味方と身内でここに在る
「それじゃあ、柳くん」
有徳さんのイケメンボイスが、仰向けに寝転がった僕の耳をくすぐります。
「両手を腹の上に乗せてごらん」
「……はい」
「それじゃあ、腹が風船のイメージで、鼻から空気を吸って、口から吸った空気を出すように、ゆっくり、ゆっくり呼吸してみよう」
すぅぅ……はぁぁ、と僕は、ゆっくり呼吸しました。
と、有徳さんの大きな手の平が、僕の両手の上に乗りました。
……ちょっとくすぐったいです……んっ。
「膨らんだり、凹んだりしたの、分かったかい?」
「んんっ……はい」
「ねぇぇ、何ぃ? 何の時間、これぇ? なんか、柳きゅんのセリフとアリノリ様の声だけ聞いてたら、えちぃーよぉ」
ミミィさんが、ズズズッ、と音を立てて、ジュースをストローで飲み干しました。
ちなみにジュースの中身は、この部活に学校から支給されている、スポーツドリンクの1種です。
熱中症って、夏じゃ無くてもなるらしいので、年がら年中、水分補給は欠かせないのです。
「だってぇアリノリ様の声、ただでさえ腰にクルんだからぁ。そんな風に耳元で囁いちゃったら、柳きゅん、キュン死しちゃうでしょぉ?」
きゅんし……急死……でしょうか。
「皆さん、今まで、ありがとうございました」
「よし、まずは落ち着こうか柳くん。はい深呼吸、吸って〜吐いて〜」
「すぅ〜、ふぁぁ〜……」
「なんかウクルン、アマノンの扱い方が上手くなった?」
ふぁ〜……なんか、深呼吸すると眠くなりますよね。
「おやすみなさい……」
「あっ、寝たらダメだよぉ柳きゅん」
ぴょこん、とツインテールを揺らしてミミィさんが、寝たら怒だよぉ、と言いました。
本当に、女の子にしか見えないですね……。
「いやでも、雨野さんの寝顔は多分きっと凄く可愛いので、写真に撮って待ち受けにしたいですね」
「鷹野、お前、変態発言は極力避けるようにしてくれる?」
まぁとにかく、と小日向先輩はホワイトボードを指さし、僕を見ました。
「ウクルンに実際に教えてもらったんだから、腹式呼吸の感覚は分かったんじゃないかな?」
「はい、なんとなく。お腹を風船のようにして、呼吸するんですよね」
「うんうん。それが自然に出来るようになったら、またステップアップして、今度は腹を凹ませないように呼吸してもらうからね。さっきの方法の腹式呼吸を5セット、毎日してきてね☆」
ハイではここで復習です、と鷹野先輩がお顔をきりりとさせました。
僕は新入部員ですし、特に真面目に聞かねばならないですね。そう思って、僕は鷹野先輩を見つめます。
……あ、あれ? 鷹野先輩、眼鏡を外されて、何をするおつもりで……
「目が、目がァァァァッ!」
「何があったんですか鷹野先輩!?」
「全ては貴方の純粋すぎる、ふつくしい視線がいけないのです!」
「はい、おバカな鷹野に変わって、俺が腹式呼吸の復習するね〜」
小日向先輩って、鷹野先輩に対してだけ、ものすごく冷めた対応になりますね……。
「腹式呼吸は、腹という風船を膨らませるように呼吸を、するもの。腹筋も重要になってくるので、ある程度鍛えておこう☆」
……ん? え、今、腹筋って……え?
「こ、声質と腹筋って……関係あるんですか?」
「あるある☆ てことでアマノン、今日から毎日、滑舌練習10回以上、さっきした腹式呼吸を5セット、それから腹筋鍛えて来てね」
宿題だからね☆ と笑う小日向先輩の明るい笑顔が、今日はなんだか怖いです……。
神様、この部活は、元不登校児の僕に一体なにをさせるつもりなのでしょうか……。




