腹を力んで部活をしたら
「それでは皆さん。準備はよろしいなの?」
皆さんは、愛李さんの言葉に頷きます。
目隠しした女子高生に向かって、揃って頷く数人……側から見ると、結構ヤバイ感じがします。
……僕のくせに、なに偉そうにヤバイとか思ってるんでしょう。
「ヤバくてキモいのは僕なのです」
「るっぱりゃ?! ちょっ、アマノン今度はどうした?!」
「……痛いです」
「そりゃ壁に思いっきり頭ぶつけたら痛いだろーよ!」
じぃぃん、とおでこが痛みます……。
と、ミミィさんが救急箱を持って来て、手早く消毒し、ガーゼを貼ってくれました。
「もぉ、ぶつけちゃダメだよぉ?」
「……善処します」
僕だって、ドMさんみたいな性癖は持ち合わせていないので、痛いことしたいとは思いません。
「ただ、突発的に体が動いてしまうだけなのです」
「……うん、話が全然わかんないけど、取り敢えずアマノンが落ち着いたみたいで良かったよ……」
溜息をつく小日向先輩に、僕はちょっと首を傾げました。
「ところで話は変わりますが、朝から何も食べていないので、僕は空腹で気持ち悪いんですが……皆さんは大丈夫なんですか?」
「えっマジで?! なんで?! お昼だけ絶食タイムだよって言ったよね、俺?!」
……あの、えと、ごめんなさい、小日向先輩。
絶食、というワード以外、聞いてません。
「これは完全に説明不足な、テメェの責任なのですよ、リツくん」
「俺?! てか、鷹野って急に口が悪くなるよねぇ!」
「朝から何も食べてないと、お腹気持ち悪くて吐いちゃいそうになるなの。おべんと、持って来たなの?」
愛李さんの言葉に、僕は頷きました。
「じゃあ柳さまは、おべんと食べながら、見学なの」
愛李さんのセリフが終わった直後、ぽん、と僕の右肩に、手が置かれました。
それは、白く逞しく、形の整った綺麗な手。
つまり、有徳さんの左手でした。
「机椅子は用意したから、そこで食べながら見学すると良いよ」
有徳さんが促す方へ目を向けると、白い机と椅子が、ちょこんと揃っていました。
「1人で寂しいならぁ、ミミィも隣でモグモグしてあげるよぉ♪」
「いえ、ミミィさんの御手を煩わせるわけにはいきませんっ」
「そぉ?」
有り難く椅子に座り、弁当を机に広げます。
……母さん、これ、ちょっと量が多いかもしれません。
ああ、朝食用と、昼用の弁当、2つがこの量ですか……。
と、弁当を前に、呆然としていた僕ですが、何やら空気が変わったことがわかりました。
……いつ変わったのでしょう。気づけませんでした。
「それでは、発声練習、ショートボイスからなの。Repeat after me! あッ、いッ、うッ、えッ、おッ」
愛李さんの後を、皆さんは、同じように、短く切りながら、「あいうえお」と繰り返しました。
「ほいはい、次は、ロングボイスいくよーん? せーので、はいっ」
今度は小日向先輩の言葉を合図に、皆さんの「あいうえお」が超長く発声されます。
それを、五十音全て繰り返されました。
……なんだか、何かの宗教のようで恐怖を感じる光景です。
「……よし。そんくらいで良っかなっと。……どーする? 五十音のあめんぼ、行く?」
「飛ばしましょう。さっさと収録に入るべきです」
……収録、とは?
僕は弁当を食べながら、これから何をするのかと、頰を引きつらせていました。




