腹をくくって部活を眺めよ
「収録、行きます」
鷹野先輩の声に、空気が張り詰めました。
……いえ、緊張を孕んでいるのは、どうやら僕だけのようです。
……なんか、ごめんなさい。
「収録、5秒前。3、2、……」
「どうも。皆さん、こんにちは」
小日向先輩の声が、凛と、部屋中に響き渡りました。
「聲研ラジオ、略して聲ラジのお時間です。今日は、声の印象について、ご紹介します」
「皆さん、これは絶対に耳に入れておくべきですよ。必ず役に来る時が来ますから」
小日向先輩の後に続き、有徳さんが緩やかに、言葉を紡ぎます。
大変耳心地の良い、2つの声は、心に染み渡るように、響いて来ます。
「皆さんはご存知ですか? 人の第一印象というのは、会ってから3秒で決まるそうです」
「え? たった3秒なんですか?」
「そうなんですよ。パッと見た、髪型、服装、表情、立ち振る舞い。それで決まってしまうなんですよ」
「えええ? それだったら、声は関係無いと思うんですが」
「声は、その後。第一印象が決まった後に影響してくるんです」
「後ですか?」
第一印象の後に、声が関係してくる?
ちょっと、興味が湧いて来ました。
「第一印象が粗方決まった後に、相手の声を聞きます。すると、第一印象に、現実味が帯びて来るんですね」
「ああ。つまり、声が素敵だと、声の主も素敵な人だと思われる、ということですか?」
「はい。なので、声は、人の印象に7割くらい関係してくるんですよ」
「声だけで、7割もですか?」
声だけで、印象に7割も関係してくる?
なんだか、声って凄いんだなぁって思えて来ますね。
良い声の人は良い人、って思われるなら、ちょっとでも声を良くできたらいいのに。
「そこで! 今日、皆さんに、皆さんの今の声が、もっと声が良くなる方法を、少しお教えします!」
「もっと、良くなるんですか?」
「あなたの声を、もっと良くするための、最初の一歩! それを今日、お教えしましょう!」
どんな方法なのか、気になって来ました。
あれでしょうか、やっぱり、どこかの歌手のように、オリーブオイルをコップ一杯飲むのでしょうか……。
「声を良くする方法って、大変で面倒くさいんじゃ無いですか?」
「いやいや、なんと、これは凄くお手軽ですよ。腹式呼吸です」
「えー? 腹式呼吸ですか? なんだか在り来たりですね」
「ふっ、在り来たりこそが最強なのですよ! ……しかし、在り来たりというからには、有徳さんって腹式呼吸できるんですか?」
「……いえ、実は、あんまり」
腹式呼吸……聞いたことはあるのですが、僕も、あまり意識したことがありません。
だいたい、腹式呼吸ってなんなんでしょう。腹? 腹を使うんでしょうか。
「しゃーないっすねぇ。それじゃあ、明日の放送でお教えしましょうか」
「というわけで、明日の放送は、『腹式呼吸の仕方』を分かりやすく、お教えします。今日のお相手は、」
「小日向栗兎と、」
「有徳稟でした。明日の放送も、お楽しみに!」
「ハイカーット!」
……明日? 明日も、この放送があるんですか?
これは明日も学校に来なきゃいけません……。
まさか、これ以上は聞くなと、神様が言っているのでしょうか。
僕なんかに聞かせるなんて勿体無いとか、そういうことでしょうか。この好奇心を膨らまして、プックリ丸々と膨らんで、僕がパンッと弾けるのを待っているのでしょうか。
……そんなことには、なりたく無いです。天罰も嫌ですが、痛いのは、もっと嫌です。
「というわけで、僕は明日も学校に来ようと決意したのでした」
「……何が『というわけ』なのかぁ、ぜぇんぜん分からないよぉ、柳きゅん」




