味方は身内でそこにいる
放課後。
ミキさんの、滑舌練習講座が始まります!
「えーと。じゃあ、まずは〜……そうだな、一般的なこれが良いかな? さぁさぁ皆さん、お耳を拝借〜、ちゃんと聞いててねー?」
ふっ、とミキさんが空気を吸い……
「あえいうえおあお、いおうえおあいあ、うあえおあいうい、えいおあいうえう、おうあいうえおえ!」
……たったひと息で、何なのかよく分からない言葉の羅列を発声しました。
よく分からない言葉の羅列だったのに、はっきりと聞こえたのは何故でしょう。
「……まさか、僕の聴力が格段にレベルアップしたのでしょうか……?」
「いやー、さすが声優。声が聞き取りやすいねぇ」
小日向先輩の叔父さんがほのぼのと言いました。
ああ、そうか……僕の耳が良くなったんじゃ無かったのか……。
「はいはい、そんなこと良いから、早く練習してみてー?」
えーと……あえいうえおあお、いおうえおあいあ、うあえおあいうい、えいおあいうえう、おうあいうえおえ……ですよね。
「あえいうえおあお、いおうえおぁ……い、あ?」
だんだん、自分でも声が小さくなっていっているのが分かりました。
……うう。口が回らないです。
「あえいうえおあお、いおうえあわあ……わ?」
あれ、声が小さくならないようにしようとしたら、言葉の末尾が変わってしまいました。
そんな僕の隣の有徳さんと、その隣の小日向先輩は、
「「あえいうえおあお、いおうえおあいあ、うあえおあいうい、えいおあいうえう、おうあいうえおえ」」
……普通に言えてました。
えっ、言えてないのは僕だけなのでしょうか?!
「あえいうえおあぉ、いおうえおあああぁぅ! もー! ミミィ、滑舌練習キラーイッ!」
ああ、ミミィさんも同じでした。
なんだか、同じ失敗をしている人を見ると、ほっと安心しますね……はっ?!
この前まで、社会カースト最底辺を浮遊して居た僕のくせに、同じ失敗をされてる方を見て安心するなど、無礼千万! 失礼にもほどがあります、同じ失敗とはいえ、ミミィさんと僕では月とスッポン、いいえ、スッポンのように僕は美味しく食べられることができません、満月と小石です!
「身の程知らずで、ごめんなさいっ」
「何があったんだい、柳くん?!」
「え、えっ、急に、どうしたのぉっ?」
「言えないからって、そんなに落ち込まなくても良いんですよ。いや、やっぱり、もっと悲しんでください」
「鷹野は少し黙ろうか!?」
色々、騒がしくミキさんの講習は終わりました。
「それでは最後に〜、今日ミキさんが教えた滑舌練習法を、まとめますー!」
ミキさんが、キュッキュッ、とホワイトボードに文字を書き込みます。
「1。あえいうえおあお、いおうえおあいあ、うあえおあいうい、えいおあいうえう、おうあいうえおえ!」
……結局、最後まで僕は言えませんでした。
「2。あさいしうすえせおそ、かさきしくすけせこそ……!」
これは、五十音の間、間に、『さしすせそ』や、『たちつてと』など、自分が言いにくいと思う列の言葉を入れる方法です。
「3。ジャズシャンソン歌手の新春シャンソンショー。隣の客はよく柿食う客だ、客が柿食や飛脚が柿食う!」
早口言葉も、やはり滑舌練習法には最適の模様です。
声優やアナウンサーがすることで有名な『外郎売』も、長い長い早口言葉なのだとか。
「はい、ポイントは、これだけー! 毎日、どれか1つを10回くらい繰り返すだけで、滑舌が良くなるよー!」
自分の声を録音して、滑舌チェックするのもオススメだよー、とミキさんはウインクしました。
今日の講習は終了。
……今度、有徳さんに、腹式呼吸のやり方を習おう、と決心する僕でした。




