際に教えてもらったんだから、腹式呼吸の感覚は分かったんじゃないかな?」

「はい、なんとなく。お腹を風船のようにして、呼吸するんですよね」

「うんうん。それが自然に出来るようになったら、またステップアップして、今度は腹を凹ませないように呼吸してもらうからね。さっきの方法の腹式呼吸を5セット、毎日してきてね☆」


 ハイではここで復習です、と鷹野先輩がお顔をきりりとさせました。

 僕は新入部員ですし、特に真面目に聞かねばならないですね。そう思って、僕は鷹野先輩を見つめます。

 ……あ、あれ? 鷹野先輩、眼鏡を外されて、何をするおつもりで……


「目が、目がァァァァッ!」

「何があったんですか鷹野先輩!?」

「全ては貴方の純粋すぎる、ふつくしい視線がいけないのです!」

「はい、おバカな鷹野に変わって、俺が腹式呼吸の復習するね〜」


 小日向先輩って、鷹野先輩に対してだけ、ものすごく冷めた対応になりますね……。


「腹式呼吸は、腹という風船を膨らませるように呼吸を、するもの。腹筋も重要になってくるので、ある程度鍛えておこう☆」


 ……ん? え、今、腹筋って……え?


「こ、声質と腹筋って……関係あるんですか?」

「あるある☆ てことでアマノン、今日から毎日、滑舌練習10回以上、さっきした腹式呼吸を5セット、それから腹筋鍛えて来てね」


 宿題だからね☆ と笑う小日向先輩の明るい笑顔が、今日はなんだか怖いです……。



 神様、この部活(せかい)は、元不登校児(ひきこもり)の僕に一体なにをさせるつもりなのでしょうか……。

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